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6G通信を見据え、富士通とNTTがタッグ。光電融合技術を共同開発
2021年4月27日 06:10
富士通とNTT(日本電信電話)は26日、「持続可能な未来型デジタル社会の実現」を目的とした戦略的業務提携に合意したと発表した。
次世代通信インフラとなる6G(Beyond 5G)時代の到来に向けて、光電融合技術の開発および製造技術の確立を共同で行なうほか、光電融合技術を通信装置に活用したり、新たなコンピューティング環境の実現に応用したりする。
富士通にとっては、コンピューティング機器を構成するCPUやGPU、メモリ、ストレージなどを光でつなぎ、様々なリソースを目的に応じて動的に利活用できる「ディスアグリゲーテッドコンピューティング基盤」の構築に向けた共同研究開発を行なう狙いもある。
富士通の時田隆仁社長は次のように意気込みを語った。
「あらゆる分野、あらゆる現場でDXが進み、異なる業種間やシステム間で流通するデータの価値がますます高まることになるだろう。膨大なデータを究極のリアルタイムで処理するためには、社会インフラとしてのネットワークおよびコンピューティングの飛躍的な進化が不可欠である。
非連続のブレイクスルーを実現し、グローバルにインパクトを与える先端テクノロジを追求するには、NTTとの強固な研究開発体制を敷くことが最適な解であると考えた。提携の成果は、社会全体や多くの顧客に対して、少しでも早く届けたい。未来型デジタル社会の実現に貢献したい。
NTTの光電融合技術と、スーパーコンピュータの富岳などに活用された富士通が持つ世界一のコンピューティング技術を組み合わせ、膨大なデータ処理を必要とする未来に向けて、低消費電力で、高性能で、柔軟に拡張が可能なコンピューティング基盤の技術開発に挑戦していく」。
一方、NTTの澤田純社長は、「分散型社会やリモート社会へのシフトに伴い、それを支えるICTシステムには、人、モノ、バーチャル空間から生み出された膨大なデータをつなぎ、リアルタイムに処理する能力が求められている」と前置きし、次のように語った。
「今回の提携は、NTTが持つ光技術、無線技術をはじめとした世界有数の通信技術と運用ノウハウに、富士通が持つ世界一のコンピューティング技術と、様々なテクノジーをインテグレーションする強みを組み合わせることで、グローバルで、オープンなイノベーションを推進し、低エネルギーで高効率なデジタル社会の実現を目指すことになる」。
また、「光電融合技術を、通信のみならず、コンピューティングの領域にまで拡大することで、高速化や省電力化に課題がある従来のコンピューティングアーキテクチャを抜本的に見直し、低消費電力で、高性能なコンピューティング技術を開発し、これを、あらゆるICTリソースに実装する。2025年に開催予定の大阪万博でお披露目し、その後商用化を図ることになる」と述べた。
光電融合製造技術を確立するための「デバイスの革新」
今回の戦略的業務提携の具体的な内容は、NTTエレクトロニクスが富士通アドバンストテクノロジの株式の66.6%を取得し、事業を一体化することで、①早期に光電融合製造技術を確立する「デバイスの革新」、②光通信およびモバイルの通信技術のオープン化の推進による「通信技術の革新」、③低消費電力型・高性能コンピューティングであるディスアグリゲーテッドコンピューティング基盤の共同研究開発による「コンピューティングの革新」の3点で構成される。
「デバイスの革新」では、NTTグループで唯一ハードウェアの製造機能を持ち、先端デバイス技術を活用した光通信用デバイスやデジタル映像デバイスで実績を持つNTTエレクトロニクス(NEL)が、半導体実装技術を持つ富士通アドバンストテクノロジ(FATEC)の66.6%の株式を取得。2021年6月1日から、NTTエレクトロニクスクロステクノロジに社名を変更し、NELの子会社として、事業をスタートする。
NTTの澤田社長は、「NELとFATECに共通しているのは、信頼できるエンジニアが在籍していること、他社にはないコアテクノロジを強みにして、時代に先行する製品、サービスをタイムリーに提供してきた点である。NELが持つ論理設計や製造技術と、FATECが持つ実装設計と試作技術を統合することで、光電融合製造技術を確立することができる」と期待を寄せる。
NTTエレクトロニクスクロステクノロジでは、デジタルコヒーレント光通信用LSIおよびシリコンフォトニクス技術によるCOSA(Coherent Optical Sub Assembly)を一体化し、光電融合技術を用いた小型、省電力、高性能の光通信用デバイスを、2022年度内に提供を開始する。
また、2024年には、通信用/コンピュータ用LSIの入出力装置として、光・電子コパッケージを実装。2025年にはチップ間の光伝送化の実現、2030年以降はチップ内のコア間光通信およびチップ内の光信号処理を実現するという。
「光電融合技術を、コンピューティング向け半導体など、様々な用途に拡大することで、低エネルギーで高効率なICTシステムの実現を目指す」(NTTの澤田社長)としている。
ネットワークのオープン化を進める「通信技術の革新」
2つ目の「通信技術の革新」では、光電融合技術を適用した「ネットワークプラットフォーム」による多様なサービスの実現を目指すほか、通信機器市場における特定ベンダーに依存する垂直統合モデルからの脱却や、ホワイトボックスや汎用ソフトウェアをマルチベンダーで対応するオープン化への取り組みを加速するという。
ネットワークプラットフォームでは、多くのベンダーや様々なサービス事業者が多様なサービスを提供できるようにするために、ネットワーク機能の仮想化やオープン化、光電融合技術の適用に取り組む。
また、光通信分野では、アーキテクチャのオープン化を前提とした、新たな光デバイスの企画やシステム製品の開発、サプライチェーンマネジメントまでを共同で行ない、オープンアーキテクチャの採用が活性化しているデータセンター向け通信市場に戦略的に参入し、グローバルでの事業拡大を目指す。
さらに、モバイルでは、Beyond 5Gに向けたモバイルシステムのオープン化に向けて、両社での技術開発やオープン化活動、開発成果の事業展開を検討。まずは、NTTドコモを中心に発足した「5GオープンRANエコシステム」などを通じて、様々なパートナーとともにグローバルに展開可能な技術などの開発を行なうという。
ここでは、仮想化された無線基地局(vRAN)の導入を拡大する際の課題である性能向上の対策や、無線アクセスネットワークを最適化する制御技術の開発などに取り組む。
富士通の時田社長は、「NTTが持つマルチベンダーネットワークの運用ノウハウと、富士通が持つ通信ネットワーク機器の開発、製造の強みをかけあわせ、オープンな環境のもとで、我々ならではの価値の創出を目指す」と語る。
IOWN構想で描く市場のゲームチェンジ
NTTは2019年に、社会に多彩なサービスを生み出す基盤をつくるためのビジョンとして、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を打ち出し、2020年1月には、Intel、ソニーとともに、IOWN Global Forumを発足。現在、全世界52社が参加している。
IOWNは、情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上を目指す「オールフォトニクス・ネットワーク」、サービスやアプリケーションの新しい世界を目指す「デジタルツインコンピューティング」、すべてのICTリソースの最適な調和を目指す「コグニティブ・ファウンデーション」という3つの主要技術分野で構成。
これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信と、膨大な計算リソースなどを提供可能にするネットワーク/情報処理基盤構想を目指している。2024年の仕様確定、2030年の実現を目指して、研究開発を進めているところだ。
IOWNを実現する上でのキーテクノロジとなるのが光電融合技術であり、今回の提携を通じて、Beyond 5G時代に向けた通信技術の革新を目指す姿勢を示している。
NTTの澤田社長は、「IOWN構想によって、ゲームチェンジを図り、自律した日本の実現と、世界への貢献、社会への持続的成長に貢献したい」と語る。
また、富士通では、IOWN構想への対応や、6G時代の技術開発を目的として、「IOWN/6Gプラットフォーム開発室」を、2021年4月1日に設置し、この分野に向けた研究開発を本格化している。
富士通では、今回の提携を通じて得た成果を、ソリューションサービスやプラットフォームに活用し、製造業や流通、小売、医療などの幅広い顧客に向けて提案していくという。
富士通の時田社長は、「まずは、5Gの無線基地局向けに、超高速で、小型、省電力の光電融合デバイスを搭載するためのアーテキクチャーを開発する。スマートフォンやタブレットに5Gの電波を届けるために、日本国内だけで28万台の無線基地局が設置される必要があり、その結果、膨大な電力を消費する。インフラを動かすための消費電力を最小限に抑えることが、社会全体の課題になる。こうした課題を解決できる」とする。
さらに、「これは、6G時代に向け決定的とも言える重要な取り組みになる。今後、高速で、リアルタイムに、高度なサービスが必要になる。このテクノロジ変革を成功させたい。また、この技術は、富士通の基地局以外にもグローバルに広く提供していきたい」と述べた。
ディスアグリゲーテッドコンピューティングの「コンピューティングの革新」
3点目の「コンピューティングの革新」では、ディスアグリゲーテッドコンピューティング基盤の実現に向けた共同研究開発に取り組むことになる。
ディスアグリゲーテッドコンピューティングは、従来のサーバーボックス指向のコンピューティングインフラとは異なり、フォトニクスベースのデータ伝送路に基づいたサーバーボックスレスなコンピューティングインフラによるコンピューティングアーキテクチャだ。
メモリやAI演算デバイスなどのモジュールに、光のデータI/Oを持たせ、これを大容量で高速な光データネットワークにつなげて、柔軟性の高いコンピューティングインフラを実現することができる。
「高速化や省電力化に課題のある従来のコンピューティングアーキテクチャを抜本的に見直し、使用用途に応じて、多様なハードウェアをソフトウェアで柔軟に組み合わせて活用することで、高速かつ高効率なデータ処理を行なうことができる」(NTTの澤田社長)とする。
NTTが研究開発中の光電融合技術と、スーパーコンピュータ「富岳」などにも活用された世界最先端の富士通のコンピューティング技術を組み合わせることで、革新的なコンピューティング技術を開発する考えだ。
「膨大なデータ処理を必要とする未来に向けて、低消費電力で、高性能で、柔軟に拡張が可能なコンピューティング基盤の技術開発に挑戦する。ディスアグリゲーテッドコンピューティングの世界を実現し、幅広い用途に広め、低エネルギーで高効率なICTシステムの実現を進める」(富士通の時田社長)と意気込む。
ディスアグリゲーテッドコンピューティングの実現は、次世代のコンピューティングアーキテクチャの主導権争いにも影響を与える可能性がある。
富士通の時田社長は、「富岳にArmの技術を活用したのは、Armがオープンなアーキテクチャであったからだ。あらゆるアプリケーションを動作させることが社会課題の解決のためには必要だと考えた。また、NVIDIAは、AIプラットフォームとして大きな成果をあげており、それも1つの潮流になっている」。
そして、「次世代のコンピューティングアーキテクチャがArmなのか、NVIDIAに代表されるGPUとのコンビネーションなのかといったことは、今後の研究成果によってわかるだろう。富士通もグローバルのアラインスのなかで大きな存在感を示したい」とする。
また、NTTの澤田社長は、「いまのコンピューティングアーキテクチャでは、我々はビハインドの状況にある。そこで、ゲームチェンジするためには、違うアーキテクチャを入れていきたい。それが、光電融合技術になる。これによって、アーキテクチャが変わり、OSが変わることになる。次世代のアーテキチクャーを考えるときに、我々にもチャレンジができる。そこに立つことができたと考えている」と述べた。
NTTでは、6G時代を見据えて、2020年夏に、NECと資本業務提携を発表しているが、これも、4Gでは存在感を発揮できなかった日本の企業が、オープン化をベースにした5Gや6Gの世界において、優位なポジションに立つための一手と言える。
今回の会見でNTTの澤田社長は、「NTT、NEC、富士通による3社連携のスコープについては、将来の話であるが、ありうる話」とも述べている。
NECとの提携に続く、今回の富士通との提携が、次世代通信インフラや、次世代コンピューティングアーテキチクャーの覇権争いのなかで、日本の企業が及ぼす影響力をどこまで高めることができるのかといった点からも注目されそうだ。
なお、会見の冒頭に、NTTの澤田社長は、総務省の武田良太大臣との会食、総務省幹部への接待問題について陳謝。「関係者に多大な迷惑をかけ、お騒がせしたことを深くお詫びする。今後はルールの見直しなどの徹底を図る。NTT側でも特別調査委員会、総務省側でも調査委員会が設置され、調査が実施されているところである」とした。