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日本HP、PCは堅調。今後はデジタル印刷や3Dプリンタで事業拡大

日本HP 代表取締役 社長執行役員の岡隆史氏

 日本HP株式会社は21日、都内で2020年度の事業方針説明会を開催。冒頭では同社代表取締役 社長執行役員の岡隆史氏が、2019年度を振り返るとともに、2020年度の事業方針について説明した。

PCは好調も、印刷は苦戦

 HPの年度は11月から開始し、10月締めというやや変わった決算となっている。2019年度(2018年11月~2019年10月)の売上高は6.4兆円で、2%の成長を遂げた。利益は4,700億円とこちらも好調だった。とはいえ前々年度(2018年度)は10%成長だったので、それと比較するとマイナスとなっている。

 PC事業は堅調に推移したが、成長率減となったのは、ペーパーレス化による印刷事業の不調が挙げられる。ペーパーレス化は今後も進むと見られており、そのためHPではこれに備えて、デジタルマニュファクチャリングやセキュリティ&サービスといった新規事業で、新しい成長分野を創り出し、継続的な成長を目指す。

 また、HPは堅実な成長に加え、社会貢献、地球環境に対する貢献、そしてサプライヤーとの健全な取引形態など、第三者にさまざまな角度から評価される1年にもなったと振り返る。

 国内では外資系としてははじめてNo.1のシェアを獲得し、17期連続で市場平均を超える成長を実現。企業向けPCでも4期連続No.1を維持し好調だとする。

 さらに、日本発のプロジェクトで、HPとしてははじめて1kgを切る「HP Elite Dragonfly」ノートPCも投入できた。欧米では車移動が当たり前のため、1.2kgのノートPCでも十分に軽量だと評価されるのだが、日本では働き方改革の推進、および女性労働者の比率向上など、より軽いPCが求められており、Dragonflyはこれに応えた製品であるとした。

 また、今後はPCとプリンタ両方においてセキュリティが最大の課題になるとし、これに応えるサービスを展開。また、アナログ印刷では実現できないデジタル印刷ならではのソフトウェアやハードウェアを展開し、テキスタイル市場向け製品の投入でファッション業界にも参入を果たした。

 さらに、3Dプリンタ事業についても拡充。これまで1ラインナップのみであった3Dプリンタラインナップを、量産向けのモデルと、プロトタイプ専用の小型モデルの2種類を新たに投入し、デジタルマニュファクチャリングを推進できたと振り返る。

HP全体の業績
2019年振り返り

持続可能性を重視する2020年の戦略

 2020年度に関しては、さまざまな「メガトレンド」への対応をより迅速化させる。たとえば都市人口が増えるなか、モノのシェアリングやレンタルといった流れが生まれつつある。先進国では高齢化が問題となっている一方で、新興国では“Z世代”と呼ばれる若い世代が増えてきており、グローバル企業においてこうした70代と20代が同じ職場で働くさいに、HPとしてなにが貢献できるか、といったことを戦略の主軸におく。

 さらに、もう1つ重視していくのが「持続可能性(サステナビリティ)」である。つまり、HPとして今後もビジネスを継続可能な体制の構築だ。現在、PCは36兆円規模、印刷は17兆円規模の市場が存在するが、これらの事業は人口に比例するため、増加の見込みは低く、むしろ減少傾向になると予測。この環境のなかでビジネスを継続させていくためには、HPのこれまでの強み、つまりPCや印刷から派生した事業を拡大しなければならないとした。

 そのなかでとくに注目しているのが、商業や産業における印刷のデジタル化、そして3Dプリンタによる製造業の変革。印刷のデジタル化によって、これまで考えられなかったオンデマンドな印刷物の提供などが可能になるほか、3Dプリンタによって製造業にも大きな変革をもたらせる。今は6兆円程度の市場だが、これが55兆円以上に拡大すると見込んでいる。

 また、製品における再生プラスチックの利用など、環境に配慮した製品づくりも推進していく。同社では2018年までに44億本のペットボトル、10万7千tに相当する再生プラスチックを利用し、インクやトナーカートリッジなどを製造してきた。また、PCでも再生プラスチックの利用比率が増加しているが、2025年までには、製品全体の30%が再生プラスチックでできる構造を目指していく。

 加えて、HP内では森林を守るプロジェクトを進めている。今、地球全体で毎年1,780万エーカーの森林が伐採されており、これは日本の国土の20%に相当する面積で、当然気候変化といったマイナスの影響が出てきている。そこで、HPの製品パッケージでは再生紙の利用を推し進めている。当然、再生紙になる前の紙は当然森林伐採から生まれているのだが、HPでは木を植えて保護するといった投資も進めており、保護基金団体とともに、保護の方法などについて、HPの技術を駆使しながら研究しているとのことだ。

 最後に岡氏は、「HPは今、グローバルで社会に貢献している企業だという認識が進んでいるのだが、日本においても“存在してほしい会社”と認知されるような企業を目指したい」とまとめた。

2020年以降の戦略

PC事業はPCへ回帰する若年層に向けた製品を展開。教育向けやセキュリティ分野に注力

同社 専務執行役員 パーソナルシステムズ事業統括の九嶋俊一氏

 続いて、同社 専務執行役員 パーソナルシステムズ事業統括の九嶋俊一氏が、PC事業部の振り返りと展望を紹介した。

 HPはこれまで、優れたデザインと機能によって、ユーザー体験を再定義できた。東京生産20周年の節目を迎え、ブランド別シェアNo.1を達成。AIとVR分野を攻めながら、セキュリティの強化で守りも固めてきたとする。

 こと「Z世代」と呼ばれる22歳未満の若年層においては、PCを利用する時間が長いという調査結果が上がってきており、これは23~28歳のミレニアル世代より45%も長い計算となっている。ミレニアル世代ではスマートフォンが中心だったので、PCへの回帰兆候が見られるわけだ。

 Z世代のPCへの需要が高まっている要因として、写真や動画編集といったコンテンツ制作をPCで行なう機会が増加しているほか、(TVよりは小さいが)スマホよりは大きい画面で動画コンテンツを視聴できるといったメリットがあるとし、こうしたユーザー向けの製品を投入できたと振り返る(具体的な製品として、ENVY x360 13 Wood EditionやSpectre x360 13などが挙げられる)。

 2020年以降の戦略としては、教育向けのデバイスを投入するほか、建設業界における5GとVRを駆使したソリューションの提供、トラッカー内蔵モバイルPCや、海洋プラスチック/再生プラスチック採用製品の拡大、そして2019年9月に買収したBromiumの技術を駆使したセキュリティ管理サービスの強化を挙げた。

PC事業の振り返りと展望

新規市場創出を担うデジタルプレスと3Dプリンティング事業

 続いて、同社常務執行役員 デジタルプレス事業本部 本部長の岡戸伸樹氏、および同社3Dプリンティング事業部 事業部長の秋山仁氏が、デジタルプレスと3Dプリンティング事業の戦略について説明。先述のとおり、これらは今HPにとって大きな事業規模とはなっていないものの、今後、数倍の成長を見込んで、投資を続けている部門である。

同社常務執行役員 デジタルプレス事業本部 本部長の岡戸伸樹氏

 デジタルプレスは、インクジェットプリンタといったデジタル印刷技術を駆使した印刷のことだ。これまで印刷といえばアナログなオフセット印刷が主流だ。たとえば、出版社で本を出版するさいは、版を作って大量に印刷して在庫を持ち、それを順次書店に納入して販売、販売できなかった分は出版社に戻して処分するのが一般的な流れである。しかしデジタルプレスを利用すれば、必要なときに必要な量だけを印刷して販売可能になるため、これまでとはまったく異なる流通経路を実現できる。

 また、オフセット印刷では「同じものを大量印刷する」のが当たり前であり、内容を変えるためには版を変更する必要があるため、異なるコンテンツの大量印刷や、迅速な変更は不可能だ。一方、デジタルプレスではデータを変更するだけでよいため、これまで不可能だった印刷が可能になる。

 岡戸氏は、海外の地震復興支援として、320ケースのダンボール1つずつに1,000の生産者の写真とメッセージを印刷してスーパーに陳列した例や、年号「令和」の発表からわずか数分でコカ・コーラの特別ラベルを印刷し、1時間半程度でそのラベルが貼られた特別版コカ・コーラを消費者の手元に届けた例などを紹介した。

 また、「PHP Stitch S500」と呼ばれる機器でテキスタイル市場に進出し、ファッションやスポーツウェアにもデジタル印刷技術をもたらすほか、消費者ひとりひとりに異なる内容のダイレクトメールを送付可能になるなど、今後さらなるデジタルプレス事業の拡大が見込めるとし、これらを業界全体に訴えかけていきたいと語った。

デジタルプレス事業の展望
同社3Dプリンティング事業部 事業部長の秋山仁氏

 一方3Dプリンティングについて秋山氏は、これまでおもにプロトタイプや少ロット生産向けに訴求してきたが、フルカラー出力が可能な「HP Jet Fusion 500」シリーズで、よりプロトタイプ制作に適したモデルの投入、および「HP Jet Fusion 5200」シリーズという、大量生産に向くモデルの投入によって市場を拡大していきたいとした。

 とくに3Dプリンタを活用した製品の製造においては、「3Dプリンタならではの特徴を活かすことが重要」だとする。その具体例として2つ挙げている。

 1つはOUIの白内障/緑内障検査機器「Smart Eye Camera」。この製品はスマートフォンに取り付けるアタッチメントで、スマートフォンで白内障と緑内障の診断ができるのだが、医師がどんなスマートフォンを所持していても対応できるよう、アタッチメントは3Dプリンタで出力している。異なるスマートフォンの場合、アタッチメント部の設計を変更すれば、そのまま製品になるわけだ。

 2つ目は3Dプリンタ自体の冷却トンネルの例。これまで6つで構成された射出成形のパーツが、3Dプリンタの利用により1つに統合でき、コストを34.3%できた。しかし、質量流量向上を目指したコンピュータシミュレーションを実行し、より冷却に適した複雑な形状にしてみたところ、22.3%質量流量が向上し、さらに10.2%コストが削減。冷却性の向上により、プリントヘッドの稼働速度が14.8%も向上した。こうした最適設計(DfAM)効果こそが3Dプリンタの強みであるとし、業界に訴求していきたいとした。

 もっとも、一般的な企業内でこうした3Dプリンタによる効果を自身で算出するのは難しい。そこで同社はデロイトトーマツコンサルティングと協業し、顧客の製品製造が3Dプリンタに置き換えることに適しているかどうか判断するプログラムを提供開始し、それによって事業拡大を目指すとした。

3Dプリンタ事業の展望