既報の通り、Macworldの展示ホールがオープンした11日(現地時間)に合わせて、米MicrosoftのMacintosh Business Unit(MacBU)は「Office for Mac 2011」を発表した。北米では2010年内の発売を予定。国内での提供時期は後日あらためて発表される。
本誌ではこれまで“次期Office for Mac”として紹介してきたが、「Office for Mac 2011」が正式名称になったことで、以降は正式名称へと統一する。ちなみに、現行製品であるMac向けOfficeスイートの名称は「Office 2008 for Mac」であり、微妙に命名規則が変わっていることに気がついたユーザーもいることだろう。これは、今回のバージョンアップにおける大きなテーマである、Windows版Officeとの高い互換性や共同編集機能の向上などを強調する狙いがあるものと推測できる。Windows版の「Office 2010」ありき、そして協調できるOffice (for Mac) 2011というわけだ。
現在、β版が一般公開されているWindows版の「Office 2010」は、正式発表こそされてはいないが6月には発売されるものと考えられており、2010年末に発売される「Office for Mac 2011」まで、およそ半年のスパンがある。前バージョンではWindows版の「Office 2007」が2007年1月30日に発売され、Mac版の「Office 2008 for Mac」が2008年1月16日発売(いずれも日本時間)まで約1年間だった。「Office for Mac 2011」は、約8カ月のスパンで発売されたWindows版の2003とMac版の2004の関係をも超える速さと高い互換性をもって市場へ投入されることになる。
●ラウンジ風のMicrosoftブースはフレンドリーなムード「Office for Mac 2011」の発表をMacworld 2010の開催に合わせてきたMacBUだが、展示ホールにおける同社のブースの様子はそれとは大きく異なっていた。全体的に規模の縮小されている今回のMacworldにおいては、パビリオン形式を除いた単独企業としてはかなり大きめな部類に入る出展面積ではあるものの、それでも基準小間の4倍程度にとどまっている。昨年までのようにシアターを使った大規模なプレゼンテーションが行なわれるでもなく、Office for Macのデモ機が用意されてもいなかった。
発表こそ行なわれたものの、実際にOffice for Mac 2011が会場内で披露されているわけではない。詳細は後述するが、メディア向けに提供された資料も「Word for Mac 2011」のスクリーンショットが3枚かぎりで、実際にOffice for Mac 2011が動作している様子はMacworldへの来場者もメディア関係者も現時点では目にすることができていない。
企業ブースというよりも、ラウンジといったイメージの強いMicrosoftブース |
そのため、Microsoftのブースは展示と言うよりもMacBUによるラウンジといった趣きで展開されていた。テーマは「Mac Office Loves You」で、北米でのPRサイトに沿った内容。来場者が操作できるMacはブース内のソファーから利用できる機器のみで、「Office 2008 for Mac」はインストールされているものの製品デモ目的ではなく、主にTwitterへのつぶやきなどに使われていた。一方でスタッフは数多く配されており、来場者の質問や問い合わせなどには積極的に対応にあたっている様子だった。
カスタム化されたMacBook Proのプレゼント企画が今年も実施された。今年のデザインは、それぞれのアプリケーションのイメージカラーに合わせた4モデル |
あとは時折、Office for Macの各アプリケーションの着ぐるみを来たスタッフが来場者と一緒に写真におさまったり、お菓子やボールペンなどのノベルティグッズを来場者に配るなど、フレンドリームード一色。なお、ここ数年の恒例となっているカスタマイズされたMacBook Proのプレゼントは今年も継続されていて、今年はアプリケーションのイメージカラーに合わせた4モデルを展示。これらは抽選によりプレゼントされることになっている。エントリーはTwitterを使って指定のアカウントをフォローすることによって可能だが、プレゼント対象者は北米地域在住者に限定される。エントリーは2月25日まで受け付けている。
Office for Mac 2011では、Entourageに代わってOutlookが搭載されることが決まっている。そうした視点でみるとEntourageのイメージカラーであるパープルは、ちょっとしたレアカラー。果たして誰の手に渡るのだろうか。
2009年時点ではAppleの出展終了が明らかになったあとでも早々に2010年開催への出展意欲を示し、今回のブース出展へと至った同社だが、日程が発表されたMacworld 2011への出展予定があるかどうかは明らかにしていない。いずれも現在のスケジュール通りであるならば、次回2011年のMacworldは「Office for Mac 2011」の発売後に開催されることになる。
●ファイルフォーマットにとどまらないWindowsとの「互換性」の強化
2009年に続いて、メディア向け説明会に参加したMacBUのシニア・マーケティングマネージャのアマンダ・ルフェーブル氏 |
Macworldの開催中には、米Microsoftによりメディア向けの説明会が開催されている。現地での説明会はMacBUでシニア・マーケティングマネージャをつとめるアマンダ・ルフェーブル(Amanda Lefebvre)氏と、シニア・Macエバンジェリストのカート・シュマッカー(Kurt Schmuker)氏によって行なわれた。内容については、昨年(2009年)11月に日本で開催されたメディア向けラウンドテーブルでの情報と重なる部分もあるため、新情報となる部分を抜粋して紹介する。
Office for Mac 2011の開発テーマ。ユーザーからのフィードバックを元に、ファイルフォーマットにとどまらないワークフローの互換性を目指し、プラットフォームを越えてのコラボレーションを実現する |
冒頭、ルフェーブル氏は製品名を「Office for Mac 2011」に決定したことと、次期バージョンの最重要テーマである(Windows版Officeとの)互換性についてあらためて強調した。ここで言う「互換性」は、ファイルフォーマットにとどまることなく、アプリケーションの操作性や作業自体の進め方においてまで踏み込んだ意味となる。
最初にシュマッカー氏は、ニュースリリースとともに公開されたWord for Mac 2011のスクリーンショットを指し示しながら、コラボレーションの例の1つとして「Co-Authoring」機能を紹介した。Windows Liveで提供されているインターネットストレージのSkyDriveや、イントラネット向けのMicrosoft SharePoint Serverなど、いわゆるクラウド上に存在するドキュメントの編集作業で有効な機能の1つとなる。現状でもMacからWebブラウザベースで操作することはできるが、Word for Mac 2011ではWindows版と同様にアプリケーションベースで直接利用が可能になるものだ。
左下に見える吹き出し状の部分で、同じ書類にアクセスしているユーザーとその状態がわかる。自分以外のユーザーが編集作業を行なっている部分は一時的にロックがかかり、編集作業ができない |
スクリーンショットにあるようなWordのドキュメントであれば、Word for Mac 2011からその書類にアクセスすることで「Co-Authoring」機能が有効になり、書類はクラウド上で編集されクラウド上に保存される。コラボレーション環境においては複数のユーザーが同時に同じ書類にアクセスして編集や保存を行なうというケースがあるわけだが、「Co-Authoring」機能によって、同じ書類に今、誰がアクセスしていてどの部分を編集しているのかが明確になる。スクリーンショット左下に見える吹き出し状の部分をみると、現在2人のユーザーがこの書類にアクセスしており、ドキュメント左に見える実線の情報で他のユーザーが編集している部分(書類はWordなので段落)がわかり、自分以外のユーザーが編集している部分は一時的にロックがかかる。ユーザー名の先頭部分にある緑とオレンジのマークはLiveMessengerのそれと同じようにユーザーの状態を示していて、そのユーザーにメッセージやメールを送って編集内容について意見を交わすことも可能。これらをすべてWord上から直接行なえるようにすることでコラボレーションの作業効率も向上するという仕組みだ。
Office for Mac 2011における3つの「互換性」におけるポイント。1つはコラボレーションにおける作業自体の進め方。アプリケーションの操作性はWindows版のOffice 2007から採用されているリボンインターフェイスをMac版にも導入。Outlook for Macの新規搭載は既報のとおり |
このコラボレーションにおいては、自分はもちろんのこと共同作業をしている相手にとってWindowsとMac OS Xというプラットフォームの違いを意識させることがなくなることこそが重要なポイントになっている。言うなればOffice for Mac 2011でMacプラットフォーム側が対応することにより、もっとも恩恵を受けるのはWindows側のユーザーという見方もできる。Microsoft SharePoint Serverで利用する場合にはいかにも企業におけるグループワーク向けの機能のように感じられるが、(SkyDriveでも利用できることから)家庭内でファイルを共有するような場合にも有効とのことだ。
Outlook for Macの搭載に関しては、開発環境が初めてCocoaベースになることやコンテンツ保護機能であるIRM(Information Rights Management)の採用をはじめ、TimeMachineやSpotlightといった従来のEntouraugeでは対応しきれていなかったMac OS Xへの最適化など、先日までの情報と重なる部分がほとんど。今回、新たに紹介されたのはWindows版Outlookの.pstファイルの取り込み機能で、例えばメインのプラットフォームはMacでありながら、Outlookを利用するためだけにWindowsを使っていたようなユーザーでも容易にOutlook for Mac 2011へと移行できるようになる。
そして3つ目の「互換性」となるのがリボンインターフェイスの採用による、アプリケーションの操作性である。リボンインターフェイスはWindows版ではOffice 2007から従来のプルダウンメニューやツールバーに代わって導入されているユーザーインターフェイスで、現在一般公開されているOffice 2010のβ版にも採用されている。これまで明言こそされてこなかったが、Office for Mac 2011への搭載は確実視されていたので、問題はWindowsとMac OS Xという基本的なユーザーインターフェイスの壁を越えてどのように実装されるかという点にあった。
Word for Mac 2011のスクリーンショットを指し示しながら説明をするシニア・Macエバンジェリストのカート・シュマッカー氏 |
シュマッカー氏によると、Office for Mac 2011へのリボンインターフェイス搭載にあたってはWindows版Officeにおけるユーザーのフィードバックが強く反映されているという。同じリボンという概念であっても、Macらしい手法をとることも重要であるとしている。そしてMacらしさという点においては、1つはアニメーション効果が追加されるとのこと。ただし今回はスクリーンショットのみで紹介されているので、どのようなアニメーション効果なのかを確かめることはできなかった。
さらに、Windows版Officeのリボンにおけるユーザーの不満要素の1つとして、書類の表示スペースが縦方向で奪われる点があるということに注目。Mac版ではリボンインターフェイスの表示部分を折り畳んでタブ以外の部分を非表示にすることができるようにした。また、スクリーンショットで表示されているウインドウ内のツールバーの部分も現行のOffice 2008 for Macと同様に非表示にすることが可能なので、ドキュメント以外はタイトルバーだけという表示方法へのカスタマイズもできるとのこと。これらが実現できる理由の1つに、Mac OS Xの場合は常にメニューバーが上部に表示されていることから、プルダウンによるメニュー選択方法も残せるという要素がある。そのためWindows版Officeのように、すべての機能をリボンインターフェイス内に収める必要がない。そこでリボンインターフェイスを搭載してWindows版のOfficeやWeb Applicationとの操作互換性を高めながら、メニューバーとツールバーも生かすという手法を選択したという。
同氏の説明によれば、リボンインターフェイスそのものをなくすことはできないということだが、メニューバーやツールバーを含めたユーザーインターフェイス全体については相当なカスタマイズ要素があるので、従来からのユーザーにとっても移行のしやすい状況になっているということだ。もちろん両氏からのコメントには含まれてはいないものの、Windows版Office 2007でのリボンインターフェイス導入にあたっては、特に既存ユーザーの戸惑いや反発が多かったことも事実なので、これもまたユーザーのフィードバックから反映された要素ということは想像に難くない。
ちなみにシュマッカー氏によるリボンインターフェイスの紹介も本稿に掲載しているものと同じスクリーンショットを使って行なわれたので、実際に動いている様子を見たわけではない。Office for Mac 2011のリボンインターフェイスがどれだけWindows版のそれと同一の操作性を実現して、またMac OS Xならではの操作性を追加しているかの詳細までは現時点で判断するのは難しい。
左側のスクリーンショットが標準で、リボンインターフェイスを表示した状態。Office for Mac 2011では右側のようにリボンインターフェイス部分のタブの部分だけを残して非表示にすることができるようになっている。この中間に位置する表示方法もあるとのこと |
ルフェーブル氏によれば、さらに詳しい「Office for Mac 2011」の情報は夏頃にアナウンス予定という。明言はされなかったが、やはりWindows版Office 2010の正式リリースがMac版にとっても1つのマイルストーンになっていると考えるべきだろう。
公開されている情報では(Exchange Serverの利用を前提とする)Outlook for Macの搭載やすべてのアプリケーションへのIRMの実装、さらにコラボレーション機能の強化など企業向けを意識したバージョンアップというイメージが強いものの、今後はパーソナルユーザー向けの機能も順次明らかにしていくとのこと。また、必ず行なわれてきたMac版にしかない機能の搭載はOffice for Mac 2011でも継続するとのことなので期待したい。
質疑応答の中では、発表されたばかりのiPadやiPhone/iPod向け製品の開発予定の有無についての質問もあったが、現時点ではコメントできないとのこと。実際に動いているアプリケーションを見せているわけではないため、動作速度などのパフォーマンスや64bitへの最適化などについてもノーコメントだった。なお直近のアップデートとしては、AVチャット機能に対応したMac版のMessengerが3月中にリリースされる予定となっている。
(2010年 2月 18日)
[Reported by 矢作 晃]