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Core i5とCeleronで仕事に差は出るのか? ブラウザやOfficeアプリの動作速度の違いを動画で徹底検証

~Ryzen搭載機など10万円以下のノートパソコン4機種で比較

 新型コロナウイルスの感染拡大以降、かなりの人がテレワークを体験したことだろう。会社からモバイルノートなどの社外で利用できるパソコンを支給されていた人ならまだよいが、検討する時間もなく急遽テレワーク用のパソコンを調達したり、あるいはそれも間に合わずテレワークに自前のパソコンを使わざるを得なかったりした人も多かったかもしれない。

 さて、お手元のパソコンはテレワークに適した性能だっただろうか。シスアドのいない企業ではパソコンのスペックを決定するのもが難しいだろう。急なことだったため、スペックよりも価格、予算が優先されたかもしれない。

 本記事は、パソコン選びにおけるの「性能(スペック)」の基準を教える内容だが、パソコンについてあまり詳しくない人でもわかるように工夫を試みた。通常弊誌では、パソコンの性能をPCMarkなどのベンチマークアプリで計測し、そのスコアを性能判断の要素として用いている。

 しかし、ここではパソコンについて疎い人にもわかりやすいように、性能の違いを実作業で示すために、Webブラウザの操作、Officeアプリの操作、ファイルの操作といった検証時の作業をパソコンごとに録画し、映像で比較するというやり方を取り入れている。

 今回はマウスコンピューターの協力を得て、Celeronを搭載する比較的性能の低いノートパソコンから、Core i5やRyzen 5を搭載する仕事では十分な性能を持つノートパソコンまでの合計4台を用意した。自分の仕事にどういった性能のパソコンを選べば良いのか、本記事を読んで性能の基準を学び、製品選びの参考にしていただきたい。

ビジネスパソコン選びで優先すべきはCPU
グレードを覚えればCPU選びは簡単だ

 ここからの内容は、テレワークやオフィスでの業務を行き来することを念頭に、デスクトップパソコンではなくノートパソコンを中心に説明していこう。

 まずはビジネス用のノートパソコンのスペックでどこに注目すべきかという点を説明していくが、手っ取り早く性能の比較を見たい方はこの節は飛ばしていただいてかまわない。

 パソコン選びにおいて重要なことはいくつもあるが、とりあえず1つ挙げるとすれば「CPU」だ。

 市販のノートパソコンでは、CPUの性能に応じて搭載されるメモリやストレージ、無線LAN機能、USBといったインターフェイスなどの仕様が決まり、高性能なCPUになるほどそのほかの部分の性能も上昇するという傾向がある。

 こうした理由でCPU選びが重要なのだが、いざ現在のCPUの「Core i5-10210U」といった型番を見たときに、パソコンに詳しくない方は英数字の羅列に面食らうかもしれない。

 ただ、CPUの世代が変わっても、性能を見る上でわかりやすいルールがある。それは「グレード」だ。

 コンシューマ向けパソコンのCPUを開発しているメーカーはIntelとAMDの2つ。IntelにはCore i9/i7/i5/i3、さらに下にはPentiumやCeleronというグレードがある。一方のAMDにはRyzen 9/7/5/3といったグレードがある。グレードごとの相関関係は以下の表にまとめた。

【表1】CPUのグレードにおける大まかなコア/スレッド数の違い
IntelAMD
エンスージアストCore i9最大10コア/20スレッドRyzen 9最大16コア/32スレッド
ハイエンドCore i7最大8コア/16スレッドRyzen 7最大8コア/16スレッド
ミドルレンジCore i5最大6コア/12スレッドRyzen 5最大6コア/12スレッド
ローエンドCore i3最大4コア/8スレッドRyzen 3最大4コア/4スレッド
ローエンドPentium、Celeron最大4コア/4スレッドAthlon最大2コア/4スレッド

 表の見方は難しくない。CoreもRyzenも上にあるもの、ブランド名に続く数字が大きいものほど高性能だ。CPUの性能を決めるおもな要素は2つ。コア数と動作クロックだ。どちらも数字が大きいほど性能が高くなる。表のとおり、「9」グレードのものはコア/スレッド数が多く、「3」グレードに近づくほど少なくなる。

 なお、「スレッド」とは、マルチスレッディング技術を利用して、1つのコアを擬似的に2つのコアとして動作させるもので、これに対応するものはコア数の2倍のスレッド数が得られる。IntelのCPUであれば「Hyper-Threading」といった名称で提供されている機能だ。

 表では、「9」グレードと「7」グレードでコア/スレッド数が同じものがあるが、この場合はまずクロックが異なる。「9」グレードのほうが高クロックだ。ほかにも内蔵されるGPU機能の性能差などでも差別化されているが、ここではおもにCPUの違いを説明するので割愛する。

 ローエンドのセグメントの製品は、ブランディングから上位の製品と異なる。AMD Athlonについては、上位のRyzenをベースによりコア/スレッド数がかぎられたものと考えればよい。

 一方で、IntelのPentiumとCeleronは少し異なる。上位のCoreをベースにコア/スレッド数を絞り込んだモデルもあるが、Coreとは別のもう1つのCPUアーキテクチャであるAtom系のCPUコアの製品も混在している。アーキテクチャが別でも製品名に同じCeleronが使われていたりするので非常に紛らわしいが、CoreとAtomは設計が異なり、1コアあたりの性能で見ればCoreのほうが高性能だ。

今回比較に用いた4モデル。4つの異なるCPUでそれぞれに特徴

 今回は以下の4台のノートパソコンをマウスコンピューターからお借りした。現行世代のCPUを搭載する4製品だ。まずはその紹介をしよう。記載している価格は執筆時点のものなので、変更される可能性があることに注意してほしい。

【Celeron N4100搭載のローエンドモデル】mouse C1

mouse C1(Windows 10 Home搭載モデルは税別価格41,800円)

 mouse C1は、11.6型1,366×768ドット液晶パネルを搭載したモデル。CPUはCeleron N4100で、4コア/4スレッド対応。現代版ネットブックという位置づけになるだろう。かさ張らない大きさで低価格。サイズ的にお子さんの教育向けや、価格面ではじめてパソコンを使うという方に適している。なお、Celeron N4100はAtom系アーキテクチャを採用しており、以降2モデル続くCore系のアーキテクチャと異なり性能は高くない。

小型だが有線LANやミニD-Sub15ピンを搭載する

【Celeron 4205U搭載のローエンドモデル】mouse F5-celeron

mouse F5-celeron(Windows 10 Home搭載モデルは税別価格59,800円)

 mouse F5-celeronは、15.6型フルHD液晶パネルを搭載した据え置き向けモデル。今時めずらしい光学ドライブの搭載がポイントになるだろう。mouse F5シリーズはCeleron搭載モデルからCore i7搭載モデルまで幅広いが、ここで用いたのはCeleron 4205U搭載モデル。

 mouse C1と同じCeleronブランドだが、Celeron N4100と異なりCore系のアーキテクチャを採用している。ただし2コア/2スレッド動作で今回比較したなかではもっともコア/スレッド数が少ない。アーキテクチャ的にはCeleron N4100よりも高性能でも、スレッド処理数が少ない点がどう影響するのか、このあとの検証で注目してほしい。

光学ドライブ、ミニD-Sub15ピン映像出力など、レガシーなインターフェイスを残しており、そうした古めの機材が残る事務所での業務に適している

【Core i5-10210U搭載のミドルレンジモデル】mouse X4-i5

mouse X4-i5(Windows 10 Home搭載モデルは税別価格89,800円)

 mouse X4-i5は、14型フルHD液晶パネルを搭載し、重量1kg前後、2cm弱の厚み、10時間程度の駆動時間という、コストパフォーマンスに優れる本格的なモバイルノートパソコン。CPUは4コア/8スレッド対応のミドルレンジクラスのCore i5-10210U。このスペックで10万円を切るという価格のパソコンは、テレワークニーズにも最適と言える。

Wi-Fi 6、USB Type-C端子(USB PD対応)などの新しいインターフェイスを備えていることに加え、ビジネスでニーズが高い有線LAN端子も利用できる

【Ryzen 5 3500U搭載のミドルレンジモデル】mouse X4-B

mouse X4-B(Windows 10 Home搭載モデルは税別価格74,800円)

 mouse X4-Bは、先のmouse X4-i5と同じ筐体を用い、CPUを4コア/8スレッド対応のAMD Ryzen 5 3500Uに変更したモバイルノートパソコン。こちらもミドルレンジCPUを搭載するが、mouse X4-i5よりも標準構成価格が安い。スペックのわずかな違いによりバッテリ駆動時間がmouse X4-i5よりも短いが、それでも約9.4時間なのでモバイル利用では問題ない。赤い天板も個性的だ。

側面のインターフェイスはmouse X4-i5と同じだが、このほか前面にmicroSDカードスロットが追加されている。有線LANも利用可能だ

【表2】「mouse C1」と「mouse F5-celeron」のスペック
モデル名mouse C1mouse F5-celeron
CPUCeleron N4100
4コア/4スレッド、1.1~2.4GHz
Celeron 4205U
2コア/2スレッド、1.8GHz
GPUUHD Graphics 600UHD Graphics
メモリDDR4-2666 8GB
※DDR4-2400で動作
DDR4-2666 8GB
※DDR4-2133で動作
ストレージSATA SSD 256GB
ディスプレイ11.6型HD非光沢液晶15.6型フルHD非光沢液晶
解像度1,366×768ドット1,920×1,080ドット
OSWindows 10 Home
バッテリ駆動時間約7.5時間約7.2時間
汎用ポートUSB 3.0×2、USB 2.0USB 3.0 Type-C(USB PD対応)、USB 3.0×2、USB 2.0×2
カードリーダSDカード
映像出力HDMI、ミニD-Sub15ピン
無線機能Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)、Bluetooth 5.0
有線LANGigabit Ethernet
Webカメラ100万画素
認証センサー-
その他ステレオスピーカー、デジタルマイク、音声入出力端子
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)292.4×206.5×24.5mm361×256×24.1mm
重量約1.2kg約2.1kg
税別直販価格43,800円59,800円
【表3】「mouse X4-i5」と「mouse X4-B」のスペック
モデル名mouse X4-i5mouse X4-B
CPUCore i5-10210U
4コア/8スレッド、1.6~4.2GHz
Ryzen 5 3500U
4コア/8スレッド、2.1~3.7GHz
GPUUHD GraphicsRadeon Vega 8 Graphics
メモリDDR4-2666 8GBDDR4-2666 8GB
※DDR4-2400で動作
ストレージSATA SSD 256GB
ディスプレイ14型フルHD非光沢液晶
解像度1,920×1,080ドット
OSWindows 10 Home
バッテリ駆動時間約12時間約9.4時間
汎用ポートUSB 3.0 Type-C(USB PD対応)、USB 3.0×2、USB 2.0
カードリーダ-microSDカード
映像出力HDMIHDMI
無線機能Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)、Bluetooth 5.0
有線LANGigabit Ethernet
Webカメラ100万画素
認証センサー顔認証
その他ステレオスピーカー、デジタルマイク、音声入出力端子
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)320.2×214.5×17.5mm
重量約1.13kg
税別直販価格89,800円77,800円

 これら4製品をピックアップしたが、Celeronを搭載する2つはローエンド、Core i5およびRyzen 5を搭載する2つはミドルレンジクラスに相当する。ローエンドの2製品は5万円という予算枠、ミドルレンジの2製品は10万円という予算枠に収まる。減価償却にはいろいろとルールがあり企業の規模によっても変わるので触れないが、ビジネスパソコンとして10万円という予算はそれ以上と比べて組みやすいだろう。その点で今回ハイエンドは省いている。

 一般的なビジネス用途を想定し、ハイエンドクラスのCPU搭載製品は用意しなかった。なお、ミドルレンジCPUをCoreとRyzenにしたのは、その性格の違いを明確にする目的からだ。また、ローエンドの2つは同じCeleronでもCPUアーキテクチャ、コア/スレッド数が異なる。基本的にはミドルレンジとローエンドの性能差を見る目的だが、同じセグメント内での性能差にも注目したい。

実測! ブラウザ編

 それでは実際に4つの異なるCPUを搭載した製品で同じ作業を行なったさいの処理時間にどのような差が出たのかを動画で比較して紹介していこう。PCMarkなどの基本ベンチマークのスコアは後半に掲載している。

 まずはWebブラウザ中心のテストだ。テレワークではWebブラウザの利用率が高かったのではないかと思われる。VPNを用いて社内LANにアクセスするという方法もあるが、在宅のすべての従業員が社内システムにアクセスできるシンプルな方法として、Webブラウザを介するもののが現在のスタンダードだろう。それにビデオ会議もパソコン用のものは多くがWebブラウザ上で動作する。

 ではWebブラウザでのテストをいくつか見ていこう。

タブを10個開く

 タブを10個開くテストは、ChromeのブックマークフォルダにImpress Watchのチャンネルを10個登録し、これを同時に開く処理を行ない計測した。Webサイトを開く場合、ネットワーク回線速度や、読み込む広告が切り換わることも考慮し、3回計測した上で平均を取る方法を採用した。映像はそのうちの1回だ。

 もっとも速かったのはCore i5-10210Uで、これに続くのがRyzen 5 3500Uだ。この2製品は20秒台で10サイトを表示できた。一方、Celeron N4100は40秒台、Celeron 4205Uは70秒以上を要している。

4Kビデオを読み込み再生する

 次にYouTubeで4Kビデオを読み込むさいの時間を比較した。

 Core i5-10210Uがもっとも速かったのは先と同様でタッチの差でRyzen 5 3500Uが続いた。そしてCeleron 4205U、Celeron N4100という順番だ。

表示中のWebサイトをスクロールする

 次にWebサイトのスクロールテスト。テストでは条件を統一するためにまずChromeを導入しており、その拡張機能でソイエバ氏が公開している「自動スクロール」を利用した。

 自動スクロール拡張機能は、アイコンにカーソルを合わせるとスクロールできる。拡張機能上の速度を「5」に合わせ、同じタイミングでスクロールを開始、本文の末尾に到達するまでの時間を比較した。同時に、ビデオではスクロールのなめらかさにも注目してほしい。

 4つのCPUのうち、より速くよりスムーズだったのはRyzen 5 3500Uだ。これに続くのがCore i5-10210U。Ryzen 5 3500Uが逆転したのは内蔵するGPU機能が高性能だからだ。ローエンドのパソコンの2台はカクカクとしたスクロールで、サイト末尾にたどり着くまでの時間も長かった。

 ちなみに、Core i5-10210UとCeleron 4205Uは、ともにIntel UHD Graphicsという内蔵GPU機能を利用している。つまり、このテストもGPUだけではなくCPUの性能も影響しているということだ。

ビデオ会議アプリを利用する

 これは性能差を比較するものではない。ただしExcelなどの作業をしながら、あるいはデータなどの資料を開きながらビデオ会議を行なうようなシチュエーションを想定したテストだ。ビデオ会議アプリはChromeからGoogle Meetを、カメラとマイクに関してはパソコン内蔵のものを利用している。

 このテストは2アカウントでの接続だったためにあまり明確な差が出なかった。たとえばこれが4アカウント、8アカウントだったらもう少し明確になったかもしれない。ただし、より再生品質でスムーズだと感じたのはCore i5-10210Uだ。ほかの3つは少しカクカクするシーンが見られた。

 なお、映りを気にする方はパソコン本体内蔵のカメラやマイクではなく、別途単体のWebカメラやマイクを用意したほうがよいと思われる。とくにカメラでは画角、マイクではハウリングといった問題に対応できるのは、設置の自由度が高い単体製品だ。また、一般的にパソコンに搭載される720p程度の解像度であればまだしも、1080p(フルHD)の高解像度を求めるような場合、Celeronでは力不足が露呈するだろう。

実測! Excel編

 Excel、PowerPoint、WordなどのOfficeスイートは業務においてもっとも使用頻度が高いアプリではないだろうか。ここではExcelを使った検証結果を紹介する。

ExcelファイルをWebブラウザで開く

 Microsoft 365のライセンスを購入すると単体アプリとともに、Web版の利用権も付属している。また、もっとも安価なビジネスライセンスである「Business Basic」では単体アプリの利用権がなく、Web版の利用権のみである。急に決まったテレワークということで、Business Basicライセンスを導入したという方も多いかもしれない。そこでWeb版のExcelでファイルを読み込む速度を比較した。

 もっとも速かったのはRyzen 5 3500Uだが、続くCore i5-10210UとCeleron N4100はタッチの差だ。最後のCeleron 4205Uだけ一呼吸おく感じだろうか。

Excelアプリでファイルを開く

 先の「ExcelファイルをWebで開く」で用いたファイルを単体アプリ版のExcelで開いたさいの時間を測った。Web版ではある程度の処理をサーバー側で行なうことができ、クライアント側はWebブラウザ上での処理性能がおもな要因だったのに対し、こちらはすべてをパソコンで行なう。

 すばやかったと言えるのはミドルレンジの2つだ。Web版よりも短時間でファイルを開けている。ローエンドの2つは時間を要しており、ミドルレンジとは大きな開きがある。とくにCeleron N4100は15秒を要しており、そこまで大規模ではないExcelファイルでも待ち時間が長く感じる。

 そして、先のWeb版ではCeleron N4100のほうがCeleron 4205Uよりも速かったが、単体アプリ版ではその逆になる。ミドルレンジの2つを加えて考えると、Web版はある程度マルチスレッド処理で、単体アプリ版はおもにシングルスレッド処理と考えるのがよい。

実測! ファイル/メディア操作編

 ここからはファイル操作やメディア操作などの処理速度のテストを行なった。

1GBのフォルダをコピー

 ファイルやフォルダのコピーは普段の作業としてよく行なわれるものだ。できるだけ実際の業務に近くなるよう、筆者が過去に行なったレビュー記事のテキストやグラフ用の表計算ファイル、写真や資料などで容量1GBとなるよう調節した。

 Core i5-10210Uがもっとも速く、直後にRyzen 5 3500UとCeleron N4100がコピー処理を終えた。それらと比べるとCeleron 4205Uは遅い。これは後に掲載しているCrystalDiskMark、CINEBENCH R20とも異なる結果だ。ストレージの性能だけではなく、CPUの性能も影響し、そのバランスがこうした結果に結びついたと考えられる。

1GBのフォルダを圧縮

 先の1GBのフォルダをZIP圧縮したさいの処理時間を計測した。

 もっとも速かったのはCore i5-10210Uだが、ここでは同じコア/スレッド数のRyzen 5 3500Uがもっとも時間を要している。コア/スレッド数、そしてCINEBENCH R20が示すような純粋なCPU性能だけが結果に結びついているわけではないようだ。

 考えられるのはこのファイル圧縮処理をWindows 10標準の機能で行なった点だ。ファイル圧縮にはいくつかのアルゴリズム、いくつかのアプリ(アーカイバ)がある。CoreとRyzenはアーキテクチャが異なり、アルゴリズムによって得手不得手が分かれたのではないだろうか。また、Core i5-10210U以外の3つがそれほど変わらない時間を要した点でも、CPU性能だけではないと考えてよさそうだ。

圧縮ファイルの展開

 先に圧縮したフォルダを、今度は展開したさいに要した時間を比較している。これもWindows 10の標準機能で展開処理をしているためか、基本的に先の圧縮テストと同じ傾向が見られている。

 フォルダの圧縮、圧縮ファイルの展開という2つのテストの結果は、本来高性能であるはずのRyzen 5 3500Uがその性能を引き出せていないように見える。ただし先に指摘したように、アーカイバが異なれば異なる結果になる可能性もある。あくまでWindows 10標準の機能を利用したさいの結果ととらえていただきたい。

 とは言え、ここで問題となるのが自由にアーカイバを導入する権限があるのかどうかだ。ここは各社でルールがあると思われるのでそれに従うしかない。あるいは、Windows 10側がRyzenに適したアルゴリズムを採用する可能性もあるので、これに期待するという考え方もあるだろう。

JPEGファイルを10個開く

 JPEGファイルを10個開くのに要した時間だ。1つのファイルサイズは6MB前後。解像度は4,608×3,456ドットだ。

 ここで再びRyzen 5 3500Uがトップに返り咲いた。メディアを扱う処理では、GPU性能に優れたRyzen 5 3500Uが一歩リードしているのは間違いない。また、10個開くという点ではコア/スレッド数の大小、つまりマルチスレッドが影響するようだ。ここでもCeleron 4205Uがもっとも時間を要している。

4KサイズのRAWファイルを開く

 最後のテストは1つのRAWファイルを開くのに要した処理時間だ。ファイルサイズは14MB弱。解像度は4,640×3,472ドットだ。

 これもメディア性能に優れるRyzen 5 3500Uがもっとも速かった。そしてCore i5-10210Uもタッチの差なのでミドルレンジ製品の優位ということが言えるだろう。

 一方、ローエンドの2製品は先と同じ傾向だ。1つのファイルということでシングルスレッド性能が求められるように思うかもしれないが、実際には2つのCeleronで大きな差がついていることからマルチスレッド処理が有効に働いたということになる。そのため、2コア/2スレッドというハンデがあるCeleron 4205Uがもっとも時間を要した。


 結果を総合すると、バランスよく高速なのはCore i5-10210Uだ。Ryzen 5 3500Uも一部を除けばCore i5-10210Uに匹敵する。一部というのも、Windows標準の機能ではなく、利用するアプリを選べる環境にあるならばCore i5-10210U並みの速度が得られるだろう。そうであればRyzen 5 3500Uの価格的メリットは大きい。

 ローエンドの2つは得手不得手が分かれており、どちらがよりよいと判断するのは難しい。そしてミドルレンジとは明確に差がついており、その処理待ち時間は一呼吸というには長過ぎると感じるシーンも多かった。

通常のベンチマークスコアも知っておこう

 一般的なベンチマークスコアも提示しておこう。なお、実際には製品間で比較をしたものであるが、ここからはわかりやすいようにCPU名で記述を行なう。

 PCMark 10はそのパソコンの総合的な性能や、どの分野に長けているのかを把握できるベンチマーク。実際のアプリを実行し、その処理速度などからスコアを算出するものだ。

 Essentials、Productivity、Digital Content Creation(DCC)、Gamingという4つのシナリオで見ると、4製品ともにEssentialsとProductivityは得意、DCCとGamingは不得意という傾向がわかる。DCCとGamingは、少なくともCPUに内蔵されたGPUを利用するパソコンには向いていない用途だ。

 この分野の性能、つまりグラフィックス性能を求めるならば、ここでは登場しないがGeForceシリーズの単体GPUを搭載している製品が必要だ。マウスコンピューターであればゲーミングパソコンブランドのG-Tune、クリエイター向けブランドのDAIVのモデルをオススメする。

 またミドルレンジの2製品にも傾向がある。OverallではRyzen 5 3500Uのほうが高いスコアだが、そのスコアはDCCやGamingのスコアで稼いでいる。たとえばEssentialsやProductivityで見ると、Core i5-10210Uのほうが高スコアだ。

 続いてCINEBENCH R20。これは3DレンダリングをCPU演算で行なうベンチマークで、そのスコアは純粋にCPU性能を表わしたものになる。

 「CPU」はマルチスレッドテスト、つまりコア/スレッドと表記したCPUのスペックにおける最大のスレッド数を使い切ったさいのスコアだ。そして「CPU(SingleCore)」はシングルスレッド、つまり1コア/1スレッド時の性能である。まずわかりやすいのがシングルスレッド性能。ローエンドの2つ、ミドルレンジの2つのスコアは大きく離れている。

 また、マルチスレッド性能は複雑だ。たとえば同じ4コア8スレッドでも大きな開きがある。この場合、Core i5-10210U側にCPUクロックやメモリ帯域などで性能が引き出せない要因、つまりボトルネックが生じていると考えられる。

 ローエンドCPUでは、パソコンとしてより安価なCeleron N4100がCeleron 4205Uを倍以上の差で圧倒している。ここは動画を用いた検証でもその影響が見られるところだ。

 最後にCrystalDiskMark 7.0.0のスコアを紹介する。これは内蔵されたストレージの製品を評価するものだ。と言っても今回の4製品はどれもストレージにSSDを採用しており、そのインターフェイスがSATA 6Gbpsという点で実際に採用されているSSDは異なっていても性能的にはほぼ同じという結果だった。

mouse C1
mouse F5-celeron
mouse X4-i5
mouse X4-B

 SEQ1M(Q8T1)、SEQ1M(Q1T1)という2つの項目はシーケンシャル性能のテストだ。リード/ライトともにどの製品も400~500MB/s台の転送速度が出ている。

 RND4K(Q32T16)、RND4K(Q1T1)という2つの項目はランダム性能のテストだ。こちらはCore i5-10210Uというよりもmouse X4-i5がより高性能のSSDを搭載していることを示す結果だったが、それでもそこまで大きな違いはないことがわかる。

 そして今回の4製品はBTOパソコンであるため、CrystalDiskMarkの結果はあくまで標準構成のものである。実際の注文のさいには、より速いSSD、より大容量のSSDを選ぶこともできる。

「ビジネスはスピード」と考えるなら十分な性能のパソコンを選ぶべき

 パソコン選びは難しい。ただし、おおよそ何か処理をしたときに要する時間に関して、安い製品は長く、高価な製品は短いという傾向があることがわかっただろう。

 個別のテストでは数秒差なので価格差のほうが魅力に感じられるかもしれないが、1日の労働時間で考えたら数分~数十分の差になってしまってもおかしくない。その都度感じるストレスもあり、これを年単位、企業におけるパソコンの更新期間と言われる5年で考えたらどうだろうか。

 業務が単純で頻繁に使用するアプリの切り替えもなく、ほぼずっと、Excelを操作しているだけといった単純な使い方ならローエンドのパソコンで十分だ。しかし、そうでなければ予算を抑えるよりも、Core i5/Ryzen 5クラスの性能を持つパソコンで作業時間を短縮し、その生まれた時間で次の仕事を進めたり、テレワークであれば家事に費やしたりすることができる。そう考えれば、安さは必ずしも大きなメリットとは言えず、少し価格が上がるにしても十分に費用を回収できるのではないだろうか?

 テレワークによってWebカメラによるビデオ会議のようなニーズも高まった。あるいは社内システムにアクセスするためにVPNを利用するといったこともあるだろう。これからの働き方では、性能的に見ればむしろ以前より高いものを求められていると言えるかもしれない。

 多くの人にとってパソコンの選定要素はまず価格だ。しかし、自分の仕事にきちんと合ったパソコンを選ばないと、性能不足でストレスをためることにつながりかねない。今回紹介したCPUのグレードごとの仕事差を参考にして、自分に必要と思われるパソコンを検討してみてはどうだろうか。