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カメラから直接Frame.ioにアップロードできるC2Cにキヤノンやニコンが対応表明

ニコンの「Z6III」、Adobe MAXではCamera to Cloudおよびコンテンツ・クレデンシャルのデモに利用された

 Adobeは10月14日~10月16日(現地時間)の3日間にわたって、同社のクリエイターツール「Adobe Creative Cloud」の年次イベント「Adobe MAX」を開催した。

 この中で、同社が展開しているクラウド型動画編集サービス「Frame.io」において、カメラからの直接のアップロードを実現する「Camera to Cloud」(C2C)のパートナーとして新たに日本のキヤノン、ニコン、およびドイツのライカを迎えたことを発表した。このC2Cを利用すると、クリエイターはカメラで撮影した映像などを直接クラウドへアップロードでき、別の編集者がそれを編集して顧客に納品するなどの使い方が可能になる。

 また、AdobeはCAI(Content Authenticity Initiative)/C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)が共通規格を策定して普及を促進している、エンドユーザーが写真や動画の著作権者や来歴を確認できる「Contents Credential」(コンテンツ・クレデンシャル)に関するアップデートを行ない、新たにコンテンツ・クレデンシャルを編集し、来歴を確認するWebツール「Adobe Contents Authenticity」のクローズドベータ提供の開始などを明らかにした。

 いずれも、クリエイターのワークフローをより便利にし、かつクリエイターの権利をより強力に保護するツールとなる。

カメラからFrame.ioのクラウドへ直接アップロードできるCamera to Cloud

Frame.ioでアップロードされた動画を見ているところ、共有する動画を元の動画か、プロキシと呼ばれる低解像度や高圧縮などによりファイルサイズを小さくした動画にするかを選べる

 Adobeは、クラウド型の動画編集コラボレーションツールの「Frame.io」を2021年の10月に買収、一部門として運営している。最近ではPremiere Proとの一緒にFrame.ioが語られることが多く、Premiere ProからはFrame.ioへの連携機能が用意されているなど、より一体的に運用ができるようになっている。

 Frame.ioを利用するにはプラン別途買う必要があるが、Creative Cloudのユーザーは30日の体験ができるようになっているほか、それが終了した後も100GBのクラウドストレージ、5つのプロジェクト、後述するCamera to Cloudが利用できる拡張無料プランを活用できる。

 Frame.ioの強みは、動画を利用して複数のユーザーがコラボレーションしながらコンテンツを作り上げられること。カメラで撮影したカメラマンが動画をFrame.ioにアップロードした後、複数の編集者が共同して編集し、動画を必要としているクライアントも参加し、編集中の動画に対してここをもっと強調してほしい、といった指示ができるようになっている。

 そして最近注目を集めつつあるのが、「Camera to Cloud」(C2C)と呼ばれるカメラからFrame.ioのクラウドに動画をアップロードする仕組みだ。通常、動画を編集するワークフローでは、撮影した動画をカードリーダないしはカメラに用意されているUSB端子などを経由してPCに取り込み、それをクラウドにアップロードしたり、Premiere ProのようなPCローカルな編集ツールで編集したりして出力するというのが一般的だ。

 それに対してC2Cでは、PCやスマートフォンのような端末を経由しないで、クラウドに対して直接アップロードを行なう。最近のデジタルカメラは、Wi-Fiに対応しているのが一般的なので、そうしたことも可能だ。

 ただし、アップロードされるのは、必ずしも動画本体とは限らない。場合によってはプロキシと呼ばれるより圧縮率の高いコーデックや低解像度の動画を撮影時に作成しておき、それをクラウドにアップロードする。出力の最終段階で利用する元動画に比べれば荒くなるが、動画の内容などを確認するにはそれで十分なので、編集はそれで行なっておき、最後に元動画に編集内容を適用して出力する。

 プロキシを利用するメリットはファイルサイズが小さくなることであり、十分なネットワークの帯域を確保できないような環境でC2Cを利用する場合に、確実にアップロードできる。編集はプロキシで進めてももらい、カメラマンがオフィスに戻った時に、元のファイルとプロキシでの編集結果をマージして最終的な動画として出力することになる。

キヤノン、ニコンがCamera to Cloudへの対応計画を明らかに、対応カメラは増加傾向

動画だけでなく静止画にも対応しているFrame.io

 もともとこのFrame.ioのC2Cは動画のためのものだったが、現在は動画だけでなく、静止画も直接アップロードすることが可能になっている。JPEG、RAW、HEIFなどFrame.io側で対応している画像形式をアップロードすることが可能で、アップロードされた画像を動画と同様に共同編集できる。

 今回のAdobe MAXの発表では、その画像アップロードの機能がさらに拡張され、Adobe Lightroom(Classicではない方のクラウド型Lightroom)のクラウドストレージに転送できるようになっている。つまり、Frame.ioのクラウドストレージを経由することにはなるが、カメラから直接Lightroomのクラウドストレージに写真をアップロードできる環境が整ったことになる。

Camera to Cloudに対応しているカメラ機器メーカー。REDのようなプロフェッショナル動画カメラメーカーに加えて、富士フイルム、パナソニックなどの日本メーカーも加わっていたが、今回のAdobe MAXではニコンとキヤノンが加わったことが明らかにされた

 こうしたC2Cだが、既に2年前のAdobe MAXで、富士フイルムがC2Cに対応することを明らかにしたほか、パナソニックがLUMIXシリーズの一部モデルで対応した。そして今回のAdobe MAXでは新しいC2Cに対応するカメラメーカーとして、日本のキヤノンとニコン、ドイツのライカという3社が発表された。

ニコン Z6IIIとFrame.io

 ニコンは展示会場で、同社のフルサイズミラーレスカメラ「ニコン Z6III」(以下Z6III)を展示し、同社がスマートフォン向けに提供するモバイルアプリケーション「NX MobileAir」との組み合わせで、C2Cの機能を実現するデモを行なった。ニコンは10月15日にC2Cへの対応予定であるという開発意向表明を行なっており、2025年の前半に公開する計画だと説明している。

 株式会社ニコン 映像事業部 UX企画部UX企画3課長 服部佑子氏は「今回の実装では、まずは機能を実現することを優先したため、モバイルアプリケーションとの組み合わせで実現することにした。アップロードできる動画もまずはプロキシを実現することにした」と述べ、まずは機能を迅速に実現するために、プログラマブルなスマートフォンと組み合わせることで機能を実現することにしたと説明した。

 というのも、C2Cの機能を実現するには本来カメラのファームウェアにそうした機能を入れ込む必要がある。スマートフォンのようなプログラマブルな機器では追加のアプリでそれが実現できるが、カメラのような信頼性が何よりも重視される組み込み機器ではそうはいかない。それこそ数年単位での開発が必要になるため、まずはスマートフォンのアプリでそれを実現することにしたというわけで、これから機能を実装していくと考えるとそれは妥当な選択だろう。

富士フイルムのハイエンドモデルのC2C機能の設定画面
富士フイルムが今週発表したばかりの新製品「X-M5」ではプロキシには未対応で、動画そのもののアップロードに対応。そうした仕様になっているのは一般消費者向けの製品だから
パナソニックのLUMIX S5IIXでは動画(プロキシとmp4)、静止画(JPEGとRAW)に対応

 それに対して2年前にC2Cの対応を明らかにした富士フイルムでは、既に多くのカメラがファームウェアレベルでC2Cに対応している。Adobe MAXの富士フイルムのブースで確認したところ、ハイエンド機では動画はプロキシと動画本体、さらにはJPEG/RAW/HIEF/TIFなど静止画もさまざまな形式でカメラから直接アップロードに対応していた。

 先日発表されたばかりの「FUJIFILM X-M5」も展示されており、X-M5では動画のプロキシには未対応だが、mp4形式と静止画のアップロードには対応していた。パナソニックも同様で、ハイエンドモデルの「LUMIX S5IIX」で動画(プロキシとmp4)、静止画(JPEGとRAW)の転送に対応していた。このあたりは、C2Cへの対応を決めた時期の違いと考えられるだろう。

 なお、ニコンの服部氏によれば具体的な時期や計画などには話はできないとしながら「将来的にはカメラからの直接アップロードについても検討していきたい」とのことで、NX MobileAir経由でのC2C対応はその第一歩だと考えられる。また、NX MobileAir経由の対応は、既存機種の対応を進める上でも容易になると考えられるので、Wi-Fiを搭載したほかの機種や今後発売される機種でも対応が進む可能性があると考えられ、その点でもニコンユーザーとしては期待したいところだ。

静止画や動画を誰か作り、どのように編集したのかという来歴の透明性を確保するためのコンテンツ・クレデンシャル

2日目の基調講演ではコンテンツ・クレデンシャルに関しての説明が行なわれた

 ニコンはコンテンツ・クレデンシャルを撮影した画像に付与するZ6IIIのファームウェアを開発しているという開発意向表明を行なった。ニコンは2年前に行なわれたAdobe MAXでCAI/C2PAのコンテンツ・クレデンシャルへの対応計画を明らかにしており、今回はその具体的な製品計画として、Z6IIIのファームウェアを開発していることを明らかにし、そのデモをAdobe MAXの展示会場で行なった。

キヤノンやニコン、富士フイルム、ライカのようなカメラメーカーだけでなく、Microsoft、Metaが参加しているCAI/C2PAの取り組み
コンテンツ・クレデンシャルには、誰が作ったのかを署名する機能もある。SNSのアカウントなどの連絡先を入れておくこともできる
生成AIを利用して生成した場合には、コンテンツ・クレデンシャルが必ず付与され、生成AIで生成されたコンテンツである来歴が記録される

 コンテンツ・クレデンシャルは、そのコンテンツの来歴を、そのファイルのメタデータ、ないしはクラウドに記録する。メタデータはその先で、コンテンツ・クレデンシャルに対応した編集ツール(たとえば、Adobeで言えばPhotoshopやLightroom)で編集した場合には記録して残されるが、対応していないツールで編集した場合は消されてしまう。その場合でも、クラウドに残されたコンテンツ・クレデンシャルとマッチングが可能になるのが特徴だ。

 受け手側は、コンテンツ・クレデンシャルを確認するツールを利用して、コンテンツの来歴を確認でき、その写真がフェイクではなのか、そうではないのかなどを確認できる。今後コンテンツ・クレデンシャルを写真や動画に添付する報道機関などが増えていけば、そもそもコンテンツ・クレデンシャルがついていない写真はフェイクだと見なされることになって、結果フェイク写真や動画を追放することにつながるという取り組みだ。

ニコンのZ6IIIで撮影した映像をAdobe Contents Authenticityでチェックしているところ、ニコンが発行したコンテンツ・クレデンシャルでカメラがZ6III(表記はZ6_3)であることが分かる

 ニコンは、前述の通りCIA/C2PAの規格に2年前のAdobe MAXで参加することを明らかにしており、今回その具体的な製品への実装計画が明らかになった形。Adobe MAX展示会場のコンテンツ・クレデンシャルのブースで、開発中のZ6IIIが展示されており、カメラで撮影された映像にコンテンツ・クレデンシャルが付与されており、カメラメーカーの名称としてニコン(Nikon)の文字やカメラの機種名称として「Z6_3」の文字が入っていることが確認できた。ニコンによれば、2025年の半ばを目標に一部報道機関などに提供を開始する計画だ。

 なお、既にソニーは同社のミラーレスカメラ「α7」や「α9」などの一部モデルでコンテンツ・クレデンシャルに対応したファームウェアの提供を開始しているし、スマートフォン向けSoCを提供するQualcommはSnapdragon 8 Gen 3からコンテンツ・クレデンシャルへの対応を明らかにしている。その意味ではAndroidスマートフォン向けにはハードウェア的に必要な要素は揃っており、あとは端末メーカーが対応するか否かという段階まで来ている。

ブラウザの拡張ツールでコンテンツ・クレデンシャルをチェックできるツール
Adobe Contents Authenticity Appのクローズベータが開始
コンテンツ・クレデンシャルに著作権者のSNSでの連絡先などを追加したりできる

 Adobeは今回、新しいコンテンツ・クレデンシャル向けのツールとして「Adobe Contents Authenticity App」のクローズドベータの提供を開始したことを明らかにしている。Adobe Contents Authenticityは現状Webベースのツールで、ベータプログラムに登録されたユーザーだけが参加できるプログラムになる。

 これまで、コンテンツ・クレデンシャルを付与するには、PhotoshopやLightroomのようなコンテンツ・クレデンシャルに対応した写真編集ソフトウェアを使う必要があった。しかし、このAdobe Contents Authenticity Appでは、このツール単体で、写真や動画に対してコンテンツ・クレデンシャルを付与したり、コンテンツ・クレデンシャルを編集したりすることが可能になる。

生成AIの学習を許可しない設定を追加することも可能になる

 また、従来のPhotoshopやLightroomになかった機能として「生成の学習に使われたくない」という意思表示をコンテンツ・クレデンシャルに含められるようになる。それにより、まともな企業であればそれを利用して学習を行なえなくなるという意味で、クリエイターにとっては抑止力になる可能性がある。

 今後Adobe Contents Authenticity Appが本格的に提供されるようになれば、より手軽にコンテンツ・クレデンシャルを付与することが可能になるので、フォトグラファーや出版社、報道機関などにとってはワークフローに活用する環境が整うことになる。