やじうまPC Watch

【懐パーツ】Intelの“メモリ黒歴史”を象徴するマザーボード「Intel VC820」

~歴史的な失敗に終わったDirect RDRAM採用Pentium IIIマザーボード

Intel VC820

 Intel純正マザーボード(Intel Desktop Board)と言えば、2013年に惜しまれながらビジネス終了となり、現在では販売されていない製品となっている。しかし、往事には自作PC業界の「リファレンスボード」と考えられており、安定性を求める自作PCユーザーのチョイスとして人気を集めてきた。

 そうしたIntel Desktop Boardの輝かしい歴史のなかにも、影がないわけではない。その"黒歴史"を象徴する製品が、今回紹介するVC820だ。VC820はSlot 1のPentium II/Pentium III用のマザーボードとして用意されたマザーボードだが、搭載されているチップセットは開発コードネーム「Camino」(カミーノ)で知られる「Intel 820 Chipset」で、Direct RDRAMというRambus社のライセンスをもとに作られた高速メモリを採用していたのだが、発売直前になって発表延期になるなど、不穏なスタートを遂げた製品になってしまった。

SDRAMから大きな技術的なジャンプにチャレンジしたDirect RDRAMだが……

下が800MHzのDirect RDRAMのメモリモジュール(RIMM、PC800)、上がCRIMM

 Intel 820 Chipset(一部にはIntel 820 AGPsetというのが正式名称だという説があるようだが、当時のIntelの資料にはみなIntel 820 Chipsetが正式名として書かれており、こちらが正式名称になる、以下Intel 820)は、IntelがPentium II/Pentium III用のチップセットとして開発した製品となり、Intel 800シリーズのチップセットの2番目の製品となる(最初の800シリーズのチップセットは、Gen1のIntel GMAを搭載したIntel 810)。

 Intel 820の最大の特徴は、Direct RDRAM(Rambus Dynamic Random Access Memory)という、IntelとRambusが共同で開発した、それまでのSDRAMに変わる高速メモリをサポートしていることだ。

 SDRAMはチャネル単位でDRAMを配置していき、制御信号などを用いてメモリコントローラとDRAMがデータのやりとりを行なう。これに対してDirect RDRAMは、DRAMはDirect Rambusというバス上に配置されており、SDRAMよりもシンプルな構造で、かつ高いクロック周波数で動かせるメリットがあった。

 このDirect RDRAMを搭載したメモリモジュールをRIMMと呼んでいたが、DRAMがDirect Rambus上に配置されるという仕様上、使っていないメモリスロットにもC-RIMM(Continuous RIMM)と呼ばれる、Direct Rambusを終端までつなげるモジュールが必要になるなどの制約があった。

 それまでのPC用メモリのSDRAMに比較すると、大きな変更がいくつも加えられており、1階から2階にあがるようなステップバイステップの進化ではなく、1階から5階にあがるような大ジャンプを目指す、そういう野心的な取り組みだったのがDirect RDRAMだった。

 そのため、Direct RDRAMのメリットは高クロック(当初は800MHz、700MHz、600MHzの3種類、後に1GHzが追加された)で動作し、帯域幅を広げることが可能になり、大量のデータをメモリに展開したりというアプリケーションでは高い性能を発揮することができるという大きなメリットをもたらした。

 その反面、SDRAMやその後継となるDDR SDRAMに比べ、同じプロセスノードで製造した場合にダイサイズが大きくなり、さらには発熱が多くヒートシンクが必須になるという課題があった。その結果、製造時のコストが下がりにくく、価格が下がらず普及が進まないというジレンマを抱えてしまった。

ヒートシンクを外したRIMMに搭載されているDirect RDRAMのDRAM。RのマークはRambusのマーク

 そうした技術的な課題は通常、時間が解決してくれるハズなのだが、ややこしかったのは、Rambusがライセンス料をDRAMベンダーに課していたことで、それを嫌ったDRAMベンダーはライセンスフリーである高速なSDRAMやDDR SDRAMを一致して支持し、DRAMベンダー側とIntel/Rambus連合とが綱引きをするという対立構図になってしまった。最終的にはIntelがDirect RDRAMの普及を諦めRambusに引導渡し、DRAMベンダーが推進していたDDR SDRAMへと乗り換えることで、RIMMはPC向けとしては終息に向かうことになった。

当初は3スロットだったRIMMを2スロットに減らして出荷にこぎ着けたVC820

VC820の外箱、Pentium II/III用のIntel Desktop Boardは緑色。ちなみにPentium 4用はオレンジ

 最終的にDirect RDRAMがPC市場から姿を消すことになるのは今から見れば必然だが、当時のIntelはかなり真剣にDirect RDRAMを推進しており、その最初のDirect RDRAMに対応したチップセットがIntel 820だったのだ。

Intel 820のMCHとなるIntel 82820

 だが、Intel 820はスタート時点から躓いてしまった。当時のPC Watchの記事(次期チップセットIntel 820がドタキャン。Intelは緊急事態に突入)に詳しいが、1999年9月の発売直前になって突然発売は延期になってしまったのだ。しかも、じつはもともとはその年の6月にリリースするハズだったので、2回目、しかも直前に延期という「緊急事態」になってしまったのだ。

2スロットになっているRIMMスロット。最初の設計では3スロットだったが、発売直前に3スロットでは安定しないことが判明し、2スロットに設計変更された

 後にわかったことだが、当初3スロットまでとされていたRIMMのスロットでは安定して動かせず、2スロットに仕様が変更されることでリリースにこぎ着けた。今回紹介するそのVC820はその対策された(正確にはメモリスロットを1つ減らした)、実際に市場に出回った仕様になる(余談になるが、VC820やマザーボードメーカーの820搭載マザーボードのエンジニアリングサンプルでは3スロット版もあったが、実際にはそれは発売されていない)。

初代ICHのIntel82801AA

 VC820は、Slot 1のPentium II/Pentium III用のマザーボードとして用意された製品になる。FSBは100MHzと133MHzに対応していた。チップセットとなるIntel 820はMCHの「Intel 82820」と、ICHの「Intel 82801AA」の2つのチップから構成されている。

 このICH(ICHは後に2、3と世代が上がることに呼ばれることになるので、初代ICHと後世からは呼ばれることになる)からIntelは16bitバスになるISAバスを「レガシー」として機能が削除されており、ISAバスを実装するには、PCIからのブリッジチップを実装する必要がある。このVC820にもSMSCの「LPC47M102」というLPC用I/Oコントローラは搭載されているが、ISA用のブリッジチップは搭載されていないため、この当時としては珍しくISAバスは1本もない(この後そうした製品が徐々に増えていくが……)。

 なお、Intel 820はその後「Intel 820E」という後継製品が出たが、こちらもあまりヒットせずに消えていく運命になった。Direct RDRAMをサポートするチップセットは、Intel 850というPentium 4用の製品がリリースされ、その後はそのマイナーチェンジ版となるIntel 850Eがリリースされたものの、結局はDRAMベンダー側が主導したDDR SDRAMがメインストリームになり、Direct RDRAMは消え行く運命を経る。

 それ以来、Intelは新しいメモリを採用するときは、DRAMベンダーの業界団体といっていいJEDECと密接にやりとりを行なうようになっており、これまでのところDRAMベンダーと違う道を進もうとすることはなくなっている。Intelにとっては高かったが、よい勉強になったと言えるのがこのIntel 820、そしてDirect RDRAMの失敗だったと言えるのではないだろうか。

ICH
基板背面
I/Oコントローラ
LPCコントローラのSMSC LPC47M102
オーディオコントローラとしてCreative Labs(実際には同社が買収したEnsoniq)のES1373が搭載されている
AGP 4xスロット
AMR(Audio Modem Riser)用スロット。オーディオコントローラやモデムを搭載した拡張カードで機能拡張できるようになっていた
AGPとPCIスロットのみがあり、ISAスロットはなくなっていた
利用できたCPUはSlot1のPentium IIないしはPentium III
電源ケーブル端子、まだ20ピンだ
IDE、FDD端子
電源回路部