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使えるのに買い換えるのはもったいない? それとも戦略的投資?

~「最新PCケース」も規格は10年前と同じATX。買い換えるなんてムダ!?

 PCケースは、おそらくもっとも長期間使われるPCパーツ。たしかに、規格が大きく変わらないので十分に使えるし、長年使ってきた愛着もあるので、そう簡単には「買い換えよう!」という気持ちにはなれない。

 けれども、メインSSDはM.2、大きなケースに大容量HDDが1台だけ、光学ドライブは付いているだけでほとんど使っていない、というような状況だと、ミスマッチをひしひしと感じることも多くなる。そこでここでは、PCケースを新しくすると、どんなメリットがあるのかを検証していく。

TEXT:竹内亮介

ネットでよく聞くこんな意見

・新しいPCケースに変えたからって、何かいいことあるの?
・ATXの規格は変わっていないし、外観を変えて売っているだけじゃない?
・拡張できるのが自作PCのよいところなんだから、足りない機能は追加していけばいいのでは?

「用は足りているから」と言って自作PCなのにそれでOKか?

 自作PCを趣味にしているなら、CPUやビデオカードのようなメインパーツを毎年買い換えるという人はめずらしくない。そうしたメインパーツに比べると、PCケースの進化がゆったりしているのは事実だ。規格が大きく変わることもないため、PCケースだけは10年前から変えていない、というユーザーもいる。

 しかし、だからと言って「10年間PCケースが何も変わらなかった」わけではないはずだ。たとえばサイズだ。一昔前のPCケースと比べると、奥行きがかなり短いにもかかわらず、搭載できるCPUクーラーやビデオカードのサイズは大型化している。ドライブベイの数もかなり減った。

 とくに最近は、5インチベイを搭載しないモデルが多くなっている。さらにはフロントポートの構成だって、利用されることの多い周辺機器に合わせて変わってきている。改めて見てみると、こうした「PCケースの変化」に驚くことだろう。

 ここではそうした変化がほんとうに「ムダ」なものなのかを、過去のPCケースと比べながら検証していこう。

最新世代のPCケースと、一世を風靡した旧モデルを徹底比較

 最新世代の代表モデルとしては、Lian Liの「LANCOOL ONE Digital」を選択した。メインパーツを組み込むエリアには最小限の部品のみを配置し、作業性を高めている。また大型水冷ラジエータなどの組み込みも容易であり、コンパクトだが拡張性は非常に高い。内部が見える強化ガラス製の側板や、前面に搭載するイルミネーション機能も、最近のPCケースらしい特徴の1つである。

 旧世代のPCケースとしては、まず2012年当時に流行していた「バランス型」の決定版として一世を風靡したFractal Designの「Define R4」。そして冷却性能を高める装備を満載し、2007年当時には多くのユーザーを魅了したCooler Masterの「CM690」をピックアップした。

拡張性は進化? 退化? 変化なし?

 ここでは実際にマザーボードやCPU、CPUクーラー、ビデオカード、電源ユニットなどのメインパーツを組み込み、実際の拡張性や組み込みやすさを比較していこう。

 最新世代では、メインパーツを組み込むエリアにほとんど構造物がない。これは5インチベイをはじめとするドライブベイを前面近くに装備しないからだ。旧世代との一番大きな違いがここにあり、組み込みや拡張作業がしやすいのは、ダントツで最新世代だ。

 水冷用のラジエータを組み込むスペースを確保し、対応するラジエータのサイズを明記しているのも、最新世代の特徴である。旧世代ではラジエータの組み込みを想定していないモデルが大半であり、Core i9-9900Kのような発熱の大きなCPUを簡易水冷型CPUクーラーで冷却しようにも、利用できるかどうか分からないのだ。

 ただしこのような構造の変化によって、ドライブベイの数は激減している。CM690では3.5インチHDDを最大6台、Define R4では8台搭載できるのに対して、LANCOOL ONE Digitalでは最大でも2台しか搭載できないため、サーバーPCには向かない。

M.2対応SSDが普及してきたこともあり、2.5インチベイの重要性は相対的に低下している

CPUクーラーやラジエータへの対応は進化した?

 古いPCケースの場合、マザーボードと天板の隙間が非常に狭いことが多く、大型のCPUクーラーを利用しにくいことがある。そこでここではCPUクーラーまわりの空間をチェックしてみたが、最新世代も含めおおむね問題はない印象だ。ヒートシンクまわりはゆったりとしており、EPS12Vケーブルの接続も問題なく行なえた。

 また天板は、水冷ラジエータ用のスペースとして利用されることも多いため、ラジエータへの対応もチェックしてみよう。最新世代では、天板や前面を利用して最大で36cmクラスのラジエータに対応する。Define R4とCM690では、天板に14cm角ファンを2基取り付けられるスペースがあり、ここにラジエータを組み込めそうだ。

 ただ、ファンマウンタがマザーボードに近いこともあり、14/28cmクラスだとラジエータとマザーボードが干渉する可能性がある。24cmクラスまでなら問題なく取り付けられそうだ。

フロントポートの構成はどう変わった?

 フロントポートの構成も、当時のトレンドを強く反映する装備だ。CM690の時代には、確かにIEEE 1394やeSATAなどさまざまなインターフェイスが必要だった。しかし今は事実上USBに統一されたこともあり、2010年以降はUSBポートが中心になった。最新のLANCOOL ONE Digitalでは、スマートフォンなどでよく使われるType-Cコネクタが追加されている。ただ、こうしたポートは外部ベイ経由で追加できる。

裏面配線はどう変わった?

 ケーブルをマザーボードベースの裏側で整理できるようにする「裏面配線」機能は、おおむね2010年以降のPCケースで標準的な装備となった。そのため2007年発売のCM690には、そもそもケーブルを裏面で整理するスペースや、ケーブルを引き回すためのホールなどが装備されていない。

 翻ってDefine R4やLANCOOL ONE Digitalでは、マザーボードベース裏面にかなり広いスペースを確保しており、ゆったりと整理できる。Define R4では実測値で約2cmのスペースを確保しており、このくらいあれば、太い電源ケーブルが多少重なっても問題なく整理できるだろう。また、ケーブルを固定して流れを作るためのフックも各所に装備しており、スムーズな作業が可能。

 さらに最新世代では、太いケーブルが集まる前面に近い部分をへこませたり、ケーブル整理を何度でもやり直せる面ファスナーを標準で装備したりなど、裏面配線をやりやすくするためのギミックを装備する傾向が強い、今回取り上げたLANCOOL ONE Digitalでも、そうした裏面配線用の便利な機能をフルに実装している。

サイズ感はどう変わった?

 写真は、LANCOOL ONE Digital、Define R4、CM690を横に並べてサイズ感を比較したものだ。LANCOOL ONE Digitalは拡張性が高いモデルなので、高さはDefine R4やCM690とそれほど変わらない。前面に搭載できるファンやラジエータのサイズが小さいモデルだと、高さが40~43cm前後と背の低いモデルもある。一方で奥行きは、LANCOOL ONE Digitalでも旧世代に比べて7cm以上短く、置き場所の自由度は高い。

冷却性能や動作音はどう?

 パーツを組み込んで運用する上では、CPUやビデオカードの温度、そして動作音が気になるところだろう。ここでは第9世代の「Core i5-9600K」とNVIDIAの「GeForce RTX 2070」を搭載するビデオカードをそれぞれのPCケースに組み込み、温度と動作音を検証してみた。

 CPUやGPU温度が一番低かったのは、驚いたことに、もっとも世代が古いCM690だった。側面に12cm角ファンを備え、ビデオカードやCPUクーラー付近に冷たい外気を直接供給できる構造であることが影響しているのだろう。もともとCM690は、冷却性能に優れたモデルとして当時から高く評価されていた。最新パーツを組み合わせた構成でも、その冷却性能はいかんなく発揮された。最下位はDefine R4。密閉型なので温度はどうしても上昇しがちであり、これも順当な結果だ。

 アイドル時の動作音に関しては、これも当時から静音性を高く評価されてきたDefine R4の圧勝だ。メッシュ構造を採用せず、開口部が少ないPCケースは、おおむねこういった傾向を示す。ただ、最新のマザーボードではきめ細かなファン制御が行なえるようになったこともあり、各部にメッシュ構造を採用するCM690やLANCOOL ONE Digitalでも、アイドル時はかなり静かだ。

見せることに関しては最新モデルがピカイチ

 イルミネーションを楽しみたいなら、最新世代のPCケースに限る。と言うのも、古い世代では側板や前面は金属製であり、イルミネーションパーツを組み込んでも見えなくなってしまうため、意味がない。ファンマウンタやメッシュの隙間から光が漏れてくる程度では満足できないだろう。しかし最新世代では、強化ガラス製の側板や前面パネルを搭載しており、きらびやかなイルミネーションパーツの光を存分に楽しめる。

 また、LANCOOL ONE DigitalのようにPCケース自体にLEDを搭載したり、マザーボードからLEDの発光を制御できたりするケースファンを装備するモデルも増えている。こうしたイルミネーション特化型のPCケースも安くなってきた。

【検証環境】CPU:Intel Core i5-9600K(3.7GHz)、マザーボード:ASUSTeK ROG STRIX Z390-F GAMING(Intel Z390)、メモリ:Novax Technologies UMAX DCDDR4-2666-8GB HS(PC4-21300 DDR4 SDRAM 4GB×2)、SSD:Western Digital WD Blue 3D NAND SATA WDS500G2B0B(Serial ATA 3.0、500GB)、ビデオカード:GIGA-BYTE GeForce RTX 2070 GAMING OC 8G GV-N2070GAMING OC-8GC(NVIDIA GeForce RTX 2070)、電源ユニット:Corsair RMx Series RM650x(650W、80PLUS Gold)、CPUクーラー:サイズ 虎徹 MarkⅡ(12cm角、サイドフロー)、OS:Windows 10 Pro 64bit版、室温:22.8℃、暗騒音:33.1dB、動作音測定距離:PCケース前面から20cm、アイドル時:OS起動10分後の値、高負荷時:OCCT 4.5.1 POWER SUPPLYテストを10分間動作させたときの最大値、各部の温度:使用したソフトはHWMonitor 1.37で、CPUはCPU TemperaturesのPackage、GPUはGPU Temperaturesの値

こだわり? 新常識? さまざまな部分を最適化して使いやすく進化した最新PCケース

 同じATX対応PCケースと言っても、世代を経るごとに別物と言えるほど大きく変化していることがよく分かる。とくに大型の簡易水冷型CPUクーラーやビデオカードをスムーズに組み込みたいなら、最新世代こそが正義だ。

 ただし、すべての面で最新世代が優れているわけではなかった。構造が最適化された結果として、最新世代ではストレージの搭載可能数が大きく削減されてしまった。また冷却性能や静音性は、目的に特化したモデルのほうが優れていることも分かった。

 とはいえ、最新世代はいずれも2番手に付けており、必要十分な水準はクリアしている。これも「最適化」の結果なのだろう。

内部が広くてパーツが組み込みやすい最新モデルは、長く使っていける優れたPCケースと言える
冷却性能については、搭載するケースファンの位置によっては旧モデルでも最新モデル以上の性能を発揮することもある

告知

本記事は、DOS/V POWER REPORT1月号「特集 事実か、オカルトか。「PCの真実」を探る」からの抜粋です。この特集では、PCに関する噂や常識として流布されている事柄が根拠のある事実なのか、思い込みに近いものなのか、はたまた古い常識が新しい常識に置き換わったのかなどを、各種検証によって明らかにしていきます。