イベントレポート

Intel、3G/LTE統合型SoC「Atom x3 C3000」シリーズ

Atom x3 C3000シリーズの3つの製品

 Intelは、3月2日よりスペイン・バルセロナで開催中のMWC(Mobile World Congress) 2015の同社ブースにおいて記者会見を開催し、「SoFIA(ソフィア)」の開発コードネームで知られるセルラーモデム統合型のSoCを、Atom x3 C3000シリーズというブランド名で発表した。

 Atom x3 C3000シリーズは、Silvermontコアをベースにしたx86プロセッサコア、ARMのMaliシリーズのGPU、イメージシグナルプロセッサ、ビデオ再生エンジン、3GないしはLTEのセルラーモデム用ベースバンドが1チップになっており、これにセルラーモデム用のRF(無線部分)とWi-Fi/Bluetooth、GPSなどの無線部分をまとめたチップなどでシステムが構成され、スマートフォンや低価格のタブレットなどをターゲットにした製品となる。

 今年の前半に3G版が出荷され、今年の後半にLTE版が投入されるスケジュールになっており、ASUSなどのOEMメーカーが搭載製品をリリースする予定となっている。

成長市場向けのバリューSoC

 これまでのIntelのスマートフォン向けSoCは、どちらかと言えばハイエンド向け製品が中心となってきた。32nmで製造されてきたAtom Z2400シリーズ(Medfield)、Atom Z2500シリーズ(Clover Trail+)、22nmのAtom Z3400シリーズ(Merrifield)とAtom Z3500シリーズ(Moorefield)などが提供されてきたが、1世代前の製品が低価格向けとして安価に提供されてきた以外は、基本ハイエンド向けの製品となっていた。

 理由はいくつかあるが、最大の問題は、ライバルとなるQualcommのSnapdragonシリーズのように、無線部分、特にセルラーモデムが外付けになっていた点が挙げられる。このため、端末メーカーはIntelのSoCを採用するときに、別途セルラーモデム(IntelのXMM7260)を搭載する必要があり、それが追加のコストとなってしまった。

 スマートフォンが成熟市場向けで、高付加価値の製品が中心だった時にはそれでも良かったのだが、現在スマートフォン市場のボリュームは、成長市場向けの低価格製品に移り変わりつつある。そうした中で、Intelの高コストな製品が通用していたかと言えば、半分はイエスで、半分はノーだった。そうした製品に何らかの販売促進のためのキックバックをつけて販売している状態で、利益を上げることが難しくなりつつあったからだ。そこで、Intelとしては低コストで製造でき、かつOEMメーカーに対して低価格で提供できる製品が求められるようになったのだ。

 そこで開発されたのが、SoFIAのコードネームで知られる製品だ。2013年の11月のアナリスト向けの説明会で存在が明らかにされたSoFIAは、低コストでの製造を実現するためにIntelの工場で製造するのではなく、外部の工場で製造される。かつ、従来は別チップだった、セルラーモデムのベースバンドをSoC本体に統合しており、従来のように高価で高密度な基板でなくても製造できるようになった。

3G/3G-R/LTEという3つのラインナップが用意されているAtom x3 C3000シリーズ

 今回発表されたSoFIAには、Atom x3 C3000シリーズのブランド名が与えられている。コードネームで言えば、SoFIA 3G、SoFIA 3G-R、SoFIA LTEの3つの製品が用意され、それぞれC3130、C3230RK、C3440のプロセッサナンバーが与えられている。

【表】Atom x3 C3000シリーズのSKU構成
Atom x3-C3130Atom x3-C3230RKAtom x3-C3440
開発コードネームSoFIA 3GSoFIA 3G-RSoFIA LTE
CPUアーキテクチャSilvermont
コア数24
最大クロック1GHz1.2GHz1.4GHz
GPUアーキテクチャMali400 MP2Mali450 MP4Mali T720 MP2
APIOpenGL ES 2.0OpenGL ES 3.0/Direct 3D9/Open CL
ビデオエンコードH.264(720p/30fps)H.264/VP8(1080p/30fps)
デコードH.264/VP8(1080p/30fps)H.264/VP8(1080p/60fps)、HEVC(1080p/60fps)H.264/VP8(1080p/60fps)、HEVC(1080p/60fps、ソフトウェア)
メモリ1x32 LPDDR2 8001x32 LPDDR2/3 1066、2x16 DDR3/DDR3L 13331x32 LPDDR2/3 1066
ディスプレイ解像度1,280x800ドット/60fps1,920x1,080ドット/60fps1,280x800ドット/60fps、1,920x1,080/30fps
モデムGSM/GPRS/EDGE、HSPA+ 21/5.8、DSDS、eDvPGSM/GPRS/EDGE、DC-HSPA+ 42/11、TD-SCDMA、FDD/TDD LTE Cat4→Cat6
その他無線Wi-Fi(b/g/n)/Bluetooth 4.0(LE)/GPS/GLONASS/FM放送Wi-Fi(ac)/Bluetooth 4.1(LE)/GPS/GLONASS/FM放送/NFC(オプション)
I/OUART/SPI、I2C、I2S、SDIO
USBUSB 2.0 HS
ストレージeMMC 4.41eMMC 4.51
ISP(背面/前面)13MP/5MP

 CPUはBay Trailなどにも採用されているSilvermontコアのx86プロセッサ(デュアルコアないしはクアッドコア、64bit対応)、GPUにはARMのMaliシリーズ(3GはMali 400シリーズ、LTEはMali T720)を採用。背面1,300万画素、前面500万画素までのカメラをサポートするISP(Image Signal Processor)を内蔵している点は共通。その上で、SoCの内部に3Gの開発コードネームがつく製品は3Gモデムのベースバンドを、LTEの開発コードネームがつく製品はLTEモデムのベースバンドを内蔵している。

 無線部分の構成は大きく異なり、SoFIA 3G(C3130)とSoFIA 3G-R(C3230RK)には3G用の無線部分として「A-Gold 620」というRFコントローラが一緒に提供される。A-Gold 620は、3GモデムのRF部分、Wi-Fi、Bluetooth、GPS、オーディオなどのアナログ回路をまとめて提供するコントローラで、OEMメーカーは、SoCとA-Gold 620の2ップ、それにメモリやeMMCなど加えるだけで低価格にスマートフォンを製造できる。

 これに対してSoFIA LTE(C3440)は、LTEのRF、Wi-Fi/Bluetooth、GPS、NFCなどがそれぞれ別の部品として提供され、OEMメーカーが必要な部品を選択して基板上に実装する仕様になっている。これは3G版がよりコストにフォーカスした製品であるのに対して、LTEに関してはもう少しプレミアムな製品にも搭載することを意識しているからだと考えられる。

Atom x3 C3230RK(SoFIA 3G-R)とAtom x3 C3130(SoFIA 3G)のベンチマークデータ
Atom x3 C3440(SoFIA LTE)のベンチマークデータ
Atom x3 C3230RK(SoFIA 3G-R)、Atom x3 C3130(SoFIA 3G)とAtom x3 C3440(SoFIA LTE)のチップ構成の違い
Atom x3 C3230RK(SoFIA 3G-R)のブロックダイアグラム
Atom x3 C3440(SoFIA LTE)のブロックダイアグラム

3G版はAndroidのみ対応、LTEファミリでWindowsのサポートが追加される計画

Windows 10でのモバイル版に関しては現在開発中で、“SoFIA LTEファミリ”でサポートするとのこと。最初のSoFIA LTEでもWindowsがサポートされるかどうかが今後の焦点

 サポートされるOSだが、いずれの製品もAndroidとなる。ただし、Intelの幹部によれば「LTEファミリでWindowsをサポートする予定である」と言う。

 ただ、SoFIA LTE(C3440)でWindowsをサポートすると言っているのではなく、LTEファミリでサポートする、つまりLTEに対応したSoFIAのどれかの製品でWindowsをサポートするとしている点は注意がいる。というのも、SoFIA LTEは今回発表されたC3440以外にも、2016年に投入が計画されているSoFIA LTE 2という、Intelの自社工場で14nmプロセスルール製品が予定されているからだ。

 つまり、IntelがSoFIA LTE(C3440)でWindowsをサポートすると言わず、LTEファミリでサポートすると言ったのは、SoFIAにおけるWindowsのサポートがSoFIA LTE(C3440)ではなく、2016年のSoFIA LTE 2からになるということを示唆している可能性が高い。

 実際、今秋にリリースが予定されている、MicrosoftのWindows 10には、Windows 10 for phones and tabletsというモバイル版、つまりはスマートフォンやタブレット向けのSKUが用意されているが、このWindows 10 for phones and tabletsはWindows Phone 8.1からのアップグレード対象となっているため、少なくともARMに対応していることは分かっているが、x86に対応しているのかについて、Microsoftは公式に説明していない。

 OEMメーカー筋の情報によると、Microsoftの元々の計画ではWindows 10 for phones and tabletsにはARM版のみならず、x86版が用意されていたはずなのだが、IntelのSoFIAのWindowsサポートが若干遅れ気味であることを反映してか、Windows 10のリリース段階ではARM版だけでスタートし、後にx86版が追加されるという可能性が高いという。

 ただ、少なくともIntelの幹部が「LTEファミリでWindowsをサポートする」と言い切った以上は、Windows 10 for phones and tabletsがx86も対応できるということで、IntelとMicrosoftの間では合意ができていることは確実と言え、注目すべきはそれがどのタイミングになるかという点になる。

顧客としてスマートフォンの大手OEMメーカーを獲得出来るかどうかが成功の鍵

 Intelにとって、次のステップは大手OEMメーカーの獲得だろう。現在の所、Intelのスマートフォン向けSoCは、大手PCメーカーも兼ねている大手OEMメーカー(ASUSTeKやLenovoなど)では採用が進んでいるが、Samsung、LG、Xiomei(小米)、Huawei(ファーウェイ)といったスマートフォンの大手OEMメーカーではほとんど採用されていないからだ。

 今回の発表時点では、大手OEMメーカーで採用を表面したのはASUSTeKのみで、後はODMメーカーがパートナーとして発表されたぐらいだった。ただ、そのODMメーカーの中には、Wistron、Pegatron、ECS、Quanta、COMPALと言った大手ODMメーカーが含まれており、PCビジネスがそうであるように、まずはODMメーカーに対して売り込みをかけ、しかる後にODMメーカーがOEMメーカーに売り込んでいく、そうしたビジネスモデルを考えていることが伺える。

 さらに、製品名にRKの型番がついているSoFIA 3G-R(C3230RK)は中国のSoCベンダーとなるRockchipが販売、サポートを担当する。Rockchipは、特に中国の深セン市に集中する中国の中小のODMメーカーと良好な関係を保っている(日本で“中華タブ”と呼ばれる製品の多くがRockchipを採用していることを思えば想像は容易だろう)。SoFIA 3G-R(C3230RK)はそのRockchipが販売するため、特に中国のODMメーカーへの浸透がより進むとみられており、それが大手OEMメーカーやLOEM(ローカルOEM、ある地域だけでビジネスを展開しているOEMメーカ-)へ売り込まれて採用される展開も考えうる。

 Intelによれば、現時点では千個ロット時の価格などは未公表。具体的な製品の登場は、SoFIA 3G(C3130)とSoFIA 3G-R(C3230RK)を搭載した製品が今年前半、SoFIA LTE(C3440)は今年後半が想定されている。

Atom x3 C3000シリーズの採用予定を表明しているOEMメーカー、ODMメーカー

(笠原 一輝)