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新CPU「Oryon」で、Snapdragon搭載Windowsデバイスの普及に向けて2024年は転換点に

Qualcomm Technologies 副社長 兼 コンピュート・ゲーミング事業部長 ケダル・コンダップ氏

 Qualcommは11月15日から11月17日(米国時間、日本時間11月16日~11月18日)の3日間にわたって、米国ハワイ州マウイ島において同社の年次イベント「Snapdragon Summit」を開催し、同社のプレミアム・スマートフォン向けSoCの最新製品「Snapdragon 8 Gen 2」を発表した。

 また、2日目となる11月16日には、同社が開発してきた次世代CPUのブランドが「Oryon」(オライオン)であることが明らかにされた。今回QualcommはこのOryonの詳細について、ブランドと2023年に搭載した製品の開発が行なわれる見通しである以外には何も語らなかったが、Qualcomm Technologies 副社長 兼 コンピュート・ゲーミング事業部長 ケダル・コンダップ氏は「我々の製品の本格的な普及という観点で、2024年は転換点になると考えている」と述べ、Oryonが採用されたPC向けSoCのリリース時期に関して言及はしなかったが、2024年はPC向けSnapdragonの転換点になると強調した。

Snapdragon Summitの基調講演ではOryonのブランド名だけ公開される、最初の製品はPC向けに

Qualcomm Technologies エンジニアリング 上席副社長 ジェラード・ウイリアムズ氏

 Snapdragon Summitの2日目に、これまで開発してきた次世代CPUをブランド名がOryonであることを発表した。この基調講演には、Qualcomm Technologies エンジニアリング 上席副社長 ジェラード・ウイリアムズ氏が参加し、Oryonのブランド名と2023年に開発が行なわれることを発表した。

 ただし、発表されたのはOryonのブランド名だけで、その技術的な詳細や性能などに関しては一切説明がされなかった。ウイリアムズ氏は「Oryonは2023年に投入する計画で、まずはPC向けの製品に投入し、その後スマートフォン向けや自動車向けなどに横展開していく」とスケジュールと、PC向けの製品に最初に投入し、その後他のSnapdragon製品(スマートフォンや自動車向けなど)に展開していく計画だとだけ説明した。

 これまでOryonはAppleのMシリーズに対抗するような性能を持つと説明されてきたため、PC用だと理解されてきたが、今回のウイリアムズ氏の説明で、OryonがPCだけでなくスマートフォンなど他のSnapdragonブランド製品にも展開されることが初めて明らかにされた。現在Qualcommは新しい技術をまず「Snapdragon 8」のブランド名を持つプレミアム・スマートフォン向けに投入され、それからPC向け、XR向け、ゲーミングデバイス向け、自動車向け……と横展開する開発戦略をとっているが、このOryon CPUに関してはPCが最初になり、その後スマートフォン、XR、自動車……と順番が変わることになる。言ってみれば、CPUに関しては「PCファースト」の開発体制になることを意味する。

 この発表をウイリアムズ氏が行なったことにも、非常に大きな意味がある。というのも、ウイリアムズ氏は、2019年にNuvia(ヌヴィア)というArm CPUを開発する会社を起業し、CEOを務めていた。そのNuviaを起業する前には、AppleでCPUやSoCのチーフアーキテクトを9年にわたり務めており、さらにその前にはArmでフェローを務めていたという根っからのArm CPU専門家だ。そのウイリアムズ氏が率いるチームがスクラッチから開発したのがOryonになるので、期待するなと言う方が無理だろう。

 現在QualcommはSnapdragonシリーズにKryoと呼ばれる、ArmのIPデザイン(CPUの設計図)をカスタマイズしたCPUを採用している。それがOryonでは完全自社開発となるため、どのようなCPUになるのか興味が集まっていた。ウイリアムズ氏が登壇すると、そうした事情を知っているテックメディアの記者から大きな喝采を受けたことが、多くの関係者が期待していることの何よりの証拠といえる。

QualcommのPC事業の事業部長は「2024年はPC向けSnapdragonの転換期になる」と説明

AdobeがArm版Windows向けCreative Cloudの追加アプリケーションを発表

 ただし、既に説明したように今回はOryonというブランド名と2023年に開発が行なわれることが発表されただけで、その詳細や性能は説明されなかったし、Oryonを搭載したPC向けの新SoCは発表されなかった。このため、PC関連のプレゼンテーションでは、Snapdragon 8cx Gen 3のWindows Studio Effectへの対応など既存製品の説明の繰り返しになっていた。今回の新しい発表は別記事で紹介したAdobeが2023年にAcrobatとFrescoのArmネイティブ版がリリースされるという話題だけだった。

以前からArm版Windows向けに提供されてきたPhotoshopとLightroomに加えて、2023年にFrescoとAcrobatが提供される
Windows 11 2022 UpdateでサポートされているWindows Studio Effect
CitiがSnapdragon搭載Windowsへの移行を開始したことを発表

 今年からコンピュート事業を率いることになった、Qualcomm Technologies 副社長 兼 コンピュート・ゲーミング事業部長 ケダル・コンダップ氏もOryonの詳細に関しては何も語らなかった(基本的にQualcommの幹部は将来の製品に関する質問を受けたときには判を押したように「ロードマップには言及できない」と語るのが通例で、今回もその例外ではなかった)。

 しかし、コンダップ氏は「今回はCiti(筆者注:Citibankなどを傘下に持つ米国の金融グループ)がThinkPad X13sのようなデバイスへの移行を始めると発表するなど、多くのエンタープライズがSnapdragonベースのデバイスが持つAIや長時間バッテリ駆動時間を評価し始めている。我々の製品の本格的な普及という観点で、2024年は転換点になると考えている」と述べ、2024年にSnapdragonベースのWindowsデバイスがより広範囲に普及すると説明した。

 その背景にあるのが、2023年に開発が行なわれ、近い将来に投入されるであろうOryonを搭載したArm版Windows用SoCだと想像することは非常に容易だ。その意味で、今後Qualcommが、そしてウイリアムズ氏率いるチームが開発するOryonがどのようなCPUになるのか、そしてそれを搭載したPC向けのSoCがどうなるのか、すべては「チャンネルはそのまま」だ。