イベントレポート

Seagate、生成AIのデータ量爆発でHDDが成長。2028年には40TBや50TBに

Seagateブースに展示されていたExos Mozaic 3+シリーズのM30。1ドライブで30TBの容量を実現

 Seagate Technologyと言えばPCユーザーにとってはHDDメーカーとして知られているだろう。実際にはポータブルSSDなどSSD製品も投入されているのだが、フラッシュメモリ自体は生産していないので、実質的には今でもHDD専業のストレージメーカーだ。

 同社ブランド戦略担当 グローバル副社長 ロザリナ・ヒウ氏によれば「弊社が出荷しているHDDの容量は増えている。その最大の要因は生成AIで、クラウドサービス事業者でのニーズはもちろんこと、ワークステーションPCなどでもより大容量のデータを保存したいというニーズが増えており、大容量なHDDへのシフトが進んでいる」とのことで、HDDにより実現されるデータ容量は増え続けており、今後も技術開発を進め大容量化を実現していくという。

HDDからSSDへと変化していったノートPCメインストレージの歴史

1980年に投入された世界初の5.25インチHDDとなるST506。3600rpmで5MBという、今となってはCPUのキャッシュメモリよりも少ない容量(2022年シンガポールのSeagate工場で撮影)

 1980年代にIBM PC、その後互換機が登場していった頃から、HDDはPCのストレージとして利用されてきた。1980年代には、5MB~30MBといったような今となっては冗談のような容量が、5インチサイズでPCの中に格納されていた。Seagateが1980年に投入した「ST506」は、3,600rpmで容量が5MBと、今となってはCPUのキャッシュメモリよりも小さい容量のデータを格納できるストレージとして登場した。その後、小型化(3.5インチと2.5インチ)や大容量化などを経て、現在では最大で32TBのHDDが発表されるに至っている。

1992年に投入された3.5インチで7,200rpmのBarracuda、1GBとこちらも今となってはメインメモリよりも少ない容量(2022年シンガポールのSeagate工場で撮影)

 HDDは磁気ディスク(プラッタ)をモーターで回転させ、ヘッドと呼ばれる磁気を読み書きするアームを高速に移動させることで、データの記録と読み出しを可能にする仕組みをもっている。HDDは、磁気ディスクの密度を高めて、ヘッドを薄型化していくことで、フラッシュメモリなどに比べて大容量を実現しやすく、もっと大容量をという時代のニーズにあっていたこともあり、1990年代~2000年代を通じてPCの主力ストレージの座を長く維持していた。

 状況が変わり始めたのは、2000年代の後半にSSDが本格的に普及してからだ。SSDはフラッシュメモリに、HDDで利用されていたIDEやSATAなどのインターフェイスを司るコントローラを搭載し、HDDと同じインターフェイスで利用するようにしたストレージだ。このため、PCのストレージとして容易に置き換えが可能だった。

 さらに、磁気ディスクとヘッドがないフラッシュメモリを利用するSSDは,ランダムアクセスがHDDよりも高速だったことがPC用のOSでは大きかった。というのも、PC用のOSやそのアプリケーションを起動する際には、ランダムアクセスがほとんどなので、OSやアプリケーションの起動がHDDよりも圧倒的に速かったのだ。

 そうした技術的な理由と、ムーアの法則により、フラッシュメモリの容量も年々増えていった。2000年代の終わりには100GB程度になり、2010年代を通じてそれが1TBに、そして最近では2TB~4TBにとモジュール単位での容量が増えていった。OSに必要なのが数十GB、そしてアプリケーションに同様で数十GBと考えると、100GBを超えた頃から急速にSSDのノートPCへの普及は進んでいる。ノートPC市場では、HDDを搭載した製品は少なくなっているのが現状だ。

生成AIの普及で容量あたりのコストが安価なHDDが導入トレンドに

Seagate Technology ブランド戦略担当 グローバル副社長 ロザリナ・ヒウ氏

 このため多くのノートPCユーザーにとっては、HDDは「オワコン」というのがその印象ではないだろうか。だが、ロザリナ・ヒウ氏によれば、実はHDDは年々出荷している容量が増えているという。

 Seagateが公表した会見年度2024年第3四半期(2024年第1四半期)の決算資料によれば、同期のHDDの総出荷容量は99EBで、前年同期比で4%の上昇、1ドライブあたりの平均容量は8.7TBで、こちらも前年同期比で6%の上昇だと明らかにされている。HDDはデータ容量の観点でみれば、減っているどころか年々増えている。

 ではどんな用途が応用事例なのだろうか? 同氏によればクラウド・データセンターが増えており、そしてワークステーションのようなデスクトップPCの市場でも容量の増加は進んでいるという。「クラウドやデータセンターでも、デスクトップPCでもその要因は生成AIだ。生成AIにより、データの大容量化が進んでおり、HDDの容量あたりのコストが低いという点が注目されている。その結果としてより大容量のHDDを導入する動きが広がっている」と述べ、生成AIによりデータの大容量化が進んだことが、容量あたりのコストが低いHDDが再び評価され、より大容量のHDDを導入する動きにつながっているのだと説明した。

 生成AIの開発は、もちろんクラウドサービス事業者(CSP)のようなパブリック・クラウドサービスを利用して行なわれることが一般的だが、実は結構なボリュームとして、NVIDIAのRTXシリーズなどのGPUを搭載したワークステーションPC上で行なわれる例が少なくない。学習に利用するデータも開発時に利用するデータも大容量ストレージが必要になるのだ。

 しかし、ユーザーとしてはできるだけ省電力でかつ、効率よくストレージを使いたいし、複数のドライブを管理する手間などは省きたい。HDD 1つあたりの電力量は基本的には大容量でも小容量でもそんなに大きくは変わらないので、大容量のドライブを1つにすることで、容量あたりに必要な電力を削減できるのが人気の理由だという。

2028年には1プラッタで5TBを実現

Exos Mozaic 3+のスケルトンモデル

 同氏によれば、現在Seagateが販売しているHDDで、最大容量となるのが「Exos Mozaic 3+」シリーズになるという。Exos Mozaic 3+では熱アシスト磁気記録(HAMR)技術を利用して、1つのプラッターあたりの容量が3TB以上となっているHDDになる。32TBと30TBの2つのモデルが用意されている。

 今後も大容量化に向けて開発を続け、「Mozaic 4+」 「Mozaic 5+」という新しいシリーズのテストを続けており、2028年までには1プラッタで5TBの容量を実現したHDDを導入する計画であるとのこと。

 それが実現すれば、10プラッタの3.5インチでは1台で40TBや50TBという大容量が実現され、容量あたりのコストや、容量あたりの電力が削減されることにつながることになる。それにより、大容量のデータをより低コストで、かつ低ランニングコストで保存できるようになるだけに、今後の動向も要注目だ。

COMPUTEX 2024でのSeagateブース