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仕事で使っていたPCを家族にあげた場合、記帳が必要って本当?

~税理士に聞く、PCまわりのマニアックすぎる確定申告ガイド(第3回)

若原税理士事務所 若原秀光税理士

 PCおよびそのパーツは中古品の市場が成立していることから、不要になったPCやパーツは、廃棄するのではなく、下取りに出したり、あるいは転売によって現金化することもしばしばだ。

 もしここで、業務で使っていたPCを買い取りに出して現金化したり、あるいは家族に無償で譲った場合、それは帳簿上どのような扱いになるのか。また、それらが資産として計上されており、減価償却が終わっていなかった場合、処理は変わってくるのだろうか。おそらく、このあたりについて、正確に答えられる人は稀だろう。

 また最近では、業務で必要な品を、ヤフオクやメルカリなどを通じて購入する人もいるかもしれない。こうした場合も、領収書の取り扱いをどうするかなど、頭を悩ませることは少なくない。

 PCまわりのマニアックな会計処理についての考え方や、実際の処理に当たってのコツについて、若原税理士事務所の若原秀光税理士にうかがう短期連載の最終回は、こうした転売や個人間取引にまつわるトピックを中心にお届けする。

業務で使っていたPCやパーツを転売した時の正しい処理は?

――PC関連では、古くなったデバイスやパーツを中古で売ることがありますが、それが業務用に購入した製品だった場合、どう処理するべきなんでしょうか。

若原:これもなかなか分かりにくいですが、10万円未満であれば、単純に事業所得として計上しておけばOKです。購入時は消耗品費などで全額必要経費に計上しているはずなので、例えば3万円で売ったのであれば、そのまま3万円で計上します。勘定科目は雑収入でも売上でも構いません。

 また20万円未満で、取得時に「一括償却資産の必要経費算入」の規定をつかって、3年で経費に計上している場合も、同様に事業所得です。ただし10万円以上で、その規定を使っていなければ、事業所得ではなく、譲渡所得になります。

――つまり「売って収入を得ました」という記帳をするわけですね。その場合は、具体的にどのような処理になるんでしょうか。

若原:減価償却で簿価が残っていれば、それを事業の帳簿からのぞいて、譲渡所得の内訳書で、売却益なり売却損を計算することになります。

 ただ、売却益が出ていても、特別控除額が50万あるので、現実的には、PCの売却程度ですと、売却益に課税される場合は少ないかと思います。

――いずれにしても、中古で売った場合も記帳の必要はあるということですね。

若原:そうですね。今は白色申告でも、帳簿作成義務はありますからね。

――友人知人に直接売ったり、家族にあげる場合はどうですか。

若原:友人に売るのも、買取業者に売るのも、基本は同じ処理です。家族にあげる場合は、家事消費ですから、基本、時価で譲渡したとみなして処理することになりますね。

――ということは、正しい記帳のやり方としては、時価に相当する額を売上とみなすので、仕訳的には、借方が事業主貸、貸方が売上で処理すれば良いということでしょうか。

若原:そうですね。その時点の買取価格等を参考に売買価額を算出します。簿価が残っていれば、簿価で売却でも良いかと思います。

――その買取価格の相場というのは、例えばどこかの中古ショップの買取価格を目安にするということで良いでしょうか。

若原:そうですね、時価の根拠を残しておかないと、あとで揉める可能性がありますので、その時の買取価格表を、印刷でもして保管しておくと良いですね。できれば、複数のショップの買取価格表を保管しておくと良いかと思います。

――無料で家族にあげた場合、時価に当たる額は、実際には手元に入ってこないわけですが、それは問題ないんでしょうか。

若原:あくまで「時価で売ったものとして処理をしてください」というだけなので、実際のお金の動きは関係なく、収入金額が計上されていれば構いません。

――第三者から実際に代金を受け取った場合はどうですか。

若原:価額の問題は、売った相手が第三者であれば、その取引価額が時価となります。たとえば、PCを入れ替える際、売却せずに自宅用にする場合、5万円で買取してもらえるPCを、1円とかで処理する可能性もあるので、税務調査時に価額で揉める可能性があるんですが、中古ショップとかの買取であれば大丈夫です。友人に売る場合も、基本その売却価格で大丈夫かと思います。

――減価償却が終わっておらず、簿価が残っているPCを売った場合の処理を、もう少し詳しく教えてください。確定申告の時に提出する、固定資産の減価償却費の計算表から消すこともできるのでしょうか。

若原:固定資産は減価償却のパターンがいろいろあって、説明しにくいのですが……以下のようにすれば、帳簿から器具備品を取り除くことができます。

 たとえば、以下の表は、1月15日に432,000円で購入したPCを、6月30日に20万円で売却した例です。54,000円というのは、耐用年数を4年とした場合の、半年分の減価償却費(432,000円×償却率0.25×6/12)です。

 売却損の場合は、事業所得の経費になりませんので、この場合における売却の損益は、事業所得として扱われません。ですので、事業所得を計算するための帳簿に、固定資産売却損を計上する必要はありません。

 ただし、その譲渡損は、事業所得とは損益通算が可能ですので、確定申告の時に、譲渡所得の内訳書を作成ください。

若原:なお、そのPCが12万円で、6月30日に5万で売却した場合は、下の表のようになります。

 こちらは、全額を少額減価償却資産として処理した上で売却していますので、その代金は事業所得の扱いになり、雑収入として仕訳する必要があります。

電子書籍は図書新聞費、ではそれを読むための端末は?

――最近は、業務に必要な本を電子書籍で買うケースも増えていますが、そのために、あらかじめ電子書籍ストアのポイントを5,000円や1万円単位で購入しておき、それを使って買う場合は、どう処理するべきなんでしょうか。ポイントが使い切れずに、残ったままになる場合も少なくないと思いますが。

若原:ポイントが残っていれば、貯蔵品とか前払金扱いでしょうね。実際に使っていなければ、経費としては認められませんので。

――切手などと同じ扱いですね。具体的にどう処理すれば良いんでしょうか。

若原:やり方としては2パターンあって、ポイントを購入した時点で、まず新聞図書費とかで経費計上にして、12月31日に、使っていないポイントを貯蔵品に振り替える、というやり方が1つ。

 もう1つは、買った時に前払金として処理をし、使った時に実際に経費にしていくやり方ですね。要するに、期末に残っているポイント分が、経費から除外されていれば構いません。

 これらの処理をせず、かつ12月に入って大量にポイントを買っていたりすると、調査で指摘される可能性はありますね。

――電子書籍自体は、新聞図書費で処理をすることになると思うのですが、それらを読むための電子書籍端末、具体的にはKindleなどの専用デバイスを、消耗品費ではなく、新聞図書費の一部とみなして処理するのは無理があるでしょうか。

若原:携帯電話を通信費で処理することもあるくらいですし、新聞図書費でも良いかと思います。名刺も事務用品費なのか広告宣伝費なのか、また年賀状は通信費なのか広告宣伝費なのかとか、悩み出すといろいろですね。

実はややこしい? ヤフオクやメルカリでの取引の計上

――最後に、ヤフオクやメルカリで業務用に製品を購入した場合、オンラインで取引した明細は残りますが、領収書は発行されないですよね。その場合、領収書なしで処理をしても問題ないんでしょうか。

若原:現実には、領収書なしで経費計上しているかと思いますが、税務署と揉める時は揉めるかと思います。というのは、民法上は、領収書の発行義務は相手にあるので……

 揉めた結果、ダメージが大きいかもしれないのは、消費税の課税事業者の場合ですね。課税事業者の場合は、帳簿に記帳し、さらに相手からの請求書等を保存していないと、原則的に課税仕入にできません。3万円未満なら構わないんですが、それを超えていると基本NGです。

――領収書を、クレジットカードでの取引明細で代用することはできないんでしょうか。

若原:できないですね。国税庁のホームページにも書いてありますが、店頭でクレジットカードを切った時にもらう利用明細は領収書の代わりにはなりますが、カード会社から送られてくる明細は、領収書の代わりにはなりません。というのも、カード会社自身は売主ではないからです。

 まあ、とりあえず領収書は保存しておくべきですね。規定上は、仕入税額控除の適用要件をみたしていないとして、税務署に否認される可能性もあるので……

 ただし、やむを得ない理由がある時は、帳簿にその理由、相手方の住所または所在地を記載していれば、帳簿の保存だけで良いことになっています。

――“やむを得ない理由”というのは、具体的にどんなものでしょう。

若原:自動販売機を利用して課税仕入れを行なった場合。入場券乗車券などの回収できないもの。それと、相手方に請求書の発行を要請したが、発行してくれなかった場合など、これらが“やむを得ない理由”の代表例ですね。

――なるほど。ということは、発行を依頼したという事実さえあれば、理由はクリアできそうですが、問題は住所または所在地ですね。ヤフオクやメルカリでは、相手の住所を知らずに取引するケースもあるので、これらの情報が必要となると面倒ですね。

若原:一応、インターネット上の取引の場合、メールなどのやり取りで終わってしまい、請求書の類そのものが作成・交付されない場合が多いので、やむを得ない理由として、インターネットを通じた取引による課税仕入であること、および相手方の住所または所在地を帳簿に記載して、保存しておけばOKです。

 ただ、そもそも住所がわからないと……そうなると領収書も厳しいですかね……(苦笑)

 消費税がからむと、けっこう厄介なんですよね。免税事業者とかなら、その辺はあまり関係ないですし、所得税の必要経費にはなるんですが、細かく帳簿に記入しておかないと、消費税の課税仕入は認められない可能性があります。領収書の要件も厳しいです。

 まあ、領収書も、コンビニで何を買ったか分からないように、わざと領収証をもらう人がいますが、そうでなければレシートで十分です。デパートなどでも同じようにやる人がいますが、フロアが何階かは書いてあったりするので、この階は婦人服売り場なんじゃないの? とバレてしまう(笑)

――なるほど(笑)。領収書ではなく、レシートではダメなのかという話題は、確定申告の時につきものですが、そうなると、むしろレシートのほうがいいんでしょうか。

若原:はい。「上様」、「お品代」とかかれた領収書よりは、内容のわかるレシートのほうが良いですね。宛名の記載がないのが欠点ですが、小売店などの領収書なら、宛名がなくても問題ありません。

――なるほど、分かりました。ただ、課税仕入であってもなくても、ヤフオクやメルカリでの取引は、いま教えていただいたような処理が、なかなかできないことも多そうな気がします。

若原:そうですね。そうすると、あとはほかの書類、例えば取引の内容がわかるメールなどで、取引の詳細がわかるようにしておけば良いと思います。

――取引を行なっている画面のスクリーンショットなどはどうでしょうか。

若原:それも良いですね。税務署さんレベルは、わりと現場の実情を理解してくれている印象なので、そうした取引の内容が分かれば、現状そこまで細かく言われることはないと思いますね。