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Intel、ポストCMOSとなる新半導体素材「MESO」

~CMOS比30分の1の消費電力や5倍の演算性能、ムーアの法則継続にも

MESO

 米Intelは3日(米国時間)、カリフォルニア大学バークレー校(以下UCバークレー)、ローレンスバークレー国立研究所(LBNL)と共同で、同社の発明した「磁電気スピン軌道(MESO: Magneto-Electric Spin-Orbit)」ロジックデバイスについて、Nature誌に論文が掲載されたことを発表した。

 MESOは、従来の「相補型金属酸化物半導体(CMOS)」を置き換える新素材で、CMOS比で動作電圧が5分の1、超低スリープ状態と組み合わせれば、消費エネルギーを10~30分の1に抑えられる可能性があるという。

 CMOSは、CPUを含む現在のシステムLSIのほとんどで使われており、MESOによってCPUの動作電力などが劇的に低減できる可能性がある。またUCバークレーでは、MESOであればCMOSと同じ空間に5倍以上の論理演算を詰め込めるため、ムーアの法則の単位面積あたり演算量の増加を継続できるとしている。

 Intelの研究者は、UCバークレーおよびLBNLのRamamoorthy Ramesh氏が開発した磁電気材料を用いて、UnitéMixte de Physique CNRS/Thales(UMPhy)のAlbert Fert氏によって論文化されているスピン軌道伝達効果を利用し、室温で量子特性をともなう、トポロジカル材料を制作し、MESOデバイスを試作。

 同社では、将来のコンピューティングニーズを考慮したメモリ、インターコネクト、ロジック要件を考慮して、MESOデバイスを発明したとする。

 従来のトランジスタは、電子を半導体内部でシャッフルして、0および1としてビット情報を記録しているが、MESOデバイスでは、バイナリビットはマルチフェロイック構造における上下の磁気スピン状態として記録される。

BiFeO 3の単結晶。ビスマス原子(青)は、立方体の各面に酸素原子(黄)と中心付近の鉄原子(灰)との3次格子を形成する。若干中心からズレている鉄は、酸素と相互作用して電気双極子(P)を形成し、原子(M)の磁気スピンに結合される。双極子を電場で反転させると、磁気モーメントも反転する。材料中の原子の集合磁気スピンは、バイナリビットの0および1を符号化し、情報記憶および論理演算が可能となる

 マルチフェロイクスは、原子が複数の「集合的状態」を示す物質。MESOはビスマスと鉄および酸素(BiFeO 3)からなるマルチフェロイック材料を採用しており、強磁性体として材料中のすべての鉄原子の磁気モーメントが整列して永久磁石を生成する一方で、強誘電体材料として、原子の正/負の電荷が相殺され、材料全体に揃えられ、永久的な電気モーメントを作り出す電気双極子が形成される。

 このとき、磁性と強誘電という2つの状態がリンクまたは結合しているため、一方の状態を変化させると、他方に影響を与えることとなり、電場を操作することで、トランジスタとして不可欠な磁気状態の変化を実現できるという。

 今回発表された論文では、マルチフェロイックの磁電気スイッチングに必要な電圧を、3Vから500mVに引き下げることに成功したとされており、将来的に100mVまで削減できると予測している。これはCMOS比で5分の1から10分の1の電圧となり、ビットを1から0に切り替えるための合計エネルギーは、10分の1から30分の1になるという。

 Intel科学技術センター所長のSasikanth Manipatruni氏は、MESOは室温量子材料で作られたデバイスであると説明し、(現時点では)新たなコンピューティングデバイスとアーキテクチャを実現するための、いくつかの重要な材料と技術がまだ開発されていないとして、「(今回の発表は)可能なことの例であり、(実用化に向けて)産業界や学会、国立研究所などの革新を誘発することを願っている」としている。