やじうまPC Watch
GPD Pocketと懐かしの超小型ノートPCたちを並べて比べてみた
2017年9月14日 06:00
GPD Technologyの「GPD Pocket」は、OSにWindowsを採用したクラムシェル型ノートPCとしては久しぶりに10型以下の画面サイズを実現しながら、Atom x7-Z8750、メモリ8GB、ストレージ128GB、1,920×1,200ドット表示対応7型液晶の高性能を詰め込んだ製品だ。
すでにレビューはお伝えしたとおりだが(記事:モバイラー待望のクラムシェル型UMPC「GPD Pocket」レビュー参照)、筆者は編集部に多くの古いミニノートを溜め込んでいるので、この機会にそれらと並べて比較しつつ、改めて本機の特徴を考察していきたいと思う。
HP 95LX
手持ちの古いPCを時系列順に並べてみよう。まずは、Hewlett Packardが1991年に投入したMS-DOSベースの「HP 95LX」だ。HP 95LXは後継の「HP 200LX」とともに一世を風靡した、手のひらサイズのコンピュータである。
HP 95LXのCPUは、Intel 8088クローンとされるNEC V20を搭載し、5.37MHzで動作する。メモリは512KB(モデルF1000A、手持ちのもの)または1MB(モデルF1010A)。ディスプレイは240×128ドットの2階調モノクロ液晶だ。OSにはMS-DOS 3.22を採用。
本機の特徴はROMから起動する点。このため、かつて流行したPDAのように電源をつけてすぐ操作できる。また、Lotusと共同開発により、Lotus 1-2-3 Release 2.2がプリインストールされているのも特徴だ。重量はわずか312gである。
Windowsすら動作しないため、スペックだけ並べるとGPD Pocketとは隔世の感があるのだが、HP 95LXは3形乾電池2本だけで動作するという、今のx86(互換)マシンでは考えられない特徴がある。また、表計算ソフト(Lotus 1-2-3)の動作を考慮しているため、このサイズでテンキー付きのキーボードを備えている点は評価できる。ちなみにキーボードはかなり小型だが、クリックがしっかりしているため操作感は悪くない。
汎用アプリを動作させるには非力なスペックだが、PDAのように使い、内蔵アプリの動作が前提なら、四半世紀が過ぎた今でも特にストレスはない。当然、単3形乾電池なので、電源の確保も問題にならない。今から25年後にGPD Pocketをバッテリで動作させられる保証はないが、HP 95LXなら問題はなさそうである。
日本IBM Palm Top PC 110
日本IBMの「Palm Top PC 110」は1995年に発売された超小型ノートPC。HP LXシリーズに続く手のひらサイズのノートPCだ。日本IBMの大和研究所と、リコーとの共同出資会社であるライオシステムが共同で開発した。
CPUはSLエンハンスドi486SX-33MHz、メモリは4MBまたは8MB。ストレージは4MBで、この中にオリジナルのPIMソフト「Personaware」がプリインストールされている。PCカードスロットが2基(TypeII)備わっているので、HDDによって容量拡張が可能で、それによってWindowsを動かすことも可能だった。
ディスプレイは640×480ドット/256色表示対応の4.7型のDSTN液晶で、HP 95LXと比較して表現力が大きく増している。ジュラルミンのケースで堅牢性も高いが、いかんせん右側のヒンジの強度が弱いのと、プラスチックパーツや液晶表面が経年劣化でヘタってしまうので、22年経った今常用するのは難しい。
キーボードは小型で、押しやすいような工夫がなされている上に、完全に日本語配列となっている点は高く評価したい。上部にはスティック型のポインティングデバイスを備えており、中央にはPersonaware専用のタッチパッドもある。PCカードに加えて、CFで容量拡張できるのも特徴だ。小さいのに拡張性は十分である。
Palm Top PC 110にできてGPD Pocketにできない芸当と言えば、本体後部のモジュラージャックを電話線に繋ぐことで、本体前面のマイクとスピーカーを使って通話できる点だ。もっとも、音声つきモデムが内蔵されたノートPCであればどれでもできなくはないのだが、ここまで受話器に近いフォルムを実現したのは本機が最初で最後だろう。
東芝Libretto 60
上記2機種はいずれもMS-DOSがベースの製品であり、Windowsの本格運用は想定されていない(Palm Top PC 110はWindowsを動作させることは可能)。初めてWindowsを想定し、Windowsがプリインストールされた小型モバイルノートは、東芝の「Libretto 20」だと言ってもいい。
写真に挙げたLibretto 60はその20の後継モデルにあたる。CPUにはPentium 100MHz(VRT)を採用し、メモリは16MB、HDDは810MB、ビデオチップはCT65550。今のWindowsは無理だが、Windows 95の動作には十分なスペックだ。
液晶は640×480ドット表示対応の6.1型のTFT。Windowsの動作には必要最低限な解像度といった印象だ。しかしPalm Top PC 110はDSTN液晶で残像が激しく見にくいが、Librettoならまったくストレスはない。
特徴はやっぱりリブポイントで、親指をゆったり置け、力を余り加えずにポインタ操作できる点は、GPD Pocketには真似できない(もっとも、GPD Pocketはタッチがあるので、まったく問題はないが)。キーボードのキーピッチは13mmと狭いが、主要キーに関しては配列にクセはあまりなく使いやすい。
GPD Pocketに勝る特徴が少ないLibrettoだが、超小型クラムシェルというジャンルを切り拓いたという意味では、なくてはならない存在であり、LibrettoがなければGPD Pocketもなかったのであろう。
NEC mobioNX
NECの「mobio NX」は1997年にPC98-NXとともに登場したモバイルノート。初代は液晶がTFTではなくSTNなため、はっきり言ってしまえば劣化版Librettoだが(後継モデルはTFT液晶となり解消した)、メモリを最大96MBまで拡張できるほか、Librettoより軽くて薄いのが特徴だった。
CPUはMMX Pentium 120MHzで、メモリは標準で32MB、HDDは1.6GBを搭載し、Windows 95も98も比較的余裕に動作する。まあ、それだけならわざわざGPD Pocket引き合いに出すほどのものでもないのだが、スティック型ポインティングデバイスの位置は共通--つまりスペースバーの手前--なのである。
ThinkPadに代表されるトラックポイントや東芝のアキュポイントなどのスティック型ポインティングデバイスは、キーボードのホームポジションから人差し指をそれほど移動させずにアクセスできるG/H/Bキーの間に置くのがセオリーだが、mobio NXもGPD Pocketも手前に配置している。このため、キーボードタイピング中にちょっとしたポインティング操作をしたい場合、どうしてもホームポジションから手を離すことになる。両製品ともに薄さにも注力した製品だが、その設計の結果犠牲になったのかもしれない。
三菱 AMiTY CN model 3
三菱の「AMiTY CN model 3」は1998年7月に発売された、800×600ドット表示対応の8.4型TFT液晶を搭載したモバイルノートだ。本体サイズ的にはB5に近いのだが、液晶のサイズは10型以下であり、十分小型な製品だと言える。
CPUはMMX Pentium 200MHzで、メモリは標準で64MB、HDDは2.1GBを搭載。OSはWindows 98であり、このスペックならさぞかし快適に動いたことであろうが、残念ながら入手した製品は電源が入るものの液晶が映らないという、ちょっとクリティカルな問題を抱えていたりする。
GPD Pocketは小型ノートながら比較的インターフェイスが豊富なほうだ。USB 3.0 Type-A、USB 3.0 Type-C(DisplayPort出力付き)、Micro HDMI、3.5mmミニジャックを、よくこのサイズに詰め込んだと感心する。
しかしAMiTY CN model 3はその比ではない。USBこそ1基のみだが、PCカードスロットはType II×2またはType III×1で、CardBus/ZVポートに対応し、さらなる拡張が可能。そして本体後部のカバーを開けると、そこにシリアルポート、パラレルポート、ミニD-Sub15ピン、PS/2が顔を出す。AMiTY CN model 3は1998年当時最新のスペックというわけではないが、MMX Pentium 200MHzで満足する使い方なら、デスクトップ代わりに使うことも可能であったであろう。
余談だが、このポートカバーを開くとキーボードが少しチルトアップするという“憎い”ギミックも隠されている。今や三菱のPCの名を聞かなくなってから久しいが、当時は野心的なPCをリリースしていたのだ。
松下 Let'snote comm/C33
日本の小型軽量モバイルノートを代表する製品と言えばパナソニック、もとい旧松下電器産業の「Let'snote」シリーズだが、じつは当初それほど軽くなかった。例えば1996年9月に発表した「Let's NOTE mini」は7.8型液晶だが1.31kgもある。1997年10月のモデルチェンジでSVGA解像度(800×600ドット)の液晶を搭載したノートとしては初めて1kgを実現したが筐体の厚さは36mmもあり、筆者としては350gを犠牲にしても後に出た「VAIO NOTE 505」のほうがはるかに魅力的に見える。
しかしLet'snote comm/C33は同じ1kgながら、トラックボールを廃してタッチパッドを採用することで厚さを25.4mmに抑えることに成功。キーボードは金属のパンタグラフで、キーピッチ15mmを確保。若干ヤワな印象を受けるが、配列にクセもなく扱いやすい。
CPUはMMX Pentium 233MHz、メモリは96MB、HDDは3.2GBと、Windows 98の動作に必要十分な性能。とは言え、単なるミニノートならわざわざGPD Pocketと比較するまでもないだろう。Let'snote comm/C33の特徴は、PCMCIAインターフェイスを活用した、着脱式の外部拡張ユニットだ。
1つは35万画素カメラのCCDユニット。最大640×480ドットの静止画、または320×240ドットで16fpsの動画が取り込める。また、レンズは上下270度に回転、左右15度の移動に対応している。褒められた画質ではないが、GPD Pocketにはカメラがない。
このユニットは、携帯電話インターフェイスのユニットに差し替えられる。ここに携帯電話のコネクタを接続すると9,600bpsのデータ通信が可能となり、パナソニック製のデジタルムーバP201/202/203/205/206に対応する。GPD Pocketなら、Wi-Fiルーターやテザリング可能な携帯を使用すれば済む話ではあるのだが、当時としては画期的だった。
ちなみに、意外にも思われるかもしれないが、Let'snoteシリーズで10型以下の液晶を備えた製品は本機が最後である。
ソニー「バイオU」
ソニーの「バイオU」(PCG-U3)は2002年9月に投入されたミニノートである。4月に前身となるPCG-U1が投入されているが、PCG-U3ではCPUのCrusoeのCMS容量を16MBから24MBに増やし、クロック周波数を867MHzから933MHzに高速化した。
OSはWindows XPであるのだが、CrusoeにとってWindows XPはやや重荷であり、この時代のミニノートのWindows体験は、デスクトップPCやハイエンドノートPCからかなり遅れをとることになる。この時代はMMORPG「ファイナルファンタジーXI」が大流行し、ハイエンドPCを体験するユーザーが増えたので、なおさらだろう。たとえオンボードメモリ容量は256MBで、最大512MBまで拡張可能だとしてもだ。容量が20GBしかない1.8インチHDDもボトルネックだ。
バイオUのキーボード配列も、GPD Pocketと同様若干のクセがある。これはキーピッチを優先させた結果であろう。しかしバイオUは「モバイルグリップ・スタイル」という新たな“持ち方”を提案した。つまり両手でガッチリ両側を掴む使い方だ。
モバイルグリップ・スタイルでは、キーボードの一部を携帯電話のテンキーに見立てて入力する「ThumbPhrase」と呼ばれる日本語入力方法で、左手しか使わない。また、キーボードの後方にポインティングデバイスを配し、ポインタの操作は右手の親指、クリックは左手の親指で行なう。これによって、電車のなかで立ったまま使う、寝転んで使うといった、これまでのPCでは使いにくかったシーンを可能にした。
GPD Pocketも両手で掴んで使えなくもないが、当然ポインティングデバイスやキーボードがそのような使い方になっていない。また、排気口も右手に当たるため影響が出てしまう。
富士通 LIFEBOOK U
最後は10年前に“UMPC=ウルトラモバイルPC”という言葉を作り出した富士通の「LIFEBOOK U」(FMV-U8240/LOOX U50WN)だ。世界で初めて「Intel Ultra Mobile Platform 2007」に準拠した正真正銘のUMPCであり、そういった意味ではIntelにAtomを生み出させるきっかけとなった製品である。
LIFEBOOK Uに搭載されているCPU「A110」は、Pentium M(Dothan)の流れを汲む製品であり、当時2GHzも珍しくなかったCPUの動作クロックを800MHzに抑えることで低消費電力/低発熱化を実現。メモリは1GB、チップセットはIntel 945GU Express。LIFEBOOKは最初、OSにWindows XPを搭載していたが、Crusoeとは異なりIPCが高いA110は、XPの動作には十分なスペックだった。
LIFEBOOK UにできてGPD Pocketにできない機能は意外にも多い。例えばLIFEBOOK Uは液晶をひっくり返してタブレットのように使えるのだが、GPD Pocketは当然利用できない。さらに指紋センサーによるWindowsログインも、GPD Pocketにはない(LIFEBOOK Uの指紋センサーはWindows Helloも対応する)。キーボードを照らしてくれるLEDライトもなく、暗がりで苦労することになる。さらに言えば、LIFEBOOK UにはCFとSDカードスロットもある(気が遠くなるほど転送速度が遅いのがネックだが)。
LIFEBOOK UでもWindows 10が一応動作はするのだが、GPD PocketのCPUコアはLIFEBOOK Uの4倍、メモリ容量は8倍もあり、その性能差は比ではない。
設計思想の違いがバリエーションを生むUMPCの世界
GPD Pocketといろいろな旧製品と比較してみたが、UMPCはコモディティ化がどんどん進むPCのなかでも異色の存在であり、「唯一無二」を追求して開発された製品が多いことがお分かりいただけたのではないかと思う。
いまやモバイルノートと言うと、どれもMacBook Airに似ていて、くさび形の筐体で薄型軽量は当たり前、後は値段とスペック、好きなブランド、デザイン(色やロゴ)を見て決めればいい。使い勝手や製造効率を求めた結果、同じ解にたどり着くのは無理もない。
一方でUMPCは、実装スペースが制限されているからこそメーカーのアイデアや技術を競え、ユーザーに“このスペースにこれを実装してみたけど、使ってみる?”と提案できるジャンルである。GPDという1つのメーカーを挙げても、正統派クラムシェルのGPD Pocketと、ゲームパッドを搭載してゲームに特化した「GPD WIN」という、まったく性質の異なる2製品が出せるほどだ。
いずれも「ニッチな製品」であることに変わりはないため、PC市場の起爆剤になるとは筆者もまったく思っていない。しかし、もう少し面白いバリエーションが増え、“PCって(スマホと違って)なんか変なもんいっぱいあって面白そう”と一般世間で話題になってほしいものではある。