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安いCPUクーラーでも全然問題なかった!? ゲームへの影響度を空水冷クーラーで検証してみた
2023年10月26日 06:29
最近のハイエンドCPUは高発熱なものが多い。それにともない冷却能力の高いCPUクーラーが必要とされがちだ。では、実際のところCPUクーラーの良し悪しでPCのパフォーマンスはどの程度変化するのだろうか?
ここでは、空/水冷でグレードの異なるCPUクーラーを3種類用意し、その違いによってゲームパフォーマンスが変わるのかを調査する。果たしてガチゲーマーはできるだけ高性能なCPUクーラーを用意すべきなのかなど、この検証を通じてそういった疑問に答えていきたい。
Core i9-13900Kを高コスパ空冷、ハイエンド空冷、360mm水冷で冷やす
今回、ゲームでのパフォーマンス変化を検証するCPUクーラーは3製品。
3,000円前後で購入できるコストパフォーマンスの高さで人気の「DeepCool AK400」。空冷CPUクーラーの中でも最高峰の性能を備えるハイエンド空冷「DeepCool ASSASSIN IV」。そして、360mmサイズの大型ラジエータ備えるオールインワン水冷「MSI MEG CORELIQUID S360」だ。
価格もサイズもまったく異なるこれら3つのCPUクーラーで冷却するのは、第13世代Coreのハイエンドモデルである24コア/32スレッドCPU「Core i9-13900K」だ。
CPUと組み合わせるマザーボードには、「GIGABYTE Z790 AORUS ELITE AX (rev. 1.0)」を用意。Core i9-13900KのMTPは253Wだが、このマザーボードはCPUの電力/電流リミットを標準で無制限に開放しているため、温度リミットのTjMaxに達するまでCore i9-13900Kはスロットリングせずに動作する。
今回はゲームでのパフォーマンス検証を行なうため、ビデオカードにGeForce RTX 4090 Founders Editionを用意した。そのほか、各パーツは長尾製作所の「3wayオープンフレーム スタック式」に搭載。一般的なタワー型PCと同じような縦置き状態でのテストを行なう。
テスト実行時は各CPUクーラーが最大の冷却性能を発揮できるように、ファンやポンプのスピードは最大に設定している。そのほかの機材や設定は以下の通り。
【表】テスト機材 | |
---|---|
CPU | Core i9-13900K (8P+16Eコア/32スレッド) |
CPUリミット設定 | PL1=PL2=無制限、IccMax=無制限、TjMax=100℃ |
GPU | GeForce RTX 4090 Founders Edition |
マザーボード | GIGABYTE Z790 AORUS ELITE AX (rev. 1.0) [UEFI=F9] |
メモリ | DDR5-5600 16GB×2 (2ch、46-45-45-90、1.1V) |
システムSSD | Samsung SSD 980 PRO 500GB (PCIe 4.0 x4) |
電源 | 玄人志向 KRPW-PA1200W/92+ (80PLUS Platinum) |
ケース | 長尾製作所 3wayオープンフレーム スタック式 |
OS | Windows 11 Pro 22H2 (build 22621.2361、VBS有効) |
CPUクーラー設定 | ファンスピード/ポンプスピード=最大 |
計測ソフト | HWiNFO64 Pro v7.62 |
室温 | 約26℃ |
CPUベンチマーク「Cinebench 2024」で高負荷テスト
ゲームでの検証結果を紹介する前に、Core i9-13900Kの全コアに高負荷を掛けられるCinebench 2024のMulti Coreテストを使って、CPUクーラーの違いによってCPU性能がどの程度変化するのかを確認しておこう。
各クーラーのMulti Coreスコアは、DeepCool AK400が「2,013」、DeepCool ASSASSIN IVは「2,116」、MSI MEG CORELIQUID S360は「2,204」。
DeepCool AK400のスコア基準とした場合、DeepCool ASSASSIN IVは約5.1%、MSI MEG CORELIQUID S360は約9.5%高いスコアとなっており、CPUクーラーの冷却性能の差がCPUのパフォーマンスに影響していることが分かる。
テスト実行中のCPU温度はCPUクーラー3製品とも平均90℃代後半、最大では100℃超となっており、どのCPUクーラーもテスト実行中はサーマルスロットリングが動作する100℃前後で動作していたことが伺える。
サーマルスロットリングは目標温度(今回は100℃)を維持できるレベルまでCPUの消費電力(発熱)を減少させるので、すべてのCPUクーラーが目標温度に達したこのテストでのCPU平均消費電力は、DeepCool AK400が「230.8W」、DeepCool ASSASSIN IVは「269.8W」、MSI MEG CORELIQUID S360は「290.0W」と、冷却性能の高いクーラーほど高い消費電力となっている。
CPUクロックはスロットリングによる消費電力の削減幅が大きいほど低下する。スロットリングの影響を受けなければPコア=5,500MHz、Eコア=4,300MHzで動作するCore i9-13900Kのクロックは、DeepCool AK400でもっとも大きく低下しており、逆にMSI MEG CORELIQUID S360はほとんど低下していない。サーマルスロットリングによる消費電力の削減幅のわりにベンチマークスコアの低下が少ないのは、クロックを多少絞るだけで電力効率が大きく改善して発熱が減少するCore i9-13900Kの特性によるものだ。
ともあれ、CPUクーラーの冷却性能によってCPU性能が変化し得ることは確認できた。このような性能変化がゲームでも起こるのか確かめてみよう。
ゲームでのパフォーマンスを比較
ここからは、実際のゲームを使ってCPUクーラーの違いによる性能の変化を確認していく。テストに使用したのは次の5タイトルだ。
- フォートナイト
- サイバーパンク2077
- ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON
- DEATH STRANDING
- Microsoft Flight Simulator
検証方法は、ゲーム実行中の平均フレームレートとCPUステータスを「HWiNFO64 Pro」で計測して比較するというもの。テストではCPU負荷や温度の変化を捉えるため、約10分間という長めの計測時間を設けるとともに、可能な限り同じシーンで計測を行なうことで負荷のブレが少なくなるよう調節している。
なお、計測はフルHD/1080p(1,920×1,080ドット)と、4K/2160p(3,840×2,160ドット)で実施した。
フォートナイト
フォートナイトでは、グラフィックプリセット「最高(DirectX 12)」をベースにNaniteを無効にした設定で計測を行なった。
フルHD/1080pでの平均フレームレートの計測結果は、DeepCool AK400が「301.4fps」、DeepCool ASSASSIN IVは「301.8fps」、MSI MEG CORELIQUID S360は「297.9fps」。意外にも360mm水冷がもっとも低いフレームレートとなっているが、計測誤差の範囲内とも言える程度の差でしかない。
4K/2160pでの平均フレームレートは、CPUクーラー3製品が166.1~166.6fpsで綺麗に横並びとなっており、CPUクーラーの違いによる性能変化は生じていない。
CPUの温度やクロックを確認すると、どの条件でもサーマルスロットリングが動作する100℃には達しておらず、CPUクロックも最大値であるPコア=5,500MHz、Eコア=4,300MHzをキープしている。つまり、どのCPUクーラーもCPU性能を最大限に引き出せている状態であると言える。
やや特異にも見える結果となっているのがCPU消費電力だ。各CPUは同じクロックで最大限の性能を発揮しているにも関わらず、CPUの平均消費電力はMSI MEG CORELIQUID S360、DeepCool ASSASSINV IV、DeepCool AK400の順に高くなっている。
このCPU消費電力の変化はCPU温度に関連したもので、温度上昇に伴う要求電圧の上昇やリーク電流の増加などが影響している。強力なCPUクーラーでCPU温度を低く保てば、同じパフォーマンスを発揮しているCPUの消費電力を多少低く抑えられるというのはメリットと言えばメリットではあるのだが、そこに注目するならCPUクーラー自体が消費する電力についても考慮する必要がある。
サイバーパンク2077
サイバーパンク2077では、グラフィックプリセット「レイトレーシング:オーバードライブ」で、DLSS 3による超解像とフレーム生成を有効にして計測を行なった。
フルHD/1080pでは「185.2fps」を記録したDeepCool AK400が、DeepCool ASSASSINV IVやMSI MEG CORELIQUID S360より高い平均フレームレートとなっているが、このゲームでのテストは特にCPU負荷のランダム性が高いため、これも誤差の範囲内であると考えられる。
4K/2160pの平均フレームレートは109.0~109.7fpsの範囲で綺麗に横並びとなった。CPU負荷のランダム性が高いこのテストでフレームレートが綺麗に横並びになる理由は、常にGPU性能がボトルネックになっているため、CPU性能要因でのフレームレート低下が生じにくいためだ。
CPU温度については、フルHD/1080pでDeepCool AK400の最大温度がリミットの100℃に達しているが、瞬間的に触れた程度のようでCPUクロックにサーマルスロットリングの影響はほとんどみられない。
いずれのクーラーもCPUから同程度のパフォーマンスを引き出せているが、DeepCool AK400についてはリミット温度までのマージンが小さいのも事実で、CPU消費電力も温度に連動して高くなっている。
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONでは、グラフィックプリセットを「最高」に設定して計測を行なった。上限フレームレートは120fpsで、自動描画調整機能はオフにしている。
すべてのクーラーがフルHD/1080pと4K/2160pで上限フレームレートの120fpsに到達しており、パフォーマンスの差は生じなかった。
CPU温度がもっとも高いDeepCool AK400でも、フルHD/1080p時に平均63.3℃(最大75℃)、4K/2160pで平均66.4℃(最大79℃)となっており、サーマルスロットリングの動作までには十分な余裕がある。当然、すべてのクーラーがCPUの最大クロックをキープしている。
CPUの平均消費電力が100Wを下回っていることから、このテストではCPUの発熱自体も少なかったことが伺える。ちなみに、空冷CPUクーラーが4K/2160p時の方がCPU温度が高いのは、GeForce RTX 4090の排熱の影響をより強く受けているためだ。
DEATH STRANDING
DEATH STRANDINGは、かなり綺麗にマルチコアCPUを活用することから検証に加えたタイトルだ。グラフィックプリセット「最高」、上限フレームレート240fpsで計測を行なった。
結果としては、フルHD/1080pではフレームレート上限の240fpsに達し、4K/2160pではGPUのボトルネックによって186fps前後で頭打ちとなったことで、CPUクーラーの違いによる性能変化は確認できなかった。
いずれのCPUクーラーもサーマルスロットリングが動作する100℃には達しておらず、CPUクロックは最大値をキープしている。
DEATH STRANDINGが高フレームレート実現のために必要とするCPUパワーが大きいのは確かで、フルHD/1080pでのCPU平均消費電力が160.8~186.4Wと比較的高い。結果としてCPU温度とそれに連動した消費電力の差が各CPUクーラーに生じているが、CPU性能そのものに影響するほどではなかった。
Microsoft Flight Simulator
Microsoft Flight Simulatorでは、グラフィックスAPIをDirectX 12、グラフィックプリセットを「ウルトラ」に設定し、DLSS 3によるアンチエイリアシング(DLAA)とフレーム生成を有効にした状態で計測を行なった。
各CPUクーラーの平均フレームレートは、フルHD/1080pで147.3~148.8fps、4K/2160pで138.8~139.0fpsと横並びになっており、ここでもCPUクーラーの違いによる性能変化と呼べるものは確認できなかった。
CPUのボトルネックが生じやすいタイトルとして知られるMicrosoft Flight Simulatorだが、ボトルネックになるのは主にコア当たりの性能であって、マルチコア性能に対する要求はそこまで高くない。
結果、どのCPUクーラーを使った場合でもCPUの平均消費電力が100Wを下回る程度の発熱しか生じておらず、どのCPUクーラーでもサーマルスロットリングを起こすことなくテストを完了した。
ゲームプレイ中のCPUはフル稼働時より発熱は少なめ
今回テストした5つのゲームでは、いずれもCPUクーラーの違いによる性能変化は確認できなかった。
より極端なグラフィック設定や、マルチコアをフル活用するシミュレーションゲームでは性能変化が生じる可能性もあるが、ゲーム中のCPUはCinebenchなどでフル稼働中より発熱が少ないことがほとんどで、フル稼働時にサーマルスロットリングを生じるCPUクーラーであっても、ゲーム中ならCPUを十分に冷却して最大限の性能を引き出せることは珍しくない(もちろんエアフローが極端に悪いPCケースなどでは変わってくる可能性はある)。
フル稼働中のCPUを温度リミット未満まで冷やし切って最大限の性能を引き出すというのは理想だが、現代のハイエンドCPUでそれをCPUクーラー選びの基準にしてしまうと、高価で大型のクーラーしか選択肢に残らない。
本当に重要なのは、必要な場面で必要な性能をCPUから引き出せるように冷却することだ。CPUの発熱量は個体差やマザーボードの最適化具合によっても変化するので、必要十分な冷却性能がどの程度なのかを推し測ることは難しいが、常にCPUを冷やし切って最大限の性能を引き出さなければならないという考えを改めることが、自分のPCにとって最適なCPUクーラーを見つけるための第一歩となるだろう。