イベントレポート

MicrosoftはAzure Sphere 、Azure IoTを中心としたAI/IoTソリューションを展示

 PC Watchの読者にとってのMicrosoftは、PC用のOSを作るソフトウェアベンダーという認識だろう。しかし、すでにMicrosoftは大きく変わりつつあり、同社のクラウドサービスである「Azure」を中心としたインテリジェントクラウド、インテリジェントエッジを提供する企業へと大きく変わりつつある。Windows OSはその中でインテリジェントエッジのOSとして役割へと大きく姿を変えつつある。

 そうしたMicrosoftは同社ブースも従来のPC中心の展示から、Azure IoTやAzure Sphereと言った、Azureを利用したIoTのソリューション展示に力を入れている。

ITに関係のなかった機器ベンダーにも、手軽でかつセキュアなインテリジェントエッジのソリューションを提供するAzure Sphere

Azure Sphere用にMicrosoftとMediaTekが共同で開発したMT3620、Mt.Blancaの開発コードネームがつけられている、40nmプロセスルールで製造されるMCU

 今回Microsoftは自社ブースの半分近くを使って、IoT(Internet of Things)の展示を行なっていた。以前のCOMPUTEX TAIPEIのMicrosoftブースと言えば、PC関連、Xboxなどのゲーミング関連が主役で、OEMメーカーのPCがずらっと並べられたり、Xbox Oneなどが並べられてプレイできる、そういうブース構成だった。

 しかし、近年は徐々にIoT関連の展示が増えている。以前から組み込み(Embedded)と呼び方でそうした製品も展示されていたが、そんなにブースのスペースを割いていない、そういう印象だった。しかし、今回のMicrosoftブースでは2階建て構成になっており、1階の来場者なら誰でも入れるブースの3分の1がIoTに、そして2階の限定されたエリアはすべてがIoT関連になっていた。

 Microsoftは近年の新しいスローガンとして、「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」を、従来のクラウドファースト、モバイルファーストに替えて使っている。クラウドとエッジデバイス重視という意味では同じ意味のように聞こえるかもしれないが、そこに「インテリジェント」、もっと言えばマシンラーニング(機械学習)/ディープラーニング(深層学習)を利用したAIを適用していくという意味が込められている。

 AIを活用にするには、クラウドと接続する、つまり機器をインターネットに接続してクラウドとデータがやりとりできるように設計しなければならない。それを業界ではIoTと呼んでいるのだが、そのIoTを一般化するには、これまでMicrosoftのパートナーだったようなIT系のベンダーだけでなく、ITとは無縁だった機器ベンダーを取り込んでいく必要がある。

 具体的にどういうことかと言えば、例えばエアコンをIoT化することを考えてみよう。これまでMicrosoftのパートナーだったIT系のベンダーが、エアコンをすぐに作れるようになるのかといえばノーだ。もちろん時間をかければ可能かもしれないが、それよりもすでにエアコンを作っているベンダーにITの機能を取り込んでもらった方が速いのは誰が考えても明白だろう。だが、そうしたベンダーにはIT技術のリソースを持っていない。これからエンジニアに勉強してもらって取り込んでもらえれば、もしかしたら数年後には実現できるかもしれない。しかしながら、現状では市場はもっとタイムツーマーケットを求めており、それでは遅いのだ。

MicrosoftブースのAzure Sphereの展示

 そこで、現在IT業界が取り組んでいることは、そうした非IT系のベンダーでも簡単にIoT機器を製造できるようにする開発キットだ。非IT系のベンダーはそれを自社の製品を組み込んで、開発することで短期間に製品化までこぎ着けることができる。そうしたソリューションはMicrosoft以外のクラウドサービスプロバイダーも提供しているが、Microsoftが提供しているAzure Sphereがひと味違うところは、エッジ側のMCU(Micro Controller Unit)の仕様にまで踏み込んでいることだ。

 MicrosoftはこのAzure Sphere向けに、MediaTekと協力して開発したMCUのMT3620を提供している。このMCUは、Arm Cortex-A7、Cortex-M4、Wi-Fi、Microsoftが規定したセキュリティエンジンなどを内蔵したSoCで、単体でIoTの機能を機器に付加できる。

 重要なのは、Microsoftのセキュリティエンジンが搭載されていることで、機器ベンダーは難しいことを考えなくても、MicrosoftのクラウドサービスであるAzureとインターネットを介しても安全にデータのやりとりができる点。IoT機器ではユーザーデータの安全性が常に問題になるだけに、この点はこれからIoTに取り組もうというベンダには嬉しい点となる。

 なお、MicrosoftはこのMCUをMediaTekとだけでなく、他の半導体パートナー(NXP、Qualcomm、STMicroelectronics、東芝など)にも拡大する計画で、今後ラインナップがどんどん増えていくことになるだろう。

LEONIが提供するインテリジェント充電ケーブルのデモ。Azure Sphereの開発ボードで設計されている

 今回Microsoftブースでは、ドイツの自動車用電線メーカーのLEONI(レオニ)がこうしたAzure Sphereを利用したインテリジェント充電システムのデモを行なった。LEONIは自動車の部品メーカーで、これまでITとは縁遠かった企業だが、そうした企業でもAzure SphereのMCUとAzureをセットで利用することで短期間でこうしたインテリジェントな製品を提供できることが可能になる。

 今後そうした例がじょじょに増えていくことになると思われ、今回のCOMPUTEX TAIPEIで展示されたソリューションはほんの始まりに過ぎないだろう。IoTに興味がある開発者であれば、Azure Sphere、その動向には要注目だ。

Buildで発表されたQualcommと共同で開発したVision AI Development Kitなどが展示される

 Microsoftはそのほかにも、IoT向けソリューションなどを展示した。5月に行なわれたBuildで発表されたQualcommとの協業で作られた「Vision AI Development Kit」も展示されていた。Vision AI Development KitはMicrosoftがQualcommと協業して作った開発キットで、AzureのAIとカメラを活用したアプリケーションを作る際に利用できる。

 例えば、AIを利用した監視カメラアプリケーションを作成する、そうした時に活用することができる。このVision AI Development Kitは、MicrosoftのIoTプラットフォームであるAzure IoT向けに作られており、Azure IoT向けのアプリケーションを開発する開発者など向けとなっている。

Vision AI Development Kit

 このほかにも、Azure IoTを利用した展示は多数行なわれており、台湾のタクシー配車システム、警察向けの監視カメラ、インテリジェント充電システムなどが展示されていた。

Azure IoTを利用した台湾のタクシー配車システム
警察向けセキュリティカメラソリューション、AzureのAIを利用して容疑者などを認識する
台湾のAdvantechが提供しているTesla社向けのインテリジェント充電システムもAzureベースで作られている
Crestronのスマートビルディングソリューション、Office 365に対応したアプライアンスを利用できたりする
Nextcomのリテール向け自動精算システム。上部のカメラで顧客を認識し、手前の下向きのカメラで商品を認識して自動で精算できる。Amazon Goのような無人店舗を実現できる
Surface Hubを横にしたようなデバイスだが、レストラン向けのスマートテーブル。テーブルを操作して注文ができる