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【懐パーツ】高性能SCSIカードは高嶺の花。Adaptecの絶頂期を代表する「AHA-2940U2W」

AHA-2940U2W

 以前にこのコーナーでAdaptecのUltra SCSIカード「AHA-2940U」をご紹介した(記事:【懐パーツ】言わずと知れたAdaptecのUltra SCSIカード「AHA-2940U」参照)。今回ご紹介する「AHA-2940U2W」は、その型番から分かるとおり、正統後継で上位に相当するモデルである。

 AHA-2940U2Wが登場したのは1998年で、価格はなんと7万円前後の高嶺の花だった。筆者はコンシューマにおいて、SCSIカードは、このAHA-2940U2Wで1つの頂点を極めたと思っている。というのも、以前述べたとおり、外部周辺機器は同時期に本格普及しはじめたUSB、内部接続のドライブはUltra ATAの速度向上によって、SCSIのメリットが失われていったからだ。

 前回はSCSIの規格についてざっくりと説明したのだが、AHA-2940U2Wが登場した技術的な背景についてもう少し詳しく解説しておく必要があるだろう。

 本製品が対応する規格は、40MHz駆動でバス幅が16bit、最大転送速度が80MB/sの「Ultra2 Wide SCSI」だが、Ultra SCSIには、バス幅を8bitに削減して最大転送速度が40MB/sの「Ultra2 SCSI」や、20MHz/16bit駆動で40MB/sの「Ultra Wide SCSI」、20MHz/8bit駆動で20MB/sの「Ultra SCSI」という規格も存在する。この“Ultra”と“Ultra2”のあいだには、根本的な違いが存在した。

 最初のSCSI-1からUltra SCSIまでは、シングルエンド(SE)または高電圧ディファレンシャル(HVD)によってデータを転送していた。一方、Ultra2 SCSI以降では、新たにLVD(低電圧ディファレンシャル)という駆動方式を採用したのである。

 SEは、基準電圧を設け、それと比較して電圧が高いか低いかで0か1かを決めて転送する方式。ケーブルの長さに対して信号が衰弱しやすいという弱点があり、主にケース内での接続が使われていた。一方でHVDは2本の信号線を使いデータを転送し、その電圧の差異で0か1かを決める方式で、5Vの電圧を使っていた。

 これに対し、LVDはHVDと同じ方式だが、3.3Vを採用することで低消費電力化を実現した。このLVDはHVDとは互換性はないが、SEと下位互換性があった。しかしSE対応デバイスを接続すると、ホストコントローラが下位互換のためにSE動作となり、Ultra Wide SCSI相当の転送速度になってしまっていたのである。つまり、1つでもSEデバイスを接続してしまうと、せっかく80MB/sの転送速度を発揮できなくなってしまったのだ。

 この問題を解消したのがAHA-2940U2Wの実装だ。独自のUltra2 Wide SCSIコントローラ「AIC-7890AB」に加え、独自のSpeed Flex技術を実現する「AIC-3860Q」を搭載し、SEデバイスを搭載したとしても、LVDデバイスの速度を活かすようにした。

 もっとも、これはUltra Wide SCSIカードを別途搭載すればよかったし、本製品のみならず、アイ・オー・データ機器の「SC-UPU2」や玄人志向の「CHANPON3-PCI」のように、SE/LVDの両立を実現するカードは意外にも多いため、さほど問題に上がらなかった(ような気がする)が、このギミックのために高いカードに仕上がってしまったとも言える。

 さて、肝心なAHA-2940U2Wの実装だが、さきほど挙げたメインチップのAIC-7890ABとSIC-3860Qのほかに、Ultra2-LVD/SE対応の68ピンコネクタ付近にはLVD/SE両対応のDALLAS Semiconductor(MAXIM)製のターミネータ「DS2118MB」、そして50ピンのフラットケーブル用コネクタ付近には、同じくDALLAS製のFast/Ultra SCSI用のターミネータ「DS21S07A」の実装が見られる。

 DS21S07Aの下にある3つのチップは、U6とU8のシルク印刷があるものがAMDの子会社であるVantis(1999年にLattice Semiconductorへ売却)が開発したプログラマブルアレイ「16V8H-15JG/4」だった。一方U7はAtmel(Microchip Technology)のプログラマブルロジック「ATF16V8B-15JC」であった。BIOSを格納するフラッシュには、Silicon Storage Technology(SST)製の512KbitのページモードEEPROM「SST29EE512」が採用されている。

 余談だが、カードの左下に見える、四角い“C”と“<”と“-”を組み合わせたようなロゴだが、CがSCSI、<がLVD、-がSEを意味しているようだ。Windowsでは、SCSIやRAIDコントローラを“C”と“-”を組み合わせたアイコンで表示しているようだが、これはこの時の名残のようである。

誰もが憧れるカードであったこと間違いなし
基板背面
メインチップはAIC-7890AB。ちなみに近くのコンデンサ(C34)がもげており、動作するかどうかは微妙だ
SE/LVDデバイスの両立を実現するAIC-3860Q
DALLAS Semiconductor(MAXIM)製のUltra2 SCSI対応ターミネータ「DS2118MB」
DALLAS製のFast/Ultra SCSI対応ターミネータ「DS21S07A」
DS21S07Aの下にある3つのチップはいずれもプログラマブルアレイ。うち2つはAMD子会社のVantis製「16V8H-15JG/4」、残り1つはAtmel製の「ATF16V8B-15JC」
水晶発振器はVectron International製で、Ultra2 SCSIの元である40MHzを生成
Narrow用の50ピンコネクタも装備する
Wide用の68ピンは内部に2つ
BIOSはSST製の512Kbit EEPROM「29EE512」に格納している
外部デバイス用にもWide用の68ピンコネクタを装備する