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【懐パーツ】言わずと知れたAdaptecのUltra SCSIカード「AHA-2940U」

AHA-2940U

 今回は偶然入手できたAdaptecのUltra SCSIカード「AHA-2940U」を紹介したい。

 SCSIはSmall Computer System Interfaceの略で、PCと周辺機器のデータのやり取り行なうインターフェイス規格である。米国規格協会(ANSI)によって1986年に規格化され、その後、時代とともに速度向上を図り進歩してきた。

 当初のSCSI-1は5MHzで駆動し、転送速度も5MB/sであったが、Fast SCSI(SCSI-2)では10MB/sに高速化され、今回ご紹介するUltra SCSIの20MB/sを経て、40MB/sに高速化したUltra2 SCSI、160MB/sのUltra160 SCSI、320MB/sのUltra320 SCSIへと進化していった。また、転送ピン数を増やし、8bitから16bitに拡張することで2倍の転送速度を実現したWide SCSI系もある。

 SCSIはホストアダプタにもよるが、本製品を代表するようなバスマスタ転送のタイプは、CPUに負荷をかけずにデータを転送できた。特に1995年~1997年は、Windows 95やNT 4.0を台頭とするマルチタスクOSが大きく躍進し、CPUに負荷をかけずにデータが転送できるバスマスタ転送のSCSIは、ハイエンドユーザーの間で話題を呼んだ。

 SCSIのもう1つの特徴は、割り込み(IRQ)1つだけで7台のデバイスが接続可能な点であった。割り込みは読んで字のごとく、CPUが何らか処理を行なっている際に別の処理を割り込ませるための仕組みだ。PCのIRQは16個しかなく、既に多くのIRQがさまざまなデバイスによって占有されているため、残った数少ないIRQをどうやりくりして多くのデバイスを接続するかは、パワーユーザーの悩みのタネでもあった。それを解決できるSCSIが当時流行したのは無理もないだろう。

 割り込みの問題は、その後PCIバスの普及とOSの革新により、IRQシェアリングという仕組みが実現され解消。一方、手軽に周辺デバイスを接続するという意味では、1998年に登場したUSBがSCSIに取って代わり大きな役目を果たした。内蔵HDDや光学ドライブなども、Ultra ATAによる速度向上や、SATAへの移行、そしてCPUの大幅な高速化により、SCSI固有のメリットが薄れていった。少なくともWindows XPが登場した2001年の頃は、コンシューマにおけるSCSIの役目はほぼ終わったと言っていいだろう。

 さて、AHA-2940Uはまさに1995年~1997年を象徴するUltra SCSIカード(ホストアダプタと言った方が通りがいいかもしれない)である。今回入手したカードが1996年製であることが、それを裏付けている。背面には外部機器接続用のSCSI標準ハーフピッチコネクタ(いわゆるNarrow)、内部用にもNarrowのフラットケーブル用コネクタを備えている。Ultra SCSIは規格上7台までのSCSI機器を接続可能だ。

 その中枢を担うのが、コントローラの「AIC-7880P」である。Adaptecはファブレス企業であるが、コントローラ自体は香港製とされている。ちなみに基板は台湾製で、組み立てはシンガポールにて行なわれたようだ。基板上のパーツの多くはシールで隠されており、見るためには1つずつ剥がす必要がある。

 ボード上に搭載されたDALLAS Semiconductorの「DS21S07A」はSCSIターミネータである。ターミネータは信号の反射を吸収し信号の乱れを抑える役目をしているが、安価なパッシブタイプと、高価だが信頼性に優れるアクティブタイプがあり、DS21S07Aは後者である。

 シールの下に隠れている小さなチップはLattice Semicondctor製のユニバーサルプログラマブルアレイロジック「PALCE16V8」であり、何らかの特殊機能を実現していたと思われる。BIOSのROMはATMEL製の「AT29C512」で、容量は512Kbitだ。

 なお、AHA-2940Uは32bit版のみという制限はあるものの、Windows 7まで公式ドライバでサポートでき、今も利用しようとすればできるハズである。

 ちなみにAdaptecのその後については、元麻布春男氏のコラムを参照していただきたいが、それからちょっとした動きがあった。2010年5月にAdaptecはPMC-Sierraに買収されたのだが、そのPMC-Sierraは2016年1月にMicrosemiに買収されたのである。Adaptecのブランドは今なお息づいているようだ。

正面。BIOSチップ用空きパターンが目立つが、シンプルで美しいカードである。右上に動作LEDも付いている
本体背面
背面にSCSI標準ハーフピッチコネクタを1基装備
内部デバイスのフラットケーブル用コネクタ
DALLASのアクティブターミネータ「DS21S07A」
コントローラは「AIC-7880P」
シールを全て剥がしたところ
AIC-7880Pの刻印。香港製だ
PALCE16V8はユニバーサルプログラマブルアレイロジックである
PLACE16V8は2基搭載されている
SGS-THOMSON MicroelectronicsのEEPROM「ST93C46C」
Saronix-eCera製の40MHz水晶発振器
フロン系を使っていない証