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パナソニック、ゆらぐ壁/コミュニケーションカメラ/遠隔応援デバイスなど「Aug Lab」の活動成果を公開

~自己拡張によるウェルビーイングを目指す共同研究パートナーを募集

 パナソニックは4月23日、ロボティクスによる「自己拡張(Augmentation)」をテーマとして研究開発を行なっている「Aug Lab」の活動紹介をオンラインセミナーで行なった。

 「Aug Lab」は2019年4月に開設された組織で、ロボットによる「自動化(Automation)」の先にある価値、とくに、人やくらしがよりよく豊かになる「Well-being(ウェルビーイング、身体的・精神的により良い状態・幸福)」の実現を狙っている。

 工学以外の視点も取り入れるために、デザイナーやクリエーターなどとも共創してプロトタイピングを行なう学際バーチャルラボとして運営されている。具体的には慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 Embodied Media Projectや株式会社コネルと共同研究を進めている。

 今回は2019年度の活動成果である3つの成果として、それぞれ創造性、関係性、伝達の拡張を目指すデバイスが公開され、2020年度の共同研究パートナー募集が発表された。

「ウェルビーイング」の定量化と介入を目指す

パナソニック株式会社 マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括担当 安藤 健氏

 「Aug-Lab」代表を務めるパナソニック株式会社 マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括担当 安藤 健氏は、取り組みの背景から紹介した。

 ロボットは工場内外で広く使われている技術だ。メインとして進めてきたのは生産性向上、人手不足解消、効率化、すなわち「オートメーション」だった。この方向は近年の新型コロナウイルス対策としても、さらに注目されている。

 だがオートメーションだけでは人は幸福を感じることはできない。そこで、自分でしたいことを支えるオーグメンテーション、個人や社会全体のQoL向上を目指しているのが「Aug-Lab」だ。

 ウェルビーイングの実現には身体的・精神的・社会的な3つの側面が重要とされている。新型コロナウイルスのように社会的なところがダメージを受ければ精神的な部分やフィジカルの側面も下がってしまう。Aug-Labでは「Physical Augmentation(身体拡張)」と「Kansei Augmentation(感性拡張)」の2つの方向性で、心の内面まで踏み込んで日常生活を豊かにしようと考えている。

個人と社会のウェルビーイング向上が目的
身体的・精神的・社会的なアプローチでウェルビーイングを目指す
身体拡張と感性拡張

 Aug-Labは、すべてを一度、「人」を中心において、人の感性や心にも働きかけ、何気ない日常が豊かになる「ウェルビーイング」な社会に貢献することを目指している。そのために、まずは、「人はどういうことをすると、どう感じるか」といった基本的なことについて知見をためていこうとしているという。

 ただし、人に関する知見についてはパナソニック単独で取り組めるとは考えていないのため外部連携やエンジニア以外との取り組みも重視している。新しい人間中心の開発スタイルを確立しようとしているという。

 人を理解するために具体的には、「感性」とは何なのかを探ることを目的として、いわゆる五感だけではなく、より広義に捉え、身体的感覚等がどのような構造で成り立っているのかを調べ、定義してから取り組もうとしている。NPO法人ミラツクと連携し、GTA(Grounded Theory Approach)という手法で構造化をはかってオープンデータ化を行なっている。オープンデータなので外部にも公開している。

 また、カメラ画像を使って脈拍や心拍数など自律神経状態を計測し、それとアンケートベースでのウェルビーイング度との相関を調べはじめている。実験を繰り返すことでウェルビーイングの定量化が可能になり、介入によって、どれくらいの効果があったかがわかるはずだと考えているという。

ヒトの感性の理解とウェルビーイングの推定

 具体的な取り組みとしては、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)や、公募による外部パートナーたちからなるメンバーでワークショップそのほかを行ない、700以上のアイデア、20個以上のプロトタイプ作成を行なっている。そのなかでいけそうだと思ったものをより具体的に開発を進めている。

 今回紹介された3つはその一部だ。いずれも実証段階で販売時期や予定価格などは未定。今後も社会的実装を進めていき、事業化を目指す。

*画像
2019年度はワークショップで700以上のアイデア、20個以上のプロトタイプを作成

 2020年度は達成感・没入感・ポジティブ感情・関係性などを重視する共同研究パートナーを募集する。安藤氏はAug-Labの目的について、「人と機械のインタラクションのなかで、どういう行為を機械がすれば、人の内面にどのような変化が起こるのか、人を理解することを最大の目標としている。そのなかでプロトタイプをより商品化に近いものまで持っていく。商品価値があるものに対しては積極的に発信していきたい」と語った。

 また、パナソニックのなかから商品化できないものが出てきた場合において、外部からの製品化の可能性についても「全否定はしない」とコメントした。

2020年度「Aug Lab」共同研究パートナー募集要項

風にゆらぎ、思考を拡張する壁「TOU」

思考を拡張する壁「TOU」

 「TOU」は室外の風に反応し、空間に自然のゆらぎをもたらす壁だ。自然にゆらぐ風を感じることでボーッとできる時間を生み出し、人の思考や創造性を拡張することを狙っている。現代はデジタルテクノロジにより超効率化空間を実現することができている。

 しかしながら一直線の思考だけではなく、予想もしないひらめきや、のびやかな発想を引き出すためには、あえて何もしない時間を作り、脳をリラックスさせることも必要だと考えて発想したものだという。

 焚き火などのアイデアもあったが、風と壁をモチーフとした。壁は外界と屋内を遮るためのものだが、そこをあえて違う形式としたものだ。磁性材料を仕込んだ布がなびくようになっており、そのバックパネルには多数の電磁石が等間隔に配置されている。

 プロトタイプは共同研究先のKonelの制作拠点「日本橋地下実験場」に設置されている。1ユニットサイズは770×770×70mm(幅×奥行き×高さ)。壁全体を覆ったり柱のように縦にレイアウトすることもできる。労働空間、地下室、高層階、病室や宇宙の居室などにゆらぎをもたらすことで人らしいウェルネスの実現を目指す。

背面には電磁石がある
さまざまな状況にゆらぎをもたらす

フレンドリーなコミュニケーションカメラロボット「babypapa」

「babypapa」

 「babypapa(ベビパパ)」は3台1組で子供の表情、成長記録を撮影するコミュニケーションカメラ。異なる性格を持たせたロボットカメラ3体が連携して、歌ったり鳴いたり、独自の音を使って非言語コミュニケーションを行なうことで、子供の良い表情を引き出して、その笑顔を腹部のカメラで撮影する。

 画像はスマートフォンなどから確認できる。また、親御さんがカットしたときには「babypapa」がそれを察知して和ますようなこともするという。なお4月23日から「babypapa」の塗り絵が提供される。株式会社GOCCOが開発協力している。

何気ない日常をロギングする。

「想い」の新しい届け方を提案する遠隔応援デバイス「CHEERPHONE」

「CHEERPHONE」

 「CHEERPHONE(チアホン)」は会場に実際には行けない人に対して、人の思いをつなげようというデバイス。親機と子機からなり、会場にいけない人が親機を持ち、子機をマッチングアプリなどを通して誰かに託すことで、会場にいけない人でも遠隔地で応援することができる。声だけでなく加速度や振動、動きを伝えることができる。現在、プロタイプが完成している段階だ。「想い」の新しい届け方を提案する。

「CHEERPHONE」利用シーン