Windows 8 Consumer Previewを公開
米MicrosoftはMWCが行なわれている会場近くのホテルで記者会見を開催し、次期OSとなる、Windows 8のConsumer Preview版の詳細を明らかにした。会見に登場した同社Windows and Windows Live Division社長のスティーブ・シノフスキー氏は「Windows 8はWindows 95以来の大きなバージョンアップになる」と述べるとともに、Windows 8 Consumer Previewのデモを行なった。
●Windows 8 Consumer Preview、アプリストアを中心に評価MicrosoftのWindows 8は、2009年にリリースされたWindows 7の後継となるOSで、従来のようにキーボードやマウスによる操作だけでなく、タッチ操作を重要視した新しいユーザーインターフェイスとなるMetro UIを搭載し、Metro Style Appsとよばれる新しいアプリケーションをサポートしている。Microsoftは昨年の9月に米国アナハイムで行なわれた開発者向けのイベントBuildのタイミングに併せてWindows 8の最初のベータバージョンとなるDeveloper Previewを主に開発者向けにリリースし、Metro Style Appsの開発を開発者に促してきた。
Microsoft Windows/Windows Live部門社長のスティーブ・シノフスキー氏 |
今回発表されたConsumer Previewは、Developer Previewに続くいわゆる“ベータ版”となる。シノフスキー氏は「Consumer PreviewではDeveloper Previewから10万件のコードを書き換えている。Developer Previewでは開発者向けに向けてリリースしたため、ユーザーインターフェイスは最小限しか搭載していなかったが、Consumer Previewではほぼすべての機能を実装している」と述べ、Consumer Previewには製品版と変わらない機能をすでに実装しており、ユーザーはConsumer Previewを利用することでその機能のすべてを試すことができると説明した。
その中でMicrosoftが特に強調したのはWindows Storeの機能だ。Windows Storeは、MicrosoftがWindows 8向けに提供するアプリストアで、ネットを経由してアプリケーションのダウンロード、インストールが可能になっている。シノフスキー氏はこのWindows Storeを「アプリケーションがあってこそのOSだ。今回のConsumer PreviewにはこのWindows Storeのプレビューだという意味合いもある」と、Consumer Previewの期間中はWindows Storeで提供するアプリケーションが無料で利用できることを明らかにした。Microsoftとしては、アプリストアのエコシステムを含めたベータテストを実施する狙いだとみられる。
Consumer Previewまでに10万件のコードの書き換えを行ったという | すでに、Consumer PreviewでWindows Storeが利用できる | |
インストールは「install」と書かれたボタンを押すだけ | 2011年9月に行なわれたBuildから募集されたWindows 8のアプリコンテストには多数の応募があったという。その中から8つが入選作として紹介された |
●Metro UIはタッチだけでなくキーボード/マウス操作も可能
今回報道関係者やMicrosoftのパートナー企業の関係者を前に行なったConsumer Previewのデモは、タッチ操作のデモに大きな時間が割かれていた。
Microsoft Windows プログラムマネージメント担当副社長のジュリエ・ラーソン グリーン氏 |
Microsoft Windows プログラムマネージメント担当副社長のジュリエ・ラーソン グリーン氏はタブレットデバイスを利用したデモを行なった。モバイル機器ではログイン時にパスワードなどでの保護が必要になるが、Windows 8では写真のある点を順番にタッチしていくことでログインすることができるピクチャーログインの機能がサポートされており、より簡単にログインすることができる。
さらに、Metro UIもすべての操作がタッチで行なうことができる。例えば、Metro UI上に表示されているアイコンの大きさはピンチズームで操作が可能になっており、ユーザーは自然な形でUIを操作することができる様子などがデモされた。さらには標準で音楽やビデオのストアも用意されており、タッチ操作だけで音楽やビデオを購入して楽しむことができる様子や、Metro UIを分割し2つのMetro Style Appsを表示し、その大きさなどをタッチ操作で変更できる様子なども合わせてデモされた。
Microsoft Windows Webサービス担当副社長 アントニ・レベロンド氏は「Windows 8のUIはタッチ操作だけを前提としたものだけではない。同時にキーボードやマウスでの操作でも快適な操作ができるように配慮している」と述べ、キーボードやマウスを利用した場合のデモを行なった。
例えば、Metro UIをマウスで操作する場合には、画面の隅にマウスカーソルを持っていくとホーム画面に戻ったり、複数のアプリケーションを切り替えて利用できるようになっている。また、マウスで操作する場合には、Metro UIの下側にスクロールバーが表示されたり、マウスのホイールを利用してスクロールしたりと、既存のWindowsの操作体系をそのまま利用できる。
タッチ版のログイン画面。写真のあらかじめ決めた箇所をタッチすることで、パスワードの代わりにすることができる | ピンチ(画面上で指を開いたり閉じたりする操作)でアイコンを縮小しているところ。 | 縮小した状態から目的のアイコンを別の場所へ移動したりなどが可能に |
Metro版のInternet Explorer。タブの操作などもすべてタッチ操作で可能 | 標準で用意されているビデオ・ミュージックストア | 2つのMetro UIを表示しているところ、表示面積は任意にかえることができる |
標準でコンテンツをシェアするボタンが用意されており、メールやSNSなどを利用して友人と情報を共有できる | Microsoft Windows Webサービス担当副社長 アントニ・レベロンド氏 | 従来のパスワードを入力するログイン方法ももちろん用意されている |
マウスなどでスクロールする場合には、スクロールバーが表示される | マウスでMetro UIを操作する場合には左隅にマウスカーソルを移動するとホーム画面へ戻るボタンが表示される |
タスクスイッチはマウスカーソルを左上にもっていくと表示される |
また、OfficeなどMetro UIではないアプリケーションを利用する場合には、現在のWindowsの標準UIであるデスクトップに降りて操作できる様子が公開された。ただし、現在のWindows 7と大きく異なる点が1つあり、Windows 8にはスタートボタンが無い。しかしながら、前述のコーナーにカーソルを移動させるとMetroのホーム画面に戻るボタンが表示される機能は、デスクトップに降りた場合でも有効なので、その機能でMetroのホームに戻ることができる。つまり、Windows 8ではアプリケーションの起動は、従来のWindowsデスクトップ向けのアプリケーションを含め、すべてMetroから行なう仕様となっている。
デスクトップの機能そのものも改善されており、ファイルコピーを行なう場合、進捗状況が従来の数字だけでなく、グラフィックで表示されるように改善されている。また、デスクトップアプリを利用している場合でも、右側や左側などにMetro Style Appsを表示することもできるようになっており、Metro Style Appsの株式チャートの表示アプリを表示しながら、デスクトップアプリケーションを使う様子などがデモされた。
このほかにも、Skydriveなどのクラウド系のサービスへのアクセス機能が標準で実装されており、Windowsの機能の一部として利用できる様子なども紹介され、Windowsが従来のようなローカルのデータを処理するのではなく、クラウドを前提としたOSになっていることがアピールされた。
デスクトップ版アプリのOfficeを表示させているところ。Windows 8のデスクトップにはスタートボタンは用意されていない | ファイルコピーはよりグラフィカルに表示されるようになった |
デスクトップアプリとMetro Style Appsも同時に表示できる | Skydriveのようなクラウドと連携するサービスに対応した機能が標準でMetroに統合されている |
●さまざまなフォームファクタで動作する柔軟性
シノフスキー氏は「Windows 8で我々が重要視していることは、非常に多くのハードウェアをサポートしていることだ」と述べ、Windows 8が従来のx86プロセッサベースのPCだけでなく、ARMプロセッサを搭載したタブレットやクラムシェルなどをサポートしていることを強調した。
NVIDIAのTegra 3を搭載したWOAタブレットを持ってデモを行なうMicrosoft Windows 製品計画・エコシステム担当副社長マイケル・アンジェロ氏(左) |
WOA(Windows On Arm、詳細は別記事参照)の呼び方で知られるARM版のWindows 8は、NVIDIA、Qualcomm、TIが提供するARM SoC上で動作しており、今回の発表会でもNVIDIAのTegra 3を搭載したタブレットを利用してデモが行なわれた。また、今回初めて、ARM版のOfficeが動く様子がデモされ、WOAの開発が進んでいることをうかがわせた。
なお、今回大規模に配布されるConsumer Previewはx86/x64版だけで、WOAは含まれていない。WOAが搭載されたデバイスは、MicrosoftおよびARM SoCベンダーと秘密保持契約を結んだ開発者に提供される。
シノフスキー氏は続いて、x86/x64ベースのクラムシェルやAIO(All In One、液晶一体型PC)によるデモを行なった。同氏は「Intelベースのシステムでは、既存のWindowsアプリケーションを含むすべてのアプリケーションを動かすことができる」と話し、従来のアプリケーションも使いたいユーザーにはx86版が最適だと説明した。さらにUltrabookについても触れ、「Ultrabookのような薄くてスタイリッシュなPCはWindows 8に最適なプラットフォームだ」と、Ultrabook上でWindows 8が動く様子などがデモされた。
シノフスキー氏は、その後AIOや82型のタッチスクリーンディスプレイなどでもWindows 8が動作する様子を公開し、「Windows 8はさまざまなフォームファクタで動く柔軟性を備えており、ユーザーが望む形で使うことができる」とWindows 8の強みを強調した。
WOAではNVIDIA、Qualcomm、TIのSoCをサポートする。また、x86系ではIntelのSoCであるClover Trailをサポートする | 初めて公開されたWOA版のOffice | TIのOMAPを搭載したタブレットのデモ。キーボードのようなドックとドッキングしていた |
IntelのClover Trailを搭載したタブレット。x86版では既存のWindows アプリケーションが利用可能 | クラムシェルのUltrabookを利用したデモ | 82インチという大型のタッチディスプレイを利用したMetroのデモ |
2つのHDDを1つのHDDのように利用する機能が実装されている | タブレットから大画面TVのようなデバイスまでWindows 8でカバーできる |
●日本語を含む5カ国語版が提供、次のステップはRC版
Windows 8 Consumer Previewは5つの言語で提供される。次のステップはRC版となる。RTMがいつになるのか、具体的なスケジュールは今回も明らかにされなかった |
最後にシノフスキー氏は、Consumer Previewの概要について説明した。Consumer Previewは同社Webサイトを経由して配布され、英語、ドイツ語、フランス語、日本語、中国語の5カ国版が提供される。また、開発者向けにはVisual Studio 11ベータも同時に提供される。なお、企業向けのWindows 8の詳細は、ドイツで来週行なわれるCeBITで明らかにするという。
また、シノフスキー氏はWindows 8の次のステップは出荷候補版(RC:Release Candidate)になる予定だということも明らかにした。通常、ソフトウェアの開発はアルファ版、ベータ版、RC版を経て、最終出荷バージョンであるRTM(Release To Manufacturing)版という順番で開発されていく。つまり、実質的には2011年9月のDeveloper Previewはアルファ版、今回のConsumer Previewはベータ版に相当する。
ただし、シノフスキー氏は具体的なリリース時期に関して今回も明言しなかった。次のステップとなるRC版の時期に関しても言及がなく、依然として公式なリリース時期は明確にならなかった。
(2012年 3月 1日)
[Reported by 笠原 一輝]