2022年11月22日 14:00
「ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所」(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>ではグローバル化社会における幼児期からの英語教育の有効性や重要性に関する情報を定期的に発信しています。
2021年度、青山学院大学による日本で最大規模の「VR/AIを活用した先端英語教育」パイロットプロジェクトがスタートしました。このプロジェクトで共同研究を行う青山学院大学 経済学部の小張名誉教授、山本教授、佐竹准教授に、「VRを活用することで、学生にどのような影響を与えられるのか?」という点に着目して、4カ月経過時点での研究成果を詳しく伺いました。
<インタビューサマリー>
・プロジェクトの重要性:60人規模でのVR学習の実験は、世界的にも例がまだ少ない。
・量的調査:TOEIC平均スコア(目安)が100点以上伸びた。
・質的調査:英語に対する不安の軽減につながった。
・VR活用の効果:英語学習に対する態度や意識にポジティブな影響を与えたことが英語力の向上につながった可能性がある。
・注目したいVR活用の価値:1、異なる言語や価値観に対する態度や意識がどう変わるか? 2、1により、どのような学習や行動をするようになるか?
・VR活用の目的:ネイティブ・スピーカーのようになることではなく、国際英語としての英語をツールとして使いながら視野や世界観を広げること。
<プロジェクト内容>
青山学院大学経済学部の学生が約60名参加。Immerse社※提供のVRプラットフォームを使い、英語のネイティブ・スピーカー6名が先生役になり、学生の英語力に合った場面設定を選んで1回約30分〜1時間、VR空間のアバターを操作しながら自由に英会話レッスン(1レッスン8名以下)を行う。学生は、レッスン・スケジュールの中から好きな先生や日時を選んで予約。週2回(月8回)レッスンを受けるように伝えていたが、実際には月1〜3回の学生が多かった。
※Immerse社:英語教育・学習のためのVRプラットフォーム「immerse」を開発・提供するアメリカ・カリフォルニア州に本社を置く企業。
なぜ学生の英語力が向上? 考えられる3つの要因
1、VRレッスンで「外国語不安」が軽減した
「参加学生のコメントから、VRレッスンの体験によって英語に対する不安や恐怖心などが軽減したのではないかと推測しています。マイナスな気持ちがなくなったことによって、学習しようとするモチベーションが上がったり授業外での学習量が増えたりして、スコアの伸びにつながったのかもしれません。」(佐竹先生)
2、「自分の実力を把握」がモチベーションにつながった
「VRレッスンでほかの学生との実力差に気がついて『がんばろう』というポジティブな感情をもった学生がたくさんいたので、これも関係したのではないかと思っています。 」、「また、このVRレッスンが評価を伴わない学習活動であり、好きな時間に好きなだけやっていたということも大きな要因だと思います。」(山本先生)
3、主体的な自宅学習
「全員にAIスピーカー(Alexa)を貸し出していたので、それを使った学習が影響した可能性もありますね。以前、AIスピーカーで好きなアプリを使って、授業外の日常生活で英語を聞いたり話したりする時間を増やす、という授業実験をして論文(Obari et al., 2020)を発表したのですが、TOEICのスコアが1年間で200点くらい伸びて、スピーキング・テストのスコアも上がりました。」(小張先生)
VR英語教育の研究における今後の課題とは?
■どのように参加人数やレッスン数を増やすか?
■どのようなレッスン内容が効果的か?
■どのような指標でVR英語教育の価値を評価するか?
■VRレッスンの安全性の確保(怪我やVR酔いの防止など)をどうするか?
おわりに:英語力だけではなく、態度や意識の変化に注目
英語学習の目的が単にTOEICのスコア向上ではなく、「国際社会で力を発揮できる人材を育てること」であることを考えると、異なる言語や価値観に対する態度や意識がどのように変わるか、その変化によってどのような学習や行動をするようになるか、という点がVR活用の価値を評価するうえで最も重要であることが今回の取材でわかりました。
現状、費用や環境、人材の確保、学習者の身体的な負担などの面で、教育機関がVRレッスンを頻繁かつ大量に提供することは現実的ではありません。だからこそ限られた回数の体験であっても、学習者の変容につながる効果が実証されれば、あらゆる教育機関、教師、学習者にとって有益な情報になるのではないでしょうか。(取材:IBS研究員 佐藤 有里)
【Profile】
青山学院大学「VR/AIを活用した先端英語教育」プロジェクト研究チーム
写真左:小張敬之名誉教授・客員教授。専門は、応用言語学や教育工学。特に、CALL(コンピュータ支援言語学習)、TESOL(英語教授法)、世界観教育、EduTech等。近年は、日本の英語教育におけるAIやVR、ICT/モバイル技術の活用についての研究を行う。
写真中央:佐竹由帆准教授。専門は、コーパス言語学や英語教育。学習者がコーパスを参照し、自律的に言語を調べてパターンを推測する帰納的発見学習のアプローチ「データ駆動型学」の有効性について研究。
写真右:山本真司教授。専門は、イギリス文学、イギリス文化、比較文化、エンブレム研究。主にイギリスの文学・芸術作品を社会的・文化的意味も含めた学際的な視点で分析。
※詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記の記事をご覧ください。
前編:https://bilingualscience.com/english/2022112101/
後編:https://00m.in/mTRbk
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■ワールド・ファミリーバイリンガル サイエンス研究所
(World Family's Institute of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関 HP(https://bilingualscience.com/)
Twitter( https://twitter.com/WF_IBS )
所 長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)