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BCN、販売金額ベースで回復傾向を見せるPC市場動向を解説
~「新たな価値を再構築すればPCは復活できる」
(2013/11/13 17:56)
株式会社BCNは13日、「パソコン復活への処方箋~求められる本格的コンピューティング市場の開拓」と題し、同社が収集した大手家電量販店のPOSデータなどを基に、PCやデジタル家電の現状分析や将来展望を解説する報道関係者向け説明会を開催した。
同社が調査しているデジタル家電の調査において、台数/売り上げともに前年割れが続いてきた中、販売金額ベースで2013年10月に104.4%とプラスに転じた。前年からプラスの成長となったのは、2年4カ月ぶりのことだという。また、クロモノ家電市場においては、2011年ごろまでは薄型TVが構成比の多くを占めていたが、昨今は薄型TVの比率が低くなり、相対的にPCの構成比率が高まっている。
しかしながら、そのPCの状況は厳しく「今年のPCは販売台数は10月の調査結果でも前年から大きく落ち込んでいる。XPのサポート終了や消費税増税前の需要など、2014年1~3月にかけてプラスの材料はあるので大きな落ち込みは続かないと思うが、弱含みと言わざるを得ない」(BCNアナリスト道越氏)というほど冷え込みが続いている。
PCは、平均単価がおよそ3年前の水準へ高まっていることから、販売金額では回復の傾向が出ている。とくにノートPCでは10月の調査で、2012年3月以来という前年度比104%のプラス成長を見せた。またデスクトップも前年を下回っているものの、ここ数カ月の結果から落ち込みは小さくなっている。平均単価が上昇した理由としては、円安、タッチパネルなどの付加価値に加え、タブレットとの差別化で戦略的にPCに高めの価格設定を行なっている可能性もあるとした。一方で、販売台数はノートPCで前年比82%、デスクトップでは77.1%と落ち込みは大きい。
また、新しいカテゴリになると期待されているUltrabookについても、1割以上の構成比を占めた月もあったが、2013年4月をピークに構成比が減少。これはモデル数の減少も影響しているといい、ピークだった2013年6月が161モデルだったのに対して、2013年10月は143モデルまで減っている。この理由についてBCNアナリストの森英二氏は「タッチパネルじゃないといけないなどの流れもあり、最初は軽くて薄型で、といったUltrabookの定義が変わってきている。Windowsタブレットなどへの切り替えも構成比に影響していると思う」と分析している。
販売台数のシェアではノートPC/デスクトップPCともに上位のメーカーは同じ。シェアについては森氏が詳しく解説を行なったが、ノートPCでNECが9月から10月にかけてシェアを落としているのは、2013年夏モデルのエントリー機が終息し、同じ夏モデルのハイエンド機へ主力が移ったため。一方でシェアを伸ばしている富士通は、2013年春モデルから夏モデルへ主力が移ったことで売り上げを伸ばしたのだという。
この各季節ごとのモデルのライフサイクルについては、2012年ごろから立ち上がりに時間がかかるようになり、次期モデルが出てからも並行販売する状況に起因しているとする。実際、10月の調査では秋冬モデルは立ち上がりが遅く、ほとんど動いていない。販売モデル数そのものも減っているという。
また、販売台数の内訳も1期前のモデルの売り上げ比率が非常に高くなっているうえ、1期前と現行機の価格差が広がっている。例えば、2010年10月は夏モデルが平均単価82,300円、秋冬モデルは115,500円で、差は40%ほど。一方2013年は夏モデル90,100円、秋冬モデル141,700円と60%ほどになっており、森氏は「ユーザーの視点からするとスペックがあまり変わらないのに価格が違うように見えるのでは。そのため安いものへと流れる状況が起きている」と見ている。
ちなみに、Windows 8.1の市場への影響については、「急激に盛り返すとは考えていない。Windows 8から8.1へは無償でアップグレードできるので、前のモデルが安いならそちらを買えばいいという状況になると思う」(森氏)とした。
タブレットについても、それほど伸びておらず、特にNexus 7(2013)が登場した8~9月に比べても、10月は大きく落ち込んだ。市場規模そのものは初代iPadが登場した2010年5月に比べて4倍ほど。「iPadで生まれて、ASUSが入って伸びた市場だが、今は落ち着いている。次の購入層が動き出すのを待っており、メーカーとしても第3の勢力が必要なのではないか」(森氏)としている。
タブレットのメーカー別シェアについては、ASUS、Apple、日本エイサー、ソニー、恵安と続く。Apple、ASUSのシェアは新製品の販売によって過去にも順位が入れ替わっており、iPad Air登場後となる11月のシェアについては、11月10日時点でAppleが53.5%、ASUSが28.3%と、シェアが逆転する見込みだ。
ちなみに、Microsoftの方針で調査対象になっていないが、Surfaceシリーズについても「ぼちぼち売れている」状況とのことで「日本エイサーを上回る、1桁台後半のシェアは取れていると思う」(道越氏)とした。
タブレット市場の分析では、初動10日間の販売数で初代iPadを1としたときに、2012年のiPad miniが0.73、iPad Airが0.55、Nexus 7(2013)が0.72と、在庫の問題などがあるにしても、初代iPadの勢いは超えられていないという分析も紹介している。
スマートフォン市場については、「2012年中盤から成熟期」としており、製品投入のタイミングでの台数増減はあるが、規模としてはほぼ横ばいとの見方を示した。ドコモのiPhone投入で、ドコモ内のメーカーシェアは激変したものの大勢に影響は出ておらず、直近の2013年10月のデータでも、前年同月とほぼ同等の動きであるとした。
また、スマートフォンの台数構成比では、auでフィーチャーフォンの構成比が上昇する傾向が出ており、京セラの「GRATINA」が好調な販売を続けていることは影響した結果としている。
スマホ/タブレットで広がった裾野にPCの役割を再構築
「PCがここまで前年割れが続くことはなかったので、非常に危惧しているが、うまく機能すれば復活の目はある」と、道越氏は本会見のタイトルにもある“PC回復の処方箋”についても分析を披露した。
道越氏は「そもそもPCは自由にソフトをインストールして、色々なことができるのが魅力だった。しかし、ほぼ買ったままで使っている人が多いのではないか。逆にスマートフォンやタブレットではユーザーが自由にアプリをインストールする汎用機としての魅力を増していて、PCが専用機みたいになっている」と指摘。
また、「タッチインターフェイス搭載PCが数%しかなく、タッチが楽しめない状況でWindows 8がスタートしてしまった。さらに新OSが出た今は製品価格が上がっており、その需要を冷やしている。いろいろな状況がPC市場にマイナスに影響してしまっている」と状況を分析した。
一方で「スマートフォンやタブレットが広がって個人的なコンピューティング環境は広まってきているのではないか。タブレットではできない処理や操作はある。ライトな用途から“こんなことができるんだ”という気づきが生まれれば、新しい使い方が出てきて市場も生まれる。裾野が広がった中で、PCの役割を再構築すべき」と提言。例として、3Dプリンタやデジタル一眼レフの普及のほか、DTM機器の販売台数もデータでは伸びているといい、クリエイティビティの分野での成長に期待を寄せている。
また、ハードウェアだけでなくソフトウェアの面でも、「PCの力強い処理能力をいろんなところへ活用していく必要がある」とする。スマートフォンやタブレットはアプリストアへ行けば簡単にダウンロードできるのに対し、PC用ソフトは流通経路が多様で分かりにくいほか、先述のクリエイティブの分野でも海外には優良なソフトが多数あるが日本に入ってこない状況も打開が望まれる。
最後に道越氏は、「タブレットを買ってPCの利用時間が減った人でも、8割が必要(やや必要を含む)と答えた。ある種の用途はタブレットに移行するがPCは必要、という声に対し、ハードウェアとソフトウェアで応えることが市場の活性化に必要」と、PCの新しい価値を提唱して市場がうまく回ることへの期待を寄せている。