イベントレポート

IEDM 2019、5nmのCMOSロジックやL4キャッシュMRAMなどに注目

「IEDM 2019(2019年国際電子デバイス会議)」の会場である米国カリフォルニア州サンフランシスコのHilton San Francisco Union Squareホテル。2019年12月7日午後5時(現地時間)ころに筆者が撮影

 半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大の国際学会「IEDM 2019(2019年国際電子デバイス会議)」が、2019年12月7日(現地時間)に米国カリフォルニア州サンフランシスコではじまった。7日と8日のプレイベントに続き、9日にはメインイベントである技術講演会(テクニカルカンファレンス)が、午前の全体講演(プレナリー講演)でスタートした。

 9日午後の技術講演会がはじまる前の時間帯には、報道関係者向けの昼食兼説明会(プレスランチ)をIEDM 2019の実行委員会が実施した。プレスランチではIEDM 2019の見どころと注目講演(ハイライト講演)を広報担当チェアパーソンが紹介した。

プレスランチの説明会タイトルスライド
2019年のIEDM(IEDM 2019)の見どころ。学会の開催テーマは「Innovative Devices for an Era of Connected Intelligence(賢くつながる時代に向けた革新的なデバイス)」

 IEDM 2019では、技術講演会での発表を求めて630件の論文が投稿された。実際に口頭講演で発表される論文の件数は238件(招待講演を含む)。およそ3分1と狭き門である(投稿者の3分の2は発表できない)ことがわかる。

 技術講演会では締め切りを引きつけた「レイトニュース(late news)」論文が毎年、いくつか追加される。今年(2019年)のレイトニュースは3件あり、5nm世代のCMOSプラットフォームに関するTSMCの講演と、22nm技術の埋め込みSTT-MRAM技術に関するTSMCの講演、異なる半導体材料による3次元集積化技術に関するIntelの講演を予定する。

 レギュラー講演のほかには、特「フォーカスセッション(FS : Focus Session)」と呼ぶ、定のテーマしぼった招待講演を基本とするセッション設けた。

 講演会以外では、関係企業によるテーブルトップ形式の展示会(エキシビジョン)、昼食を兼ねた講演会など、パネル討論会(パネルディスカッション)などが予定される。

4つのフォーカスセッションで次世代に向けた研究動向を把握

 昼食説明会では続いてフォーカスセッションの概要が説明された。「次に来ると予想される研究テーマ」についてしぼった内容の招待講演で構成される。IEDMでは恒例となっているセッションである。今年は4つのフォーカスセッションを用意した。

 1つは人間と機械のインターフェイスをテーマとするセッション(セッション番号10、「Human Machine Interface」)である。人間の手の操作を機械で把握するグローブ、低遅延のマシンビジョン、人間の視線を追跡するシステムなどの研究が発表される。

フォーカスセッション(FS)「Human Machine Interface(人間と機械のインターフェイス)」の概要

 もう1つは回路とシステムの信頼性とセキュリティをテーマとするセッション(セッション番号13、「Reliability and Security in Circuits and Systems」)である。RF回路とミクスドシグナル回路の信頼性に関する検討、システムの状態を把握するテレメトリ、機械学習を活用したSSDの信頼性向上、安全な暗号回路の設計などの研究が発表される

フォーカスセッション(FS)「Reliability and Security in Circuits and Systems(回路とシステムの信頼性とセキュリティ)」の概要

 3つ目は、次世代のAIハードウェア技術をテーマとするセッション(セッション番号22、「Emerging AI Hardware Technologies」)である。処理回路とメモリを融合した高効率のDNNアクセラレータを設計する手法、アナログ回路とメモリを融合したDNNアクセラレータ、センサーと処理回路を一体化するとともにメモリと演算回路を一体化したエッジ向けAIデバイスなどの研究状況が説明される。

フォーカスセッション(FS)「Emerging AI Hardware Technologies(次世代のAIハードウェア技術)」の概要

 最後は、量子コンピューティングのインフラストラクチャをテーマとするセッション(セッション番号31、「Quantum Computing Infrastructure」)である。超電導エレクトロニクスによる量子コンピューティングのインフラストラクチャや、スパース化したスピン量子アレイによって制御エレクトロニクスと接続するワイヤの本数を減らす試みなどが登場する。

フォーカスセッション(FS)「Quantum Computing Infrastructure(量子コンピューティングのインフラストラクチャ)」の概要

研究者と技術者のキャリア形成を考える昼食会

 続いて、昼食を兼ねた講演会「IEDM Carrier Luncheon」を説明してくれた。前回の2018年からはじまったイベントで、今年は第2回となる。若手の学生や研究者などに向けて、研究者・技術者としてのキャリアのこれまでをベテランがスピーチする。講演者はIntelのエンジニアとMicron Technologyのバイスプレジデントを予定する。

昼食を兼ねた講演会「IEDM Carrier Luncheon」の概要。12月10日の午後0時30分~午後2時の予定で開催される

テーブルトップ展示会とポスター発表を同じ部屋で開催

 テーブルトップ形式の展示会は、9日(月曜日)~11日(水曜日)の日程で開催される。20社近くの企業がブースを構える。なお展示会の会場では10日に学生による研究のポスター発表、11日にMRAM研究のポスター発表が開催される。

展示会とポスター発表の概要

 また10日の夜(午後8時)には、恒例のパネル討論会(パネルディスカッション)が予定されている。「ムーアの法則の終焉とAI時代の到来」を著名な研究者がパネラーとして参加者とともに議論する。

パネル討論会(パネルディスカッション)の概要

3次元集積化に進む未来のCMOSロジック

 ここからは技術講演会の注目講演(ハイライト)講演である。注目すべき分野を最初に説明した。「CMOS技術」、「3次元集積化」、「メモリ(NVM、MRAM、ReRAM、FeRAM)」、「ニューロモルフィックコンピューティングとそのデバイス」、「新材料とアーキテクチャ」、「パワーエレクトロニクス」、「負性容量デバイスとその応用」が注目分野である。

ハイライト講演に関係する分野(注目の分野)

 はじめは「CMOS技術」のハイライト講演である。最近はとくに高性能ロジックで、「3次元集積化」との関係を深めている。Intelは、300mmウェハの貼り合わせ技術によってSiのnチャンネルFinFET型MOS FETと、GeのpチャンネルGAA型MOS FETを積層接続するCMOS回路を試作した(講演番号29.7、レイトニュース)。Taiwan Semiconductor Research Instituteを中心とする研究グループは、GAA型MOS FETをモノリシックに積層するプロセスを開発した(講演番号3.3)。上層のプロセス温度が400℃以下と低いので、下層のMOS FET回路を劣化させずに済む。

CMOS技術に関する講演セッションの一覧
CMOSロジックの3次元集積化に関するハイライト講演

 CMOSロジックのプラットフォーム技術では、TSMCが5nm世代のCMOSプラットフォーム技術を発表する(講演番号36.7、レイトニュース)。前の世代である7nm世代に比べるとロジック回路の密度は2倍に増加し、動作速度は15%向上し、消費電力は30%減少した。

TSMCが開発した5nm世代のCMOSプラットフォーム技術

MRAM技術の研究成果が続出

 メモリ分野では、MRAM技術に関する研究成果が続出する。オンチップキャッシュを想定した開発とマイコンの埋め込みメモリを想定した開発がある。Intelはマイクロプロセッサの4次(L4)キャッシュを想定した高速で微小なSTT-MRAM技術を発表する(講演番号2.4)。TSMCは22nmのCMOSロジックと互換の埋め込みSTT-MRAM技術を開発した(講演番号2.7、レイトニュース)。自動車用マイコンの埋め込みフラッシュメモリを置き換える。

メモリ技術に関する講演セッションの一覧
MRAMの研究成果に関するハイライト講演(その1)

 またSamsung Electronicsは、記憶容量が1Gbitと大きな埋め込みSTT-MRAMの開発を報告する(講演番号2.2)。28nmのFD-SOI技術で製造する。GLOBALFOUNDRIESは、22nmのFD-SOI技術で製造したSTT-MRAMマクロを開発した(講演番号2.3)。マクロの記憶容量は40Mbitである。

MRAMの研究成果に関するハイライト講演(その2)

 メモリ向けの強誘電体技術でも注目すべき講演が少なくない。University of Norte Dameを中心とする研究チームは、比誘電率が38と高い強誘電体を試作した(講演番号7.4)。CEA-Letiを中心とする研究グループは、300mmウェハの130nmプロセスで強誘電体キャパシタの不揮発性メモリを作成してみせた(講演番号15.7)。CMOSロジックの配線工程(BEOL)に強誘電体キャパシタを形成した。

メモリ向けの強誘電体技術に関するハイライト講演

GaNパワーデバイスの性能が向上

 最後にパワーデバイスでは、窒化ガリウム(GaN)を使ったパワーデバイスの性能向上が目立った。EPFLなどの共同研究チームは、耐圧が1200Vと高く、オン抵抗が2.8Ωmmと低いGaNパワーデバイスを開発した(講演番号4.1)。imecはSOI基板の上にGaNデバイスだけで電力変換回路をモノリシックに集積してみせた(講演番号4.4)。GaNのHEMTやショットキーダイオード(SBD)、MIMキャパシタ、抵抗素子などを形成している。

パワーデバイスに関連する講演セッション
パワーデバイスに関連するハイライト講演

 このほかにも、興味深い講演が少なくない。順次、現地レポートでご報告していくので期待されたい。