Microsoftのバルマー氏が来日、
パートナーに「Windows 8が登場する重要な年」と強調

Microsoft Corporation スティーブ・バルマー CEO

5月21日 開催



 米MicrosoftのCEOであるスティーブ・バルマー氏は5月21日に来日し、日本のパートナー企業のエグゼクティブを対象とした「Windows Partner Executive Summit」を開催。Windows 8発売を控えたMicrosoftの取り組みについてバルマーCEOが講演した。

 冒頭、バルマーCEOはWindows 8のリリースが予定されている2012年を「Windowsにとって重要な年」と説明。Windows 8については、4月に来日したWindows開発担当のスティーブ・シノフスキー氏と同様に、「Windowsの再創造である」と新しい局面を迎えたWindowsであると強調した。

 「Windowsは他社製品を大きく上回る、ワールドワイドで3億5千万本という出荷実績を持っている。パートナーの皆さんに大きなビジネスチャンスを提供することができる唯一の製品である」(バルマー氏)。

 バルマー氏はMicrosoftが現在注力しているビジネス分野として、(1)Windows、(2)Windows Phone、(3)Office、(4)Xbox、(5)Bing、(6)Skype、(7)Windows Azure & Server、(8)SQL、(9)Dynamicsの9分野を挙げた。

 「Windowsが中心であることは変わりないが、我々はOffice、Xboxなどそれぞれのビジネスに注力している」(バルマー氏)。

 フォーカスしているテクノロジー領域として最初に、「機械学習」を挙げた。人間が行なっているような学習能力をコンピュータで実現することを目指すテーマだ。

 「機械学習はビッグデータのための自動学習、データの加工といったものを含む。さらに文字だけで無く、ジェスチャーによる入力といったものによってデータ領域は大きく拡大する」

 ユーザーインターフェイス(UI)についても、「すでに確立していると思われがちな分野であるが、音声認識についてはまだ進化の余地がある。今日の会場を見回しても、紙とペンで入力している人がたくさんいることから、コンピュータ業界がもっとUI部分に関して進化のための努力を怠っているといえるのではないか。タッチ入力、ペン入力など入出力に関してはもっと工夫する余地がたくさんある」と指摘した。

 クラウドにいては、「プラットフォームとしてのクラウドだけでなく、新しいサービスとしてのクラウドはさらに進化を続けていかなければならない」と話した。

 買収が大きな話題を呼んだSkypeについては、「何故、Skypeを買収したのか? についてはよく質問を受ける」と言及。「今後、コミュニケーションは大きく変わり、対面によるコミュニケーションと同様の感覚で音声、画像によるコミュニケーションがとれる時代が必ず来る」と、コミュニケーションにもテクノロジーによる大きな進化がまだ進んでいくと予想した。

 こうしたテクノロジーによる変化は、Microsoftが米国だけでなく、日本では調布にある開発拠点発信で起こるのに加え、「日本の大企業から新しい技術発信が起こるだろう。私は1980年にMicrosoftに入社したが、多くのイノベーションが日本のパートナー企業発で起こったことを目の当たりにしている」と日本発の技術発信にも期待を寄せた。

 Windows 8については、改めて「Windowsの再創造となる。UIも再創造される」と大きな変化であると説明。しかし、「Windows 7で気に入ってもらったところについては、それを活かし、さらに新しいレベルに進化させる。パートナーの皆様にとっては小型スクリーンであっても、タッチスクリーンでも、何かと何かをトレードオフする必要がなく、最適なものを選択できる。それはスクリーンの形状やサイズに留まらず、プロセッサも同様で、IntelのハイパワーCPUだけでなく、ARMの低消費電力のCPUを選択することもできる。入力についても、従来のキーボード、マウスに加えて、タッチパネル、ペン入力と選択の幅が広がった」とパートナーにとってのメリットが広がるとした。

Microsoftがフォーカスする9つのビジネス分野Microsoftがフォーカスするテクノロジー領域Windowsの再創造

 この説明を受けて、日本マイクロソフトの業務執行役員 Windows統括本部 本部長・藤本恭史氏が登場し、Windows 8のデモを行なった。

 デモの内容は4月24日に行なわれた開発者向けイベント「Windows Developer Days」で披露されたものとほぼ同じ。ピクチャーパスワードによるログイン、スマートホンで採用されているインターフェイスと同様に、オフライン状態で新着メールの数などの情報を取得し、スタート画面を起ち上げたと同時にタイルに表示するWindows 8の新しいスタート画面、チャーム機能によってOS、アプリケーションの共通のコマンド操作が可能となり、ローカルドライブ、インターネット上と同じ感覚で写真を利用し、アプリケーションを飛び越えた検索が行なえることなどが紹介された。ビジネス用アプリケーションについても、Microsoft Dynamicsの画面が紹介された。

日本マイクロソフト 業務執行役員 Windows統括本部 本部長 藤本恭史氏Windows 8のスタート画面写真は、ローカルディスク、他社のサービスを含めたインターネット上のサービス上に置かれたものを一元的に扱える
ビジネスアプリの利用例としてMicrosoft Dynamicsのデモ画面を表示
Seattleと入力すると、関連するアプリケーションの情報を表示Windows 8が動くPCが用意された丸テーブルにパートナーのエグゼクティブは着席して講演を聴いた

 デモの後、再登場したバルマーCEOは、「Windowsにとって大事な1年を迎えるが、それを支えるのはパートナーの皆様のエコシステム。前例のない大きなビジネスチャンスを生むべく、Microsoftとしてもこれまでの歴史上例をみない、20億ドル近い資金をかけてサポートとプロモーションを行なう。6月の初旬には、Release Preview版の提供を開始するが、その後、OEMパートナーの皆様に向けたプロダクトリリースが行なわれる。このプロダクトリリースをもとに、素晴らしい製品を開発してもらい、今年の後半には製品として提供することになるだろう。Windowsにとって25年目の再創造に期待してもらいたい」と今年後半にはWindows 8が製品として提供される見込みであるとした。

 最後に日本マイクロソフトの代表執行役社長である樋口泰行氏が登場し、「本来ならば皆様からの質問を受けたいのだが、時間的な制約があるため、私の方から質問をさせてもらって、バルマーが回答するという形式をとりたい」と説明し、Q&Aセッションとなった。

日本マイクロソフト 樋口泰行 代表執行役社長Q&Aコーナーは樋口氏の質問に答える形で進行

 最初の質問は、「講演にも他社を意識したコメントがいくつかあったが、ずばりAppleとの競争という点では、他の先進国に比べるとiPadのシェアが日本では低いといった結果となっている。これは日本のパートナーとの連携の賜ではないかと考えるが?」と会場にいるパートナーを強く意識した内容だった。

 これに対し、バルマーCEOは、「当社は相対的に色々な競合、例えばApple、そしてGoogleに囲まれている。しかし、日本市場はWindows PCが非常に強い市場である。これはOEMパートナーのおかげであり、質の高いハードウェア、サポートが提供され、質の高い開発コミュニティが存在しているからこそ。競合との差別化ポイントは色々あり、長時間利用することができる、軽く、持ち歩きやすい製品などは多くのユーザーから支持を受けるだろう」とパートナーの力を評価した。

 「日本ではこれまでの競争力に陰りが出ているのではないかと心配する声が挙がっているが、この点に関してはどう思うか? 」という質問に対しては、「日本は生産性もきわめて高い国であるが、改善の余地もまだ残っている」と次の3点を改善すべき点としてあげた。

 「まず、IT活用による生産性の向上。Windows AzureとHyper-Vテクノロジーを活用することでITを活用する生産性が大幅に向上する。次にグローバルな成長を阻害する要因をよく見極め、イノベーションを創り出し、グローバルに成長することを目指すこと。先ほどの藤本の説明には無かったが、Windows Storeを活用すれば3億5千万台のPCに向けたソフトウェアビジネスが展開できる。最後に、Windows 8が与える我々の生活の変化を考えること。私のオフィスは工事を行ない、電話、テレビ会議システム、ホワイトボードなどを撤去し、Windows 8が搭載されたスレートPCと、ホワイトボード代わりに81型の大画面のWindows 8搭載マシンを導入した。デジタル化によって全ての作業が変わり、私の個人的な生産性が大きく変化した。皆さん個人の生活もWindows 8、そしてクラウドを活用することで大きな変化を遂げる。それを実現するパートナーの皆さんの力に期待したい」とした。

(2012年 5月 21日)

[Reported by 三浦 優子]