JEITA(電子情報技術産業協会)は6月3日に、情報端末機器(ハードディスク装置(HDD)、プリンタ、イメージスキャナ、金融端末、ハンディターミナル、光ディスク機器、ディスプレイ、POS端末など)に関する講演会「JEITA 情報端末フェスティバル2009」を東京の虎の門パストラルホテルで開催した。
「JEITA 情報端末フェスティバル2009」のプログラムは午前が基調講演と特別講演、午後が情報端末機器の市場動向や技術動向に関する講演となっている。午後は4つの講演が同時に進むパラレルセッションである。本レポートでは午後の講演から、「HDD市場動向」と「プリンター市場動向」の概要をご報告する。
●HDD世界市場:2009年は前年比9%減の4億7,800万台に「HDD市場動向」の講演ではまず、世界市場の状況が解説された。2008年の世界におけるHDDの出荷台数は、前年比6%増の5億2,500万台となった。フォームファクタ別では3.5インチHDDが前年比3%減の2億8,500万台、2.5インチ以下のHDDが同20%増の2億4,000万台である。ネットブックの登場が2.5インチ以下のHDDの出荷増に寄与した。
2009年の世界におけるHDDの出荷台数は、前年比9%減の4億7,800万台と予測した。これは2001年の景気後退以来のマイナス成長だという。フォームファクタ別では3.5インチHDDが同21%減の2億2,500万台と大きく減少する一方で、2.5インチ以下のHDDが同5%増の2億5,300万台と成長し、世界市場では初めて2.5インチ以下が半数以上を占める見通しである。ただし講演では、6月時点では当初(2月上旬時点)の予測値よりも2.5インチ以下の出荷台数が伸びておらず、半数超えは微妙な状況であると述べていた。
2009年にマイナス成長となったHDDの出荷台数だが、その後は順調に回復する見通しである。2009年~2011年の年平均成長率は7%で、2011年の出荷台数は5億4,800万台まで伸びる。フォームファクタ別では、3.5インチから2.5インチへの移行が進む。2011年における3.5インチHDDの出荷台数は1億9,100台と減少し、2.5インチ以下のHDDが3億5,700万台に増える。
HDD市場調査の概要 | 2008年における世界のHDD出荷台数実績 |
2009年における世界のHDD出荷台数見通し | 2009年~2011年における世界のHDD出荷台数見通し |
続いて日本市場の状況が報告された。2008年の日本国内におけるHDDの出荷台数は前年比2%増の3,500万台となった。2008年後半に景気後退の影響を受けて失速したものの、全体としては前年並みの出荷台数を維持した。フォームファクタ別では3.5インチHDDが前年比5%減の1,600万台、2.5インチ以下のHDDが同9%増の1,900万台である。日本市場は2.5インチ以下の割合が55%と世界市場(46%)に比べて高い。2007年以降、日本市場では2.5インチ以下のHDDの出荷台数が3.5インチHDDを上回っている。日本ではノートPCの比率が高いことと、カーナビゲーションシステムでHDD内蔵機種の比率が海外に比べて大きいことが2.5インチ以下の出荷を増やしたと説明していた。
2009年の日本国内におけるHDDの出荷台数は前年比10%減の3,200万台と予測した。世界市場と同様に、2001年以来のマイナス成長となる。フォームファクタ別では3.5インチHDDが同23%減の1,200万台と大きく減少し、2.5インチ以下のHDDは同1%増の1,900万台とほぼ横ばいとなる。HDDの出荷台数に占める2.5インチ以下の割合は61%となる。
2009年にマイナス成長となった日本のHDD出荷はその後、少しずつ回復する。2009年~2011年の年平均成長率は1%となる見通し。2011年の出荷台数は3,261万台で、2008年の水準までは戻らない。フォームファクタ別では、3.5インチが年平均9%減、2.5インチ以下が年平均7%増で推移する。2011年の出荷台数は3.5インチが1,022万台、2.5インチ以下が2,240万台となる
2008年における日本のHDD出荷台数実績 | 2009年における日本のHDD出荷台数見通し | 2009年~2011年における日本のHDD出荷台数見通し |
●プリンタ世界市場:2009年は2年連続のマイナス成長に
「プリンター市場動向」の講演では、プリンタ(複合機を含む)における世界市場の規模と方式別(テクノロジー別)の市場動向が解説された。まず世界市場の動向では、2008年の出荷台数は前年比4%減の1億2,612万台、2008年の出荷金額は同5%減の5兆5,861億円となり、2008年は台数と金額のいずれもマイナス成長となった。2008年前半は成長基調にあったものの、2008年後半に一転して低迷し、欧米市場の需要減退をアジア太平洋市場の成長では補えなかった。
その後は2008年に続いて2009年も需要は減少し、2010年以降はゆるやかに回復するとの前提で2012年までを予測した。2009年の予測値は出荷台数が前年比5%減の1億1,972万台、出荷金額が同6%減の5兆2,625億円である。2012年における出荷台数の予測値は1億2,867万台、出荷金額の予測値は5兆4,047億円となる。出荷台数では2008年を超えるものの、出荷金額では2008年の水準までは回復しない。
2008年の市場規模(台数ベース)を地域別にみると、北米が対前年比11%減の3,233万台、西欧が同6%減の3,192万台、日本が同6%減の759万台と先進国が減少し、アジア太平洋(中国含む)が同1%増の2,631万台、その他が同2%増の2,797万台と新興国は微増にとどまった。2008年~2012年は先進国が微減、新興国が微増と予測した。
2008年の市場規模(台数ベース)を方式別(テクノロジー別)にみると、インクジェット方式の複合機が前年比1%増の6,399万台、ページ(電子写真)方式の複合機が同6%増の1,072万台となり、複合機(マルチファンクションプリンタ)が台数を伸ばした。一方、インクジェット方式の単機能機は前年比18%減の2,575万台、ページ方式のプリンタは同5%減の2,293万台、ドットマトリックス方式が同3%減の273万台と減少した。
2008年~2012年はインクジェット方式の複合機が年平均4%で成長し、ページ方式の複合機が年平均5%で成長すると予測した。インクジェット方式の単機能機は年平均12%減と大きく減少していく。ページ方式のプリンタは横ばいとなる。ドットマトリックス方式は年平均4%減で漸減していく。
また世界の各地域を方式別の構成比率でみると、アジア太平洋(中国を含む)でドットマトリックス方式の需要が根強い。またアジア太平洋(中国を含む)とその他の地域では、ページ方式でもモノクロ機の割合が比較的高くなっている。
プリンタ(複合機を含む)の世界市場規模推移(2002年~2012年) | プリンタ(複合機を含む)の地域別市場規模推移(2006年~2012年) |
プリンタ(複合機を含む)の方式別(テクノロジー別)市場規模推移(2006年~2012年) | 地域別にみた方式別(テクノロジー別)の構成比率推移(2008年と2012年) |
続いて方式別(テクノロジー別)の世界市場規模を2012年まで展望した。
ドットマトリックス方式プリンタの市場規模は近年、減少傾向にある。ページプリンタやインクジェットプリンタなどに置き換えられているためだ。ただしドットマトリックス方式には複写伝票に対応しているという重要な特長があるので、出荷伝票や宅配伝票、産業廃棄物管理票などの底堅い需要がある。このため買い替え需要を中心に、一定規模の需要が見込める市場になっている。
2008年~2012年にドットマトリックス方式プリンタの世界市場は台数ベースで年平均4%減、金額ベースで年平均8%減で推移すると予測した。2008年の出荷台数は273万台、出荷金額は1,550億円であるのに対し、2012年にはそれぞれ232万台、1,128億円となる。
ドットマトリックス方式プリンタの出荷台数推移(2006年~2012年) | ドットマトリックス方式プリンタの出荷金額推移(2006年~2012年) |
インクジェット方式プリンタの市場規模は2008年後半からの世界的な景気後退により、2008年と2009年に連続して縮小する。2008年のインクジェット方式プリンタの出荷台数は前年比5%減の8,974万台だった。2009年の出荷台数は同6%減の8,480万台になる。その後はゆるやかに回復すると予測した。2012年の出荷台数の予測値は9,017万台である。
単機能機と複合機では、複合機の低価格化によって単機能機との価格差が縮まっており、複合機への移行が進む。2008年~2012年の世界市場(台数ベース)における単機能機の年平均成長率はマイナス12%、複合機の年平均成長率はプラス4%と予測した。インクジェット方式における複合機の比率は2008年に71%だったのが、2012年には83%に上昇する。
インクジェット方式プリンタの出荷台数推移(2006年~2012年) | インクジェット方式プリンタの出荷金額推移(2006年~2012年) | インクジェット方式プリンタの複合機比率(台数ベース)推移(2006年~2012年) |
ページ方式プリンタおよびページ方式複合機の市場規模はインクジェットと同様に2008年後半からの世界的な景気後退により、2008年と2009年に連続して縮小する。2008年の出荷台数は前年比2%減の3,365万台だった。2009年の出荷台数は同4%減の3,236万台となる見通しである。2010年以降の出荷台数は成長基調に転じる。2008年~2012年の年平均成長率は2%と予測した。
ページ方式プリンタはカラー機とモノクロ機に分けられる。現在はモノクロ機の占める比率が大きい。2008年の出荷台数はカラー機が前年比1%増の365万台、モノクロ機が同6%減の1,928万台だった。カラー機の比率は16%である。同年の出荷金額はカラー機が前年比13%減の3,480億円、モノクロ機が同7%減の8,229億円であり、カラー機の低価格化が進んでいる。
2009年以降はカラー機の比率増加と複合機へのシフトが進む。2008年~2012年の世界市場(台数ベース)におけるモノクロ機の年平均成長率はマイナス2%、カラー機の年平均成長率はプラス9%と予測した。2012年にカラー機の比率は22%となる。
ページ方式プリンタの出荷台数推移(2006年~2012年) | ページ方式プリンタの出荷金額推移(2006年~2012年) | ページ方式プリンタのカラー機比率(台数ベース)推移(2006年~2012年) |
ページ方式複合機はカラー機とモノクロ機に分けられ、さらに、処理できる判型の大きさによってA3機とA4機に分類される。2008年はA4機が好調であったため、2008年後半の世界的な景気後退にもかかわらず、ページ方式複合機全体の出荷台数は前年比6%増の1,072万台と堅調に伸びた。内訳はA4モノクロ機が前年比6%増の736万台、A4カラー機が同28%増の107万台、A3モノクロ機が同3%減の141万台、A3カラー機が同2%増の89万台である。
2008年~2012年の年平均成長率(台数ベース)は5%と予測した。ページプリンタからページ複合機への移行が進むほか、2010年以降は世界経済が回復するとの前提に基づく予測である。内訳ではA4カラー機が最も伸びる。2008年~2012年の年平均成長率は18%に達する。
ページ方式複合機の出荷台数推移(2006年~2012年) | ページ方式複合機の出荷金額推移(2006年~2012年) |
このようにみていくと、2008年に後半に始まった世界的な景気後退に対し、HDD業界とプリンタ業界ではいずれも、2010年から回復が始まると期待していることが分かる。ただし、回復の足取りは鈍い。HDD市場は、過去最大規模である2008年の水準には、2011年でも戻らない。プリンタ市場は台数ベースでは2012年に2008年の水準を超えるものの、2007年の水準(1億3,172万台)には至らない。今後3~4年は、厳しい状況が続きそうだ。
(2009年 6月 9日)
[Reported by 福田 昭]