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発熱せず電子より千倍高速に通信可能な光子を制御できる発光シリコン
~高速なチップ間通信に向けた前進
2020年4月13日 14:18
オランダのアイントホーフェン工科大学(TU/e)は4月8日(現地時間)、発光可能な六角形構造のシリコンゲルマニウム(SiGe)の開発に成功したと発表した。
現在の電子回路技術はめざましい発展とともに限界に達しつつあり、膨大なトランジスタをつなげる銅線は、電子が流れることによる抵抗とそれに付随して発生する熱が大きな問題となっている。
一方で、フォトニクス技術で使われる光子は抵抗が発生せず、質量や電荷がないことから、散乱が少なく熱が発生しない。そのため、電子回路の通信を光通信に置き換えることで、通信速度をじつに1,000倍にまで高速化できるという。
ただ、電子回路では一般的なシリコン(Si)は、半導体のなかでも発光させることが難しく、バルクシリコンの極端な発光効率の悪さから、フォトニクスにおいて不要と見なされていた。そのため、発光させやすいガリウムヒ素やリン化インジウムといった複雑な半導体が着目されているが、シリコンに比べて非常に高価であることから、既存のシリコンマイクロチップに組み込むのはハードルが高いとされている。
今回、同大学の研究チームは、シリコンと互換性のあるレーザーを作るため、シリコンとゲルマニウム(Ge)を組み合わせた六角形の発光可能な構造を開発。これは半導体のバンドギャップをうまく使ったものという。
電子が伝導帯から価電子帯に落ちるさい、半導体は光子を放出するが、これらの位置がずれる間接バンドギャップという状態ではシリコンのように光子を放出できない。しかし、50年前から存在している理論では、ゲルマニウムと合金化された六角形構造のシリコンは、直接バンドギャップを持っていることがわかっており、発光可能であることが示されていた。
六角形のシリコンを作るのは簡単ではないが、研究チームはナノワイヤーを育てる技術を使い、まずは六角形の結晶構造を持つ別の素材でナノワイヤーを作成することで、純粋な六角形を実現。このテンプレート上でシリコン原子が六角形構造で育つように強制し、シリコンゲルマニウムの骨組みを成長させた。
当初は発光できなかったが、不純物や結晶の不良を減らすことで、品質を高めることに成功。これにより非常に効率よく発光可能になった。現在はレーザーの作成に取り組んでいるが、これは時間の問題だという。これまでに、ガリウムヒ素やリン化インジウムとほぼ同等の光学特性を実現しており、ことが順調に運べば2020年中にシリコンベースのレーザーを作成できるとのこと。
シリコンベースのレーザーができれば、主要な電子機器プラットフォームに光学的な機能を密に統合することができ、オンチップの光通信と分光法を基礎とする手頃な価格の化学センサーを実現できるだろうとしている。