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Qualcomm、電力効率44%向上のフラグシップスマホ向けSoC「Snapdragon 8 Elite」
2024年10月22日 04:00
Qualcommは、10月21日(米国時間)から米ハワイ州マウイ島において、同社のクライアントデバイス向け年次イベント「Snapdragon Summit」を開催している。その初日には、「Snapdragon 8 Gen 3」の後継製品となるフラグシップスマートフォン向け「Snapdragon 8 Elite」を発表した。
前世代まではArmが開発したIPデザイン「Cortex」のCPUを用いてきたが、Snapdragon 8 EliteではPC向け「Snapdragon X Elite」でも採用された自社開発の「Oryon CPU」を搭載。電力効率が44%改善しているとQualcommは説明している。それに加えて、新しいタイルアーキテクチャになって性能/電力効率が40%向上したGPU「Adreno」、AI性能が45%向上したNPU「Hexagon NPU」を用いることで、SoC全体で大きく性能が向上している。
Oryon CPU採用で電力効率が44%改善。高効率コアは搭載せず
今回Qualcommが発表したSnapdragon 8 Eliteは、2023年発表のSnapdragon 8 Gen 3の後継となる製品だ。大きな違いは、再びネーミングルールが変更され、「Snapdragon 8 Gen 4」ではなくなったことだ。これはPC向けのSnapdragon X Eliteとフラグシップ製品の名称を合わせる意図があり、XがPCを、8がスマートフォン向けを意味すると考えられる。なお、今後それが第2世代(Gen 2)、第3世代(Gen 3)と進化していくのかは現時点では明らかにされていない。
Snapdragon 8 Eliteの最大の特徴は、2023年発表のPC向け製品「Snapdragon Xシリーズ」に搭載されて話題を呼んだ、Qualcomm独自開発のCPUとなる「Oryon CPU」を採用していることだ。Qualcommは2021年に半導体開発スタートアップNuvia社を買収。Oryonは、そのNuviaの創始者 兼 CEOだったジェーラド・ウイリアムズ氏がリーダーになって開発を進めてきたCPUアーキテクチャとなる。
従来のArm ISAのCPUの多くは、PC向けやAppleのA/Mシリーズなどに比べ、シングルスレッドの性能が低いのが弱点になっていた。Oryonでは、PCでも使えるような高いIPCを完全にゼロから実現。Snapdragon XシリーズではそのCPUを8コア~12コア(モデルにより異なる)搭載しており、同時に高いマルチスレッド性能を備えることで、IntelやAMDのx86 CPUに匹敵するような性能を実現した。
Snapdragon 8 Eliteで搭載されているOryon CPUは、Qualcommが「第2世代Oryon」と呼ぶ進化版となっている。Snapdragon Xシリーズの初代Oryonとの違いは、初代Oryonではプライムコアと呼ばれるCPUコアが最大12基あるのに対し、第2世代Oryonではプライムコアが2基、高性能コアが6基という8基構成になっていることだ。前者は最大4.32GHz、後者は最大3.53GHzで動作する。
初代OryonがPCに最適化したデザインだった一方、第2世代Oryonはモバイルに特化したより電力効率を高めたデザインで、プライムコアも高性能コアもモバイル向けの設計になっている。
なお、従来のSnapdragon 8 Gen 3のKryo CPUではプライムコアが1基、高性能コアが5基、高効率コアが2基と3種類のCPUが用意されていたが、Snapdragon 8 Eliteの第2世代Oryonではプライムコアと高性能コアのみで、高効率コアは用意されない。Qualcommによれば高性能コアで十分に低消費電力を実現できるため、こうしたデザインになっているとのことだ。
キャッシュ階層も変更されている。従来のCortexベースのSnapdragon 8 Gen 3などでは、L1キャッシュもL2キャッシュもCPUコアそれぞれに内蔵されていた。
一方で第2世代Oryonでは、L1キャッシュはCPUコアそれぞれに192KB、L2キャッシュはプライムコアクラスタで12MB、高性能コアクラスタで12MBと、クラスタ単位で実装されるようになっている。この仕組みは、Snapdragon X EliteのOryonが1クラスタ(CPUコア4基)に12MBのL2キャッシュを搭載しているのと共通の構造だ。
こうした第2世代Oryonを採用することで、具体的な性能に関しては明らかにされていないが、Arm CortexのIPデザインを採用したSnapdragon 8 Gen 3に比べてCPUの電力効率は44%改善される。なお、SoC全体のプロセスノードはTSMC N3E(3nm)で製造されている。
メモリはLPDDR5xに対応しており、データレートは5,300MHz、最大24GBまでサポートする。ストレージはUFS 4、USBはUSB 3.2 Gen 2までサポートし、USB Type-Cポートを実装可能だ。
GPUは新アーキテクチャで性能/電力効率が40%向上。NPUもAI性能が45%アップ
Snapdragon 8 Eliteでは、CPUだけでなく、GPU、NPU、そしてISPも改良されている。
GPUのAdrenoはアーキテクチャも含めて大きく変更されている。従来のSnapdragon 8 Gen 3までのAdrenoは、一般的なPCのGPUに近い、複数のシェーダープロセッサを利用してレンダリングする形になっていた。
それに対してSnapdragon 8 Eliteの新しいAdrenoは、3つのGPUスライスから構成され、より効率よくレンダリングできるようになっている。そうした改良により、前世代に比べて性能も電力効率も40%向上しているほか、レイトレーシング時の性能も35%向上している。
Hexagon NPUに関しても同様で、スカラーエンジンは8コアに、ベクターエンジンは6コアになっており、それらの強化などにより、AI性能が前世代に比べて45%向上しているという。ただし、QualcommはSnapdragon 8 Gen 3のエンジン数などに関しては公開してこなかったため、どこの強化によるものなのか関しては明確になっていない。
また、スタンバイ中の音声認識などを低消費電力で行なうための「Qualcomm Sensing Hub」も強化されており、前世代に比べて性能が60%、メモリ容量が34%アップしている。
ISPのSpectra ISPに関しては、従来モデルと同じく3つの18bit ISPが実装され、AIの機能が強化されていることが大きな特徴となる。従来のSnapdragon 8シリーズでもサポートされていた機能で、NPUに直接データを送って写真のAI処理を行なう「Hexagon Direct Link」などが強化された。従来は12レイヤーまでのセマンティックセグメンテーションが可能だったが、新しいISPとHexagon NPUではそのレイヤー数の制限が取り払われている。
また、通信周りではSnapdragon X80 5G RF Modem-RFと呼ばれる、Qualcommの最新5Gモデムを搭載している。NB-NTN衛星接続機能、6つのキャリアアグリゲーション、第2世代の5G用AIプロセッサなどが強化点だ。
加えて、Wi-Fi/Bluetoothコントローラもアップグレードされ、FastConnect 7900が新たに採用されている。Wi-Fi 7対応は従来製品のFastConnect 7800と同じだが、新しくBluetooth 6.0やUWBをサポートしている点が大きな違いとなる。
Qualcommによれば、Snapdragon 8 Eliteを搭載した製品は、ASUS、Honor、iQOO、OnePlus、OPPO、realme、Samsung、Vivo、Xiaomiなどのスマートフォンメーカーから発売される予定で、今後数週間以内にいずれかのメーカーから発表される見通しだと明らかにされている。