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「Snapdragon X Elite」は第13世代Coreより2倍高速でApple M2よりマルチスレッドで50%高速なPC向けSoC
2023年10月25日 04:00
Qualcommは10月24日から10月26日(現地時間)まで、年次イベント「Snapdragon Summit 2023」を、アメリカ合衆国ハワイ州マウイ島において開催している。この中で、PC向け最新SoC「Snapdragon X Elite」などを発表。第13世代Coreに対して、同じ電力で2倍の性能を発揮し、同じ性能であれば68%低消費電力で動作するほか、Apple M2との比較ではマルチスレッド処理で50%高速と謳っている。
Qualcommが自社開発してCPUデザイン「Oryon」を12コア搭載しているSnapdragon X Elite
今回発表されたSnapdragon X Eliteは、Qualcommが「Snapdragon Compute」と呼ぶ、Windows/Chromebook向けのSoCの最新製品となる。Qualcommが2021年12月に「Snapdragon 8cx Gen 3」を発表してから音沙汰がなかったものの、Snapdragon X Eliteはこれの後継となる。
最大の特徴は、「Oryon」の開発コードネームで知られる自社設計CPUが採用されていることだ。従来のSnapdragon 8cx Gen 3までは、Armが開発したCPUのIPデザイン(CPUの設計図)となるCortex-X1を4コア、Cortex-A78を4コアという8コア構成になっていた。
このCortex-XやAシリーズは、Arm製品としてハイエンドに属するものだが、AppleのMシリーズや、IntelのCore、AMDのRyzenといったよりコンピューティングの性能を重視した設計に比べると性能面ではやや見劣りしていたのも事実だ。
そこで、Qualcommは2019年にAppleなどでArm CPUの開発を行なっていたジェラード・ウイリアムズ氏が創業したArm CPUを設計する企業「Nuvia」の買収を2021年に発表。それ以降Nuviaの開発チームをQualcommに取り込んで、ウイリアムズ氏自身がチームを率いて「Oryon」の開発を続けてきた。そして、そのOryonがSnapdragon X Eliteに採用された形になる。
Qualcommによれば、今回発表されたSnapdragon X Eliteには、12コアのOryonが搭載されており、最大3.8GHzで動作する。さらにうち2つのCPUコアは最大で4.3GHzまでブースト動作するので、OSやアプリケーションの起動時などにはより低レイテンシで動作する。また、詳細な階層構成は不明だが、SoC全体で42MBのキャッシュメモリを備えているようだ。
なお、今回のSnapdragon X Eliteはbig.LITTLE構成にはなっておらず、すべてが高性能コアだけだが、それでも十分省電力を実現しているという。
メモリはLPDDR5xを採用しており、最大の転送レートは8,533MT/sとなる。メモリのバス幅は16bit/8チャンネル構成(つまりSoC全体で128bit幅)で、136GB/sの帯域幅を実現している。ストレージは、UFS 4.0やSDカードなどのモバイル向けだけでなく、PCI Express 4.0でNVM ExpressのSSDを接続することも可能だ。
4.6TFLOPSと高性能な内蔵GPUを採用、NPUも45TOPsに強化
GPUもQualcommが自社開発しているAdreno GPUを搭載している。最近のQualcommは、数字でGPUやNPUなどの世代を言わなくなったため、どのようなアーキテクチャになっているのかなどは不明だが、4.6TFLOPSの単精度浮動小数点演算の性能を備えていることが明らかにされている。
なお、Intelの第11世代/第12世代/第13世代Coreに内蔵されている内蔵GPUのIris Xe(開発コードネーム:Xe-LP)の単精度浮動小数点演算の性能は2.07TFLOPS、M1の内蔵GPUが2.6TFLOPS、M2のそれが3.6TFLOPSと明らかにされているので、それらよりも高い処理能力を持っていることになる。
ディスプレイ出力は内蔵の場合eDP1.4bに対応しており、最大4K/120Hzにまで対応。外付けの場合はDP1.4に対応し、最大4K/60Hzの3出力、ないしは5K/60Hzの2出力にまで対応する。
また、NPU(Neural Procesing Unit、AI推論処理用プロセッサ)もQualcommのHexagonブランドのものが内蔵されている。Qualcommは従来HexagonをDSPと表現してきたが、この世代から「Hexagon NPU」と他社も使っているNPUに合わせてきている。
こちらもどの世代なのかなどは分かっていないが、今回の世代ではNPUだけで45TOPs、SoC全体(CPUとGPUとを併用すると)75TOPsの性能となっている。
このほかにも、Spectra ISPの名称で呼ばれる18bitのISP(Image Signal Processor)を2つ搭載しており、3,600万画素のカメラが2つ、ないしは6,400万画素のカメラを1つSoCだけで処理することが可能で、4K HDRの動画撮影まで対応できる。
無線関連は5Gモデム(Snapdragon X65 5G Modem-RF System、下り最大10Gbps/上り3.5Gbps)と、Wi-Fi/Bluetoothのコントローラ(Qualcomm FastConnect 7800 System)を搭載し、Wi-Fi 7/Bluetooth 5.4に標準で対応している。
また、USB4にも標準で対応しており、USB4(最大40Gbps)を最大3ポート、USB 3.2 Gen 2(最大10Gbps)を2ポート、USB 2を1ポート実装することが可能だ。
なお、Snapdragon X EliteはTSMCの4nmプロセスノードで製造されているとQualcommでは説明している。ダイサイズなどは明らかにはなっていない。
第13世代Coreと比較して同じ電力量であれば性能が2倍、同じ性能であれば消費電力は68%減
Qualcommは今回の発表に合わせてSnapdragon X Eliteの性能を明らかにしている。Snapdragon X Eliteが発表したデータによれば、第13世代CoreのPシリーズ(TDP 28W、Core i7-1360P、Pコア:4+Eコア:8)と比較して同じ電力量であれば性能は2倍になるという(つまり電力効率が2倍になっている)。同様に、性能が同じであれば、必要となる電力は68%少なくて済むという。
第13世代Core Hシリーズ(TDP 45W、Core i7-13800H、Pコア:6+Eコア:8)との比較でも同様で、同じ電力であればCPU性能は60%高速で、同じ性能であれば消費電力は65%少ない。消費電力は触れられていないが、AppleのM2と比較するとマルチスレッド時の性能が50%高いとする。
GPUに関しても明らかにされており、Core i7-13800Hに搭載されているIris Xeと比較して同じ電力量であれば2倍の性能を実現し、同じ性能であれば74%電力が少ないという。
さらにRyzen 7000シリーズに搭載されている、Radeon 780M(RDNA 3ベース)と比較すると、同じ電力量であれば80%高速で、同じ性能であれば80%消費電力が少ないようだ。
現時点ではどこのOEMメーカーがSnapdragon X Eliteを採用した製品をリリースするか分からないが、2024年の半ばまでに搭載システムが市場に登場する予定だ。