イベントレポート

相変化メモリ技術が大きく進化、書き換え電流を5分の1に低減

~VLSI技術シンポジウム2016レポート

 米国のIBM T. J. Watson Research Centerと台湾のMacronix Internationalは、データの書き換え電流を従来の5分の1に下げた相変化メモリ(PCM)技術を開発し、国際学会「VLSI技術シンポジウム」で6月15日にその概要を発表した(講演番号12.4)。

 相変化メモリ(PCM: Phase Change Memory)は、「カルコゲナイド合金」と呼ぶ材料が2つの状態(相)を持ち、どちらかの状態(相)に電気的に移行可能な性質を利用したメモリである。2つの相は結晶相とアモルファス相で、結晶相では電気抵抗が低く、アモルファス相では電気抵抗が高い。

相変化メモリ(PCM)の記憶素子。カルコゲナイド合金の状態(相)を結晶相とアモルファス相のどちらかにすることで、電気抵抗の値を変える

 電源を切っても2つの状態は残るので、不揮発性メモリとなる。カルコゲナイド合金の記憶素子とメモリセルの選択素子で1個のメモリセルを構成できるので、原理的にはDRAMに近い高密度メモリを作れる。また相変化メモリ(PCM)には、抵抗値を比較的自在に制御できるという特長がある。

 これらの特長からPCMは、ストレージクラスの大容量メモリ、ニューロコンピューティング用メモリ、非ノイマン型コンピュータ用メモリ、IoT(Internet of Things)用メモリとして期待がかかっており、研究開発が進められている。

 ただしPCMには、相の変化、すなわち、データの書き換えに必要な電流が高いという弱点がある。これには主に2つの理由がある。1つは、電気抵抗を利用した加熱による温度変化が、相変化には必要なこと。もう1つは、記憶素子に放熱性の良い材料、つまり、金属や合金などを使うので熱が周囲に逃げ、加熱の効率が低くなってしまうことである。

 特に問題となるのが、結晶相をアモルファス相に変化させるデータ書き換え(「リセット」と呼ぶ)動作で、高い温度を必要とするので消費電流が高くなってしまう。

アモルファス領域に粒状結晶を埋め込む

 リセット動作の消費電流を下げるためには、どのような手段を取るべきか。IBMとMacronixの共同研究チームは、以下の2つの手段を講演で挙げていた。

  • 1つは、相変化を起こす領域の体積を極力、小さくすること
  • もう1つは、熱を逃さずに、閉じ込めること

 これらの手段を実現するために考案したのが、アモルファス領域の内部に多数の粒状結晶(1個の粒状結晶の寸法は5nm以下)を埋め込んだ構造である。粒状結晶の間(Inter-Granular)でだけ、相変化を起こす。すると相変化領域の体積が極めて小さくなるとともに、電流が結晶間だけに集中するので熱の広がりが抑えられる。この方法を発表者は、「Inter-Granular Switching(IGS)」と呼んでいた。

 「Inter-Granular Switching(IGS)」の効果は絶大だった。記憶素子のリセット電流を比較すると、温度950Kに加熱するために必要な電流値は従来技術では43μAであったのに対し、IGS技術では8.3μAと大幅に減少した。なお従来技術では950Kに達するまでに必要な時間は約15ns、IGS技術では約20nsである。遅延時間で5nsのペナルティはあるものの、電流量は約5分の1に下がっている。

記憶素子を950Kに加熱するために必要な電流値の比較。左はIGS技術、右は従来技術による温度上昇曲線
試作した粒状結晶構造の透過型電子顕微鏡(TEM)観察像。左の写真は高抵抗(リセット)状態の領域。「C」とあるのは孤立した粒状結晶。セット動作に入ると、粒状結晶「C」がお互いに接触しようと成長を始める。そして抵抗の低い経路ができる。右の写真は低抵抗(セット)状態の領域。「A」とあるのはアモルファス部分。リセット動作に入ると2つの「A」部分の間に矢印のように電流が流れ、粒状結晶間の導電領域をアモルファス化する

 IGS技術で試作した記憶素子の抵抗比(高抵抗状態と低抵抗状態の比率)は、約10倍~約100倍を確保した。直径が35nm、厚みが1.5nmのリング状下部電極で評価した値である。リセット電流の必要値は20μAで、寸法を考慮すると0.2μA/nmと極めて低い値になっているとする。従来技術での試作例では直径20nmに対して4.5μA/nmという値があり、単純に比較すると20分の1以下になっていることが分かる。

リセット電流と電気抵抗の値。グラフ内の「Reset」が高抵抗状態(アモルファス相)、「Set」が低抵抗状態(結晶相)を意味する

記憶容量256Mbitのシリコンダイを試作

 IBMとMacronixの共同研究チームは、IGS技術を導入した、記憶容量が256MbitのPCMシリコンダイを試作して見せた。セット動作に要する時間を評価したところ、80nsecとかなり短い時間を得た。

試作した256Mbitシリコンダイの写真と、セット動作のシュムープロット

 試作した256Mbitのシリコンダイでデータ保持期間を測定したところ、55℃で100年、70℃で6年という、かなり良好な推定値となった。また、セット動作とリセット動作の繰り返しによる書き換えサイクル試験を実施したところ、10の11乗サイクルというこれもかなり良好な結果を得た。

左のグラフはデータ保持期間の測定結果。推定では、55℃で100年を超える保持期間を得られる。右のグラフはデータ書き換えサイクルの測定結果。10の11乗サイクルという、かなり良好な値を得た。なお不良発生のモードは高抵抗側の短絡不良だった

 これらの測定結果は、研究が初期段階であることを考慮すると、非常に有望だと言える。今後の改良によって、性能がさらに向上することが期待できそうだ。