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プログラミング教育、ハードやネット環境でも前途多難
~WDLCがプロジェクト進捗状況を報告
2018年12月3日 13:34
「micro:bitをつなぎたくてもUSBポートが接続不可」、「MakeCodeからサンプルプログラムをダウンロードしようとしてもインターネット環境に問題あり」――PCメーカーなど114社が組織するWindows Digital Lifestyle Consortium(WDLC)では、2018年6月から実施していた、プログラミング教育に利用できるボードmicro:bit20台を小学校200校に寄贈するプロジェクトの進捗状況を発表した。
当初は100校に寄贈予定だったが、希望学校が予想以上に多かったことから寄贈する学校数を200校に拡大し、10月末までに全校に寄贈を実施した。
その後、アンケートを実施したところ、回答した学校の52.9%が「(プログラミング教育を)すでに実施」と回答。31.7%が「今年度中(2019年3月末まで)に実施」と回答しており、早期にプログラミング教育に取り組もうとする学校が多い。
「200校プロジェクトに申し込む、プログラミング教育に前向きな学校を対象としたアンケートではあるものの、当初予想していた以上にプログラミング教育に対して積極的に取り組んでいる学校が多いという印象を受けている」(WDLC 梅田成二会長=日本マイクロソフト執行役員)。
200校にmicro:bitを寄贈するプロジェクトは、2020年度から小学校でプログラミング教育が必修となることを前に、学校現場でプログラミング教育を実施するにあたって必要なノウハウや知見を広く紹介していくために実施された。先進的な教育を行なっている小学校の声があがることで、今後、プログラミング教育に取り組む学校が参考にできると見込んでの施策だ。
そのために、英国で学校利用を想定して開発されたプログラミングデバイスmicro:bit 20台を配布。micro:bitを利用することで、PC上だけでプログラミング体験を終わらせるのではなく、「プログラムによって灯りがついたといったフィジカルな体験ができる。児童がプログラミングを体感するのに適していることに加え、教員にとっても理科や算数といった教科への応用を想定しやすくなることがメリットとなる。
20台という台数も、1人1台よりも、40人学級で2人で1台を利用で、協力してプログラミングに取り組むほうがよいのではないかという見方から決定した。
ハードに加えマイクロソフトが公開している、ブロック型プログラミング環境MakeCodeを利用が授業で利用できるサンプルコードや授業案などを提供。ハード、プログラミング環境、授業に利用できるサンプルコードとトータルで提供することで、プログラミング授業を開始しやすい環境がそろうこととなる。
2018年10月末に200校すべてに配布が終了したことから、11月中旬にアンケートを実施し、104校から回答を得た。
その結果、プログラミング教育の実施状況については、「すでに実施」が52.9%、「今年度中に実施」が31.7%で合計84.6%が今年度中にプログラミング教育を実施している。
「実施した学校では、1時限が23.6%で、2時限が30.9%、3時限以上が45.5%とこちらが予想していた以上に複数時限実施している学校が多い」(梅田氏)。
対象としては、プログラミング教育の実施対象学年となる5年生、6年生が多い。実施する授業科目としては、「理科」、「総合」に加え、「教科外」という回答が多かった。
「理科はプログラミングによってあかりをつけるといったことができるため相性が良い科目。理科にプログラミング教育を取り入れることは想定どおり。総合の授業についても想定どおり」(梅田氏)。
教科外での実施については、追加調査の結果、いきなり教科のなかでPCを使って授業を行なうことが難しいことから、1、2回はPCを触る時間を設けて、そこからプログラミング授業につなげていくという回答が多かった。
3つの課題
こうした取り組みは前向きな成果だが、アンケート結果から次の3つの課題があることも明らかになった。
1点目の課題は、学校で使われているPCの環境だ。学校内で利用するPCは、セキュリティ面、情報漏洩対策からアプリケーションをダウンロードできない仕様となっているものが多いという。また、MakeCodeはインターネットからインターネットで自由にダウンロードできることが特徴だが、学校で利用できるインターネット回線は教育委員会を経由するなど、なにかをダウンロードするのには適さない回線環境。必要なものをダウンロードしたくてもできない通信環境という声があがった。
また、同じようにセキュリティ対策、情報漏洩防止の観点から、micro:bitを利用するときに必要なUSBポートが接続できないようになっている学校がほとんど。
「アンケート以外にも、USBを利用したいのだが、どこに問い合わせをすればいいのかわからないといった声を多くいただいている。micro:bitを利用するために、教育委員会にかけあってUSBを利用できるようにしてもらったという学校もあった」(梅田氏)。
インターネット回線、USBの利用については、個々学校の対応だけでは難しいことから、WDLC側から文部科学省に解決に向けた対策を依頼している。
2点目の課題は機材不足について。「micro:bitは2人で1台が適しているのでは?と考えていたが、実際に授業を行なった学校からは、1人1台が望ましいという声や、もっと台数が必要という声があがった」(梅田氏)という。そこで今後は配布する適正数について検討を行なう。
3点目は実施前から課題となることが想定されていた、教員のプログラミング教育を行なうスキルが不足しているという点。今後、日本マイクロソフトのボランティアスタッフによる教員向け研修、児童向けプログラミング教室を実施し、その事例を公開することをこの課題の対策の1つとしていく。
ただし、事前勉強は書籍とともにWebのコンテンツが利用されているが、やはり問題となったのがインターネット回線が十分ではないことだ。さらに学校ではYouTubeへの接続が禁止されているケースが多いことも課題となった。
「プログラミング教育の参考になる動画がYouTube上にあるのだが、インターネット回線の問題とYouTubeへの接続禁止となっているために学校内で事前勉強が難しいという声があがった。この点も文科省に働きかけて改善していく必要がある」(梅田氏)
こうした課題以外にも、アンケートでは教員から見た児童のPCスキルについての調査もあり、教師から見ると「児童のPCの基本操作は身についている」という回答が73.1%を占めた。
しかし、この回答に対して梅田氏は、「日本の子どもたちのPC保有率は、欧米に比べ低いという結果が出ている。日本ではPCよりもスマートフォンという声があり、実際に日本マイクロソフトにも、キーボードで入力するよりもスマートフォンでの入力のほうが圧倒的に得意という社員が入ってくる時代となっている」と子どもたちのPCスキルに対して満足できないという見方を示す。
「Windowsは多様なデバイスを生み出せるOSではあるが、日本の教育向けPCは法人向けの仕立て直しが多い。対して、GoogleのChromebook、アップルのiPadはワールドワイドで教育向け仕様が強化されてきた。日本でも真剣に教育向けWindows PC開発に取り組むべき時期なのではないかと感じる。今回のプロジェクトで上がった声をPCメーカーと共有し、製品開発の一助にしてもらえれば」。
プロジェクト参加校のアンケートは、今回を皮切りに続けていく。「当初は授業案を示すことがわれわれの役割と考えていたが、実際には授業の前に大きな障壁があることが明らかになった。それぞれの障壁をどう乗り越えるのか、乗り越えたあとでどんな変化が起こったのかについても公表し、重要なノウハウとしていきたい」(梅田氏)。