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TSMC、半導体の性能を加速する「3DIC研究開発センター」をつくば市に開所
2022年6月27日 09:24
台湾の受託生産半導体メーカー(ファウンダリ)のTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)の日本子会社となる「TSMCジャパン3DIC研究センター株式会社」は、6月24日午後に茨城県つくば市の産業技術総合研究所 つくばセンターにおいて、同社が昨年(2021年)日本に設置すると発表した「3DIC研究開発センター」のオープニングイベントを開催した。
ムーアの法則がスローダウンする中、2Dおよび3Dのパッケージ内混載技術は次の半導体産業の成長に必要な要素技術と考えられており、半導体メーカー各社は研究に力を入れている。PCの世界においても、AMDがいち早く採用した「チップレット」と呼ばれる2Dの混載技術は、AMDがチップレットを採用したRyzenやEPYCで競合のIntelに対しての競争力が向上した事実からも、その重要性には疑いがないところだ。
TSMCはそうしたパッケージング技術の研究を、半導体の素材メーカーが集中する日本に設置することで、最先端のプロセスノードのファウンダリビジネスで競合となるサムスン電子、そして今後ファウンダリビジネスに本格的に参入するIntelなどに差をつけていく戦略だ。
プロセスノードの微細化がスローダウンする中、注目が集まる2D/3Dのパッケージング技術
TSMCは世界最大の受託生産半導体メーカーで、AMD、Apple、NVIDIA、Qualcommといったファブレス半導体メーカーから半導体の製造を受託して生産を行なっている。AMDのRyzen、AppleのA/Mシリーズ、NVIDIAのH100など、ファブレス半導体メーカーの最先端チップはいずれもTSMCで製造されている。
そのTSMCだが、これまではずっと本拠地がある台湾で研究から製造まで一貫して行なってきたが、近年はそうした施設を海外に移転させる動きを加速している。例えば、アメリカではアリゾナ州に巨大工場を建設しており、2024年に生産を開始する計画だ。日本でも熊本に「Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社」が設立され、2024年から生産を開始することが昨年発表されている。中国とのデカップリング(経済分離)が話題になる中で、半導体を安全保障上の重要な産品と見なす動きが加速しており、日米両政府ともにTSMCに働きかけた結果、そうした動きが加速しているということだ。
今回TSMCがオープニングイベントを行なったTSMCジャパン3DIC研究センターは、そうした半導体製造工場ではなく、半導体製造の後工程(半導体製造はウェハを製造する前工程と、ウェハから切り出したチップをパッケージに封入する後工程に分かれている)となるパッケージング技術を開発する研究センターとなる。
既にここ数年、ムーアの法則はスローダウンが続いており、以前のようにトランジスタス数を2年で倍増というのは難しくなっている。その結果、性能を上げるにはチップのダイサイズを大きくするしかなくなっており、その結果として製造コストの上昇を招くことになる。
そうした中で注目を集めているのが、半導体をパッケージに封入する時に利用されるパッケージング技術で、AMDがRyzenやEPYCなどで、「チップレット」と同社が呼んでいる2Dのパッケージ混載技術を投入し、競合となるIntelを性能で凌駕したのは記憶に新しい。
今後ムーアの法則が再び従来のペースを取り戻しそうな技術的な要因は考えられないため、チップレットのような複数のチップを1パッケージに封入する技術が注目を集めており、各社ともそこに大きな投資をしているのが現状だ。TSMCもNVIDIAのA100 GPUのHBM2メモリ混載に利用されているCoWoS(コワス)と呼ばれる2Dの混載技術を開発しており、ほかにもInFO(Integrated Fan-Out)を既に提供しているし、さらに今後はSoICと同社が呼んでいる3Dの実装技術を導入していく計画だ。
今回TSMCがつくば市に設置したTSMCジャパン3DIC研究センターはそうした2Dや3Dのパッケージング技術を研究する研究所になる。設置されたのは国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)がつくば市に所有する「つくばセンター つくば西事業所」の敷地内で、TSMCの後工程のクリーンルームの施設が建設され、今年(2022年)の末までに本格稼働を目指す形になる。
3DIC研究開発センターのオープンニングセレモニーが萩生田経産大臣臨席で行なわれる
6月24日の午後に産総研 つくばセンター つくば西事業所内で行なわれたオープニングセレモニーには、TSMC本社の関係者、日本政府の関係者、地元地方自治体の首長など多くの政治家などを集めて行なわれた。というのも、このTSMCジャパン3DIC研究センターは日本政府の研究開発法人 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の開発助成事業となっており、言ってみれば日本政府肝いりのプロジェクトだからだ。
NEDOの監督省庁となる経済産業省 大臣 萩生田光一氏も発表会に駆けつけ、挨拶を行なった。萩生田経産大臣は「我が国の半導体産業の成長には次世代半導体の実現が大事だ。かつての日本はメイド・イン・ジャパンに固執したため、グローバルの潮流に乗ることができなかった。そのため、今年の5月には米国のアルバニーにある最先端半導体の研究開発拠点を視察してきた。そこで、国境を越えて連携していることに刺激を受けた。これからの半導体開発を国際連携で進めることの大事さを痛感した。
半導体のさらなる集積化を実現するためには3DIC技術が重要だ。日本には半導体装置メーカーなどもあり、そうした企業と(TSMCが)ここ筑波で研究を行なうことで新しいグローバルイノベーションの発信地になることができる。今後製造拠点の微細化などに関しても育成が大事で、経産省では即戦力の人材育成に力を入れており、熊本では高専などでそうした取り組みを行なっているが、今後は全国に展開していきたい。
この取り組みはTSMCのみならず、日本の半導体産業の復活となるかと世界から注目されている。開発センターの発展に期待したい」と述べ、日本の半導体産業の強みである装置や素材を提供する企業とTSMCが協力して次世代技術を日本で開発していくことに強い期待感を表明した。
オープニングセレモニーには来ていた政治家は萩生田経産大臣だけでなく、衆議院議員 自民党青年局長 小倉將信氏、地元つくば市を含む茨城県第6区選出の衆議院議員 国光あやの氏、さらには地元茨城県の県知事 大井川和彦氏、つくば市 市長 五十嵐立青氏などの国会議員、地方自治体首長などが出席しており、国や地方自治体の期待感を示している。
TSMC側からの出席者も、台湾本社のCEOであるシーシー・ウェイ氏、本社 副社長 マーヴィン・リャオ氏とそうそうたる顔ぶれで、TSMCとしてもTSMCジャパン3DIC研究センターに対する高い期待を持っていることを伺わせている。
TSMCとしては初めて台湾外に設置された研究センターの場所に日本が選ばれたのは装置、素材メーカーの存在
TSMCジャパン3DIC研究センター株式会社 バイス・プレジデント センター長 江本裕氏によれば「これまでTSMCの研究センターはすべて台湾にあった。今回初めて台湾以外の国に設置された研究センターとなる」とのことで、TSMCの研究センターとしては初めて外国に設置される研究センターとなる。
そうした最初の海外の研究センターに日本が選ばれた理由について江本氏は「日本にはさまざまな装置や素材メーカーが集中しており、研究をする上で迅速にそうしたメーカーとやりとりができると判断した。装置/素材メーカーも台湾にオフィスを構えているが、どうしても伝言ゲーム的に時間がかかってしまう。しかし、こちらの研究開発センターが日本にあれば、そうした心配がなくなると判断した」と述べ、パッケージの実装技術を研究するにあたり、サブストレート(半導体を取り付ける基板のこと)などの素材を提供するメーカーが日本に集中していることが大きな理由だと説明した。
江本氏によればTSMCジャパン3DIC研究センターはTSMCのパッケージ技術の開発拠点として、独自の後工程のクリーンルームを備えており、クリーンルーム内はAMHS(TSMCジャパン3DIC研究センター)などの自動化設備も用意されているなど、近代的な半導体製造施設が用意されている。といっても、このセンターで実際の製品を製造するのではなく、あくまで研究開発のためのラインで、その成果をコピーイグザクトリー(半導体のラインをそっくりそのまま他の工場にコピーする手法のこと)で他のTSMCの工場にコピーしていく、そうしたための施設になる。
江本氏によれば現在は装置などのインストールを行なっている段階で、年末までに試験製造ラインなどの本格稼働を目指し、研究センターとして本格的に稼働していく予定だということだった。