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神戸市、eスポーツで高齢者のコミュニケーション活性化に取り組み

~まずはレースゲームなどから。段階的にシューティングや格闘ゲームも

(左から)神戸市 企画調整局つなぐラボ特命係長の長井伸晃氏、NTT西日本兵庫支店の川副和宏支店長、Rehab for JAPANの大久保亮社長

 神戸市は、「グランツーリスモSPORT」などのゲームタイトルを使用したeスポーツを通じて、高齢者のコミュニケーションの活性化や健康増進につなげる実証事業を、2020年12月3日から開始した。

 神戸市内の複数の高齢者施設および利用者の協力を得て、高齢者がeスポーツを楽しみながら、家族や友人などとコミュニケーションを図ることで、フレイル(虚弱)予防など、健康増進にどれだけ寄与するのかを検証する。

 フレイルとは、健康な状態と要支援、要介護の中間の状況を指し、フレイルに早めに気がつき、適切な対策をとれば、健康な状態に戻すことができるという。だが、「新型コロナウイルスの影響もあり、人との関わりの減少や食生活の悪化による介護リスクが高まっているほか、社会活動や家族、友人との交流が大きく阻害されていることも、フレイルとなるリスクを高めている可能性がある。withコロナを前提とした対策が求められている」(神戸市企画調整局つなぐラボ特命係長の長井伸晃氏)としており、こうした課題解決にもeスポーツが活用できると見ている。

 具体的には、市内のシニアサービス事業者の協力を得て、eスポーツが体験できる場を用意し、同時に高齢者の日常のバイタルデータを蓄積。コミュニケーションの活性化や健康増進の可能性を検証する。その効果を踏まえて、ゲームタイトルの追加や最適な検証環境を検討し、心身に与えるポジティブな影響に関する仮説の設定を行ない、将来的には高齢者のフレイル予防やデジタルデバイドの解消などにつなげるために、eスポーツを活用した新しいコミュニケーションツールの開発を行なうという。期間は、2020年12月3日~2022年3月31日までの1年4カ月を予定している。

 神戸市では、2020年7月17日に、NTT西日本、PACkageと、「withコロナ時代におけるeスポーツによる地域課題解決に向けた連携協定」を結んでおり、今回の実証実験は、その一環となる。神戸市では、「eスポーツが、日本において、社会的、経済的合理性を持ちうるのか。その最適解を探ることになる」としている。

実証事業の仕組み
協力事業者

囲碁や将棋からレース、シューティングを展開

 これまでにも、eスポーツへの理解の促進、今後の可能性を考えるWebセミナーを開催。eスポーツコミュニティの醸成に向けた連携や、eスポーツの魅力や可能性を伝える動画による発信を行なっている。

 今回の実証実験には、利用者数約750人の有料老人ホームであるスミリンケアライフ、利用者数約600人のデイサービス施設などを展開するPLASTが参加。NTT西日本は、光サービスとともに、低遅延の環境でもゲームをプレイできる同社の「クラウドゲーミングエッジ」を提供。高齢者には、ゲーミングエッジで提供するゲームを利用してもらい、利用ログを収集。反応速度の遅れなどを検知する。

 「クラウドゲーミングエッジは、高価なゲーミングパソコンを必要とせず、既存の安価なパソコンやタブレット端末から、遠隔地のサーバーに接続することにより、気軽にゲームが楽しめる。ブロードメディアのG-Clusterを採用しており、高齢者に優しいeスポーツ環境を実現できる」という。

 ゲームタイトルは、最初のステップとして、ボードゲームの「銀星囲碁 ハイブリッドモンテカルロ」、「銀星将棋 風雲龍虎雷伝」、リアルドライビングシミュレータゲーム「グランツーリスモSPORT」を活用。操作性や親しみやすさを重視する一方、第2ステップでは、ストリートファイトゲームの「ANARCUTE」、横スクロールシューティングゲームの「R-TYPE LEO」など、簡易な操作でeスポーツを体験できるタイトルを用意。第3ステップでは、落ちものパズルゲームや格闘ゲーム、FPS(ファーストパーソンシューティングゲーム)など、本格的なゲームに挑戦する環境を用意する。

クラウドゲーミングエッジ技術の活用
ゲームタイトル

 「簡単なゲームから、本格的なゲームタイトルまで、利用者のスタイルにあわせたeスポーツ体験ができるようにしている。ゲームタイトルは、親しみやすく使いやすいことを前提にしているが、なかには、フォートナイトに挑戦してみたいという声も出ている。幅広くタイトルを利用できるようにしたい。非現実的なものを楽しむことがゲームのひとつの要素になっており、ゲームの暴力性などの問題についても、ネガティブには捉えていない。高齢者の場合はゲームに集中しすぎて目が悪くなるとか、睡眠時間がなくなるといった問題は出ないと考えている。施設側には、楽しみながらプレイできる環境を整えて、運営してもらうように考えている」(NTT西日本兵庫支店の川副和宏支店長)としている。

 さらに、「フォートナイトは小中学生が多くプレイしており、孫とのコミュニケーションが取れるようになるという点で高齢者に人気がある。また、シルバースポーツの大会ではCS:GOが採用されており、シューティングゲームへの関心も高い」(神戸市)などと述べた。

神戸大学と連携し学術知見をもとにした分析も

 なお、実証実験には、帝人やパラマウントベッドといったヘルスケアメーカーも参加。認知機能チェックやフレイル問診チェックサービス、睡眠マットセンサーなどを提供し、今後のデバイスの改良や新製品の開発につなげるほか、PACkage、ISR、NGMが、実証実験の成果をもとに、eスポーツを活用した新しいコミュニケーションツールの開発を目指す。さらに神戸大学との連携を図り、学術知見をもとにした分析も行なう。

新しいフレイル予防・介護を推進

 高齢者は、施設内の共有スペースや施設内の居住スペース、施設利用者の自宅などでeスポーツを体験。まずは50人程度が参加し、「慣れる」、「楽しむ」、「活かす」という3つの段階で取り組みを進めることになる。

 「慣れる」では、体験イベントなどの開催を通じて、パソコンやタブレットなどのデバイスに対する抵抗感を払拭。ゲームを提供して、プレイしてもらうほか、認知機能やフレイル問診チェックを活用して、利用者の健康状態を把握する。また、賛同企業と連携した体験イベントなどの開催を通じて、eスポーツに対する興味や関心を持つ機会を創出する。

 「今回の実証実験においては、まずここで慣れてもらうことが重要なステップになる。丁寧にやっていきたい」(NTT西日本兵庫支店の川副和宏支店長)としている。

 eスポーツ利用者による体験談セミナーや、介護レクリエーションとしてのイベント開催、大学生などを講師にしたスマホ/タブレット教室の開催、NTTの公式ビジネスチャット「elgana(エルガナ)」を利用したNTT西日本のスタッフによるサポートなどを提供する。

 「楽しむ」では、さまざまなシチュエーションにおいて、日常的にeスポーツ体験を楽しめる環境を提供。施設内や自宅に、eスポーツ環境を常設して、さまざまなゲームコンテンツを自由に楽しめる環境を実現する。また、eスポーツの心身に与えるポジティブな影響に関する仮説の設定に向けて、ウェアラブル端末や睡眠マットセンサーを使用したバイタルデータの収集も行なう。

 「利用者間や施設間、家族を結んだeスポーツ体験をしてもらうことになる。娯楽の1つとしてeスポーツを利用してもらうとともに、ICTリテラシーの向上を図る」としたほか、「歩数などの運動量や行動範囲、心拍数や体温、発汗といったデータのほか、睡眠時の心拍数や呼吸体動、記憶力や空間認識力、計画力などの計測、運動習慣、食慣習のチェックなどに加え、ケアマネージャーや保健師との面談により、その結果を、利用者に定期的にフィードバックする仕組みも用意する」という。

スケジュール

 「活かす」は、2021年度からの取り組みとし、実証に向けた取り組みの方向性や、具体化な活動を模索。認知機能やフレイル問診チェックとフィードバックを通じて得た結果をもとに、スポーツが心身に与えるポジティブな影響に関する仮説を設定。取り組みに有効なゲームタイトルを選定したり、追加したりすることで、バイタルデータの計測方法の改善などを行なう。

 将来的には、実証事業の結果をもとに、高齢者のフレイル予防やデジタルデバイドの解消などにつなげるという。

オンライン会話ツールも

 一方で、神戸市では、Rehab for JAPANと連携して、同社のオンライン会話ツール「リハブコール」を活用した高齢者支援の実証事業を行なうことも発表した。

 タブレットやキーボード入力に不慣れな人でも、簡単に利用できるオンライン会話ツールを活用することで、日常的にデジタルツールを活用するきっかけをつくり、フレイル予防だけでなく、地域施設などの活用の可能性を探る。

 「リハブコールは、番号をタップするだけで操作ができ、アプリダウンロードが不要。ワンタイムパスワードなどにより、簡単に、安全に利用できる。オンライン体操を提供したり、自宅からデイサービス施設の職員とテレビ電話ができたりする」(Rehab for JAPANの大久保亮社長)としている。