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【懐パーツ】動画処理特化プロセッサSpursEngineを搭載した「WinFast PxVC1100」

WinFast PxVC1100

 リードテック ジャパン株式会社から2008年に発売された「WinFast PxVC1100」は、東芝のメディア処理用プロセッサ「SpursEngine」を搭載したPCI Express x1用拡張カードだ。当時の実売価格は2万9,800円前後だったが、今回運良く2,980円の中古品にめぐり会えた。

 PxVC1100に搭載されているSpursEngineは、東芝が開発したメディア処理専用のプロセッサだ。PlayStation 3に採用されているCell Broadband Engine(Cell/B.E.)から、プロセッサ全体の制御を司るPPC(PowerPC Processor Element)を省く一方で、ストリーミングプロセッサコアSPE(Synergistic Processor Element)を4基搭載。H.264とMPEG-4のハードウェアエンコーダ/デコーダを内蔵することで、フルHD解像度映像の処理高速化を狙った。

 Cell/B.E.はPlayStation 3やサーバーなどではCPUとして使われたのだが、SpursEngineにはPPCがないため、ほかのCPUとともに使われることを前提としたコプロセッサになる。ただ、PPCの代わりに東芝独自のプロセッサによってSPEの制御を行なう。また、SPEはCell/B.E.のものから最適化を図ってダイサイズを削減。動作クロックを1.5GHzに抑えることで、消費電力を20W以下に抑えた。

 2008年当時は、ちょうど地デジやBD、デジタルビデオカメラでフルHD解像度の動画が台頭しつつあった。一方でパソコンのCPUやGPUでは処理能力に限界があって、フルHD動画の高度な処理は難しい、または電力効率が悪いといった課題があり、SpursEngineはこの問題に対処するために登場したプロセッサと言える。

SpursEngine
カード裏面

 さてボード自体だが、LowProfileにも対応したコンパクトなものである。SpursEngineは、ワーキングメモリとしてRambus/東芝/エルピーダの3社が開発したXDR DRAMを採用するが、本機はエルピーダ製の「X5116ADSE-3C-E」を2チップ搭載し、128MBという容量を実現している。ちなみにこのメモリは1チップで6,400MB/sの転送速度を実現できるため、2チップで12,800MB/sという転送速度となる。当時としては画期的だ。

 ちなみに一般的なGPUやCPUでは、プロセッサ/メモリ間の配線が同じ長さになるようレイアウトが配慮しているが、これは配線長の違いによって生じる転送タイミングのズレ(スキュー)を抑えるためである。一方、XDR DRAMには「FlexPhase」という技術が搭載されており、スキューを補正できるため、設計のさいプロセッサとメモリの距離をさほど気にしなくても良い。本カードはプロセッサ/メモリ間に等長配線を用いていないが、これはFlexPhaseをフルに活かした結果であり、それによって基板の小型化に成功したと言える。

エルピーダ製のXDR DRAM「X5116ADSE-3C-E」を2チップ搭載。ちなみにXDR DRAM自体は東芝やQimondaなども製造していた
プロセッサ-メモリ間はFlexPhaseを駆使しており、等長配線でなくてもOKだ

 ボードのそのほかの大半のエリアを電源部分が占めているが、主要ICはほかにもいくつかある。たとえばICS(Integrated Circuit Systems、IDTに買収され、その後ルネサスがIDTを買収)の「9214DGLF」は、RambusのXDRメモリサブシステム向けのクロックジェネレータで、Redwoodロジックインターフェイスも兼ねている。このICによって4つの差動信号を生み出していて、XDR DRAMの駆動には必須だ。

 ICSの「9DB401CGLF」はPCI Expressのファンアウトバッファ。その横にある東芝の「89FM46KDUG」はマイコン。Intersil(現ルネサス)の「ISL6413」は3出力のレギュレータだ。

製品パッケージ
付属ソフトなど
ヒートシンクを取り払ったところ
電源回路周り。「BD3508」はROHM Semiconductorの電源レギュレータのようである
こちらも電源回路となっている
ICSのXDRメモリサブシステム向けのクロックジェネレータ「9214DGLF」
ICSの「9DB401CGLF」はPCI Expressのファンアウトバッファ。写真左にある東芝の「89FM46KDUG」はマイコンだ
「ISL6413」は3出力のレギュレータである

 余談とはなるが、2008年に発売された東芝のAVノートパソコン「Qosmio G50/F50」では、このSpursEngineを搭載。インターネット動画やDVD動画への超解像の適用や、地デジの高圧縮録画、録画番組の顔サムネイル検索、ハンドジェスチャ認識といったさまざまな機能で、SpursEngineの機能をフル活用していた。

 ところが、アフターマーケット向けであるPxVC1100が、SpursEngineの機能をフルに活かせたのは、せいぜいバンドルソフト「Ulead DVD MovieWriter 5」の超解像程度。それ以外での一般ユーザーが利用したのは、せいぜいH.264エンコーダだけであり、SPEの演算を十分に活用できたとは言いがたかったのが何より残念である。

 とは言え、チップの設計自体を東芝が手掛けているほか、製造も東芝の大分工場の65nmバルクプロセスで製造されるなど、日の丸プロセッサという意味では、一定の実績と評価を残せたのではないかとは思う。

ネット上で調べてもあまりこのようなカットがなかったので撮ってみた。SASカードなどと同様、なんとなくプロユース向けな匂いがする