Ivy Bridgeやスパコン「京」技術、大容量相変化メモリなどが登場
大規模半導体集積回路(LSI)の開発成果を披露する世界最大の国際会議、ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)が、2012年2月20日(現地時間)に米国カリフォルニア州サンフランシスコで始まる。プロセッサやメモリ、ロジック、ミクスドシグナルなどの半導体チップの開発成果が、披露される。
半導体の研究開発コミュニティでは、ISSCCで開発成果を発表することが、一定以上の開発成果を挙げたとみなされる。開発成果の概要を発表論文としてISSCCの委員会に投稿しても、発表の機会を得られるとは限らない。今回のISSCCでは628件の投稿があり、その中から202件の論文が採択され、発表の機会を得た。採択率は32%で、約3分の1に過ぎない。かなりの狭き門である。
ISSCC 2012の投稿論文と採択論文の件数 | 過去のISSCCにおける投稿論文数と採択論文数の推移 |
採択論文を地域別にみると、北米が68件、欧州が61件、アジア(日件を含む)が73件となっている。地域別では前年まで北米が最多だったが、今年は初めてアジアが最多となった。国・地域別のトップは米国で65件、2位は韓国で30件、3位は日本で25件、4位はオランダで21件、5位はベルギーで12件が採択された。
地域別採択論文数の推移 | 国・地域別の採択論文数。カッコ内の数値は左がISSCC 2011、右がISSCC 2010の採択論文数 |
それでは、発表予定の注目論文をご紹介しよう。
●2月20日:Ivy Bridgeと8Gbit相変化メモリ基調講演(プレナリ講演)のテーマと講演者 |
カンファレンスは例年と同様に、20日午前のプレナリセッションで始まる。今年は4件の基調講演が予定されている。最初の基調講演は、フラッシュメモリが民生機器やモバイル機器などを大きく変えてきたことがテーマである。次の基調講演では、エネルギー分野における半導体の役割を論じる。その次の基調講演は、低炭素社会の実現と半導体がテーマである。最後の講演では、シリコン開発とシステム開発の持続可能性を論じる。
20日の午後からは、一般講演が始まる。この時間帯はプロセッサの講演セッションとDRAM/相変化メモリの講演セッションに注目したい。
プロセッサの講演セッションではIntelの講演が目立つ。全8件中4件がIntelの発表である。1件はPC用の最新プロセッサ「Ivy Bridge(アイビーブリッジ:開発コード名)」に関する講演である(講演番号3.1)。22nmのフィンFET技術を初めて採用したプロセッサだ。CPUコア(4個)とGPUコア、メモリコントローラ、PCIeコントローラを内蔵する。もう1件は32nm世代のAtomベースSoC(System on a Chip)に関する講演である(講演番号3.4)。それから、電源電圧範囲が0.28V~1.2Vと低くて広い32bit IAプロセッサの発表がある(講演番号3.6)。最後の1件は、22nm世代のプロセッサに向けたクロック技術に関する講演である(講演番号3.7)。
Oracleの講演にも注目したい。64bit SPARCプロセッサ「T4」の技術内容を講演する(講演番号3.3)。このほか中国の大学による16コアプロセッサの講演がある(講演番号3.5)。
DRAM/相変化メモリの講演セッションではSamsung Electronicsの発表が目立つ。このセッションだけで3件の講演がある。1件はDDR4方式の4Gbit SDRAMに関する講演である(講演番号2.1)。製造技術は30nm。もう1件はLPDDR3方式の4Gbit SDRAMに関する講演である(講演番号2.4)。製造技術はこれも30nm。最後の1件は8Gbitと過去最高の記憶容量を有する相変化メモリの発表である(講演番号2.5)。
このセッションではHynix Semiconductorも健闘している。単独論文が2件、大学との共同論文が1件ある。始めの2件はDDR4方式の2Gbit SDRAMの講演(講演番号2.2)とDDR3方式の4Gbit SDRAM(講演番号2.3)である。最後の1件はKorea Universityとの共同発表で、シリコン貫通電極(TSV)のインタフェース技術の講演が予定されている(講演番号2.6)。
●2月21日:スパコン「京」のプロセッサ技術2月21日の午前は、高性能デジタルの講演セッションが興味深い。スーパーコンピュータや高性能プロセッサ、高性能メモリなどの発表がある。
富士通と理化学研究所は共同で、スーパーコンピュータ「京」の技術概要を発表する(講演番号10.8)。Intelは0.28Vと低い電源電圧で動作する256bitのリコンフィギュラブルSIMDベクトルプロセッサの技術概要を講演する(講演番号10.1)。IBMは、TSV技術を駆使した埋め込みDRAMキャッシュを発表する(講演番号10.5)
21日の午後は、マルチメディア/通信SoCの講演セッションと、高性能埋め込みSRAMのセッションに注目したい。
前者のセッションでは東芝が、1W当たり620GOPSと消費電力あたりの性能が高いヘテロジニアスマルチコアSoCを発表する(講演番号12.5)。リアルタイム画像処理用で、消費電力は762mWである。Samsung Electronicsは、4個のCPUコアを1.5GHzで動かすモバイル用アプリケーションプロセッサを発表する(講演番号12.1)。ソニーと東京工業大学は共同で、60GHz帯用の低消費電力トランシーバの開発成果を報告する(講演番号12.3)。Texas Instruments(TI)は、フルHDのビデオコーデックを内蔵するスマートフォン向けSoCを発表する(講演番号12.7)。
後者のセッションではIntelが、22nmのフィンFET技術によるSRAMマクロを発表する(講演番号13.1)。記憶容量は162Mbitである。動作周波数は4.6GHzと高い。
●2月22日:128Gbitの大容量NANDフラッシュ2月22日は、不揮発性メモリの講演セッションが興味深い。大容量NANDフラッシュメモリと抵抗変化メモリ(ReRAM)の発表が相次ぐ。
大容量NANDフラッシュメモリを発表するのは東芝とSanDiskの共同開発チームである。1件は128Gbitと記憶容量の大きなNANDフラッシュメモリで、19nmの製造技術と3bit/セルの記憶技術を駆使する(講演番号25.8)。もう1件は64GbitのNANDフラッシュメモリで、19nmの製造技術と2bit/セルの記憶技術を採用した(講演番号25.1)。シリコンダイ面積は112.8平方mmである。このほかSamsung Electronicsが、1Xnm技術による64Gbit NANDフラッシュメモリを発表する(講演番号25.5)。
抵抗変化メモリ(ReRAM)では、パナソニックが8MbitのReRAMマクロを発表する(講演番号25.6)。TSMCとNational Tsing Hua Universityは共同で、ロジックプロセス互換のReRAM技術について講演する(講演番号25.7)。記憶容量は4Mbit。電源電圧は0.5Vと低い。
このほかにも注目すべき講演が少なくない。PC Watchでは順次、現地レポートをお届けする予定なので期待されたい。
(2012年 2月 20日)
[Reported by 福田 昭]