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広島大ら、有機薄膜太陽電池の発電効率を向上させる技術
2020年1月14日 18:25
広島大学、大阪大学、京都大学、千葉大学および高輝度光科学研究センター(JASRI)らによる研究グループは、有機薄膜太陽電池(OPV : Organic PhotoVoltaics)の高効率化につながるフッ素原子を利用した半導体ポリマーを開発した。
OPVは、半導体材料をプラスチックなどに塗布することで作製できる軽量で柔軟性のある太陽電池で、半導体ポリマーをp型半導体材料、フラーレン誘導体をn型半導体材料として用いる。製造プロセスにおいてコストや環境負荷を抑えられるだけでなく、太陽電池の大型化が行ないやすい。加えて透明化が可能で、室内光でも発電効率が比較的高いことから、次世代の太陽電池として注目されている。
実用化に向けては発電効率向上のため、素材となる新たな半導体ポリマーの開発が求められてきた。以前から、分子軌道や結晶性といった半導体ポリマーのもつ性質を制御するさいに、フッ素原子の導入が有効であることは知られていたが、導入位置や方法がかぎられていた。
OPVの発電効率向上のためには、半導体ポリマーとフラーレン誘導体の分子軌道エネルギーをうまく調整する必要がある。量子化学計算によって、図1の分子軌道分布図のAの位置のみにフッ素を導入した場合、分子軌道のHOMO(最高被占分子軌道)のエネルギー準位が低くなるため、OPVの電圧(分子軌道エネルギーの準位差ΔEHL)が大きくなることがわかっていたが、同時に電流が小さくなる(Egが大きくなる)のが問題だった。
一方で、Bの位置にフッ素を導入した場合は、分子軌道のLUMO(最低空分子軌道)のエネルギー準位が低く移動すると考えられており、電流が大きくなると予想されていた。
研究グループでは、新開発のフッ素導入技術を半導体ポリマー「PNTz4T」に対して適用した「F2-F2」開発した。PNTz4Tにもともと含まれているAの位置のフッ素に加え、より性能向上が期待できるBの位置にもフッ素を導入した半導体ポリマーとなる。
F2-F2の分子軌道エネルギーを光電子分光測定装置で解析したところ、HOMOとLUMOがともに低く準位に移動し、ΔEHLが大きいままEgが小さくなっていることが確認できた。続けて、F2-F2をOPVに利用したところ、PNTz4Tを用いた場合と比べて電圧が上昇し、発電効率が1割向上した。
しかし、Egが小さくなっているにも関わらず電流が小さくなっており、上記の想定と反したため、さらに原因の分析を行なった。
その結果、Bの位置にフッ素を導入すると電荷が流れやすい分子配向をとるが、Aの位置にもフッ素がある場合、電荷再結合が増加して電荷が流れにくい分子配向をとることがわかった。これにより、フッ素の導入が半導体ポリマーの分子軌道エネルギーの準位を制御できるだけでなく、分子配向にも影響をもたらし、太陽電池の性能を左右することが明らかとなった。
同グループでは、さらに異なる位置へのフッ素導入や、分子配向に影響を及ぼさない原子や官能基の開発を続け、F2-F2で新たに問題となった電荷再結合の抑制を目指すとしている。フッ素導入技術は、ほかの半導体ポリマーにも応用が可能なため、より高効率なOPVの開発が期待される。