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7型ゲーミングUMPC「ONE-GX」が、Ice Lake採用をスキップするワケ

~ONE-NETBOOKの社長と副社長にインタビュー

2020年上期に登場予定の7型ゲーミングUMPC「ONE-GX」

 深センのONE-NETBOOK Technologyが、このところUMPCの新製品開発と日本市場に力を入れている。5月に国内の正規代理店として株式会社テックワンとパートナーシップを結んで以来、7型の「OneMix 2S」、「OneMix 1S」、8.4型の「OneMix 3」などを矢継ぎ早に投入。そして今回、世界初となるComet Lake Y搭載UMPC「OneMix 3 Pro」を、日本語キーボードの特別仕様で発売するとともに、2020年には夏頃には7型のゲーミングUMPC「ONE-GX」を投入することを予告した。

 ONE-NETBOOKがなぜここまでアグレッシブな製品ロードマップを用意できたのか。今回はテックワンの協力を得て、発表会に合わせて来日したJack Wang社長とJason Zeng副社長に話を伺うことができたので、紹介していきたい。

Jack Wang社長
Jason Zeng副社長

OneMix 3 Proの特徴

--OneMix 3を日本に投入してすぐに、第10世代CoreのOneMix 3 Proを予告しましたね。OneMix 3を分解してみればわかりますが、放熱機構など、すでにComet Lake Y搭載の布石が用意されていることは、ある程度予測できましたけど。

Jason:われわれのOneMix 3 Proのプロジェクトは6月に立ち上げました。8月にはすでにプロトタイプが完成し、これまでテストを積み重ねてきました。最終的にお届けできる製品の品質には自信があります。

 OneMix 3の時点で布石があったというのはそのとおりです。OneMix 3ではすでにファン付きヒートシンクと、大型ヒートスプレッダによるデュアルチャネル構造の放熱機構を採用しており、Comet Lake Yを見据えた放熱となっておりました。とは言え、基板レベルでもOneMix 3 ProはOneMix 3から変更されている点も少なくありません。

OneMix 3に搭載された2チャネルの冷却システムは、OneMix 3 Proへの布石

--それは具体的にどの辺りですか。

Jack:まずは電源IC周りが挙げられます。Comet Lake YはAmber Lake Yと比較してコア数が2倍となっているので、電源への要求が異なります。OneMix 3 Proでは、比較的高価格帯の電源ICを採用しています。

 また、ファームウェアを含めて、より効率的に電力を活用できるよう設計し直しました。その結果、発表会で挙げさせていただいている15%の放熱性改善/バッテリ寿命延長/性能向上を実現しているわけです。

Jason:これらの数値は、いずれも第10世代Coreによる功績が大きいです。第10世代Coreではコア数が4コアに倍増していますので、2コアと比べて速く処理を終えることができます。速く処理を終えることができるということは、高い消費電力に留まる時間を短縮し、アイドル時間を増やすことができるわけです。その結果、バッテリ駆動時間の延長を実現できました。

 もっとも、負荷時でもアイドル時でも消費電力を従来より抑えなければ、この数値を達成できません。そのための最適化を、OneMix 3 Proで施しているわけです。第10世代Coreの搭載による改善が70%だとすると、残りの30%はわれわれが独自に行なったと言ってもいいと思います。

 ちなみにわれわれのラボでの測定では、バッテリ駆動時間は約19%近く改善した結果を残しています。ただ、バッテリを3%残した状態、および時間のばらつきなどを考慮し、15%という数字を出させていただきました。

第10世代Coreプロセッサの搭載による改善

--OneMix 2Sや3を日本に投入して以来、ユーザーから上がってきた問題点などはありますか。

Jason:とくにないですね。強いて言えば、OneMix 3のブラックモデルは、指紋が付きやすいことでしょうか。

 ただ、われわれが今年(2019年)もっとも注力したのは品質改善で、これがサプライヤー泣かせでした。とくに、ディスプレイを閉じたときに隙間を生じさせないよう、誤差を極力抑えたヒンジの開発に苦労しました。

 OneMix 3 Proの量産機では、MicrosoftやLenovoといった大手が採用している粉末冶金で製造されたヒンジに切り替えます。これにより誤差を大きく減らせるとともに、スムーズな開閉を実現します。

 量産機では、完全に閉じた状態、135度開いた状態、180度開いた状態すべてで、ディスプレイ底部とベース部の完全な並行性を実現できているかどうか検証しています。ぱっと見た感じではにはOneMix 3と変わらないのですが、実際に手にとって開いてみると違いが実感できるのではないでしょうか。

--OneMix 3 Proで想定している新規ユーザー層はどのあたりでしょうか。

Jason:建築デザイン関係の方々です。4コア化による性能向上で、この層にもリーチできるのではないかと考えています。

--今後ONE-NETBOOKで考えうる製品の方向性はどの辺りでしょうか。

Jack:いろいろ考えられます。まずは狭額縁化でしょうか。スマートフォンの世界では当たり前になりつつあるので、実現していきたいです。一方Webカメラは使用頻度が低いと考えていますので、優先順位は低めです。

 次はMicrosoftの2画面2in1「Surface Neo」のような端末でしょうか。もっとも、Microsoftは業界のリーダーなので、10月の発表会の時点でモックを見せることはできましたが、われわれは立場が異りますので、現段階ではお見せできるものはありません(笑)。しかし、チャレンジしていきたいと思います。

 もう1つはLakefieldプロセッサ採用のモデルです。われわれはIntelと深いパートナーシップを結んでいますので、Lakefieldのアーキテクチャなどについても早い段階で情報を入手できており、評価しはじめているところです。

MicrosoftのLakefield搭載2画面2in1「Surface Neo」

--将来の製品ロードマップについてお伺いできますか。

Jason:来年前半まではすでに確固たるロードマップを敷いています。1つ目は初代OneMixのようなローエンドモデルへの回帰で、特殊需要があるお客様に応えていきたいと考えております。

 そしてもう1つがゲーミング向けの「ONE-GX」で、こちらは新規市場の開拓ですね。

GPD WINとは異なる開発思想のONE-GX。そしてTiger Lake Yを採用した理由

--OneMix 3 Proの投入に合わせて、ONE-GXの開発表明を行ないました。いきなりIce Lakeを飛ばしてTiger Lakeとなっていますが、この理由はなんでしょうか。

Jack:まず大前提として挙げられるのは、Tiger LakeがIce Lakeより高性能なプロセッサである点です。Tiger Lakeでは第2世代の10nmプロセスを採用しているため、性能が向上しているほか、Ice Lakeから改善したアーキテクチャのCPUとGPUを内蔵しているため、Ice Lakeより高い性能を発揮できます。

 もう1つはIce Lake Yの問題です。われわれが内部でテストしたところ、Ice Lake YのGPUはTDP 25Wの設定でないと十分なGPU性能が得られないことがわかりました。ONE-GXが目指している7型のサイズにはTDP 25Wをフィットさせられず、Ice Lakeの搭載は非現実的です。

 Ice Lake Yの供給の問題も挙げられます。Ice Lake Uは広く提供されていますが、Ice Lake YはいまのところAppleとMicrosoftにしか供給されておらず、Lenovoといった大手ですら入手できていません。そもそも入手できないCPUであるため、ONE-GXでの採用を見送ったのです。

Intelが公開したTiger Lakeの性能

--コントローラを着脱式にした理由はなんでしょうか。

Jack:競合のようなGPDの案も考えましたが、キーボードの使い勝手が大きく損なわれてしまうので、OneMixシリーズとおなじく、タッチタイプできるピッチを確保したキーボードを採用することにしました。ゲーミングと言っても、一般的なPCと同じようW/A/S/Dキーを使ってFPSゲームをプレイしたいユーザーもいるだろうという配慮です。

 もう1つ、Nintendo Switchのように、2人で1つずつコントローラをそれぞれ持ってもらい、対戦したり協力プレイしたりすることも想定していますね。

Nintendo Switchのように、機能が対称となっている着脱式コントローラを採用する

Jason:着脱式にすれば、ゲーミングPCとしてもビジネスPCとしても使えます。コントローラを外せばOneMixのようなかたちになるので、仕事ではこの形態で利用してもらい、仕事が終わってからコントローラをつけてゲームプレイで一息つくといった利用を想定しています。

 今回、コントローラとPC一式を収納できるポーチの制作も考えています。ユーザーにはこのポーチを一緒に持ち運んでもらって使うイメージですね。

--コントローラと本体の接続はBluetoothでしょうか。

Jason:いいえ、Bluetoothにすると2チャネルのリソースを必要としますので、今回は堅牢な接続性を重視して独自の2.4GHz帯通信を採用しました。

 本体から外した状態でも使えるよう、コントローラ各々に充電式のバッテリを内蔵する予定なので、本体から給電する必要はありません。また、フォースフィードバックによる振動機能も実装する予定です。

--今の開発状況はどの辺りでしょうか。

Jason:1年以上前から、26人で構成された開発チームを用意し、ONE-GXの開発をしてまいりました。今ようやく中身ができてきた段階で、「10,000mAhのバッテリを装備する」という最大の目標も達成しました。あとは外観が仕上がっていない状態です。なので、今回は限定的に公開することにしました。

 テスト機の状況も順次お伝えしていきますので、どんどんフィードバックをいただければと思います。

--本日はありがとうございました。

筆者から挙げた要望

 ちなみにインタビューのあと、両氏にONE-NETBOOK次期製品や、ONE-GXへの要望を聞かれたので、以下のような内容を伝えた。

・国内ユーザーの多くは、「VAIO Type P」のような、キー配列に妥協していないUMPCの投入への期待が高い
・OneMixシリーズの電源LEDをエッジに配置し、閉じたときでも電源の状態がわかるようにしてほしい
・ONE-GXは両手でホールドして操作すること想定し、GPD Pocket 2のようなキーボード奥のポインティングデバイスの装備案も考えられる
・ポートレート(縦)液晶を採用すると、旧ソフトウェアのフルスクリーン表示に互換性の問題が出るので、ランドスケープ(横)液晶の採用を強く推奨
・解像度が限定されているゲーム向けに、縦解像度が768ドットもしくは1,200ドットの液晶を採用してほしい(現時点では1080pを予定)

 筆者の意見がどこまで取り入れられるか不明だが、日本語キーボードの対応など、比較的柔軟に対応している同社の今後に期待したいところだ。