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後藤弘茂のWeekly海外ニュース

次期チップセットIntel 820がドタキャン。Intelは緊急事態に突入

●発表直前に延期を通達

 Intel 820の出荷を延期--最後の瞬間になって、米Intelは決断を下した。同社は、先週の後半、米国時間の木曜日から金曜日にかけてIntel 820の出荷を延期することを、OEMメーカーに通知したという。Intelは、第3四半期中に次世代チップセットを出すとアナウンス、IDFでそれがIntel 820であると公式に認めていた。今回は、その第3四半期が来週に終わるというぎりぎりの瀬戸際での撤回となった。

 日曜日現在、この件に関してインテル日本法人に確認は取れていない。しかし、多くの業界筋から、先週金曜夜以降Intel 820延期の情報が入っており、IntelがOEMに延期を伝えたことは確実のようだ。また、この決定は、多くのOEMにとって、なんの前触れもなく急に伝えられたらしい。事前にそうした話も出ていなかったと複数の情報筋が伝えている。つまり、多くの関係メーカーにとっても寝耳に水の決定だったようだ。

●延期なのか凍結なのかもわかっていない

 また、Intel 820の“延期”は、じつは延期なのかどうかもわかっていない。というのは、現時点ではいつ出荷されるか、Intelから伝わっていないからだという。これは奇妙な話だ。

 今回の延期の原因は、RDRAM(Direct Rambus DRAM)インターフェイス回りの問題の修正ためとされている。高ストレス条件でメモリエラーが発生する場合があるようだ。じつは、業界では、この延期の前から、3つのRIMMスロットすべてにRIMMを挿した場合などメモリデバイス数が多くなる場合に、Intel 820のサンプル品でトラブルが発生する場合があることが知られている。

 しかし、通常、こうした問題が生じた場合、いつまでにフィックスするかの情報を同時に伝えて不安を鎮める。例えば、2ヶ月後までにフィックスしたリビジョンを出荷するといった情報を流す。ところが、現在入手している情報の範囲内では、今回、Intelはそうした情報を提供していない。

 これには2つのケースが考えられる。ひとつは、急な決定なので、いつ出せるのかをまだ伝えられない場合。この場合には、10月末のCoppermineに間に合うかどうかが焦点となる。もうひとつは、今回の件が問題解決のための"延期"ではなく、製品仕様自体の見直しなどを行なう仕切直しの場合だ。後者だった場合には、Intel 820はかなり長期に渡って登場しないか、登場しても仕様が大きく変わることになる。

●早くて来年後半まで立ち上がる見込みのなかったRDRAM

 そもそも、今回の延期の前段階で、Intel 820は失速していた。Intel 820発表予定日が近づくにつれて、バッドニュースが次々に登場、離陸に失敗するのはほぼ確実と見られていた。例えば、大手PCメーカーは次々にIntel 820ベースのPCの計画を取りやめたり延期していた。また、Intel 820+RDRAMを採用しても、当面はハイエンドの一部機種に止めると言うメーカーも多かった。つまり、延期前の段階で、Intel 820は、440BX後継のメインストリームチップセットの位置から、すでにすべり落ちてしまっていたのだ。

 その原因は、RDRAMだった。Intel 820はRDRAMしかサポートしておらず、SDRAMは「MTH(Memory Translator Hub)」と呼ばれるチップを介してしか利用できない。ところが、Intel 820自体のRDRAMインターフェイスがなかなか安定しなかったと、複数のOEMメーカーは伝える。また、よく知られている通り、当初はRDRAMの価格は、SDRAMに較べてかなり割高になる。そして、もっと致命的な問題として、RDRAMは供給が今後も急増する見込みが薄かった。

 この件はまた別なコラムで詳しく解説したいが、じつはRDRAMがデスクトップPCのメインメモリの主流として潤沢に供給される見込みは、少なくとも来年後半までは立っていない。DRAMの中でRDRAMの生産割合が少ないという状況は、来年になっても当面は続いてしまうという。メモリ関係者からは、「RDRAMは2000年中に立ち上がるかどうか」といった声も聞こえるほどだ。そして、メインメモリの主流にならない限り、RDRAMの価格がSDRAM並みになる見込みはない。そういう状況だったのだ。

●Intelはどうするのか?

 では、もしIntel 820が、単純な延期ではなかった場合、Intelのチップセット戦略はどうなってしまうのだろう。まず、Intelはすぐに133MHz FSB(フロントサイドバス)対応の単体チップセットの不在という緊急事態に直面する。Intelは440BXでは133MHz FSBをサポートしないとしている。もしその戦略を取り続けると、133MHz FSBに対応して、しかもグラフィックスチップを外付けできるチップセットは、Intel 820が抜けた場合は来年第2四半期頭の「Solano(ソラノ)」まで待たなければならなくなる。

 しかし、Intelはこれを解決する手段を3つ持っている。(1)440BXを133MHz FSB/PC133 SDRAMサポートにアップグレードしてIntel 820の代替とする。(2)Pentium IIIの133MHz FSB移行を遅らせ、当面は100MHz FSB中心にする。(3)Intel 820でSDRAMサポートの路線を中心にする。この3つだ。

 (1)440BXの133MHz FSB/PC133サポートの話は、じつは、台湾マザーボードメーカーなどが可能性として今月初めあたりから盛んに口にしている。これは非常にロジカルな展開で、Intelも440BXのマスクにそれほど変更を加えずに実現できる。もしかすると、すでに現在の440BXのダイ(半導体本体)は、対応可能になっているのかもしれない。しかし、この場合、次世代チップセットアーキテクチャのIntel 8xx系への移行というIntelのロードマップは崩れてしまうことになる。また、AGP 4Xモードは離陸できなくなる。

 (2)133MHz FSBシフトを遅らせ、440BX+100MHz FSB MPU路線にしてしまう戦術は、可能性としてはないわけではない。しかし、VIA Technologiesからチップセットで挑戦を受けているIntelとしては、このアプローチは取りにくいだろう。

 (3)Intel 820+SDRAM路線に変更するというアプローチは、もし、RDRAMの普及を大幅に遅らせてもいいと考えるならありうる。方策としては、とりあえずIntel 820+「MTH(Memory Translator Hub)」で、DIMMしか搭載しないデザインのマザーボードをまず主力に持ってくる。RDRAM主軸に切り替えるのは、メモリバンク数を減らすなど方法でRDRAMの製造コストの切り下げのメドが立つ時点まで待つという方法だ。中間ソリューションとしては、SDRAMインターフェイスを直接搭載したIntel 820を出すという手もある。ただし、すでにそうしたIntel 820のバージョンの設計が終わっていなければ、来年前半のリリースには間に合わないだろう。

●IntelはRDRAMを諦めない?

 いずれにせよ、IntelがRDRAMを完全に諦める可能性は、今のところはまだ低いと思われる。それは、RDRAMの広帯域が、次世代MPUで必要となるためと、これまでDRAMベンダーをたきつけてきた手前があるからだ。ここでもしIntelが、RDRAMのPentium IIIでの採用を諦めると言ったら、RDRAM開発に膨大な費用をつぎ込んできた先行RDRAMベンダー達は、Intelと決裂するかもしれない。そうすると、メモリを広帯域に誘って、MPUのボトルネックを解消しようとするIntelの戦略が瓦解してしまう。

 だが、この延期で、PC133がますます勢いを得るのはたしかだ。少なくとも来年前半まではPC133が主流になる可能性がますます高まった。また、RDRAMの仕切直しの可能性も高くなってきた。つまり、メモリバンク数削減バージョンから本格立ち上げにするというストーリーだ。
 いずれにせよ、状況は急展開している。しばらくは激動が続きそうだ。


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('99年9月27日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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