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富岳が4期連続でスパコンランキング4冠

富岳

 理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」が、4期連続で4冠を達成した。

 世界のスーパーコンピュータに関するランキングである「TOP500」、「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」、「HPL-AI」、「Graph500」のすべてにおいて、2位に大差をつけて1位を獲得。富岳が4冠を達成したのは、2020年6月、2020年11月、2021年6月に続いて、4期連続となった。

 米ミズーリ州セントルイスで開催されているHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)に関する国際会議「SC21」において発表されたもので、理化学研究所では、「富岳の総合的な性能の高さを示すとともに、シミュレーションによる社会的課題の解決やAI 開発、情報の流通および処理に関する技術開発を加速するための情報基盤技術として、富岳が十分に対応可能であることが実証された」としている。

 富岳のフルスペックである432筐体15万8976ノードを用いて計測している。

 「TOP500」は、LINPACKの実行性能を指標として、世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までをランクづけするもので、1993年にスタート以来、6月と11月の年2回発表される。富岳は、442.01PFLOPS(ペタフロップス)、実行効率は82.3%を達成。2位の米Summitの148.6PFLOPSに約3倍の性能差をつけた。

 「HPCG」は、実際のアプリケーションで求められる性能要件とのかい離を埋めるために作られたランキングで、産業利用などの実際のアプリケーションでよく使用され、まばらな係数行列で構成される連立一次方程式を解く計算手法の共役勾配法を用いたベンチマークプログラムにより計測。2014年11月から正式なランキングとして発表されている。富岳は、16.00PFLOPSを達成。2位の米Summitの2.93PFLOPSに比べて、約5.5倍の性能差をつけた。

 「HPL-AI」は、GPUや人工知能向けの専用チップによる低精度演算の演算器を搭載した計算機の能力が、TOP500に反映されない実情を捉えて、低精度演算で解くことを認めたベンチマークであり、2019年11月に提唱されたものだ。富岳は、汎用CPUを活用していながら、2.004EFLOPS(エクサフロップス)の高いスコアを記録。2位の米Summitの1.41EFLOPSに、約1.4倍の性能差をつけた。

 「Graph500」は、大規模で、複雑なデータ処理が求められるビッグデータ解析において指標となる大規模グラフ解析の性能を示すもので、2010年から発表されている。富岳は、102,955 GTEPS(ギガテップス)を達成しており、2位の中国Sunway TaihuLightの23,756GTEPSとは4倍以上の性能差があった。

 計測された富岳の性能は、3期連続で4冠を達成した2021年6月時点とすべて同じであり、追随する2位のスパコンの性能は、HPL-AIで、Summitが性能を高めた以外はすべて2021年6月時点と同じだった。

 富岳の性能は、通信性能の最適化によって性能向上の余地があるGraph500以外は、すでにフルスペックとなっており、チューニングによって、アプリケーションごとのさらなる高速化は可能であっても、ベンチマークでは限界レベルの性能にまで到達している。

 現在、米国や中国、欧州が、新たなスパコンを開発しており、これらの国から次世代機が登場すると、今後の富岳の4冠継続は難しいとの指摘もある。

 今回の4期連続での4冠達成を受けて、理化学研究所 計算科学研究センターの松岡聡センター長は、「富岳は、性能と省電力、そしてプログラミングのしやすさを両立させ、日本が誇る世界最高のIT技術を具現化するものとして研究開発されたものである。シミュレーション、ビッグデータ、AIの主要ベンチマークで圧倒的な世界一になるだけでなく、新型コロナウイルスの対策に関し、政府や企業の感染ガイドライン策定などに大いに貢献するなど、様々な分野について、その高い性能により、現実社会に役立つ、いわばDXをもたらす成果をあげている」とし、「今回、4度目の4冠に輝いた。あらためて、富岳の広い分野における世界的な先進性が示された。理研では、2021年4月に、東京・日本橋に新設した『富岳Society5.0推進拠点』を中心に、日本のSociety5.0およびSDGs、脱炭素社会の実現に、そのパワーが幅広く貢献できるように、富岳を高度化し、発展させていく」と述べた。

 また、富岳の開発を行った富士通の新庄直樹理事は、「4期連続で4冠を獲得できたことを大変うれしく思う。富岳の世界一の性能が、多くの研究者に利用されることで、科学技術の発展と安心、安全な社会の実現に貢献できることを期待している」と述べ、「富士通では、富岳を用いたリアルタイムの津波浸水予測を実現するなど、HPCの研究と活用に取り組んできた。今後、さらにこれを推進し、Society5.0の実現に貢献していく」と述べた。

 津波浸水予測は、富士通と東京大学、東北大学が共同で、高解像度な津波シミュレーションを富岳で実行し、AIモデルに取り込んで学習させることで、一般的なパソコンでもリアルタイムでの津波浸水予測を可能にすることができる。