NECエレクトロニクス株式会社は11日、役員人事と2008年度(2009年3月期)の業績(連結)を発表した。
なお、同日開催された取締役会において、6月25日付けで代表取締役が交代することと取締役の異動が内定した。現在の代表取締役社長である中島俊雄氏は退任し、取締役執行役員常務を務める山口純史氏が代表取締役社長に就任する。取締役は現在の8名から中島氏を含めた5名が退任し、新任の1名を含めた4名に減る。「軽量でスリムな体制とすることで、経営のスピードアップを図る」(中島氏)
2008年度(2009年3月期)の売上高は前年比20.5%減の5,465億円。そのほとんどを占める半導体の売上高は同20.1%減の5,217億円だった。営業損益は684億円の赤字である。前年の2007年度(2008年3月期)は51億円の黒字であり、その前の2年間は2006年度(2007年3月期)が286億円の赤字、2005年度(2006年3月期)は357億円の赤字だった。3年振りに営業黒字を達成した前年度から大幅な赤字へと逆戻りしたことになる。2008年度の税引き前損益は893億円の赤字、当期純損益は826億円の赤字となった。
売上高と営業損益の推移を四半期ごとに見ていくと、直近の2008年第4四半期(2009年1~3月期)の業績が飛び抜けて悪い。売上高は前年同期比48.5%減、前期比32.8%減の855億円しかない。営業損益は533億円の赤字である。この四半期だけで年間赤字(684億円)の大半を計上してしまったことが分かる。
売上高を主要製品別にみると、SoC(system on a chip)製品が前年比11%減の2,225億円、MCU(マイコン)が同21%減の1,418億円、個別半導体製品が同29%減の1,574億円といずれも大きく減少した。なお、NECエレクトロニクスの製品分類では、SoC製品は150nmプロセスや90nmプロセス、55nmプロセスによる高集積LSI(カスタム品や特定用途向け標準品など)、個別半導体製品は成熟したプロセスによるIC(ディスプレイドライバICやミクスドシグナルICなど)とディスクリート(パワーMOS FETや化合物半導体デバイスなど)を意味する。
応用分野別の売上高では、民生用電子機器向けが前年比11.3%減の1,193億円、通信機器分野向けが同14.4%減の602億円とマイナス成長ながらもいくらか踏みとどまった。前者では光ディスク用画像処理LSI「EMMA(エマ)」シリーズ、後者では携帯電話端末向けカメラLSIの売上高が増加した。
地域別の売上高は日本が前年比18.5%減の3,016億円、米国が同33.7%減の386億円、欧州が同22.4%減の745億円、アジア(日本を除く)が同19.3%減の1,317億円である。売上高比率は日本が55.2%、米国が7.1%、欧州が13.6%、アジア(日本を除く)が24.1%。営業損益は日本が663億円の赤字、米国が53億円の赤字、欧州が2億円の赤字、アジア(日本を除く)が35億円の黒字となった。
四半期ごとの売上高と営業損益の推移。2008年度第4四半期(右端)の悪化が著しい | 2007年度(2008年3月期)と2008年度(2009年3月期)の製品別半導体売上高 | 2008年度第4四半期(2009年1~3月期)の製品別半導体売上高。個別半導体の落ち込みがひどい |
2009年度(2010年3月期)の事業展開では、営業黒字化を目標とする。売上高は前年比12.2%減の4,800億円、半導体売上高は同11.8%減の4,600億円とさらに減少する。営業損益は収支トントン、税引き前損益は75億円の赤字、純損益は90億円の赤字と予想する。2009年2月に半導体受注高が底を打ったことから、2009年度第1四半期以降は売上高が緩やかに回復するとみる。
主要製品別の売上高はSoCが前年比約5%減、MCUが前年比約10%減、個別半導体が前年比約20%減と予想する。
2009年度(2010年3月期)の業績予想。前半赤字、後半黒字のシナリオを描く | 半導体受注高の推移 | 2009年度(2010年3月期)の半導体売上高見込み |
2009年度(2010年3月期)の増益を達成するため、固定費を2008年度に比べて約900億円と大きく削減する計画である。設備関連費用(減価償却費やリース料など)の効率化で約220億円、生産関連費用の効率化(国内外の人員減、時間外勤務減など)で約300億円、研究開発関連費用の効率化(開発品種の見直しによる外注費削減など)で約200億円、そのほかの経費の効率化で約80億円、緊急施策(賞与減、全社緊急費用削減など)で約100億円をそれぞれ削減する。
記者会見の質疑応答では、ルネサス テクノロジとの事業統合に関連する質問が相次いだ。次期社長の山口氏は、NECエレ単独で生き残れる可能性はあるものの、売上の規模が1兆円以上で売上高利益率が10%以上ないと、生き残りと成長の機会が限られてしまうとした。一定の事業規模がないと選択肢が狭まり、成長が止まってしまうという。そして両社で重複している部分のリソースは新たな分野に振り向けたいと事業統合への期待をにじませた。
そして生産設備のスリム化(アセットライト)による固定費の削減がきわめて重要であることを繰り返し強調した。
また、2003年に日立製作所と三菱電機の半導体事業統合で誕生したルネサステクノロジがその後の業績がふるわず、今回の事業統合が同じことの繰り返しになってしまうのではないかとの懸念に対しては、「精神論になってしまうが、ルネサステクノロジ側が非常に強い危機感を持っているのが前回(2003年の統合当時)と違う」(中島氏)との説明があった。
全体として感じたのは、ルネサスとの事業統合を前提としてNECエレは事業改革を進めるという今年度の方向性である(明確に述べたわけではないが)。単独で生き残りを図るという意思はまったく感じられなかった。NECブランドのマイコンがまもなく消滅する可能性は少なくなさそうだ。
(2009年 5月 12日)
[Reported by 福田 昭]