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PC-9821はゲーミングPCの夢を見るか? 全力で今風に改造してみた
2024年5月2日 06:18
PC Watch編集部の劉です。突然の質問だが、読者の皆さんにとって「思い出に残っているPC」はなんだろうか。大手PCメーカー製でも、ショップブランド製でも、自作でも、「人生で一番最初に使ったPC」が一番記憶に強く残っているのではないだろうか。
筆者にとって、中学校の頃に親に初めて買ってもらったPCである「PC-9821V12(VALUESTAR V12)」が一番の思い出のPCだ。メモリ16MB、ストレージに850MB HDD、4倍速CD-ROMドライブ、15型CRT付きで、インストール時にWindows 3.1または95を選択可能、「一太郎 Ver.6.3」と「Lotus 1-2-3 R5J」をプリインストールというスペックで、定価28万8,000円だった。
VALUESTARはビジネス向けに設計されたモデルだが、当時中学生だった筆者が本機をビジネス用途で使うことは当然なく、趣味程度のプログラミング、年賀状印刷、学校活動の印刷物の出力、そしてもっぱらゲーム用だった(当時は家庭用ゲーム機は所持していなかった)。
ただ、PC-9821V12の標準ではゲーム性能向上に効くセカンドキャッシュなし、Cirrus Logicの「GD5440」という性能的に貧弱なビデオチップ、1MBしかなく1,024×768ドットでは256色しか使えないVRAM、そして何より850MBしかないHDDは「新しいゲームをプレイするたびに古いゲームを消さなければ容量が足らず」といった具合で、「お小遣いの限られた予算でどうパワーアップすればゲームが快適に動くようになるのか」を試行錯誤した結果、PC業界の沼(ビデオカード沼)にハマっていったと記憶している。
さて今回は、そんなV12の上位機種であるV13を、当時の筆者の夢であった最新世代のゲームが動作するPCに改造してもらうよう、業界随一のPC Modderとして名を馳せる森田健介氏に依頼した。早速、森田氏による改造の過程をご覧いただきたい。
PC-9821V13改造依頼の始まり
どうも、改造PCを作るのが大好きなモリケンです。今までたくさんの改造PCを作ってきたが、今回はPC-9821だ。
ことの始まりは去年(2023年)12月頃に劉氏と秋葉原のPCイベントでお目にかかった際に、「PC-9821で改造PC作らない?」という依頼をいただいたことから始まる。
そういえば中学生の時に友達のPC-9821/Cx2(CanBe)でよく遊んだなぁと思い返し、よく考えたらその98もCPUをWinChipにして、はんだを使ってFSBを変更し、CD-Rドライブを載せたりと、かなり手を掛けた気がする。
今回は劉氏のセレクトにより「PC-9821V13」の筐体を使うことになり、早速ヤフオクで1,500円ほどで入手。動作未確認でHDDなしということだったが、使うのは筐体だけなので問題はない。
簡単にこのV13のスペックを振り返ってみよう。CPUはPentium 133MHz、メモリは標準で16MB(GBではない)。横置きの上にCRTモニターを置く昔ながらのデスクトップ筐体。これに下記の現代スペックパーツを入れていく。
ちなみに、最近は古い筐体に最新パーツを入れるのを「レストMOD」とも呼ぶらしい。
今回入れるパーツ | |
---|---|
マザーボード | MINISFORUM BD770i(後にBD790iに入れ替え) |
ビデオカード | Palit GeForce RTX 3070 GamingPro OC |
メモリ | DDR5-5600 8GB×2(後に32GBに増設) |
SSD | Samsung PM981 512GB |
電源 | CoolerMaster V SFX Gold 850W White Edition |
光学ドライブ | BDドライブ、日立LG BH30N |
FDD | ミツミ D353M3D |
ライザーケーブル | LINKUP 10cm PCIE x16 Gen4ライザー白 |
そのほか | 国民機起動音発生装置 PiPo Ver.6.2A HDD Clicker |
メインとなるマザーボードとビデオカードをどう入れるのかまずは考察
ケースのサイズ的にはATXマザーボードでも入りそうなサイズだが、実はPC-9821/V13ドライブベイと電源の下にスペースは少なく、Mini-ITXマザーボードがちょうどいいサイズだった。
続いて考えたのはビデオカードで、さてどこに置くのか。PC-9821は奥行き的には問題ないのだが、さすがに3スロット近い拡張カードの装着は想定されておらず、PCIスロットは1基しかない。そこで思いついたのは3パターン。
- PCIスロットずらしてマザーに直接挿す
- Cバスのスペースに配置
- 斜めに配置
ここでひらめいた。斜めにしてケースの蓋を加工して中身を見られるようにしたら面白いのでは? と。というわけで3を選択して作業していく。
残りのパーツはまあ5インチの規格品だったり、小さかったりなので入るだろうと、組み立てながら考えることにした。
分解、洗浄、漂白
早速届いた筐体を分解していく。筐体には大きな傷もなく、前面パネルが黄ばんでいるぐらいでなかなかいい状態だった。
まずは筐体両側面のものを始め、すべてのネジを外し、電源やドライブ、Cバスにマザーボードなど取り外していき、筐体だけにした。さらにMini-ITX取り付け位置に干渉する本来のマザーボードのネジ穴の凸部分を2カ所ほど穴あけ加工して除去した。
金属筐体と蓋は中性洗剤で洗浄し、よく拭いておく。
前面パネルを含むプラスチック部分は黄ばんでおり、金属の塗装部分と色がずれている。可能な限り合わせたいので、元に近い色に戻すため、漂白剤を使った方法を試してみることにした。
まずワイドハイターを水で薄めたら透明で大きな容器に入れ、そこにプラスチックパーツを入れる。そして外に置き太陽の光を当たるところに数日放置する。これである程度色が戻り筐体の塗装と同じくらいになった。こうして外側の準備については、細かい加工以外、完了した。
マザーボードの取り付け
取り付ける位置を決め、次にI/Oパネルで干渉する部分をハンドニブラで除去する。
次にネジ穴の位置を決めたら電動ドリルで穴をあけ、スペーサーを取り付ける。ここでは高さ調整のためワッシャーを使い微調整を行なった。マザーボードの取り付けは比較的簡単だ。
ビデオカード取り付けのためのステー取り付け
続いてはビデオカードを斜めで固定するためにはどうしたらいいかと考えた。
ちょうどアルミのL字アングルでPCを作ったなと思い、アルミのL字アングルを使い、まずはセンターを通すバーを作り、細長いアルミ板を斜めにして、そこにビデオカード載せれば大丈夫だろうと思い、加工開始。
まずはセンターに通すバー固定のために前と後ろにアルミの板を固定、そこにL字アングルのバーを通して固定する。ここまではスムーズだった。
問題は、斜めに固定するアルミ板の加工。まずは方眼紙で「こんな感じかな」という指標を作り、それと同じように曲げていく。
曲げるのに、板金折り曲げ機を使った。手で曲げるタイプで、固定をしていないのであまり厚みの金属曲げはできないが、1台あると何かと便利だ。
結果を言うと、3回ぐらいやり直した。ステーが短かったり、曲げの角度がダメだったりで、作り直しては、実際に置いてみて蓋が閉まるかをテストした。当初は下に受けを作ってホールドすることを考えたが、ブラケットで固定できるように、アルミを加工して筐体側に取り付けた。
電源取り付けのための加工
電源はそのままATX電源が入るだろうと思っていたら、ネジ穴そのままだとFANが上向きになることが判明した。
結果としては、SFX電源を選択して正解だった。ATX電源のところにつけるプレートを固定し、ぶつかる部分をこちらもハンドニブラで除去した。
スペースの余裕ができたので、やはりSFX電源で正解だったと言える。
前面スイッチ、LED、前面オーディオの加工
電源スイッチについては、PC-9821はオン/オフ切り替え式のスイッチだったので、アイネックスのプッシュスイッチをそのまま取り付けてみたところ、うまくはまった。
リセットスイッチは前面のオーディオと一緒の基板にあったため、そこにハンダで2ピンケーブルを取り付けた。
LEDも同様にはんだで配線した。ただ、グランドがほかと共通で点灯がうまくいかなかったため、今回は基板の配線をカットして対応した。配線後動作を確認。大昔のLEDでも無事点灯できた。
前面オーディオは、ボリュームも使いまわしができればよかったが、配線に詳しくなく、流用できる自信がなかったので、物理で解決する。
HDオーディオについては、前面I/Oの基板を使わないケースから外し、ジャック部分をケーブルで延長して、元の基板にホットボンドで固定した。シンプルだが確実だと思う一方で、音質は気にしてはいけない。
98ならではのピポッを鳴らすためのパーツと、懐かしのHDDシーク音を出すパーツ
こちらは劉氏のリクエストによって実装した。まずはスペースで空いている部分に、両面テープでHDDシーク音を模擬的に出すパーツ「HDD Clicker」を固定する。
また、近くのネジ穴を流用して、「国民機起動音発生装置 PiPo Ver.6.2A」をプラスチックスペーサーも使い固定した。要は基板が動かなければいいのだ。
Mini-ITXマザーボードであれば空間に余裕があり、実装は簡単だ。
光学ドライブ、FDD取り付け
取り付け自体は通常のドライブ取り付けと同じく、ミリネジで止めるだけ。
本当はもともとのFDDを使いたかったが、信号配線が異なったので断念。ソニー製なので同じソニー製を選びたかったが、これも身の回りになく、ミツミ製を確保。同じだったらより違和感が少なかったかもしれない。
なお、PCとの接続は、USB接続にする変換基板がありそちらを使った。バスパワーでFDDが動くとは便利な時代だ。
続いて光学ドライブについて。今回使うマザーにはSATAコネクタがなかったため、USB変換を買ってきて対応した。内部用なんてもうないかも? と思ったが、玄人志向の製品があり助かった。
また、USB内部19ピンからUSBポートへの変換ケーブル、高さを抑えるための19ピンのL字型アダプタも追加した。FDDが動いた時は思わず感動してしまったが、今どき1.44MBに何を入れたらいいだろうという突っ込みはなしだ。
ファンを固定→ビデオカード固定→動作チェック
ビデオカードを冷やすために、Noctuaの12cmファンを前面側に配置した。
楽につけたいと考えた結果、長いネジで固定することにした。固定できているからヨシ!
最後はビデオカードの取り付け、斜めに配置したステイにビデオカードを置き、PCIブラケット固定できるアルミ板をカットし、筐体に穴をあけてネジで固定。ざっくりと作ったが、結果的にうまくいった。
再度蓋を加工するわけだが、その前に今まで接続した分が動くのか確認。電源を入れると無事、ピポッと立ち上がってきた。ひとまず安心だ。
蓋をカットして、完成させる!
もちろんこのままでもPCとして問題なく動作するが、せっかく斜めにビデオカードを配置したのに、ビジュアル的に何か物足りさを感じた。そこで側面をそのデザインに合わせてカットし、最近流行りのピラーレスデザインにしてみようと思った。
カットはグラインダーで行なった。実は今回初のグラインダーでドキドキしたが、無事カットできた。若干切りすぎたところが残っているのはご愛敬。何よりグラインダーによって今後のPC改造の幅が広がったと思うとうれしい。
続いてカットした部分はヤスリできれいにして、裏側からカットした透明のアクリルを両面テープで固定した。
本当はガラスにしたかったけど、見積もってみたところ少しお値段が張り予算オーバーとなるので、たまたま手元に余っていたアクリル板を使った。おそらく過去の改造で余っていた部材だろう。
最後に蓋を筐体に取り付けネジを締めたらPCの完成だ! と思ったが、ゲーミングPCとして内部の光が「足りない」と感じたので、これも手元にあったアドレサブルRGBのテープを貼り、ゲーミングPCとして完成した。
こうしてようやく実現したPC-9821/V13の大変身。電源を入れてみたところ、1996年発売のマシンは一気にタイムスリップし、2024年でも活躍できるマシンに変貌を遂げた。というか、想像以上にピラーレスデザインがよかったように思う。
あなたも古いPCを改造しよう!
長期運用をテストしていないが、軽く動作させた限りは特に問題もなかった。せっかくなので、マウス、キーボードもPC-9821用のを使えるようにして接続したいと思えてきた。
今回のマシンは筐体サイズが比較的大きく、蓋をカットすることがなければ、難易度としてはそれほど難しくないと思う。もう動かなくなった古いPC筐体が余っているなら、改造にチャレンジしてみるのはどうだろうか? 改造仲間を歓迎する!
「PC-9821V13改」をレビュー
こうして、森田氏のさまざまな工夫をこらして改造されたPC-9821V13が筆者の手元に届いたのは3月14日。森田氏は愛車であるコペンに本機を載せ、直々に届けてきてもらった。
開封して電源を入れ、驚愕したのはやはりそのビジュアル。エンターテインメントとかマルチメディア重視の「CanBe」シリーズならまだしも、最初から最後までビジネスで一貫していたVALUESTARが、ゲーミングPCのビジュアルを纏って復活したのだから当たり前だ。こうしてすぐに愛着が湧いてしまった。
「V12ではなくV13で良かったの?」というツッコミもありそうだが、ビジュアル的に同じだから文句なしだ。PC-9821V13は前面に曲線が取り入れられていて、下がシュッとくり抜かれているデザインがスカートのようにも見え、なんとなく女性的な雰囲気がある。筆者はそこが好きなのだ。
筆者がこだわった「効果音」だが……
組み入れたパーツの中で筆者のこだわりは「国民機起動音発生装置 PiPo Ver.6.2A」と「HDD Clicker」の2つ。この2つは筆者が用意して、組み込みをお願いしてもらった。
前者は10年前に購入したものの、普通のPCケースに入れてもさっぱりテンションが上がらず、「いつかはPC-9800シリーズの筐体で」とは思っていたものなので、今回ようやく念願が叶った格好。ちなみに、BIOSのロゴも改造により、PC-9800ブート時のメモリチェック風に変えてもらった(残念ながら数字は増えない)。これで起動時のテンションはかなりアップする。
後者のHDD Clickerだが、やはりHDDシーク音があったほうが「PCがフリーズしておらず動いている」のが分かって安心できるし、PCを使っている際の孤独感が若干和らぐからと思って入れてもらった。これも購入から1年ぐらい放置して活躍できていなかった。
ただ、実際組み込んで分かったが、アイドル時でも結構な頻度で鳴るし、音量も結構大きい。加えて鳴り方もほぼワンパターンですぐに飽きてしまった。正直、騒音源でしかなかったので、最終的には外すことにした。もう少し実際のHDDみたいにいろんな鳴り方をしてくれれば楽しいのだが。
遊べるゲームはほぼ無限だ!
こうして筆者の手元に戻ってきたPC-9821。ProjectEGGで「幻世狂風伝」や「魔導物語1-2-3」といったPC-9800シリーズ専用ゲームタイトルを走らせることはもちろんできたし、「トゥームレイダー2」や「真 燕派烈伝」といったWindows 95/98時代のゲームも動作。「黒い砂漠」や「ファイナルファンタジーXIV」といったMMORPGもちろん問題ないし、レイトレーシングを使う「サイバーパンク2077」も当然OKだ。
思えばその昔、850MBのHDDでやりくりしていたので、「あるゲームを遊ぼうとしたら、別のゲームをアンインストールしなければ入らない」といったことも多々あったのだが、大容量SSDが安い今はそのような苦労を強いる必要もなくなった(まあ働き始めたということもあるのだが)。
一通り現代的なベンチマークやゲームを走らせてみたが、CPUはRyzen 9 7950HXを採用していることもありトップクラス。ビデオカードは1世代前のGeForce RTX 3070 Tiを利用しているとはいえ、概ねアッパーミドルクラスの性能なので、特に不満はなかった。
せっかくなので懐かしの「HDBench」と「Final Reality」も動作させてみた(後者は別マシンでインストールしてフォルダをコピーする必要がある)。しかし「当然のように速いが、CPUもGPUもフル活用しておらず、正しく計測できていない値」となってしまった。化石のようなベンチマークなので当たり前なのだが、PC-9821V12を使っていた過去の自分に見せつけたい数字ではある。
余談だが、PC-9800用ゲームタイトルのほとんどは640×400ドットという16:10のアスペクト比。このため、ゲームをプレイする前提でモニターを用意するなら1,920×1,200ドット、もしくは2,560×1,600ドット、3,840×2,400ドット(レア)のものをおすすめする。こうすることで左右に黒帯が生じず、ドット絵がボケない整数スケーリングが使えるのでグッドだ。
誰にでもできるわけではないが、思い出のPCを使うのは格別
今どきのデスクトップPCといえば基本はタワー型かスリム型だ。横長のCRTが廃されて液晶になってからは、CRTを乗せる台としての役割もあるデスクトップのフォームファクタは絶滅した。単に邪魔でしかないからだ。
一部がアクリルを貼り付けた天板なので、重いモニターを載せることも、そのモニターのスタンドでアクリル部分が塞がってしまうことも避けたいところ。一応、モバイルモニター程度なら置けたのでこの状態で使っているが、正直格好悪い。
しかしそんなことは正直どうでも良い。筆者が求めたのは実用的なマシンではない。「今でも使え、中学時代の感傷に浸れるPC-9821の形をしたマシン」なのだから。
先日、.NET FrameworkをWindows 95にバックポーティングしたMattKC氏は、動画の最後でこんなことを述べており、筆者も共感した。
保存とは、単に何かを使用できるようにすることだけではなく、単に仮想マシンや古いコンピュータとして転がしておくことでもない。我々が現代社会において生かし続けておくことだ。当時は夢にも思わなかった、現代のテクノロジーどのように活用できるか。(中略)私たちができるあらゆる方法で、この古いものを生かし続けてほしいと願っている。
こうして今日もPC-9821V13改の電源を投入し、「爆弾天国」のハイスコアに挑戦する筆者であった。