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4K解像度でも最新ゲームを楽しめる!?GeForce RTX 4070 Ti SUPERで作る、長く付き合える自作PC

 長く続く円安や部材高騰の影響もあり、PCパーツの価格は上昇を続けている。ハイエンドのビデオカードやCPUを組み合わせてちょっとよいゲーミングPCを作ろうと思ったら、60~70万かかることもめずらしいことではなくなった。一昔前の自作シーンを知るロートル自作PCユーザーからすると、なかなか厳しい状況だ。

 そこで今回は、アッパーミドルクラスの「GeForce RTX 4070 Ti SUPER」をGPUに搭載したビデオカードを採用した上で、長く使えそうなミドルレンジのゲーミングPCを作ってみよう。ゲーミングPCのカナメとなるビデオカード以外のコストをなるべく抑え気味にすることで全体のコストを下げること、そして冷却性能を十分確保した上で静音性も考え、普段使いでも快適に使えるPCを目指したい。

ビデオカードにコストを集中、ほかのパーツはバランスのよさを重視

ZOTACの「ZOTAC GAMING GeForce RTX 4070 Ti SUPER Trinity Black Edition」

 最新PCゲームの高精細で美しい3Dグラフィックスを表示するには、高性能なビデオカードが必要になる。そこで今回の作例では、GeForce RTX 4070 Ti SUPER搭載したカードを選んだ。「これ以上」のGPUだとかなり高くなるし、「これ以下」だと4Kなど高解像度環境で少々不満が出てくる可能性があることを考えると、ミドルレンジでは一番バランスのよいGPUだと思う。

 またこのクラスのGPUは、そこそこな性能に加えて、ビデオメモリとして16GBを搭載しているため、今話題の生成AIに初めてチャレンジするという入門勢にもぴったりだ。

 今回選択したZOTACの「ZOTAC GAMING GeForce RTX 4070 Ti SUPER Trinity Black Edition」では、3基のファンを備える冷却性能の高いGPUクーラーを装備して静かに利用できる。また、このGPUを搭載するビデオカードの中では比較的実売価格が安いほうなので、購入しやすいこともメリットの1つだ。低負荷時はファンを停止して無音状態にしたり、回転数をユーティリティで細かく制御したりできる機能もサポートする。

 CPUとマザーボードは、現状での優位性と扱いやすさ、そして将来性を考慮して今回はAMDプラットフォームを選択した。CPUは最新世代の「Ryzen 7 9700X」だ。8コア16スレッドのミドルレンジモデルで、今回のビデオカードと組み合わせても足を引っ張らないほどのパワーはある。デフォルトTDPも65Wに押さえられており、ミドルレンジの空冷CPUクーラーでも十分カバーできる扱いやすさがうれしい。

AMDの「Ryzen 7 9800X」

 マザーボードは、ちょっと古めではあるが「AMD B650」を搭載するASUSの「ROG STRIX B650-A GAMING WIFI」にした。最新のAMD X870チップセット搭載マザーはかなり高いし、利用するCPUがRyzen 7 9700Xなので、VRMのグレードや冷却性能にそれほどこだわる必要がない。

 ただAMD B650は旧世代のチップセットなので、PCI Express x16スロットはPCI Express 4.0対応までとなる。とはいえ今回のビデオカードなら性能低下はないし、今後の組み換えもミドルレンジを想定するなら、問題は起きにくいだろう。また次の世代のCPUでもAM5を利用することをAMDは明言しており、将来性もバッチリだ。こうした柔軟性は、AMDプラットフォームの魅力の1つと言える。

ASUSの「ROG STRIX B650-A GAMING WIFI」

 PCケースはAntecの「CX700 ARGB」を選んだ。前面と左側面が強化ガラスのピラーレス構造を採用、透明度の高いガラス越しに組み込んだパーツを眺めて楽しめる。下部は空気の通りのよいメッシュ構造になっているほか、合計で9基ものケースファン(標準では3基)を搭載できるなど、冷却拡張性も高い。標準ファンにはアドレサブルLEDを搭載し、美しいイルミネーションも楽しめる。本体カラーはホワイトにして、ブラックのマザーボードやビデオカードとのコントラストを楽しめるようにした。

Antecの「CX700 ARGB」

 電源ユニットも同じくAntecの「GSK850 ATX3.1」。80PLUS Gold認証を取得するほか、ATX 3.1にも対応しているのでPCIe 5.1ケーブルが利用できる。奥行きが14cmと短めで場所を取らないことも魅力の1つ。今回のPCケースでは電源ユニット収納スペース部分がメッシュ構造で、組み込んだ電源ユニットがうっすら見える状態なので、こちらもホワイトを選んだ。

Antecの「GSK850 ATX3.1」

 CPUクーラーはサイズのサイドフローCPUクーラー「MUGEN6 BLACK EDITION」。6mm径のヒートパイプを6本組み合わせた大型のヒートシンクを、2基の12cm角ファンでサンドする構造を採用。筆者もさまざまな検証でもよく利用しており、Ryzen 7 9700Xの発熱レベルなら冷却性能は十分なことは確認済みだ。

サイズの「MUGEN6 BLACK EDITION」

 メモリはG.SKILLの「Flare X5 F5-5600J3636C16GX2-FX5」。PC5-44800対応の16GBモジュールの2枚パッケージで、合計で32GBとなる。SSDはWestern Digitalの「SanDisk Extreme M.2 NVMe SSD SDSSDX3N-2T00-G26」。PCI Express 4.0 x4対応のSSDで、容量は2TBだ。ゲーミングPCとして考える場合、メモリとストレージの容量はこのくらいは最低限ほしい。

G.SKILLの「Flare X5 F5-5600J3636C16GX2-FX5」
Western Digitalの「SanDisk Extreme M.2 NVMe SSD SDSSDX3N-2T00-G26」

 合計価格は、30万円をほんのちょっと超えるくらいで、最近のミドルレンジゲーミングPCとしては妥当なところだろう。ビデオカードの予算だけで半分使ってしまうというのは、今のご時世を考えると仕方のないところではある。ただNVIDIAには「もうちょっとなんとかならないのか」という気持ちは否めないし、AMDやIntelの巻き返しにも期待したい。

カテゴリ製品名実売価格
CPURyzen 7 9700X(8コア/16スレッド)6万円
マザーボードASUSTeK ROG STRIX B650-A GAMING WIFI(AMD B650)2万7,000円
メモリG.SKILL Flare X5 F5-5600J3636C16GX2-FX5(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2)1万7,000円
ビデオカードZOTAC GAMING GeForce RTX 4070 Ti SUPER Trinity Black Edition (GeForce RTX 4070 Ti SUPER)14万5,000円
SSDWestern Digital SanDisk Extreme M.2 NVMe SSD (2TB、PCI Express 4.0)1万8,000円
PCケースAntec CX700 ARGB(ATX)1万3,000円
電源ユニットAntec GSK850 ATX3.1(850W、80PLUS GOLD)1万7,000円
CPUクーラーサイズ MUGEN6 BLACK EDITION(サイドフロー、12cm角×2)6,500円
合計金額30万3,500円

最新UEFIへのアップデートは忘れずに、4KでもFPSは十分

 各パーツを組み込む前に、マザーボードのUEFIを最新バージョンにアップデートしておこう。「ROG STRIX B650-A GAMING WIFI」はRyzen 7000時代に発売されているため、場合によっては古いUEFIのままでRyzen 7 9800Xを認識しないことがあるからだ。このマザーボードでは対応CPUなしでも最新UEFIにアップデートできる「BIOS Flashback」機能に対応しているので、必要に応じて作業しておきたい。

 CX700 ARGBは、メインパーツを組み込むエリアにほとんど構造物がないシンプルなPCケースなので、組み込みでトラブルが起きることはないだろう。天板とマザーボードの隙間は約57mm(実測値)確保しており、かなり広い。MUGEN6 BLACK EDITIONはかなり大きめなCPUクーラーだが、マザーボードをPCケースに取り付けた状態でも、EATX 12V電源ケーブルなどのケーブルを余裕を持って抜き挿しできる。

天板付近や前面には十分な余裕があり、CPUクーラー付近のケーブル接続やビデオカードの組み込みで問題が発生することはない
CPUクーラー上の状況はこんな感じ。天板との隙間は広く、EPS12V電源ケーブルの抜き挿しも容易
右側面ファンは一見すると排気用に見えるが、羽根をよく見ると吸気ファンとして機能する

 簡易水冷型CPUクーラーや追加のケースファンを利用しないため、マザーボードベース裏面に通すケーブルは少なめだ。PCケースに付属する数本のケーブルタイを使えば、スマートにケーブルを整理できるだろう。またマザーボード裏面にはLEDハブを装備しており、ケースファンのLEDをまとめて制御できる。

中央のフレームにあるフックを使って、電源ケーブルなどをまとめていくとキレイに整理できる
LED制御用のケーブルをまとめて接続できるLEDハブ

 まずはいくつかの基本的なベンチマークテストを実行した。「PCMark 10 Extended」と「3DMark」の各種テストは、Scoreが高いほうが性能が高い。下の表はそのScoreをまとめたもので、Ryzen 7 9700XとGeForce RTX 4070 Ti SUPERビデオカードの自作PCとしては十分なScoreだ。

PCMark 10
3DMark

 次に実際のPCゲームで性能を検証してみよう。フルHD(1,920×1,080ドット)、WQHD(2,560×1,440ドット)、4K(3,840×2,160ドット)の解像度で各ゲームでベンチマークテストを実行した結果をまとめたのが下のグラフだ。フレーム補間機能があるゲームについては、4K時のみ追加でテストを追加している。グラフィックス設定は、原則的に基本的に一番負荷が高いものを選択した。

 スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIV:黄金のレガシー ベンチマーク」では、グラフィックス設定を[最高]にした。4K解像度でも評価は「とても快適」で、画面の動きもスムーズだ。レポートでは最小FPSが56という状況もあったようだが、テスト中の画面を見る限りカクつく場面はなかった。このゲームなら4Kでも快適にプレイできそうだ。

 比較的グラフィックス描画の負荷が低めのゲームとしてもう一つ、Electronic ArtsのF1レーシングゲーム「F1 24」も試してみた。グラフィックス設定は[超高]で、DLSS 3によるフレーム補間機能に対応する。4K時でも最低FPSは87と十分なレベルにあるが、フレーム補間を有効にすると111とさらに快適になった。このゲームも4Kで十分楽しめそうだ。

FF14
F1 24

 グラフィックス描画の負荷が高いタイトルとして、CD Projekt REDの「サイバーパンク2077」も試した。グラフィックス設定は[レイトレーシング:ウルトラ]だ。かなり厳しいかと思われたこのゲームだが、実際には4Kでも最低FPSが60を超えており、安心して遊べそうだ。実際のテスト画面でもカクつく場面はなかった。フレーム補間を有効にすれば、さらに快適にプレイできる。

 もう1つ描画負荷が重めのゲームとして、Ubisoft Entertainmentの「アバター:フロンティア・オブ・パンドラ」も試してみよう。グラフィックス設定は[ウルトラ]で、このゲームでもFidelityFX Super Resolution 3を利用したフレーム補間機能をサポートする。フルHDやWQHDでは問題ないが、4Kともなると描画オブジェクトや制御するキャラクターが多い前半で、結構長い間60FPSを切る状況が続く。しかしこうした状況も、フレーム補間を有効にすると解消された。

CPグラフ
FPグラフ

 総合的に考えて、ミドルレンジのゲーミングPCとしては十分な実力はあると言ってよいのではないだろうか。ゲームによっては4Kで厳しくなる場面もあるが、フレーム補間機能を活用すれば解決できる。こうしたことを考えると、ある程度高くてもフレーム補間機能をサポートする高性能なビデオカードは、これからのゲーミングPCを考える上では必須とも言えそうだ。

ゲーム中でも静かに動作、メンテナンスや拡張もしやすい

 最後に、各部の温度や安定性、静音性についてチェックしていこう。3基のケースファンは、1本の分岐ケーブルで一つのファンコネクターにまとめられるタイプなので、マザーボードのファンコネクターが少なくても問題はない。とはいえファンを正確に制御したいので、今回は3基のケースファンをすべて個別にマザーボードに接続した。

 ファンの回転数は、マザーボードのユーティリティ「Fan Xpert 4」を通じてAutoで制御すると楽だ。最初に自動でファンの回転数をチューニングした後に、負荷が低いアイドル時や軽作業時の状況を見ると、CPUクーラーのファンは400~500rpmだった。ケースファンはおおむね700rpm前後といったところで、動作音はほぼ気にならないレベルだ。机の下にでも置いてしまえば、ほぼ無音状態と言ってよいだろう。

Fan Xpert 4で各ファンの回転数を制御できる

 下のグラフは、各状況における温度変化をまとめたものだ。起動後10分間の平均的な温度を計測した「アイドル時」、フルHD(1,920×1,080ドット)解像度の動画ファイルを1時間再生したときの平均的な温度を計測した「動画再生時」は、軽作業時を想定した温度と考えてよい。

 長時間のPCゲームプレイを想定した3DMarkのStress Test(Time Spy)時の平均的な温度の「3DMark時」、CPUに高い負荷をかけるCinebench R23のマルチスレッドテスト時の平均的な温度の「Cinebench時」は、比較的負荷が高いときの状況である。各部の温度はOCCT 13.1.12のモニターリングモードで計測し、CPU温度は[CPU(Tctl/Tdie)」、GPU温度は「GPU Temperature」だ。

CPU温度
GPU温度

 Ryzen 7 9700Xは発熱の小さいCPUであり、Cinebench時でも63℃前後で推移する。今回のような大型空冷CPUクーラーなら、同じような結果になることが予想される。3DMarkのStressTest中のGPU温度も73℃前後と、こちらもかなり低い。またこうしたベンチマークテスト中もケースファンの回転数は800~900rpmにとどまっており、ゲーミングPCとしてはかなり静かだと感じた。

 このPCケースはメンテナンスもしやすい。強化ガラスの左側板はツールレスで簡単に着脱できるようになっており、内部の清掃やSSDの換装、増設なども容易だ。右側板の吸気口にはホコリがたまりやすいが、サッと一拭きするだけでキレイになる。前面パネルや防塵フィルタを取り外す必要がないのは、めんどくさがりにとってはうれしいポイントだろう。

左側板は簡単に着脱できるツールレス構造
右側板の吸気口はホコリがたまりやすいので定期的に清掃しよう

 また個人的に便利だと思っているのが、ROG STRIX B650-A GAMING WIFIがサポートする「PCIe Slot Q-Release」機能である。ビデオカードを換装する際、大型のCPUクーラーを装着した状態だと拡張スロットのロックを外すレバーに指先が届かず、もどかしい思いをしたユーザーは多いだろう。

 しかしこの機能を利用すれば、マザーボードの右端にある小さなボタンを押すだけでロックが外れ、ビデオカードを簡単に着脱できるのだ。ちなみにGIGABYTEでは「PCIe EZ-Latch」機能、MSIなら「EZ PCIe Release」機能など、別メーカーのマザーボードでもビデオカードの着脱を簡単にしてくれる機能を搭載するモデルはある。

マザーボード中央の右端にあるこのボタンを押すと、拡張スロットのロックが解除される

 以上のようにゲーミングPCとしての基本性能と冷却性能、そして静音性も兼ね備える回の作例は、日常的な軽作業から最新のPCゲームまで幅広く対応できるPCと言ってよいだろう。最後に紹介したメンテナンスや拡張に関する便利機能を活用すれば、拡張しながら長く付き合っていけることだろう。