ARM CEO来日記者会見、今後はネットブック分野の成長に期待

アーム代表取締役社長の西嶋貴史(にしじま・たかふみ)氏

6月3日開催



 大手CPUコアベンダー英国ARM Ltd.の日本法人アーム株式会社は、ARMの最高経営責任者(CEO)を務めるWarren East(ウォレン・イースト)氏が来日し、6月3日に記者会見を開催した。

 始めに日本法人の代表取締役社長を務める西嶋貴史氏が、日本の組み込み用32bitプロセッサ市場におけるARMの位置付けを説明した。CPUアーキテクチャ別の市場占有率(シェア)でARMは2008年に21.8%を占め、SuperH(SH)、V850に次ぐ第3位につけた。OS別の開発プロジェクト数でみると、2008年にμITRON系OSの開発プロジェクトではSHに次ぐ2位、組み込みLinuxの開発プロジェクトではPowerPC(PPC)、x86に次ぐ第3位を占めた。

 そして日本におけるARMコアの採用事例を西嶋氏は紹介した。NTTドコモのAndroid端末「HT-03A」、東芝のスマートフォン「dynapocket(T-01A)」、NECエレクトロニクスのマルチコアプロセッサ「NaviEngine」、ルネサス テクノロジの携帯電話機用システムLSI「SH-Mobile G Series」、富士通マイクロエレクトロニクスのカーナビ用LSI「MB86R1」、東芝セミコンダクター社のマイコン「TX03」シリーズなどである。

日本の組み込み用32bitプロセッサ市場におけるCPUアーキテクチャ別のシェア開発プロジェクト数でみたCPUアーキテクチャ別のシェア日本企業がARMコアを採用した事例

ARMの最高経営責任者(CEO)を務めるWarren East(ウォレン・イースト)氏

 続いてARMのCEOを務めるWarren East氏が、ARMの現状を説明した。ARMはCPUコアや周辺回路コアを半導体ベンダーに有償で提供している。収入は主にライセンス収入とロイヤルティ収入に分けられる。ライセンス収入とは、ARMのコアを利用する権利を半導体ベンダーに与えることによって得られる収入である。現在では200を超える企業に600のCPUコアライセンスを供与中だという。ロイヤルティ収入とは、半導体ベンダーがARMのコアを内蔵した半導体チップを販売したときに、販売価格の一部をARMに支払うことによって得られる収入である。なおロイヤルティの支払い額は、半導体チップの販売価格が上がると上昇する。

 この事業形態は非常に息が長い。ARMが新しいコアの開発に2~3年をかけ、コアをライセンス購入した半導体ベンダーが新しい半導体チップの開発に3~4年をかける。そして半導体チップは10年~20年もの期間、市場で販売される。ある特定のコアについてみると、初期はライセンス収入が主体となり、それからロイヤルティ収入が主体となる構造である。ARM自体の収入構造もかつてはライセンス収入が主体だったが、現在ではロイヤルティ収入の占める比率の方が大きくなっている。

 そしてロイヤルティ収入の事例としてローエンドの携帯電話、スマートフォン、ネットブック、ノートPCを比較した。ローエンドの携帯電話1台当たりのロイヤルティ収入を「1」とすると、スマートフォンとノートPCでは「7」、ネットブックでは「12」になるとした。現在はスマートフォン向け半導体チップによるロイヤルティ収入が主体となってきており、将来はネットブック向け半導体チップによるロイヤルティ収入が大いに期待できるという。

 また2008年にさまざまな電子機器でARMコアがどのくらいの割合で使用されているかの実績を示した。モバイル(携帯電話機と携帯型メディアプレーヤー)とノンモバイルに分けており、モバイルでは全般にARMコアの採用比率が非常に高い。例えばスマートフォンのARMコア採用比率は85%、ローエンド携帯電話機のARMコア採用比率は95%に達している。

 一方、ノンモバイルでの採用比率はまだら模様だ。採用比率が高いのはデジタルカメラ(DSC/DVC)とプリンタで、それぞれ70%と60%を占めた。採用比率が低いのは自動車用途とマイコンで、それぞれ10%にとどまっている。

 なお2008年後半からの急激な景気後退にも関わらず、ARMは2008年に前年比6%増の5億4,600万ドルを売り上げた。2009年は半導体業界全体では20%前後のマイナス成長となり、ARMもその影響は免れない。East氏は2009年のARMの売上高は前年比で10%くらいのマイナスになるとの見通しを示した。

ローエンドの携帯電話、スマートフォン、ネットブック、ノートPCにおけるロイヤルティ収入の比較応用分野(電子機器の種別)ごとにみたARMコアの採用比率

(2009年 6月 4日)

[Reported by 福田 昭]