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東プレが目指した“REALFORCE”らしいマウスとは? 「REALFORCE MOUSE」開発の真意を訊く

REALFORCE MOUSEの静電容量無接点方式スイッチ

 既報の記事(東プレ初のマウス「REALFORCE MOUSE」登場。キーボードと同じ静電容量無接点方式スイッチを搭載)のとおり、東プレ株式会社は3月19日に、同社初の有線USBマウス「REALFORCE MOUSE」を発売する。店頭予想価格は19,000円前後の見込みだ。

 今回PC Watchは事前に「REALFORCE MOUSE」に触れるとともに、製品の開発に携わった東プレ株式会社 電子機器部 技術部 技術2G主担の浅野護氏、同技術部 技術1G所属の三ツ森大葵氏、同営業部 営業一課 課長の斎藤隆志氏、同営業部 営業⼀課 係長の山根英宣氏らに話を伺う機会を得た。

 浅野氏によれば、REALFORCE MOUSEは従来のマウスとは根本的に異なり、異質な存在ですらあるという。なぜREALFORCEブランドからマウスが誕生したのか、その理由や真意を紹介したい。


左から今回のインタビューに応じてくれた東プレ株式会社 電子機器部 技術部 技術1Gの三ツ森大葵氏、電子機器部 営業部 営業一課 課長の斎藤隆志氏、電子機器部 営業部 営業⼀課 係長の山根英宣氏電子機器部 技術部 技術2G主担の浅野護氏

――REALFORCE MOUSEは東プレでは初となるマウスです。REALFORCEブランドを冠したことも含めて、マウス市場に参入した理由教えてください。

斎藤氏(以下、敬称略) うれしいことに東プレは高級キーボードの先駆者と認知されています。入力装置にこだわる弊社としては、その範疇でマウスについてもREALFORCEの品質で提供したいという思いがありました。また、REALFORCEを愛用するユーザーの皆さまからマウスもREALFORCEでそろえたいといった声が多く出ていたということも理由として挙げられます。

 とは言え、低価格なものから高性能なものまで、キーボード以上に種類が豊富なマウス市場に参入して戦っていけるのか、社内でも多くの議論がありました。そうした議論を経て、静電容量無接点方式スイッチを小型化し、マウスに実装する目途が立ったため、REALFORCEブランドのマウスとして「REALFORCE MOUSE」を投入しました。

REALFORCE MOUSE

――REALFORCE MOUSEの開発期間はどれくらいなのでしょうか?

浅野 2016年から本格的な開発がはじまったので、およそ3年になります。自分はもともと開発部に勤めていましたが、同年に電子機器部に異動することになり、REALFORCE MOUSEの開発に携わることになりました。

斎藤 開発の取っかかりとしては、確か研修会で取締役から何か新しい製品を出せないのかという発案があり、それならばマウスはどうかと話が進んだ経緯があります。ただ、行き当たりばったりというわけではなく、弊社で元々開発していた加速度センサーに、静電容量無接点方式を採用したものがあり、それを改良して使うという着想から生まれました。

――クリックボタンに使われる一般的なマウスのスイッチと静電容量無接点方式スイッチの違いを教えてください。

浅野 端的に⾔うと、荷重特性と⾳が違います。たとえば、オムロン製のものなどの荷重特性は、押しはじめてから⼀定に荷重が増加し、接点がふれる直前に少し荷重が下がって、接点に触れたあとにまた⼀定に増加するという直線的な荷重です。

 一方で、静電容量無接点方式スイッチの荷重特性は、なだらかなカーブを描いて変化します。REALFORCEのキーボードと同じなめらかな操作感をマウスのクリックボタンで実現しています。

 また、静電容量無接点方式スイッチの特徴として、接点がないためチャタリングが発生しません。加えて、一般的なスイッチでは板バネを使用する構造のため、ボタンを押したときと放したときでそれぞれ「カチッ」と2回音が出ますが、静電容量無接点方式スイッチではまったく音が出ない静音仕様になっています。


――REALFORCE MOUSEのサンプルを試してみましたが、自分が普段から使っている45g荷重の静電容量無接点方式スイッチに近い感触でした。

浅野 マウスとキーボードでは当然ストロークの深さが違うため、一概にそうとは言えませんが、開発側としてはREALFORCEの感覚をマウスでも再現することを目指しました。

 ただ、これまでにない新しい感覚のマウスを作ったことで、人を選ぶものになったとも言えます。開発のヒアリングの段階では、気に入ったという人もいれば、自分には合わないという意見も出ました。

 とはいえ、いまでは多くの方に支持していただいているREALFORCEのキーボードでさえ、発売当時では「キーを押したつもりがないのに(柔らかすぎて)入力される」といった否定的な意見がありました。これまでのキースイッチとは異なる感覚のものですので、当時としては無理からぬことですが、現在ではREALFORCEの特性が認知されたため、そのようなことはほとんどありません。

 そういう意味でも今回のREALFORCE MOUSEについては、そのような意見が出てくるだろうということはわかっています。ただ、それをREALFORCEのマウスの“味”として、じょじょに慣れていただければ、以前と同じようにユーザーの反応が変わってくるのではないかと考えています。

基板全体

――正直なところ、自分がはじめてこのマウスを使ったときには違和感がすごかったです(笑)。OSを操作せずにただ単にマウスのクリックボタンだけを押すと、スイッチが重いという気がしました。しかし、実際にOS上でUIの操作などを行なってみると、押し切る前にスイッチが入るというのがわかり、じつは重いわけではないと気づきます。REALFORCEのキーボードと同じような、なめらかな感覚をマウスで得るという不思議な体験をしました。

浅野 おっしゃるとおり、第一印象で変な感じがするといった意見を持つ人は多いです。使い続けてもらい慣れていただくと、その感触を好きになったという人が多く出てきました。ただ、それでも慣れないという人は一定数います。このあたりはキーボードのスイッチの種類と同じで、好みの問題と言えます。

パッケージ

――開発で一番苦労した部分を教えてください。

浅野 マウス向けの静電容量無接点方式スイッチについては比較的順調に開発できました。ただ、マウスは弊社としてはじめてのデバイスであり、そもそもまずどのようなマウスを作るのか、大きさをどうするのかという根本的なところで試行錯誤がありました。

 開発の端緒として、まず世に出ているマウスを見ることからはじめました。そしてゲーミングにも使える付加価値の高いマウスにするという前提を立て、今日の多くのゲーミングマウスのベースとなったと言われるMicrosoftのIntelliMouse Explorer 3.0を意識して設計に取りかかりました。

 ただ、IntelliMouse Explorer 3.0は自分には若干大きすぎるという感覚があったので、適切とする大きさまで落としました。大きさの好みは人によって千差万別ですが、さまざまな意見を取り入れてもまとめるのは難しく、方針がぶれてしまいかねないので、ここは自分の感性を信じて自分好みのサイズで設計することにしました。

静電容量無接点方式スイッチを押す出っ張り
底面。ソールには耐久性の高い超高分子量ポリエチレンが使われる

三ツ森 IntelliMouse Explorer 3.0は標準的な日本人の体型からするとやはり少し大きいという見解でして、そのワンサイズ小さいマウスを探すということも行なわれて、いまのREALFORCE MOUSEのサイズ感に絞り込まれていったという経緯があります。日本では小さいマウスが好まれる傾向があり、女性が使うことも考える必要がありました。

――REALFORCE MOUSEは有線式ですが、無線式にしなかったのはなぜですか?

浅野 もちろん無線式も検討しましたが、ゲーミングマウスの主流が有線式ということで有線式にしました。第1弾の製品なので、まずはユーザーの反応を⾒たいという思いがあります。

サイドボタンのスイッチは静電容量無接点方式ではなく、一般的なもの
サイドボタンのスイッチとホイールは別基板

――形状は左右非対称のオーソドックスなデザインですね。

浅野 社内には左利きの方を考えるべきという強い意見もあったため、左右対称にすることも検討しました。ただ、市場的に主流のものは左右⾮対称の右利き向けですし、第1弾の製品ということでベーシックなデザインを採⽤しました。

 ボタン数についてもサイドボタン2つの一般的なもので、これは弊社のキーボードが比較的地味な作りということもあり、REALFORCEブランドらしく堅実なものにしました。

三ツ森 とはいえ、ゲーミングも意識したマウスなので、堅実ばかりでなくもっと派手に光らせるようなギミックを取り入れたほうがいいのではないかという意見もありました。今回の製品はロゴが7色で光りますが、フルカラーへの対応や、マウス側面のつなぎ目の部分を光らせるといった構想もありました。最終的にはやはりREALFORCEのイメージを第一に考えたデザインに落ち着いています。

浅野 個人的にはまったく光らなくてもいいと思っていました(笑)。しかし、ゲーミングも視野に入れるのであれば、どうしてもLEDは外せませんでした。

――センサーにはPixArtのPMW3360を採用していますが、その理由を教えてください。

センサーはPixArt PMW3360
マイコンはARM Cortex-Mを搭載するSTMicroelectronicsのSTM32L

浅野 ゲーミングマウスで実績があることもありますが、入手性がよかったことが大きいですね。とは言っても、たいていのマウスは中国といった海外で作られますし、弊社のようにメイドインジャパンでマウスを作っている会社はないため、ロット数量の関係などで最初は調達に苦労しました。

――確かにいま日本で作られているマウスというのは皆無かもしれません。そのぶん今回の強めの価格に反映されたのでしょうか?

浅野 REALFORCE MOUSEのセンサーは海外から取り寄せたものですが、筐体の素材や側面のエラストマーなど、ほとんどの部品は日本で作られているものを使用し、日本で組み立てています。

 組み立て工程においても、ベルトコンベア的な流れ作業で作られているわけではなく、セル生産方式で一品一品組み立てられています。言わば“手作り”のマウスと言えます。さらに、静電容量無接点方式スイッチに関しては、クリーンルームを使って念入りに製造しています。生産数のこともありますが、製造にコストをかけて作っているのも大きいです。

――本体側面の握り混む部分にエラストマーを使うといったゲーミングマウスではよく見る工夫がされていますね。

浅野 側面に関してはそうですね。この材質を決める前に何パターンか試してもいます。何も張らずにギザギザの滑り止めの模様をつけたり、ラバーライクな塗装も試したりしましたが、最終的にエラストマーのほうが信頼できるという結果になりました。

 なお、それ以外の部分はポリカーボネートを使い、ある程度薄くても丈夫になるようにしています。REALFORCE MOUSEの重量は約83gと軽量ですが、材質にこだわっており、やわかったり、安っぽくならないようにしています。

山根 見た目ではわからない部分ですが、内部構造がしっかりとしており、強度が高いというのもあります。カバーを開けるとわかりますが、すぐに内部基板が見えるわけではなく、耐久性を高めるような樹脂のフレームが入っています。本来は別の目的で使われるギミックのために用意されていた部分なのですが、結果的に筐体を縦と横から補強することにつながりました。

――設定用のアプリはわりと細かく設定ができるようになっていますね。

三ツ森 ソフトウェア関連は自分が担当していますが、やはりゲーミングも意識しているのでDPIを細かく変えるといったソフトウェアとしての機能は必要と考えました。REALFORCEのキーボード用に提供しているアプリを拡張するかたちで実装しており、既存のREALFORCEユーザーであれば、アプリをアップデートすればマウスも使えるようになっています。

REALFORCE MOUSEの設定用アプリ

LEDの設定
DPIの設定

 このアプリを通してプログラマブルボタンへの機能割り当て、LEDの色指定、センサーの解像度、ファームウェアの更新といったことができます。なお、現時点ではあらかじめ登録されているもの以外の任意のショートカットキーを登録できない仕様ですが、今年(2020年)の半ばくらいに行なうファームウェアおよびアプリのアップデートで対応する予定です。

――起動したアプリまたはゲームに応じてプロファイルを自動的に切り替える機能はありますか?

三ツ森 今のところそういった機能を搭載する予定はありません。ただ、手動でのプロファイルの切り替えは可能なので、そちらで対応いただけます。またプロファイルの切り替えをアプリからだけでなく、ボタンで行ないたいといった声が多ければ、DPI切り替えスイッチから行なえるようにするなど、機能追加を検討したいと思います。

 メジャーなゲーミングマウスのアプリと比べると、どうしても機能的に不足している部分はあります。しかし、見やすく使いやすくということを考えてシンプルなデザインを採用しており、説明書がなくても直感的に使えることをイメージして作っています。

――REALFORCE MOUSEをどういったユーザーに使ってほしいでしょうか?

浅野 開発したわれわれが言うのもなんですが、REALFORCE MOUSEはクセのある製品だと思います。第一印象で好きになる人は少ないかもしれません。ただ、高価ではありますがREALFORCEのキーボードを気に入って使ってくれる方が少なからずいらっしゃるように、このREALFORCE MOUSEもそういった製品になれればと考えています。

 REALFORCE MOUSEは、REALFORCEキーボードのタッチにかぎりなく近づけることを目指して開発されました。まずはREALFORCEを知るユーザーの皆さんに、その成果を体験してもらいたいですね。

東プレ 相模原事業所