イベントレポート
ASUSの「ROG Ally X」や「Zenbook SORA」、そのデザイン誕生の裏側
2025年5月23日 06:23
COMPUTEX TAIPEI 2025に合わせ、ASUS本社で開催されたメディアイベント「ASUS&ROG Media Day」では、日本のメディアを対象として、「Zenbook」シリーズや「ProArt」シリーズ、「ROG Ally」などのASUS製品のデザイン戦略について、ASUS Design Centerのメンバーに話を聞く機会を得た。本稿では、その様子を紹介する。
話を聞いたのは、Design Project ManagerのYitien Hwang氏、 ASUS Desing CenterのAssociate VPのH.W. Wei氏、Zenbookシリーズのデザインを担当しているPonien Chen氏、ProArtシリーズのデザインを担当しているMumu Fong氏、ROG Allyのデザインを担当しているLovelock Chia氏の5名だ。
ASUSのデザイン哲学は“Simple Made Meaningful”
ASUSでは、“Simple Made Meaningful”、“シンプルの中に意味を持たせる”という哲学のもと、直感的であり自然であり使いやすいもので、ユーザーに重要な意味を持たせるものでなければならないと考え、製品をデザインしているという。そういった考えのもと、ASUS Desing Centerには、経験やバックグラウンドの異なる多数の専門家が所属し、大きなチームとしてデザインに取り組んでいる。
たとえば、ROG Ally Xでは、第1世代のROG Allyユーザーから多くの意見をもらうとともに、実際にユーザーがROG Allyをどのように使っているかを調査したうえで、デザインの改善を施している。
具体的には、ROG Ally Xでは筐体がより丸みを帯びた形状とすることと、グリップ部の厚さを増やすことで、持ちやすさやグリップ感を向上。また、内蔵バッテリ容量を増やすことで、より長時間利用できるようにした。
このほかにも、マクロボタンの配置の見直し、ジョイスティックやボタンのレイアウトの改善、冷却システムの強化、I/Oポートのレイアウト改善などにより、より優れたゲーミング体験ができるようにデザインを変更している。
ProArtシリーズでは、プロのクリエイターをターゲットとしていることもあり、ハードウェアとソフトウェアのシームレスな連携による優れたクリエイティビティの実現ということを重視したデザインを行なっているという。
そして、スタジオクリエイターだけでなく屋外で活動するクリエイターのニーズにも対応できるよう、優れた耐久性、滑り止め加工、耐衝撃や防水の加工を施しつつ、見た目の美しさも追求。また、クリエイターには黒が好まれることが多いことや、クリエイティビティの中でさまざまな色を使ってほしいという思想のもと、筐体カラーはブラックを採用しているそうだ。
そして、Zenbookシリーズ。その中でも、日本市場に向けて開発されたZenbook SORAでは、それまでのZenbookシリーズとは異なるアプローチでデザインされている。
Zenbook ZORAの開発にあたり、Zenbookの開発チームやデザインチームのメンバーが、実際に東京を訪れてさまざまな調査を行なっている。
たとえば、朝地下鉄に乗ってみてどのように通勤通学しているのか、その際にどういった課題があるのか、といったことを体験。そこから、設計のポイントとして、軽さだけでなく耐久性も兼ね備える携帯性、周囲に溶け込むデザイン、長時間のバッテリ駆動や優れた接続性などの利便性、という3つのポイントが浮かび上がり、それに合わせてデザインを行なった。その結果、“セラルミナム”という耐久性に優れ見た目にも美しい素材の採用や、1kg以下の軽さと優れた耐久性の両立などを実現したZenbook SORAが完成したそうだ。
以上を踏まえたうえで合同インタビューが行なわれたので、以下にその様子を紹介する。
多種多様な人のニーズに応えるためには
――デザインをする上で、多種多様な人が求めるものに対応し、最終的に1つのデザインに落とし込むというのは、実際には非常に難しいことだと思います。どういったところに注視してデザインを突き詰めているのでしょうか。
先ほど、Simple Made Meaningfulという哲学のもとデザインしているということをお話ししましたが、そこには「Desirability(ニーズ)」、「Feasibility(実現可能性)」、「Viability(ビジネス性)」という3つの原則があります。もちろん、ユーザーによってニーズは変わってきますから、だからこそユーザーをグループに分けてデザインするようにしています。
たとえば今回紹介したように、ゲーミング、クリエイター、一般ユーザーに分けて、それぞれのセグメントでユーザーが最も必要としていることは何なのか焦点を当てて、具体的なユーザーニーズを定義したうえで開発するようにしています。
――日本のメーカーでは、機械設計のエンジニアとデザイン担当との間でさまざまなバトルがあると聞くことがよくありますが、そういったことはありますか。
幸運なことにASUSの機械設計エンジニアは我々デザインチームと同じ目標を持っていますし、我々のデザイン指向の3つの原則についても理解しています。ですから、ユーザーのニーズは何なのか、機械設計エンジニアと細かく話をして、最終的にユーザーにとって価値があるものになっているか話し合っています。
また、たとえば我々デザイナーは機械設計のエンジニアと同じ視点で議論できるように、機械設計の知識も増やすようにしています。そうすることによって、お互いのことをより深く理解し、より建設的な議論ができるようにしています。
もしどちらも引かないような状況になった場合には、ほかの立場の担当者も含めて、チーム全体で相談して最終的な判断を行なうことになります。
――Zenbook SORAをデザインするために日本で満員電車に乗ったりしたとのことですが、実際に体験してどのような印象を持ちましたか。
日本には20回ほど行ったことがあるのですが、行くたびに朝の電車の混み具合を見て、大きなストレスや不安を抱えて乗ってるんだろうな、と思っていました。それもあってZenbook SORAでは、全体的な筐体の形状やデザイン、カラーなど、不必要なものをそぎ落として、落ち着ける、リラックスできるように感じてもらえるようにデザインしました。
――これまで、ユーザーにとって価値のある製品を作るためにさまざまな努力をされてきたと思いますが、これまで挑戦した中で特に印象に残っているものはありますか。
2024年に上海で行なわれた展示会にROG Azoth Extreme Gaming Keyboardを使った特別デザインモデルを出さなければいけないことになったのです。それまでわずか2カ月しかなかったのですが、ROG Azoth Extreme Gaming Keyboardに、分解したROG Ally Xを組み合わせて、そのままで小型PCとして使えるようなものを作りあげました。
ROGのプロダクトアイデンティティを失うことなく、しかもそれを自分が好きなガンプラのような形にカスタマイズし、それをわずか2カ月で作り上げたのは、とても大変な体験でしたが、非常に貴重な経験でした。
――PCをデザインする上で、人間が普遍的に、国を問わず求めているデザインやUXについてどのようにお考えでしょうか。
どこ国においても普遍的に求められる特性として、観点であること、そして使いやすい、という点があると思いますので、そこは常に追求するようにしています。そのため、場合によっては社内で各チームと衝突することもありますが、ASUS Desing Centerとしては、普遍的に求められる使いやすさを追求し、機能的な価値と感情的な価値の双方を必ず満たさなければならないという観点で設計しています。
たとえば、Vovobookシリーズは、メインストリーム、つまり主流かつ普遍的なニーズを満たす製品ですが、多くの人が、遅くないPC、重くないPC、熱くならないPCを求めていると考えて設計しています。
――台湾に拠点を置く企業として、台湾の美的感覚や伝統などが製品のデザインに反映されていると思いますか。
台湾の企業はイノベーションが好きという点があります。新しいものを発明して、こんなことができるということを示すのが好きだったり、技術的な新しい機能に人の感情を紐付けてこんなことができると示すことが好きだったりします。
我々のデザイナーは台湾で学んだ人が多いですが、海外留学している人も多いので、いろいろな考えがあると思います。
たとえば、自然を愛するというのは、台湾の人、ほかの国の人にも通じるところですが、Zenbookのデザインでは自然と人、そしてさまざまな文化がつながり合うところを大切にしたいと考えて、機能と美しさの双方が共存できるようなデザインを心がけています。その1つが、アルミニウムとセラミックを融合させたセラルミナムです。
また、台湾には町工場がたくさんあって、製造業が盛んです。さまざまな試行錯誤を繰り返して物作りを行なうチャンスがあります。先ほどのROG Azoth Extreme Gaming KeyboardとROG Ally Xを組み合わせた作品も、台湾だからこそできたものと思っています。
台湾人は、クリエイティブなことに取り組んだり、新しいものを生み出すのが好きな民族だと思っています。新しい要素を取り入れて、常識を超えたところで新しいものを創造する、そういった意識がすべての製品のデザインに反映できていると思います。
――ありがとうございました。