イベントレポート

AMDがCarrizo搭載ノートブックPCを公開

~FreeSync搭載のディスプレイが多数登場

AMDが公開したCarrizo搭載ノートPCの試作機(写真提供:AMD)

 AMDは、2015 International CESにはブースなどを出展せず、顧客や報道関係者などを対象にして小規模の展示を行ない、事業戦略などを説明している。その中で、11月にシンガポールで開催した“Future of Computing”というプライベートイベント(別記事参照)で計画を明らかにした次世代SoC「Carrizo」(カリッツォ)の状況に関する説明を行なった。

 AMDは写真撮影こそ認めなかったものの、CarrizoのES1(OEMメーカーなどに提供される最初のエンジニアリングサンプルのこと)よりも前の、初期段階のエンジニアリングサンプルを公開し、Windows上でゲームやビデオなどを再生する様子をデモした。

 このほか、今回のCESに合わせて各社が発表した、「FreeSync」(フリーシンク)に対応した液晶ディスプレイなどを紹介した。

Carrizoを搭載したノートPCを顧客や報道関係者などを対象に公開

 Carrizoはメインストリーム向けのCPUで、これまで2チップだった構成が1チップ、つまりはサウスブリッジまでを含めてSoCとして投入される製品となる。Carizzoには2つのバージョンが用意されており、上位で「Kaveri」の後継という位置付けになるのがCarizzo、下位で「Beema」の後継となるのが「Carrizo-L」となる。CarrizoとCarrizo-Lはピン互換で、OEMメーカーはシステムを設計/製造する段階で、CarrizoまたはCarrizo-Lを選べるようになっている。マザーボードを共通化するのは、設計/製造コストの削減になるのでメリットだ。

 AMDはCarrizoを今年(2015年)の半ばに発表する予定としているが、現時点で明らかになっているのは11月に発表された内容程度で、特に大きなアップデートはない。CPUは「Excavator」コアで、GPUに次世代のRadeonグラフィックスを採用し、ARMのTrustZoneのセキュリティプロセッサを内蔵する。AMDによれば、2月に米サンフランシスコで行なわれる半導体関連の学会であるISSCCにおいて、Carrizoのさらなる詳細が公開される予定とのことだった。

 今回はISSCCに先立ってCarrizoの初期サンプルを利用して顧客や報道関係者などに対して動作する様子をデモした。公開されたのはCarrizoは、OEMメーカーなどに提供されるエンジニアリングサンプル(いわゆるES1と呼ばれるエンジニアリングサンプル)よりも前の、社内の評価用に製造される初期段階のエンジニアリングサンプルだ。ドライバの開発なども含めて初期段階にあるため、今回は筆者のカメラによる撮影などは許可されなかった(写真はAMDより提供された公式写真)。しかし、Carrizoが搭載されたノートPCは、実際にWindows 8.1 Updateが動作しており、特に動作には問題がないように見えた。

 また、同時に4K解像度でH.265を再生する様子が公開された。AMDによれば、Carrizoには、次世代のUVD(Universal Video Decoder)が内蔵されており、H.265動画をハードウェアでデコードできるという。H.265のCPUデコードは、強力なx86プロセッサであっても重い処理になるので、固定機能のハードウェアデコーダが内蔵されていることは重要なポイントだ。

 AMDによれば、Carrizoの開発はスケジュール通りに進んでおり、予定通り今年の半ばに製品化の予定であるという。この状態で開発が進めば、COMPUTEXあたりに発表され、9月頃に搭載製品が登場する可能性が高いのではないだろうか。

Carrizo搭載ノートPCの試作機(写真提供:AMD)

FreeSyncに対応したディスプレイがLG、Samsung、BenQから登場

 また、AMDはCESにおいて、同社が推進する「FreeSync」に対応製品が、ディスプレイメーカーから発表されたことをアピールした。FreeSyncは、PCゲームなどをプレイする時に、ディスプレイのリフレッシュレートとGPUから出力される表示を同期させ、表示のズレなどによりティアリングが発生することを防ぐ仕組みになっている。

 元々はAMDがFreeSyncとして提唱した仕様が、現在では業界標準団体となるVESAによってDisplayPortの規格「DisplayPort Adaptive Sync」として規格化された。VESAの規格として採用されたことで、ディスプレイメーカーとしても採用しやすい状況が生じ、仕様通りに実装すれば、追加のハードウェアが必要なく、ファームウェアを変更するだけでDisplayPort Adaptive Syncに対応できる。

 では、なぜ全てのディスプレイで対応しないのかと言えば、バリデーション(評価)コストがかかるためだ。このため、現在DisplayPort Adaptive Syncに対応したディスプレイというのは、ハイエンド向けと言えるPCゲーマー用のディスプレイに留まっており、評価コストを上乗せして若干価格が高くなっても許容してくれるユーザー向けとなっている。

 NVIDIAの類似技術である「G-Sync」がディスプレイに追加のハードウェアを実装しないのといけないので、安価に実現できるというのがAMDの主張だ。今回のCESの発表では、LG Electronics、Samsung Electronicsという韓国の大手2社に加えて、台湾のBenQからもDisplayPort Adaptive Sync/FreeSyncに対応したディスプレイが発売されるとのことだ。

 このほかにAMDは、デスクトップPC版Kaveriに新しいSKUとなる「A8-7650K」を追加し、KabiniベースのAMD Embedded Gシリーズ SoCを搭載した4×4インチ(約10×10cm)サイズの組み込み向けボードとなる「GIZMO 2」などを展示した。

DisplayPort Adaptive Sync/FreeSyncのデモ、オフの時にはこのようにジャギーがでてしまう
オンにするとジャギーはなくなり、かちっとした表示になる
Samsung Electronicsのブースに展示されたDisplayPort Adaptive Sync/FreeSyncのディスプレイ
LG ElectronicsのDisplayPort Adaptive Sync/FreeSync対応のディスプレイ
AMDが発表したKaveriベースのデスクトップ向けCPUとなるA8-7650Kのスペック。小売りの予想価格は105ドル(日本円で約12,600円)で、CPU×4+GPU×6コア、ベースクロック3.3GHz、ターボクロック3.7GHzで、倍率はアンロックになっている
A8-7650Kのベンチマーク結果、Core i5-4460と比較している
AMD Embedded Gシリーズ SoC(Kabiniベース)を採用した組み込み向けボードGIZMO 2。10x10cmの小型の組み込みボードとなっており、米国では199ドルで販売されている

(笠原 一輝)