イベントレポート

薄型ノートの牽引者を目指すDell「XPS 13」2020年モデルの方向性と狙い

左がXPS 13(モデル9380、2019年型)、右が新しいXPS 13(モデル9300、2020年型)、従来モデルよりも小さな底面積で、ディスプレイの表示エリアが広がっていることがよくわかる

 今回CESでは多数のPC新製品が発表された。そのなかで筆者がもっとも印象的だった製品を1つだけ選べと言われたら、間違いなく今回紹介する新しいXPS 13(モデル9300)を選ぶだろう。

 16:10のアスペクト比を持つ13.4型の3,840×2,400ドットないしはWUXGA(1,920×,200ドット)を採用しながら、4面狭額縁を実現することで、画面筐体比91.5%を実現し、ほとんど縁までディスプレイという魅力的なデザインになっている(スペックなど商品の詳細に関しては別記事を参照)。

 そうしたDellで製品デザインをリードするDell Technologies 先進デザイン担当副社長 ジャスティン・ライルズ氏に、新しいXPS 13のデザインに関してお話しを伺ってきたのと、筆者が実際に実機を触ってみて感じたことをまとめていきたい。

DellのXPS 13、現在の大成功の基礎となったのが2015年モデルのXPS 13

Dellが2015年のCESで発表したDell XPS 13(モデル9343)、5年後の今見てもモダンなデザインになっている

 DellのXPSシリーズは、かつては「Xtreme Performance System」の略称だったことが示すように、Dellのハイエンド向けPCのブランドになっており、もともとは同社のデスクトップPCのハイエンド製品群に付けられていたブランド名だった。だが、PCの主流がデスクトップからノートPCへと変わっていくなかで、ブランドの位置づけも変わっていき、じょじょにノートPCのハイエンド製品につけられるブランド名となっている。

 そしてノートPCのモバイル向けハイエンド製品につけられるようになったのは2010年代になってからだ。初代XPS 13は2012年に販売開始され、IntelのUltrabookイニチアシブに対応した製品として薄型、軽量のノートブックPCとなっていた。その時点では数ある薄型ノートPCの1つに過ぎなかったのだが、2015年のCESで発表されたXPS 13(モデル9343)からは、一貫して薄型ノートPCのイノベーションリーダーとして位置づけられるようになった。

 2015年のXPS 13(モデル9343)の特徴は、「Infinity Edge」と呼んでいる狭額縁のディスプレイを採用している点で、13型のディスプレイを12型の底面積に収めた製品として話題を集めた。その後、多くの製品で狭額縁が採用され、今では3辺狭額縁はノートPCでは当たり前のトレンドになっているが、筆者も当時のCESでXPS 13(モデル9343)をみて、率直に言って「Dellらしからぬ」製品だと感じた。

 というのも、それまでのDellと言えばビジネス向けによく言えば質実剛健な、悪く言えば無骨なノートPCを出すベンダーとして認識していたからだ。そのDellがデザイン重視に転換した、それを象徴する製品が2015年のXPS 13(モデル9343)だったと言っていい。

カメラが上部に入ったXPS 13(モデル9380、2019年型)

 その後もDellはXPS 13を進化させてきた。たとえば昨年発表された「XPS 13(モデル9380)」では、新規に開発された2.25mm幅という小型のカメラモジュールで、ディスプレイの上辺も狭額縁を実現し、カメラを上部に内蔵しながらの3辺狭額縁を実現している。

 それ以前のモデルでも3辺狭額縁は実現されていたのだが、ディスプレイの下部にカメラを内蔵していたため、TV会議などでは、相手には下から顔を見上げるような不自然な映像となってしまうため不評だった。それを解決しつつ、3辺狭額縁を実現したのが昨年のXPS 13(モデル9380)だった。

4辺狭額縁を実現できた秘密は、ヒンジとバックライトをコンパクトに収めたこと

Dell Technologies 先進デザイン担当副社長 ジャスティン・ライルズ氏

 そして、今年(2020年)はそれがさらに進化して4辺狭額縁となっている。液晶パネルの下部、つまりディスプレイを支えるヒンジやバックライトなどが入っている部分が狭額縁になったわけだ。

 通常ノートPCでは液晶素子を後ろから照らす役割を持つバックライトは、ディスプレイの下部に置かれている。そこに最近であればLEDバックライトが置かれており、それが下から照らすことで液晶ディスプレイは色を表現できるし、輝度をより明るくするためにはバックライトの性能を引き上げる必要がある。

 バックライトを明るくするためには、当然より性能の良い=大きなバックライトを入れる必要があるため、どうしてもディスプレイの下部にそれだけの面積が必要になってしまうのだ。この点が、4辺狭額縁を実現するのが難しかった最大の理由だ。

 Dell Technologies 先進デザイン担当副社長 ジャスティン・ライルズ氏によれば「われわれは昨年の6月に発表したXPS 13 2-in-1でも、16:10の新しいディスプレイを液晶メーカーと共同で開発した。今回のモデルでもバックライトも含めて液晶パネルメーカーと共同開発し、このサイズの中に収めている」と説明する。

Dell XPS 13(モデル9300)
従来モデル(手前側)と2020年モデル(奥側)のヒンジの比較。ヒンジがよりコンパクトになっていることがわかる
上に乗っている従来モデルと比較して新モデルは、ディスプレイ下部の額縁が狭額縁になっており、キーボードも縁まで来ていることがわかる

 今回のXPS 13(モデル9300)のヒンジ部分を注意深くみてみると、昨年のXPS 13に比べてヒンジ部分がシンプルでコンパクトになっていることがわかる。つまりヒンジを強度に影響がない程度にコンパクトにして、その空いたスペースに、液晶パネルメーカーと共同で開発したよりコンパクトなバックライトを入れることで、ヒンジ部分の額縁を5mm以下(Dellでの狭額縁の定義は約5mm以下となっている)にしている。

 かつ、昨年のモデルまでは16:9のパネルだったが、今年のモデルは16:10のの3,840×2,400ドットないしはWUXGAの16:10のパネルを採用している。この16:10パネルは昨年のCOMPUTEXで発表されたXPS 13 2-in-1(別記事参照)でも採用されており、そのときのパネルと今回のXPS 13に採用されたものがまったく同じかはどうかわからないが、技術的にはかなり似通ったものである可能性が高い。

 両製品ともに、採用されている液晶パネルの輝度は500cd/平方mmで、3,840×2,400ドットのパネルはDisplayHDR 400に対応、DCI-P3は90%という広色域に対応していることは同等なので、おそらく同じパネルを採用しているのだろう。

 ただし、すでに述べたとおり、今回のXPS 13では4辺狭額縁を実現するために、バックライトに関しては小型化が必須となっており、そこは従来のパネルと違うかもしれない。

 この16:10パネルの採用、4辺狭額縁の実現により、表示面積は6.8%増えているが、底面積は2%減り、画面筐体比(筐体のサイズに対する画面の割合)は91.5%に達しているという。たしかに前から見ているとほとんどディスプレイの表示エリアと感じるほど、圧倒的に美しいデザインになっている。

新旧モデルのサイズ比較

A面とD面は従来通りCNCマシンによるアルミ削り出し、そのためLTEモデムは引き続き内蔵できず

 今回のXPS 13でも従来のXPS 13と同じように、A面(ディスプレイカバー)とD面(底面)はCNCマシンによるアルミニウムの削り出しで製造されている。周辺部分はダイヤモンドカッターを使って高精度に削り出しており、よりエッジが際立つように工夫されている。

 キーボード面となるC面はシルバー/ブラックモデルがカーボンファイバー、ホワイトモデルがガラス繊維織物(woven glass fabric)を素材としている。これにより軽量でプラスチックよりは高い堅牢性を実現することが可能になっている。とくにホワイトモデルではガラス繊維織物を採用することで、汚れにくくなっており、それも大きな特徴の1つとなっている。

XPS 13のA面(天板)、CNCマシンによるアルミニウム削り出し
上が新XPS 13、ヒンジのエッジが削り出しで加工されている
ダイヤモンドカッターを利用した加工
D面(底面)
ブラック/シルバーモデルのC面
ホワイト/フロストモデルのC面

 このように軽量で強固な素材をふんだんに使うことで軽量で堅牢性を実現しているが、1つだけ課題が残ってしまっている。それがアルミは電波を通しにくく、とくにA面にアンテナを置くことができないため、Wi-FiやBluetoothのアンテナはなんとか入れられたものの、LTEや5Gなどのセルラーモデムに関してはアンテナを置くことができなかった。そのため今回のモデルでも搭載が見送られている。

 ライルズ氏は「セルラーモデムに関してはわれわれも必要性を痛感しているし、この製品に載っていた方がいいのは言うまでもない。しかし、現実的にデザインを優先して作るとそこはトレードオフになってしまっている」と、依然として将来的に何らかのソリューションで解決すべき課題としてセルラーモデムも内蔵を検討していると述べる。

 このあたり、Dellはとても割り切っていて、デザインが優先される一般消費者向けのXPSではセルラーモデムなし、法人向けのLatitudeシリーズではセルラーモデム内蔵と切り分けている。法人向けに比べると一般消費者向けはセルラーモデムのニーズは低いのは事実だが、じょじょにそれも変わってきている。Lenovoが今回のCESで5G PCを一般消費者向けのYogaブランドでリリースしたように、一般消費者向けでもPCへのセルラー内蔵は当たり前になりつつある。その意味ではこの点は来年のCESで発表されるであろう2021年モデルへの課題と言えるだろう。

外箱と内装、リサイクルできるように配慮されている

IRカメラによるWindows Hello顔認証と32GBメモリにも注目、XPSロゴは新しいロゴへと変更

新しいXPSのロゴ、よりシンプルなデザインへ

 また、今回のXPS 13では細かな所の改良も見逃せない。筆者的には2つの改良点が重要だと感じた。1つはカメラにIRセンサーが入りWindows Helloの顔認証に対応したことであり、もうつ1が搭載可能な最大メモリが32GBになったことだ。

 すでに述べたとおり、2019年型のXPS 13(モデル9380)では、幅2.25mmの超小型カメラを開発し、上にカメラを内蔵しながら3辺狭額縁を実現していた。今年のモデルには同じ2.25mm幅ながら、IRセンサーが内蔵されており、Windows Helloの顔認証が利用できるようになっている。これにより、電源ボタンに統合されている指紋認証センサーと両方が利用できるようになっている(昨年モデルでは指紋認証センサーのみが利用可能だった)。

 どちらかを利用できればいいのではないかと思うが、たとえば顔認証だけしかないと太陽光下や光がカメラにあたる角度などによってはうまく認証できないときがある。逆に指紋認証だけだと、ディスプレイを開くだけで認証が済むという手軽さがない。このため、今回のXPS 13で両方サポートされていることは歓迎して良いだろう。

 メモリが32GBになっている点も大きな進化点と言える。すでにXPS 13 2-in-1では実現されていたが、クラムシェルのXPS 13でも実現された。今回のXPS 13ではLPDDR4/4x-3733MHzで4GB、8GB、16GB、32GBという4種類のメモリ構成が用意されており、購入時に選択できるようになっている。

 ただし、Dellの最近の販売システムでは完全なCTOというよりは、ある程度選べる構成が決まっており、そこから選ぶかたちになっているため、おそらく32GBの大容量モデルは最上位のCPU(Core i7-1065G7)や大容量ストレージ(1TBや2TB)との組み合わせなどで選べることになるだろう。

 最近のWindowsアプリケーションはいずれも肥大化の傾向にあり、とくにクリエイター系のツール(写真編集や動画編集など)に関しては8GBはもちろんのこと、16GBでも利用率95%とか普通になりつつある。その意味で、32GBが選べるようになっているのはとても嬉しいと言える。

左が従来のXPSのロゴ、右が新しいXPSのロゴ

 最後に、不覚にもライルズ氏に言われるまで気がつかなかったのだが、じつは今回のXPS 13ではXPSのロゴが新しくなっている。「我々は過去11年間XPSをデザイン重視で進化させてきた。今こそロゴを新しいフラットなデザインへと進化させることにした」(ライルズ氏)とのとおり、新しいXPSのロゴは従来のやや立体的なものから、フラットなデザインへと変更されている。

 現在世界的にこうしたフラットなロゴが流行になっており、たとえば自動車の世界ではフォルクスワーゲンのVWのロゴもフラットなロゴへと変更されることが昨年明らかにされている(僚誌Car Watchの記事)。DellのXPSの新しいロゴもそれと同じようにフラットなデザインを採用しており、よりシンプルに美しくなった。

 XPS 13はその新しいXPSロゴを採用した最初の製品となる。それも非常に細かなことであるが新しいXPS 13の魅力の1つであるということができるだろう。