Atomの次期プラットフォーム「Pine Trail」と「Moorestown」
会期:9月22日~24日(現地時間)
会場:米国サンフランシスコ モスコーンセンター
Atomプロセッサのプラットフォームには、2つの系統が存在する。ネットブック/ネットトップ向けの「Navy-Pier(ネイビーピア)」と、モバイル機器向けの「Menlow(メンロー)」だ。
両者の大きな違いは3つある。1つは消費電力である。Navy-Pierの消費電力はやや大きめであり、Menlowは消費電力が相当に低いとされる。もう1つは入出力バスである。Navy-PierはPCIバスを装備しているが、MenlowにはPCIバスがない。MenlowはPCI Expressを標準の入出力バスとしている。最後はプラットフォームのチップ数である。Navy-Pierはプロセッサ(開発コード名:Diamondville)とノースブリッジ、サウスブリッジの3チップ構成、Menlowはプロセッサ(開発コード名:Silverthorne)とブリッジ(ノースとサウスの機能を集積)の2チップ構成となっている。
「Navy-Pier(ネイビーピア)」と「Menlow(メンロー)」。embeddedと付いているのは組み込み向けの製品系列を意味する。非embeddedでもプラットフォームそのものに違いはない | Navy-Pierを利用したシステムの構成例 | Menlowを利用したシステムの構成例。USBポートを8個も備えているのが目立つ |
IntelはAtomプロセッサの次期プラットフォームの開発をすでに表明しており、2010年の量産に向けて開発を進めている。ネットブック/ネットトップ向けの開発コード名は「Pine Trail(パイン・トレイル)」、モバイル向けの開発コード名は「Moorestown(ムーアズタウン)」である。IDF 2009では、これらの次期プラットフォームに関する情報がいくつか出てきた。
●Pine Trail-Dのファンレス設計技術Pine Trailには、ネットブック向けの「Pine Trail-M」プラットフォームと、ネットトップ向けの「Pine Trail-D」プラットフォームがある。これらのプラットフォームに向けたAtomプロセッサの開発コード名は「Pineview(パインビュー)」。Pineviewプロセッサの特長は、グラフィックスコア(GPU)とメモリコントローラを内蔵したことだ。ノースブリッジの機能をプロセッサに統合したことになる。またサウスブリッジは新設計のチップで「Tiger Point(タイガー・ポイント)」の開発コード名が付いている。
細かくみるとネットブック向けプロセッサは「Pineview-M」、ネットトップ向けプロセッサは「Pineview-D」の開発コード名がある。両者の大きな違いは、ネットトップ向けがデュアルコア構成を取れることだ。
既存のネットブック/ネットトップ向けプラットフォームNavy-Pierと、次期プラットフォームPine Trailの大きな違いは、動作時消費電力と実装占有面積にある。Navy-Pierの熱設計消費電力(TDP)は33Wであるのに対し、Pine Trail-DのTDPは15Wとおよそ半分に減少する。これはプロセッサにグラフィックスとメモリコントローラを内蔵させたことと、45nmと微細な加工寸法で製造したことが大きい。Navy-Pierのノースブリッジとサウスブリッジは130nmプロセスで製造していたので、消費電力の点では明確な違いがある。実装占有面積はNavy-Pierが2,601平方mmであったのに対し、Pine Trail-Dでは773平方mmになる。およそ3分の1に減少する。これは3チップ構成を2チップ構成にしたことが大きい。
ところでNavy-Pierを構成する3チップのTDPを合計すると、およそ10Wである。これに対してIDF 2009で公表されたTDPは33Wであり、かなり大きな開きが生じている。2008年11月の時点でボードベンダーはNavy-Pierの消費電力を15W程度と述べていた。この値は最大負荷でのものではないので、最大電力であるTDPはもっと大きな値になる。今回公表されたTDPの33Wが、より正確な数値であるとみられる。
ネットブック/ネットトップ向けの次期プラットフォーム「Pine Trail」 | Navy-Pier(左)とPine Trail-D(右)の違い | Pine Trail-Dプラットフォームの構成 |
IDF 2009では、Pine Trail-Dを使ってファンレスのネットトップを構築する推奨設計手法がテクニカルセッションで紹介された。Mini-ITXマザーボードを使い、縦に置く。上部にヒートシンク付きのPineview-Dプロセッサ(CPU)を配置する。Tiger PointはCPUのすぐ下に配置される。Tiger Pointにはヒートシンクは付けない。CPUで暖められた空気がマザーボードの最上部から上昇し、マザーボードの最下部から冷たい空気を引き込むという自然空冷の放熱方式である。
ただし実際には、ネットトップの筐体を垂直だけでなく、水平に置いてもファンレスで放熱できる。その代わりにかなり多くの空気穴を筐体に開ける必要がある。マザーボードの両端、マザーボードの表側、マザーボードの裏側、筐体のフロントパネル側に空気穴を開けることをIntelは推奨している。
ファンレスのマザーボード設計 | ヒートシンクのタイプによる放熱能力の違い。ピン状のフィンを縦置きすると14Wの熱を許容できる | 推奨する放熱設計。筐体のあちこちに空気穴を開ける |
●Moorestownの待機時消費電力管理
モバイル向けのAtomプラットフォームは2008年に開発済みのMenlowに続き、2010年にMoorestown、2011年に「Medfield(メドフィールド)」を開発するとのロードマップが以前から明らかになっている。そして8月下旬に米国で開催されたカンファレンス「HotChips 21」では、Moorestownプラットフォームのプロセッサ「Lincroft(リンクロフト)」の概要が明らかになった。IDF 2009では、プロセッサ以外の半導体チップに関する情報がいくつか公表された。
MoorestownはプロセッサLincroftとサウスブリッジ「Langwell(ラングウエル)」の2チップ構成である。2チップ構成であること自体はMenlowと同じだが、内容は大きく異なる。Menlowではノースブリッジとサウスブリッジを統合していた。Moorestownではプロセッサとノースブリッジを統合した。プロセッサにグラフィックスエンジンとメモリコントローラ、ディスプレイコントローラを集積したのである。この点はネットブック/ネットトップ向けのPineviewと似ている。
プロセッサの製造技術はSilverthorneとLincroftでほぼ変わらない。45nmの高誘電率膜/金属ゲート(High-k/Metal gate)技術である。これに対してブリッジチップの製造技術はMenlowの130nmから、Moorestownでは65nmと半分に微細化された。これは実装占有面積と消費電力および量産コストの低減に大きく寄与する。
そしてMenlowの待機時消費電力は1.6Wであるのに対し、Moorestownの待機時消費電力はMenlowの50分の1になるという。単純計算では待機時消費電力は32mWになる。これは相当に低い値であり、製造技術の微細化だけでは説明がつかない。このカギを握るのがミクスドシグナルIC(MSIC)の「Briertown(ブライアタウン)」である。
BriertownはDC-DCコンバータ、バッテリ充電器、タッチスクリーンコントローラ、電流センサーなどを集積したチップである。最も重要な働きはLincroftとLangwellに電源を供給するとともに、LincroftとLangwellの電力管理ユニットに指令を送って複数の電源ドメインの電源をきめこまかにON/OFFすることだ。動作中の機能または電源ドメインだけに電源を供給することで、動作時および待機時の消費電力を大幅に減らすことを狙っている。このようにみていくとMoorestownプラットフォームは実質的には、LincroftとLangwell、Briertownの3チップ構成で性能を発揮できることが分かる。
モバイル向けAtomプラットフォームの開発ロードマップ | Moorestownプラットフォームの構成 | MenlowからMoorestownへの変化 |
ミクスドシグナルIC「Briertown」の概要 | ミクスドシグナルIC(MSIC)を利用した電力管理 | MenlowとMoorestownの消費電力(相対値) |
(2009年 9月 30日)
[Reported by 福田 昭]