やじうまPC Watch

【懐パーツ】アナタはどちらを買いましたか? ATIの「RADEON 8500」と「RADEON 7500」

RADEON 8500(左)とRADEON 7500(右)

 ある日ヤフオクを眺めていたら、AGPビデオカードの25枚セットが922円で出品されていたので、思わず落札した。送料(1,500円)の方が高く付いたが、悪い買い物ではなかった。今回はその中から、重要だがパワレポの倉庫にもない2枚を紹介しよう。ATIが2001年8月16日に発表した「RADEON 8500」と、「RADEON 7500」である。

 この2モデルは一見、同じシリーズの上位と下位ラインナップに見えるが、中身は全く異なる製品である。RADEON 8500はDirectX 8.1で策定されたプログラマブルなバーテックスシェーダとピクセルシェーダを備えたモデルで、RADEON 7500はそれらを省き、DirectX 7のハードウェアT&Lのみに対応したモデルとなる。

 まずはRADEON 8500から見ていこう。初代RADEONに採用されたハードウェアT&Lエンジンは引き続き搭載しているが、「CHARISMA ENGINE II」へとバージョンアップし、ピーク性能は6,900万トライアングル/sとされている。また、Zバッファの圧縮によりメモリ帯域を上げる「HYPER Z II」も搭載し、ピーク時で11GB/sの転送性能を誇った。

 バーテックスシェーダとピクセルシェーダの実装は、競合のNVIDIAがGeForce3シリーズで先行した。しかしRADEON 8500は後発となった分、DirectX 8.1で策定されたピクセルシェーダ1.4に準拠しており、命令数を増やすなど機能面で拡張がなされている。コアクロックも275MHzとGeForce3と比較して高く、概ねGeForce3を超える性能を実現した。

 当時あまり話題に上がらなかったが、DirectX 8の機能の1つである「N-Patch」を実現する「TRUFORM」機能も、RADEON 8500の特徴であった。N-Patchは、DirectX 11で標準実装されたテッセレーションそのものである。つまり、遠くに見えるオブジェクトはポリゴンを簡略化し高速化を図り、オブジェクトが近づくにつれポリゴンを増やして見た目を良くする。

 N-Patch自体はプログラムに数行加えるだけで実装可能だったが、DirectX 11まではATI(またはAMD)の独自拡張実装であったため、採用タイトルがあまりなかった。ATIは時代を先取りしすぎたのである。競合のNVIDIAがようやくジオメトリの重要性に気づき、強化実装をしたのは9年後のGeForce GTX 480からである

 RADEON 8500の性能だが、概ね競合のGeForce3シリーズと同等であった。16bitカラーならGeForce3、32bitカラーならRADEON 8500と言った印象である。当時ATIのビデオカードは複数のメーカーから発売されていたが、基本的にリファレンスに準じた内製であったため、品質や画質には定評があった。

RADEON 8500。相変わらずATIのビデオカードは作りが美しい(個人的な感想です)
実装部品が多く、みっちりパーツが詰まっている
実装は裏面にまで及ぶ
RADEON 8500の上には小型のファンが実装されている
ビデオメモリはEtron Technologyの「EM658160TS-3.5」である。4Mワード×16bit(8MB)のDDR SDRAMで、これを8枚実装することで容量64MBを実現している。最大クロックは285MHz(最大570MHz)。ちなみに上位品に3.3ns(300MHz=600MHz相当)のものもある
カード右上に実装されているナショナル・セミコンダクターの「LM2636M」は5bitのプログラマブル同期バックレギュレータコントローラである
リファレンスカードではここのコンデンサは固体コンデンサだが、この製品は液体コンデンサを採用している。とは言え膨張や液漏れなどはなく、まだ駆動すると思われる
JenJaan Quartek製の27MHz水晶発振器
Analog Devices製の16bit/330MHz駆動トリプルビデオD/Aコンバータ「ADV7123」
ATI製のSビデオ入出力用チップ「Rage Theater」
電源周りの実装
インターフェイスはSビデオ出力、ミニD-Sub15ピン、DVI-Iの3系統

【22時26分訂正】記事初出時、水晶発振器をNSK日本精工製としておりましたが、正しくは台湾のJenJaan Quartek製です。お詫びして訂正します。

 一方で、RADEON 8500と同時発表され、高いコストパフォーマンスで注目を浴びたのが、RADEON 7500である。199ドル=約2万円台前半という価格で、従来のRADEONよりも高い動作クロックを実現。競合のGeForce2シリーズにとって大きな脅威となったため、NVIDIAはGeForce2シリーズを値下げせざる得なかった(もっとも、GeForce3投入済みであったため、結果的にさほど問題にはならなかった)。

 RADEON 7500は基本的に初代RADEONの後継である。あまり知られていないが、初代RADEONは投入後さほど間を置かず、より高クロックで性能が引き上げられた「A22コア」が投入されている。RADEON 7500はこのA22コアをベースに、プロセスルールを0.18μmから0.15μmにシュリンクし、さらなる高速化を図っている。

 当時ビデオカードに注目していた筆者にとって、両モデルともに非常に魅力的な製品であったのだが、アルバイトで稼ぎ出し始めて貯金がまだなかった筆者にとって、特にRADEON 8500は高嶺の花であった。ビデオカードを買えるほどの貯金が貯まったのは、半年後のGeForce4発表時だったので、あっさりそちらに行ったのは言うまでもない。

 その後、2003年辺りに余ったGeForce2 MXでサブマシンを組んだのだが、しばらくしてから性能に不満を感じ、玄人志向のRADEON 7500を購入した。その頃には既に6,000円台という破格値で売られていた。

 ここからは余談だが、スクウェア・エニックスのMMORPG「ファイナルファンタジーXI」は、ハードウェアT&Lエンジンを備えたビデオカードであれば実行できる。このため開発段階から協力しているNVIDIAのビデオカードでは、GeForce2 MX以降であればゲームをプレイできる。ところがATIのビデオカードは対応がかなり遅れ、正式対応はRADEON 9000シリーズ以降からとされている。しかし解像度やエフェクトを欲張らなければ、RADEON 7500でも問題なく動作させられるのは、筆者が実証済みだ。

こちらはRADEON 7500。やっぱり実装が美しい(あくまでも個人の感想です)
映像出力部の実装が少なく、スッキリしている
若干刻印が違うが、こちらもLM2636Mを採用する
メモリはHynix製のDDR SDRAM「HY5DV641622AT-4」。こちらも4Mワード×16bitで1チップあたり8MB、8枚搭載することで64MBという大容量を実現している。動作クロックは250MHz(500MHz相当)
International Rectifier製のHEXFET「F7416」などが使われている
チップ背面に多数のコンデンサを実装しており、高クロックを支える電源はシビアであったと伺える
出力インターフェイスはRADEON 8500と共通だ