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再生材95%採用のプラスチックや低温はんだ技術。共同研究で環境負荷低減を目指すレノボ
2022年3月3日 20:29
レノボ・ジャパン合同会社は3日、製品開発におけるサステナビリティへの取り組みに関する説明会を開催した。
同社では、環境(Environment)、ソーシャル(Social)、ガバナンス(Governance)をあわせたESGへの取り組みを進めているが、今回は環境に関するものを中心に説明が行なわれた。
ライフサイクル全体を通じて環境への負荷を低減
まず、レノボ・ジャパン合同会社 大和研究所 執行役員の塚本泰通氏が、企業としての取り組みや二酸化炭素オフセットサービスについて説明した。
同社では2025年に向けた目標として、電力の90%を再生可能エネルギーから調達すること、サプライチェーンにおける温室効果ガス排出量を100万トン削減すること、PCプラスチックパッケージにおけるリサイクル素材を割合を90%以上にすることの3つを掲げている。
これに向けて、設計から製造、ユーザーによる利用、保守や回収まで、製品のライフサイクル全体を通じた「ThinkGreen」を設定。今回紹介された取り組みもこれに含まれる。
二酸化炭素オフセットサービスは、製品の購入時に提供するオプションサービス。製品を使うにあたって発生する二酸化炭素排出量に相当する削減プロジェクトをレノボが代わって行なうことで、ユーザーの二酸化炭素排出をオフセットするもの。
購入したデバイスに電子証明書も発行。レノボ自身だけでなく、ユーザーの環境目標達成についても貢献していくという。
再生材使用率95%超でも堅牢なThinkPadを実現するSORPLAS
続いて、レノボ・ジャパン合同会社 大和研究所 コマーシャルソリューション製品開発 コマーシャルサブシステム開発 ディスティングイッシュド エンジニア&エグゼクティブ ディレクターの小菅正氏と、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 IoTソリューション事業部 事業部長 中村俊之氏から、ThinkPadで用いている再生プラスチック「SORPLAS」に関する説明が行なわれた。
SORPLASは、ソニーセミコンダクタソリューションズの開発した難燃再生プラスチック。独自の難燃添加剤「PSS-K」により、回収ポリカーボネイトを難燃化する。
1%未満の微量な添加で難燃化できる点が大きな特徴で、材料の持つ本来の物性を維持しつつ、最大99%の高い再生材使用率を実現する。また、添加剤が少なく溶融や混練を繰り返しても物性を保てることから、回収したSORPLASからさらに次の原材料を作り出すといったことも可能だという。
レノボとソニーセミコンダクタソリューションズは2017年に協業を開始。まずは45W/65WのACアダプタの筐体から適用を進めた。
原材料や添加剤の調合、金型のチューニングや射出成型の改良など様々な問題の解決を経て、ThinkPadの評価基準を満たせるものを開発。2020年末から2021年初には量産に成功した。高い耐久性を確保しながら、95%以上の再生材使用率を実現している。
その後もスピーカーやアンテナホルダー、ケーブルホルダー、バッテリパックに適用範囲を拡大。キーボードカバーや筐体についても現在評価や検証を進めているという。95%以上の再生材使用率は競合他社と比べても非常に高く、レノボでは3年以上の優位性があるとしている。
エネルギーだけでなく部品への負担も抑える低温はんだ実装技術
さらに、小菅氏と、千住金属工業株式会社 研究開発部 統轄部長 島村将人氏から、低温はんだ実装(LTS、Low Temperature Solder)に関する説明が行なわれた。
両社では2013年からLTSの共同研究を開始。2017年には高温はんだ(SAC Solder)と同じ評価項目をすべてクリアした上で低温化を実現し、技術として発表した。
なお、LTSに関する技術は特許を取得しているが、環境保護への貢献として、特許料は取らず、業界に広く公開している。ThinkPadのLTSだけで累計約9,000トンの二酸化炭素排出削減に貢献できているという。
ThinkPadでは、マザーボードだけでなく、メモリ、指紋認証モジュールにLTSを適用。2021年末時点で約4,700万台のThinkPadをLTSで出荷しているという。ワイヤレスLANやWWANモジュール、クリックパット/フォースパッドなどについても現在評価を行なっており、今後適用されていく見込み。
島村氏によれば、2007年のRoHS規制以降、電子機器製造ではスズ(Sn)、銀(Ag)、銅(Cu)による無鉛はんだが主に利用されているという。しかし、有鉛はんだが融点が183℃だったのに対し、この無鉛はんだは融点が220℃と高温となっている。
一方、レノボと千住金属が共同で開発したLTSはSnとBi(ビスマス)で構成されるもので、融点が有鉛はんだよりも低い140℃なのが特徴。SnAgCuはんだと比べ、SnBiはんだは固く衝撃に弱いためこれまで採用されてこなかったが、LTSでは製造プロセスや筐体剛性の最適化などにより、この課題を解決したという。
低温で実装できることから、熱による部品の負荷を抑えられるほか、熱に弱い部品が採用できるようになったり、設備への負担軽減も図れる。また、実装時のエネルギーだけでなく、材料の採掘や精錬におけるエネルギーも従来のはんだより低く抑えられるという。
PC本体も電力をより賢く使う設計に
最後に、塚本氏よりThinkPad本体の省電力技術に関する説明も行なわれた。
PCコンポーネントの中でもディスプレイとCPUは大きく電力を消費する。前者については、可変リフレッシュレートやパネルセルフリフレッシュへの対応、低温ポリシリコン(LTPS)液晶の採用などを進めている。
さらに、AI技術を使った輝度制御技術も実装を予定。独立した専用チップがユーザーが画面を見ているかどうか分析し、見ていない間は輝度を下げるといった制御を行なうことで消費電力の削減を図る。
CPUについては、ユーザーの使い方に応じて設定を調整するIntelligent Thermal Solutionを用意。Web会議や頻出アプリなどを検知し、電力とパフォーマンスが最適になるよう制御を行なう。