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さらなる高みを目指しRyzen 9 5900Xを殻割り。苦労の末待っていた結末とは

「翼王」氏の動画より

 香港YouTuberの「翼王」氏は、自身のチャンネルにおいてRyzen 9 5900Xを殻割りした顛末のビデオを投稿している。

 Ryzen 9 5900XはZen 3アーキテクチャを採用した最新のCPUであり、性能改善をすぐに体験できる一方で、実際に購入したユーザーらは動作温度が前世代と比較して高い問題を目の当たりにしているという。特に「Precision Boost Overdrive 2(PBO2)」をオンにするとこの問題は顕著となり、高性能CPUクーラーに買い替えたとしても、PBO2による性能向上があまり見られないようだ。

 そこでネット上では、様々な憶測が飛び交うようになった。その1つが、チップレットとなっていることで、それぞれのダイの高さが微妙に異なり、それによってTIM(熱伝導素材、Ryzen 5000の場合はソルダリングなので金属)の厚みの違いでこうした問題が発生しているのではないかということだ。

 これを検証するためには、当然ヒートスプレッダを除去する「殻割り」をしなければならない。そして、CPUクーラーでダイを直接冷やし、ヒートスプレッダやTIMがボトルネックかどうかをチェックしなければならない。しかしRyzenの殻割りの難易度は、Coreと比べものにならないほど高い。

 最大の問題はRyzen殻割り用ツールがないという点。Ryzenに採用されているSocket AM4では底面からピンが多く出ているうえ、ヒートスプレッダ付近にコンデンサなどの部品が装着されているため、ヒートスプレッダとPCBをずらす仕組みの殻割り器の制作が難しいからだ。そこで同氏は購入したRyzen 9 5900Xを万力ではさみ、ヒートガンでヒートスプレッダを熱することで除去する方法を用いた。

 ヒートガンを直接当ててもヒートスプレッダが取れなかったため、カッターナイフでまずシールド材を切断し、熱くなったところにテコを入れてようやく除去できたのだという。ところがこの手順で、Ryzen固定のための両面テープが想定外に熱で膨張してピンを圧迫し、ピンを10本ほど折り曲げてしまう事故が発生。ひと晩かけて復元に勤しむ羽目になった。

 復元後は、なぜかメモリのうちの1つのチャネルが認識しない問題が発生。顕微鏡でよく確認したところ、どうもピンを復元する際にハンダで隣のピンとショートしていた模様だ。このハンダをカッターで切ったところ、ようやく2チャネルとも認識することができた。

 本題はこれから。以前お伝えしたとおり、Ryzenではヒートスプレッダを除去すると、ダイよりもソケットトップカバーのエッジの方が高くなってしまうので、CPUクーラーとは密着できない。そこで同氏はソケットのトップカバーも外して研磨することにした。さらに、水冷CPUクーラーのヘッドの高さを調節するためのネジや、ダイへの圧迫を軽減するための熱伝導シールも別途用意した。

 ここまでの作業で十分苦渋をなめてきた同氏だが、なんとヒートスプレッダ除去前よりもクロックが低下してしまったのである。そこで同氏はダイの表面を精密に計測できる機器で計測したところ、ダイごとに高さが違うのではなく、1つのダイですら右と左で高さがわずかに違うということを発見した。そこで、すべてのダイが同一の高さになるよう研磨を繰り返した。

 苦労の末、結果的にPBOで向上したクロックはわずか50MHz程度だった。同じ電圧/クロック下では、3~4℃ほど温度低下がみられたものの、これは、初代Ryzenを殻割りしたder8auer氏の結果とほとんど同じだ

 これまで同氏が経験した苦労を思うと、Ryzenを殻割りするリスクはあまりにも高く、見返りはあまりにも少ない。その点では、一時期のCoreプロセッサの殻割りほど意味があるとは言えない。Ryzen 5000における発熱は、性能向上および7nmという微細化に伴って必然的に生まれたもので、製造工程において温度に影響を与えるような誤差はわずかに生じているものの、既にプロセッサの性能を十分に引き出していると評価できるだろう。