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NVIDIA、5G対応のエッジ向けサーバー製品群「EGX」
~日本ではNTT東日本、KDDI、ソフトバンクが評価を開始
2019年10月22日 09:00
半導体メーカーにとってエッジAI/エッジコンピューティング向けプロセッサが注目市場に
エッジコンピューティングとは、実際のフィールドに近いところに置かれるサーバー群の総称で、スマートフォンや自動車など、ユーザーが持つエッジ端末に近いところに置かれるサーバーを利用して提供される分散型コンピューティング環境のことを意味している。
たとえば、スマートフォンを利用するには、そのスマートフォンに各種のサービスを提供するサーバーがセットで必要になる。音声通信ならその交換機の機能が必要だし、SMSを使うにはSMSのサーバーが必要になる。これらのサーバーは、4G世代であれば基地局に近いところに、特定機能を持つ固定のハードウェアとして実現されてきた。
だが、5G世代では、その特徴である広帯域、超低遅延という特徴を実現するため、4G世代のような固定ハードウェアではなく、SDN(Software Defined Network:ソフトウェアで定義されるネットワーク機器)という、汎用のサーバー+NFV(Network Function Virtulization:仮想化技術により実現されるネットワーク機器)ソフトウェアという組み合わせで実現することが現実味を帯びている。実際、日本の通信キャリアでも楽天モバイルはこの方式で5Gを実装すると説明している。
エッジコンピューティングが注目を集めているもう1つの理由は、AIの実装に大きな関係がある。自動運転車の例を考えると理解しやすいのだが、自動運転車処理の一部をクラウド側で行なっていると、そのレイテンシ(応答速度)が問題になる。レイテンシが数秒だったとしても、その間に車は数十m進んでしまうからだ。
このため、現在の自動運転車は、ハンドル、アクセル、ブレーキ操作などの基本的な判断はすべて自動車に搭載されているAIチップを利用して行なうようになっている。そういったなか、今後、より高度な自動運転を行なうには、通信キャリアの基地局に自動車メーカーのエッジサーバーを置き、自動車同士がデータのやりとりを行なうといったことが必要になると考えられており、現在自動車メーカーや通信キャリアなどが、コンソーシアムを作り導入に向けた議論を行なっている。
半導体メーカーはその需要に注目しており、各種のソリューションを提供している。IntelはIA(Intel Architecture)サーバーで、サーバー市場で大きなシェアを持っており、とくにエッジコンピューティングでよく利用される深層学習の推論では大きなシェアを持っている。加えてIntelは、特定用途向けのアクセラレータとしてFPGAの利用を推進しており、前述の楽天モバイルの5GソリューションではIAサーバー+FPGAが採用されている。
10月頭にサンノゼでXDF 2019を開催したXilinxも、FPGA+ソフトウェア開発キット「Vitis」の組み合わせを提供することを明らか(Xilinx、FPGAをAI用アクセラレータにする統合ソフトウェア環境「Vitis」参照)にするなど、深層学習の推論を利用したソリューションの拡充を目指している。
深層学習の推論では100%に近いシェアを持っているNVIDIAも、同社の武器であるGPU+ソフトウェア開発キット「CUDA」の組み合わせで、深層学習の推論がメインのアプリケーションとなるエッジコンピューティングの市場を狙っている。NVIDIAは3月にサンノゼで開催したGTC 2019において、CUDAのバリエーションとしてAIに特化したアプリケーション開発ツールとなる「CUDA X AI」を発表(https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1175502.htmlNVIDIA、AI/RTXなどのライブラリをまとめた「CUDA-X」でCUDAを拡張参照)しており、これまでよりも容易に深層学習の推論を利用したGPU上で動くアプリケーションを開発できるようにしている。
エッジコンピューティング向け「EGX」でGPUの利用拡大を目指す
そうしたNVIDIAのリーダーであるCEOのジェンスン・フアン氏は、10月22日(現地時間)よりアメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス市で開催されるMWC Los Angeles 2019のパートナープログラムとして開かれたNVIDIA基調講演に登壇し、「EGX Edge Supercomputing Platform」(以下EGX)という新しいエッジコンピューティング向けのサーバー製品群を発表した。
EGXは、一番小さいものではJetson NanoのようなArm CPU+NVIDIA GPUという組み合わせのSoCを搭載したコンピューティングボードから、2ソケットのx86プロセッサ+NVIDIA T4 GPUの組み合わせまで、さまざまなレベルのラインナップが用意されるエッジコンピューティング向けのサーバー製品となる。
Dell Technologies、HPE、Lenovoといったグローバルトップ3ベンダーのほか、Adventec、Altos Computing、ASRock Rack,、Atos、富士通、GIGABYTE、MiTAC,、QCT、Supermicro、TYANといったサーバーベンダー、ODMメーカーなどから提供される計画になっている。発表時点で20の製品ラインナップが用意される。
NVIDIAでは競合他社が提供するFPGAに対しての強みとしては、FPGAが特定用途向けとなるのに対して、NVIDIAのGPUはCUDAを活用することでソフトウェアにより複数の用途に活用したりすることも可能なことであり、顧客に対してはそうした面をアピールすることで浸透を図っていく。
すでに複数の顧客がEGX採用を明らかにしている。具体的には自動車メーカーのBMWが同社が南カリフォルニアに持つ自動車工場で自動検査の工程で採用する計画。また、NTT東日本はブロードバンドサービス経由で遠隔地向けのAIのサービスを開発する環境としてEGXをデータセンターに導入。将来的にはAIアプリケーションをより広範に提供する時のエッジ側のプラットフォームとしてもEGXが検討されている。このほかにも、ラスベガス市、サンフランシスコ市といった米国の地方自治体やP&G、Samsungといった企業でも導入が計画されている。
5G向けのvRANを実現するソフトウェア環境「Aerial」を提供、日本のKDDI総合研究所やソフトバンクが評価を開始したことを明らかに
今回NVIDIAはソフトウェアベンダーとの協業を複数発表している。もっとも大きなものはMicrosoftとの協業で、Microsoftのナデラ・サティアCEOは「今の世界はコンピューティングがさまざまな場所やモノに組み込まれていっており、組織はクラウドとエッジを一体化して扱える分散型コンピューティングを必要としている。MicrosoftはNVIDIAと協力してAzureとAzure AIのパワーをエッジに提供し、顧客に対してブレークスルーとなる体験を提供していきたい」と述べる。
具体的には、Microsoftが提供しているクラウドベースのIoT向けサービス「Azure IoT」とEGXのソフトウェアスタックが連携するほか、Microsoftのクラウドベースの機械学習向けサービスとなるAzure ML(Machine Learning)がEGXをサポートする。
同じように、現在はIBMの100%子会社となっているRedHatとの提携拡大も発表されており、同社が提供する5G RAN(無線アクセスネットワーク)をソフトウェアで実現するソリューションとNVIDIAのGPUを組み合わせて、スウェーデンの通信機器ベンダErricsonがvRAN(ソフトウェアの仮想化技術を利用した無線アクセスネットワーク)の提供を開始する計画であることを明らかにした。
「Aerial」(アエリアル)という開発コードネームがつけられたNVIDIAの5G向けソリューションは、cuVNF(CUDA Virtual Network Function)、cuBB(CUDA BaseBand)という2つのソフトウェア開発環境とともに提供され、EGX上で動作する。vRANの市場では、IntelのIAサーバーベースの製品が先行しており、NVIDIAとしてはそれに対抗していく狙いだ。
こうしたGPUを利用したソフトウェア(Aerial)によるRANに関しては、日本のKDDI総合研究所、およびソフトバンクが評価を開始していることも明らかにされた。今後両社が導入していく5Gの基地局のハードウェアをvRANを利用してソフトウェア化していく段階で、GPUとAerialが活用されていくとみられる。
【お詫びと訂正】初出時に、「Aeria(アエリア)」と表記しておりましたが、正しくは「Aerial(アエリアル)」となります。お詫びして訂正させていただきます。